第二百六十六話 ヒュドラ
更新遅くなってしまってすみませんでした。
ようやく更新できました。
もう少しの間更新が不定期になるかもしれませんが、何卒よろしくお願いいたします。
「次はいよいよ27階ですね。最終階層は確かヒュドラでしたよね?」
階段を下りる途中にエルランドさんにそう聞くと神妙な顔をして頷いた。
「ええ。しかし、ヒュドラなど私も本でしか読んだことがないのですが……大丈夫なのでしょうか?」
ここに来てエルランドさんも少々心配なようだ。
最終階層に陣取るダンジョンボスが相手だし、その気持ちも分かるけど。
『心配するな、エルフ。ヒュドラは前に何度か倒したことがある。もちろん我が単独でだ。今はドラもスイもいるのだから負けるはずが無かろう』
エルランドさんの心配をよそにフェルがそう断言する。
『ちょうどいい、ドラとスイも我の話を聞け。次に戦うヒュドラのことだ』
そう言ってフェルが階段を下りる途中で歩みを止めた。
エルランドさんにも聞かせるつもりなのか、フェルはヒュドラについて念話ではなく声に出して話していった。
『ヒュドラには9つ頭があるのだ。その頭を同時に潰さないと何度でも復活してくる』
ゲームなんかに出てくるヒュドラの設定そのまんまだな。
あれ、でも同時にってフェルは前に独りで倒したって言ってたけど、どうやって倒したんだ?
「9つの頭同時にって、フェルが倒したときはどうやったんだ?」
最初はフェルも9つの頭同時に倒さないとなんて分からなかったから、何度やっても復活してくるヒュドラに手古摺ったらしい。
でも、戦っているうちに同時に頭を潰さないといけないことが分かってきて……。
『9つの頭に同時に魔法を撃ちドカンっとな』
得意の雷魔法で特大の稲妻を9つの頭に同時に落としたらしい。
フェル曰く、『やってできないことはないが、あれだけの雷魔法を放つのはちと疲れる』とのことだ。
特大の稲妻の同時発動をやってできないことはないって言っちゃうフェルの方が怖いわ。
『だが今回はドラもスイもいるからな。倒すのにもそんなに時間はかからんだろう。エルフは……』
「私にヒュドラは荷が重すぎますね。今回は遠慮しておきます」
エルランドさんがそう答えた。
『うむ、その方がいいだろう。お主は当然見学だ』
はいはい、分かってますって。
ヒュドラ戦なんて頼まれても嫌だよ。
『ドラ、スイ、よく聞け。さっきも言ったとおり、ヒュドラは9つある頭を同時に潰さねば倒せん。我は中央の頭3つを潰す。ドラは右側の頭3つ、スイは左側の頭3つをそれぞれ潰せ。分かったな』
『ヒュドラと戦える機会なんてそうそうないからな。俺は異存ないぜ。俺は右側3つだな。やったるぜ!』
『スイはこっちの頭3つだねー。スイもがんばるよー!』
フェルにヒュドラの左右の頭3つをそれぞれ任されて、ドラちゃんもスイもやる気満々のようだ。
『それでは、ヒュドラのいる部屋に入ったら我の合図で一気に頭を潰すぞっ』
『おうっ』
『うんっ』
フェル、ドラちゃん、スイが階段を駆け下りて、ヒュドラがいる部屋に入って行った。
茶色い石壁に囲まれた、だだっ広い部屋に全長数十メートルの体に9つの頭を持った見るからに凶悪なヘビがとぐろを巻いていた。
9つの頭は侵入してきたフェルとドラちゃんとスイを敵とみなし、今にも襲い掛かろうとしていた。
『よし、今だッ!』
フェルのその掛け声でみんなが一斉に攻撃する。
ドッゴンッ―――。
フェルの雷魔法の特大の稲妻がヒュドラの中央の3つの頭に同時に直撃した。
ドシュッ―――。
ドラちゃんの氷魔法の鋭く尖った氷の柱がヒュドラの右側の3つの頭を同時に貫いた。
ビュッ―――。
スイの大きめ酸弾がヒュドラの左側の3つの頭を同時に溶かしていった。
フェルとドラちゃんとスイに9つの頭を同時に潰されたヒュドラが力なく倒れていった。
ドシンッ。
「おおぉーっ」
思わず声がでた。
見るからに凶暴そうな面をしたヒュドラに、負けはしないものの少し時間がかかるかもしれないって思ったんだけど。
なんか、一瞬で片が付いちゃったよ。
「一瞬であのヒュドラを……」
エルランドさんも一連を見て唖然としてるし。
あ、ヒュドラが消えていく。
その後に残ったのは、超特大の魔石と皮と煌びやかな宝箱だった。
あれはもしかして、ダンジョンボスの宝箱か?
ドランのダンジョンでベヒモスを倒したときにも似たような宝箱がドロップされた記憶が。
鑑定してみると……。
【 ダンジョンボスの宝箱……ダンジョンボスを倒すことにより稀にドロップされる宝箱。仕掛けはない。 】
やっぱりそうだ。
稀にドロップされるとはいうものの、倒したのがヒュドラだし今は特殊個体が多い周期ってのも関わってそうじゃないかなとは思ったんだよね。
特大の魔石と皮を拾ってアイテムボックスにしまった後は宝箱のお楽しみ。
さてさて何が入っているのかな~?
って、エルランドさん何やってんだ?
