第二百六十五話 エンペラーリッチ
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『とんでもスキルで異世界放浪メシ1 豚の生姜焼き×伝説の魔獣』
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中にいたのは……。
「あれはリッチですか。でも、あの真ん中のだけちょっと違いますね」
ボス部屋の中にいたのは5体のリッチだった。
落ち窪んだ目をした骨と皮だけのガリガリに痩せた体にボロボロの黒いローブを羽織ったリッチ。
そのリッチが左右に2体ずついて、その中央にいるリッチはボサボサの白い長髪で頭に鈍くくすんだ金色の王冠をかぶっていた。
「まさか、あれは……いや、でも…………」
中央の王冠をかぶったリッチを見ると、エルランドさんの目の色が変わった。
『ほぅ、エンペラーリッチか。相手に不足はないな』
フェルが中を見て舌なめずりしながらそう言った。
「や、やはり、エンペラーリッチですか……」
エルランドさんの話によると、エンペラーリッチはリッチの最上位種で上級魔法も使うSランクに相当する魔物らしい。
ボス部屋の中を見ていたらエンペラーリッチの落ち窪んだ目と目があった。
ニタァ―――。
ゾゾゾゾゾゾゾッ。
全身が粟立った。
い、今、ニタァって笑った。
あのエンペラーリッチ、俺のこと見て笑ったぞっ。
ボス部屋の中にいる魔物は、俺たちが中に入らないと気が付かないんじゃないのかよ?
今まではそうだったぞ。
中に入って初めて敵だって認識して襲ってくるんだ。
それなのに、あのエンペラーリッチは俺を見て笑ってた。
確実に俺たちに気付いているよな。
ゴクリ……。
何だか最高にヤバそうな相手だ。
『彼奴、我らに気付いているな』
「や、やっぱりそうか」
「え、階層主は、階層主の部屋まで辿り着き中まで入ってきた者を敵と認識するのではないのですか?」
『このようなダンジョンではそれが一般的だろうな。だがな、たまにいるのだ。そういうことから外れる魔物がな』
フェルの話を聞いてエルランドさんが愕然としていた。
「ということは、この部屋に入った途端に魔法で攻撃されるということではないですか」
エルランドさんの言うとおりだ。
気付かれている以上、あのリッチたちが絶好のチャンスを見逃すはずないもんな。
『心配するな。皆には強めの結界を張る。エンペラーリッチ程度なら、彼奴が放つ上級魔法でも10発は耐えられる』
「じょ、上級魔法を10発も……」
『その間に彼奴らをきっちり仕留めればいいことよ。それとも10発では少ないか?』
フェルが挑発するようにそう言うと、ドラちゃんとスイから抗議の念話が。
『フンッ、10発なんて多過ぎるぜ。というか、あんなヤツらの魔法に俺が当たるわけないだろっ』
『そうだよー、フェルおじちゃん! スイ、あんなヤツらに負けないもん! 絶対倒してやるもんねー』
ドラちゃんもスイもエンペラーリッチを目にしてもやる気満々のようだ。
『うむ、その意気だ。そうだ、お主は邪魔になるから入ってくるなよ。それで、エルフはどうする、来るか?』
なぁっ……。
俺だけ除け者扱い?
