第二百五十九話 哀れなスケルトンナイト
俺たち一行は、18階のボス部屋の前まで来ていた。
アンデッド階層のボス部屋だ。
「あれがスケルトンナイトですか……」
「私もスケルトンナイトとなると初めて見るのですが、あれがそうなんでしょうね」
チラリと中を覗くと今までのスケルトンとは明らかに違う、一回り大きくて強そうなスケルトンナイトがウロウロしていた。
しかもだ、スケルトンナイトはスケイルメイルを着込んで立派な兜も被り、その上黒いモヤを纏った見るからにヤバそうなロングソードと盾を持っていた。
雰囲気的にも今までのスケルトンとは一線を画して禍々しい感じだ。
ここまでの部屋や今までの階のボス部屋と違って、数の暴力というより強い敵を少数配置しているようだ。
少数とは言っても……。
「何か聞いていたよりスケルトンナイトの数が多い気がするんですが……」
ナディヤさんの話では5体くらいと聞いていたスケルトンナイトだが、覗いたボス部屋には聞いていた数の倍以上の13体ほどがウロウロ歩き回っている。
「これも例の特殊個体が多い周期の影響なんでしょうね」
やっぱりそうか。
『ほぅ、スケルトンナイトなど久しぶりに見たな』
俺の後ろからフェルがボス部屋を見てそう言った。
『あれがスケルトンナイトか。なかなか強そうじゃねぇか。ま、俺には敵わないだろうけどな!』
ドラちゃんもスケルトンナイトを見るのは初めてのようだが、あれを見てもやる気満々には変わりないよう。
『スイだってあんなのに負けないよー』
スイもスケルトンナイトの禍々しさを見ても物怖じしていない。
『ドラ、スイ、行くぞ』
『よっしゃー』
『行くよー』
フェルとドラちゃんとスイがスケルトンナイトが待ち受けるボス部屋へと突入していった。
ドゴンッ―――。
6本の光の柱が同時にスケルトンナイトの頭上に走った。
フェル得意の雷魔法だ。
脳天に稲妻を受けたスケルトンナイト6体は何もできないままその場にひれ伏した。
ドシュッ、ドシュッ、ドシュッ、ドシュッ―――。
火を纏ったドラちゃんが次々とスケルトンナイトに突っ込んでいく。
スケルトンナイトが着込んでいたスケイルメイルに大穴が開いていった
ドラちゃんの素早さにスケルトンナイトはついて行けず、黒いモヤを纏った見るからにヤバそうなロングソードと盾もドラちゃんの前には何の役にも立っていなかった。
ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
スイの放った大きめの酸弾がスケルトンナイトが構えたヤバそうな盾にぶち当たった。
しかし、スイの酸弾はヤバい盾などものともしなかった。
盾を溶かしながら突き抜けて、スケルトンナイトの身に纏ったスケイルメイルと骨の体ごと溶かしていく。
結局スケルトンナイトは何の攻撃もできないままフェルたちに倒されていった。
スケルトンナイト13体を倒すのに所要時間5分もかからなかったよ。
ここまでくるとスケルトンナイトが哀れに思えるね。
「終わったみたいですね」
「さすがです、ドラちゃん……」
エルランドさんがキラキラした目でドラちゃんを見つめていた。
うん、何か悦に入ってるなこの人。
触らぬ神に祟りなしだね。
そっと離れてドロップ品を確認する。
あのヤバそうなロングソードが落ちていた。
鑑定してみる。
【 カースソード 】
呪詛が込められた剣。この剣で斬られると、斬られた箇所が朽ちていく。
名前からしてヤバかった。
カースソードって何? 呪いの剣?
呪詛が込められた剣って何さ?
しかも斬られた箇所が朽ちていくって、腐ってくのか?
アカンやつなんじゃないか、これ。
そもそも触って大丈夫なのかよ?
