第二百七十六話 酒好きコンビの恨みがましい声
「ううん…………」
最悪の目覚めだ。
のそのそと体を起こすと途端に頭に激痛が。
「痛ッ……」
頭がガンガンする。
床で寝ていたからか、体中が痛い。
痛い頭を抑えながら部屋を見渡すと、そこかしこに空の酒瓶が転がり、所狭しとアークの面々と影の戦士の面々がイビキをかいて寝ていた。
何故かベッドはガウディーノさんがちゃっかり1人で占領して寝ている。
フェルとドラちゃんとスイは、部屋に敷いてあったフェル専用布団の上でみんなして寝ていた。
エルランドさんとフェオドラさんはいなかった。
あの2人は、食うことに徹して酒は飲んでなかったから適当に帰ったんだろう。
2人のエルフ組は自分たちでBBQコンロで好きに肉を焼いて食いまくっていたのは覚えてるんだけど……。
フェオドラさんなんて串焼きを両手に持って食ってたぞ。
フェルたちもエルランドさんに肉を焼かせて食っていたみたいだったし。
その傍らで、俺たちは酒盛りだよ。
シーグヴァルドさんが「美味い酒がたんとある! 今日はとことん飲み明かすぞぉ!」なんて言うもんだから、盛り上がるわ盛り上がるわ。
酒も出した分だけじゃ足りなくて、途中で何回も補充させられたしさ。
良かったのはみんな酔っ払ってたもんだから、ネットスーパーで買い物してても誰も突っ込まなかったことくらいだよ。
「うぷ……」
飲みすぎて頭が痛いだけじゃなく、胃もムカムカする。
「う~、こりゃひどい二日酔いだ。神の加護で状態異常は無効になるんじゃないのかよ……」
思わず1人でブチブチ文句を垂れていると、不機嫌そうな低い声が頭に響いた。
『フンッ、当然じゃろう』
『そうだぜ、俺らの加護もさすがに異世界のものにまで影響はないからなぁ』
ギクッ、そ、その声は……。
「ヘファイストス様にヴァハグン様……」
『そうじゃ、儂らじゃ。じっくり見せてもらったぞい。なぁ、戦神の』
『ああ。じーっくりたーっぷり見せてもらったな。鍛冶神の』
ギクリ……。
『お主が知り合いの冒険者たちにたっぷりと酒を飲ませるのをのう』
『そうだなぁ。神である俺たちを差し置いて、あらゆる酒を飲ませてたよなぁ』
恨みがましい声を上げるヘファイストス様とヴァハグン様。
「い、い、いや、あれはですね、仮にも俺主催の祝勝会ですし、酒もそれなりに出さないとってことでですね……」
な、何で俺がこんな言い訳しなきゃならんのよ。
ってか、俺のことずっと見てたの?
暇人め、止めてくれよなー。
『ダンジョンでも酒を魔物に投げつけるなんてもったいないことしおって、腹に据えかねていたっていうのにのう』
『ま、それは俺たちも魔物を倒すためだってことで納得して話には出さなかったが、昨日のはなぁ』
ぐぬぬ、それも見ていたのかよ。
『儂ら、神なのにのう』
『俺ら、神なのになぁ』
『『お主らだけ、美味い酒をしこたま飲めて良かったのう(なぁ)』』
うぅぅ、二日酔いだってのに朝からネチネチと。
この酒好きコンビめぇ。
「あー、もう分りました、分かりましたよ。酒だっていうんでしょう? お二人に進呈してもいいですけど、絶対にニンリル様たちにはバレないんでしょうね?」
酒を進呈するのはやぶさかではない。
ただ心配なのは女神様ズにバレることだ。
バレたらバレたで一悶着すると思うんだよね。
というかならないはずがない。
『うっ、それを言われるとじゃなぁ。彼奴ら変なところで勘がいいからのう』
『そうなんだよなぁ。それに、同じ神に対して、こいつと接触したことを完全に隠すことはできんし……』
話を聞いていると、何やら同じ神という立場だと隠し通すことは無理な様子。
よくわからんけど、能力が拮抗してるとかってことなんかな?
まぁ、それはいいとして……。
「バレる可能性があるなら止めといた方がいいと思いますよ。あとで何言われるか分かったもんじゃないし、大揉めするでしょうから。ですから、こういうのはどうですか?」
俺の考えを2人に伝えた。
次のお供えのときに、2人はもちろん女神様ズも含め、それぞれ1つずつ好きなものを追加で注文できるのはどうかと。
「あまり高額なものはダメですけど、金貨1枚分くらいなら大丈夫ということでどうですか?」
『金貨1枚か? もう一声じゃ』
『そうだぞ。この間目を付けてたウイスキーの中に金貨1枚を少し超えてるのがあるんだよ』
何だよ、もうそんなの目を付けてたのかよ。
「なら少しくらい金貨1枚超えてもかまいませんよ」
『おおっ、そうかそうか。ならそれでいいぞ。のう、戦神の』
『ああ、それでバッチリだぜ。な、鍛冶神の』
途端に機嫌がよくなる酒好きコンビ。
まったく現金な神様だよ。
「じゃ、そういうことで」
早くお引き取りくださいよ。
こっちは二日酔いで、もう一眠りしたいところなんだから。
『それじゃ次回のう』
『次回楽しみにしてるぜ』
その言葉を最後にプツリと交信が途絶えた。
「さて、もう一眠りするか」
厄介な神様たちとの話を終えてそう思ったのだが、背後から気配が……。
『おい、腹が減ったぞ』
『俺もー。お前なかなか起きないんだもんよ』
『スイもお腹減ったのー』
お前たち、早起きだね……。
もう一眠りしようと思ったのになぁ。
「今日は、ちょっと具合悪いから出来合いのものでな」
『フンッ、酒の飲みすぎだろう。何故あんなマズイものを好んで飲むのか我にはさっぱりわからんな』
昨日は俺たちが遅くまでドンチャン騒ぎをしていたからかフェルは不機嫌気味だ。
「まぁ、そう言うなって。好きな人にはたまらない美味さなんだよ。お前にとっての肉みたいにな」
そう言って、不機嫌気味のフェルの言葉をサラッと躱してネットスーパーでささっと惣菜パンを買っていく。
コロッケパンにやきそばパン、カレーパンにウィンナーロールパンにコーンマヨパン諸々。
朝だからと惣菜パン中心に買ったら、フェルたちから甘いパンもとリクエストがあり、いつものあんパンやらクリームパンやらの甘い菓子パンも追加して買っていった。
ついでに俺の分として二日酔いに効く栄養ドリンクも購入。
袋から出したパンを次々と皿の上に載せていき……。
「それじゃ、これ食っててな。俺はもう一眠りするからヨロシク」
俺はそう言うと、アイテムボックスからマイ布団を出して敷いた。
そして、さっき買った二日酔いに効く栄養ドリンクをクイっと飲んで布団へと潜り込んだ。
日本酒は八〇山ですw
他の酒についても、いろいろ調べながら書いてみました。
1番心配だったのが「これで通じるか?」ということだったんですが、お分かりいただけたので嬉しかったです。