いや、邪魔になるのは分かるよ。
自分でもこの中じゃ一番弱いって自覚もあるし。
だけどさ、そんなはっきり邪魔だなんて言わなくてもいいのに。
もっとこうオブラートに包んだ言い方してほしいよ。
まぁ、フェルにそういうの求めても無理だとは思うけど。
「決めました。行きます。この年齢ですし、ギルドマスターなどという職に就きましたから、これ以上もうレベルをあげることは叶わないと思っていました……。でも、相手があのエンペラーリッチなら、この戦いでレベルが上がることも期待できそうですからね。フェル様、当然私にも結界はかけてくれるのですよね?」
エルランドさんはエンペラーリッチとの闘いに参戦するようだ。
『うむ、いいだろう。……よし、ドラ、スイ、エルフに結界をかけたぞ。それでは、行くぞっ!』
フェルのその掛け声に続いて、ドラちゃんとスイとエルランドさんがボス部屋へと突入していった。
待ち構えていたリッチたちから多数の火の玉が放たれた。
この面子の中で一番強いフェルにはエンペラーリッチから特大の火の玉が。
それをフェルもドラちゃんもスイもエルランドさんも見事に避けていく。
そして、みんながほぼ同時にリッチに攻撃を仕掛けていった。
『お前らの魔法なんぞ当たるかよ! お返しだぜ、食らえ!』
ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ―――。
リッチの上に鋭く尖った氷の柱が降り注いだ。
「ギェェェェーーーッ」
「ギィェェェーーーッ」
ドラちゃんの放った尖った氷の柱で串刺しになったリッチが2体、断末魔の叫びをあげながら消えていった。
『そんな攻撃スイには当たらないよー! スイのが強いんだからー!』
ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
スイの酸弾がリッチに放たれた。
酸がリッチの骨と皮だけのその身を羽織っていたローブごとジュワッと溶かしていった。
「ギ、ギィェェェーーーッ」
スイの大きめ酸弾が当たりその身を溶かされたリッチが消えていく。
「私だって、まだまだやれますよっ!」
スパンッ―――。
エルランドさんのミスリルの愛剣で袈裟斬りにされるリッチ。
上半身が斜めに体がずれて落ちていった。
断末魔の叫びを上げる間もなくリッチが消えていく。
『お主は我が相手だッ。フンッ』
ザッシュッ―――。
フェルが右前脚を振り上げて爪斬撃を繰り出した。
驚いたことにそれをエンペラーリッチが目の前に出した半透明のグレーの盾のようなバリアで防いだ。
『ふむ、結界魔法が使えるのか。我の爪斬撃を防いだことは褒めてやろう。だが、これはどうだ?』
ザシュッ、ザシュッ―――。
フェルが左右の前足を交互に振り抜いた。
エンペラーリッチの作り出した結界に爪斬撃がぶち当たった。
連続攻撃に耐えきれなかった結界にひびが入る。
そして……。
パリンッ―――。
エンペラーリッチの結界が粉々に砕け散った。
『逝くがいい』
ザシュッ―――。
防ぐものがなくなったエンペラーリッチに、もろにフェルの爪斬撃が入る。
「ギギギェェェェェェーーーッ」
一際大きな断末魔の叫びとともにエンペラーリッチが消えていった。
リッチたちとの戦いが終わったのを見計らってボス部屋に入る。
「終わったな」
『うむ』
「って、やっぱりリッチのドロップ品は魔石だけか……」
そう、リッチのドロップ品はショボいことに魔石だけなのだ。
一応Aランクだから魔石は落とすもののそれだけ。
アンデッドはドロップ品が少ないとはいうもののしょっぱ過ぎだ。
「アンデッドですからねぇ。やはりアンデッドは実入りが少ない。とはいえ、フェル様の倒したエンペラーリッチは魔石だけではなさそうですよ」
エルランドさんの言葉に、エンペラーリッチがいた場所を確認すると魔石と王冠が転がっていた。
「これはエンペラーリッチがかぶっていた王冠ですかね……」
「これは”不死帝の王冠”だと思います。私も本で読んだことがあるだけですが、これをかぶると魔力が劇的に上がるそうですが、使い過ぎると”不死帝の王冠”に魅入られてリッチ化するそうですよ」
えー、魔力が劇的アップってのはイイけどリッチ化て……。
リッチ化って結局は魔物になるってことだろ?
そんなの嫌すぎるぞ。
「え、リッチ化って魔物になるってことですよね?」
「ええ。でも、さっきも言ったとおり使い過ぎたらです。ですから、ここぞというときのためにそれでも欲しいという買い手はいくらでもいるでしょうね」
エルランドさんの話ではこんなのでも買い手はいくらでもいるらしい。
使い過ぎたらって言ってもリッチ化だぞ、リッチ化。
魔力が劇的に上がろうが、俺だったらごめんだね。
俺はエンペラーリッチが残した特大の魔石と王冠をアイテムボックスにしまった。
そして、俺たち一行はこのダンジョンの最終階層、27階へと階段を下りていった。
次回でついにダンジョンから脱出!
の予定です……(汗)