エルランドさんを探すと、衝撃冷めやらぬって感じで入り口近くで未だにボーッと突っ立っていた。
「エルランドさん!」
俺が名前を呼んでようやく我に返った。
「はっ、な、何ですか?」
「何ですかじゃないですよ。ダンジョンボスの宝箱が出たんです。来ないと先に開けちゃいますよ」
「ダンジョンボスの宝箱ですってッ?! ちょ、ちょっと待ってくださいよっ。私も見ますから!」
エルランドさんが急いでやって来た。
「これがダンジョンボスの宝箱ですか……。確か、ドランでも出たんでしたよね?」
「ええ。中に入っていたのが例の魔剣です」
「随分煌びやかな宝箱ですね。これだけでも一財産だ」
確かに。
ドランのダンジョンのダンジョンボスの宝箱も宝石いっぱいでキラキラしてたんだよな。
未だにアイテムボックスに眠ってるけど。
さて今回の宝箱には何が入ってるんだか……。
「それじゃ、開けてみますね」
そう言うと、エルランドさんが頷いた。
「おぉっ」
「これはすごい」
中に入っていたのは、これぞ宝箱とでもいうようにあふれそうなくらい満杯に入った金貨と宝石類だった。
それともう1つ。
金貨と宝石の上に布製のバッグがポンと置かれていた。
も、もしかしてこれは……。
鑑定。
【 マジックバッグ(特大)……麻袋(大)が300個入る大きさのマジックバッグ 】
おー、やっぱりか。
マジックバッグ(特大)か。
これはフェルに持たせるのに是非とも欲しい。
今使っているマジックバッグ(中)だと小さ過ぎる。
やっぱこれくらいのが欲しい。
「それはもしやマジックバッグですか?」
「みたいですよ。フェルの鑑定だと特大のようです」
フェルが鑑定したということにして伝えた。
「と、特大ですか。それはまた……」
エルランドさんの話だと、特大のマジックバッグはここ20年ほど見つかっていないそうだ。
売ればかなりの額になりそうだけど、これは欲しいからな。
その辺は地上に戻ってからエルランドさんと相談だね。
宝箱を中身も含めてそっくりそのままアイテムボックスに回収した。
「これで、エイヴリングのダンジョン踏破ですね」
「ええ。信じられませんが。冒険者を引退したこの歳になって、初めてダンジョン踏破してしまいましたよ」
エルランドさんは、感無量といった感じだ。
元Sランク冒険者のエルランドさんでも、長い冒険者生活で1度もダンジョン踏破はできなかったそう。
それもそのはずで、話によるとダンジョン踏破など百年に1回あればいいというくらいなものらしい。
「宝箱も回収しましたし、それじゃ、地上に戻りましょうか」
「ええ」
『ちょっと待て。腹が減ったぞ』
『俺もだー』
『スイもお腹減ったー』
あー、そういえば25階のボス部屋前で一晩過ごして朝飯後にはボス部屋へ。
そっから26階のアンデッド層をグングン進んでいって、そのままの勢いで27階に来たんだった。
そんなもんだから、昼飯がまだだ。
フェルたちも腹を空かせるはずだよ。
「とりあえず飯にして、それから地上に戻りますか」
「そうですね。私もお腹空きましたし」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
というわけで、ダンジョンボスの部屋で飯の準備中だ。
フェルが『肉がいいぞ』っていい始めて、ドラちゃんもスイもそれに同調。
作り置きしておいた料理も残ってるのは海鮮の天ぷらとゴールデンバックブルの味噌漬けだけだったから、結局、ゴールデンバックブルの味噌漬けを焼くハメに。
ま、焼くだけだからいいけどさ。
というわけで、アイテムボックスから魔道コンロを出してゴールデンバックブルの味噌漬けを焼いている。
『まだか?』
フェルとドラちゃんにスイ、それからエルランドさんまでが今か今かと焼きあがるのを俺の後ろで待っていた。
「もうちょっと待てよ」
みんなの皿に飯をよそい、その上に千切りキャベツを載せてスタンバイ。
よし、もうそろそろ焼きあがったかな。
千切りキャベツの上に焼きあがった味噌漬けを載せて、ゴールデンバックブルの味噌漬け丼の出来上がりだ。
肉が大きいから俺とエルランドさんの分は食いやすいように切ってから載せた。
「はい、どうぞ」
フェルたちの前でだすと、みんな勢いよくガツガツ食い始める。
『うむ、戦いのあとの飯は一段と美味いな』
『ああ。ウメーな!』
『おいしー!』
「やっぱりムコーダさんのご飯は美味しいですねー」
エルランドさんもニコニコ顔で飯をかっ込んでいる。
「あー、味噌漬け丼美味い……」
あとは地上に戻るだけだと思うと、より一層飯が美味く感じた。
フェルとドラちゃんとスイもいつも以上におかわりしてモリモリ食ってたよ。
なぜかエルランドさんもね。
そして、ひとしきり味噌漬け丼を味わったあとは地上へと戻るだけだ。
ヒュドラを倒した後に現れた魔法陣に魔力を流し込めば、地上に転移する仕組みのようだ。
その辺はドランのダンジョンと似ている。
「みんな魔法陣の上に乗ったかー?」
『うむ、いいぞ』
『ああ』
『スイも乗ったー』
「それじゃ、私が魔力を流しますね」
エルランドさんが魔法陣に魔力を流すと、一瞬の浮遊感のあと石壁に囲まれた狭い部屋の床に描かれた魔法陣の上に立っていた。
魔法陣から一歩出ると、ガラガラガラっと音を立てて扉が開き、光が差し込んだ。
眩しい……。
俺たち一行は約1週間ぶりに地上へと戻ってきたのだった。
ようやくダンジョンから脱出。