「な、なぁ、フェル、このドロップ品ちょっと鑑定してみてくれないか」
『鑑定ってお主もあるだろう』
「いやさ、フェルの鑑定の方が詳しく出るだろ。名前からしてヤバい感じのものだから触っても大丈夫なもんかさ」
『どれ。……カースソードか。触れても大丈夫のようだぞ。鑑定では柄を握る分には問題ない』
ということは、間違ってカースソードで手を切っちゃったとかって場合は…………。
「柄を握る分には問題ないって、この剣で間違って手を切ったとかってなったら?」
『この剣で斬られると、その部分は朽ちて最終的には粉々になるみたいだぞ』
ナニソレ、コワッ。
そんな恐ろしい剣いらんわ。
さっさと買い取りに出す物件だな、これ。
カースソードをアイテムボックスにしまうと、スイの声が頭に響いた。
『あるじー、こっちに箱があるよー』
お、スイが宝箱を見つけたようだな。
スイの下へ行くと、木製の古ぼけた宝箱が鎮座していた。
「スイ、良く見つけたなぁ。よくやった」
ともすると、見過ごしそうなくらい周りと同化した古ぼけた宝箱。
かなり長い期間放置されていたことが見て取れた。
【 呪いの宝箱 】
開けた者は呪われ災いが降りかかる。
エー、呪いの宝箱て……。
開けた者は呪われ災いが降りかかるって開けさす気ないだろ、これ。
『呪いの宝箱とはな。だが、お主なら大丈夫だろう。神の加護もあるうえに完全防御もあるのだ、何の心配がある』
ま、まぁフェルの言うとおりなんだけど。
呪われ災いが降りかかるってなるとやっぱ怖いじゃんか。
モタモタしてたら『早く開けてみろ』とフェルに睨まれてしまった。
「わ、分かったよ」
おそるおそる宝箱を開けた。
うん、特に何にもない。
中を覗くと、一振りのナイフが入っていた。
烏の濡れ羽色の美しいナイフだ。
宝箱からそのナイフを取り出した。
「ナイフだな……」
鑑定してみると……。
【 ヴァンパイアナイフ 】
魔鉄とヴァンパイアの骨を混ぜて作製されたナイフ。血に飢えたこのナイフは際限なく血を吸い上げる。
「ブーッ……」
ナ、何とも物騒なナイフだな。
血に飢えたこのナイフて……。
『ほう、血を際限なく吸い上げるナイフか。血抜きに使えるのではないか?』
あっ!
フェルの言うとおり、そういう使い方もありか。
血に飢えたナイフで血を吸い上げるなんていうから物騒だって思っちゃったけど、ここは物の使いようってやつか。
フェルの言うとおり、フェルたちが狩った獲物の血抜きとして使えば利用価値はあるな。
そうすれば冒険者ギルドで解体してもらうとき早く済むだろうし、何より味もよくなるだろう。
アイテムボックスで時間停止しているとはいえ、やはりその場で素早く血抜きした方がいいに決まってるし。
そう考えると、これは使えるアイテムだな。
ダンジョンを出てからの話ではあるけど、エルランドさんに相談してこの”ヴァンパイアナイフ”は譲ってもらうことにしよう。
と、そのエルランドさんはどこにいるんだ?
後ろを振り返ると、エルランドさんがドラちゃんを追い回していた。
「エルランドさん、何やってるんですか……」
『おいっ、コイツってば俺を捕まえようとしておかしいんだよ! なんとかしてくれ!』
一応ドラちゃんもエルランドさんが俺たちと一緒にダンジョンに潜っていることは分かっているから、攻撃しようにもできずに逃げ回っている感じだ。
「ドラちゃん、ちょっとでいいから抱っこさせてくださいよー」
エルランドさんはドラちゃんが戦っているのを見てドラちゃん熱が高まってしまったようだ。
何かドラちゃんを抱っこするまで諦めないような気がするんだけど。
『ドラちゃん、抱っこさせてやったら?』
そうドラちゃんに念話を送る。
『ぜってーヤダッ! だって何かコイツ目がイッテて気持ち悪いんだもん』
完全拒否。
ここまで拒否されるとは、エルランドさんも可哀想かも。
『そんなことよりコイツ何とかしろよーっ』
へいへい。
「エルランドさんっ、それ以上やるとドラちゃんに本当に嫌われますよ!」
そう言うと、エルランドさんがピタっと止まった。
「嫌われるのは嫌です~。しかし、抱っこもしたい……」
「はぁ、すぐには無理ですよ。少しずつ少しずつ信頼関係を結んでいかないと」
「ぐぅ、信頼関係ですか」
「そうです。その信頼関係を結ばなければいけないのに追い回していたら、絶対にそんな関係にはなれませんよ。それどころか嫌われるだけです」
「ぐぬぬぬぬ……」
エルランドさんもドラちゃんから好かれていないのは薄々分かっているらしく、苦い顔をしている。
「少しずつですよ。無理矢理は絶対禁物です。信頼関係が出来れば抱っこも夢ではありません」
俺がそう言うと、エルランドさんも大きく頷いた。
「分かりました。少しずつドラちゃんの信頼を勝ち取れるよう頑張ります!」
よし、何とか収まった。
ドラちゃんがエルランドさんに抱っこを許すほど信用するようになるかはまた別の問題だけどね。
『ふ~、助かったぜ。おい、コイツを俺に近づけんなよな。コイツが近くに来るとゾワッとするんだよ』
エルランドさんひどい言われよう。
ま、まぁ、がんばってください。
18階層を制した俺たちは、19階へと進んだ。