第二百五十八話 闇玉
俺たちは18階層を順調に進み、4つ目の部屋へと突入していた。
『フンッ、小賢しいわ』
スケルトンウォーリアやグールを攻撃している隙を狙って近付いてきたレイスにフェルの右腕から放たれた爪斬撃が襲う。
ザシュッ―――。
「イヤァァァァ」
甲高い女の悲鳴のような声とともに白っぽいモヤの塊のレイスが消えていく。
『お前ら臭いんだよ! 消えやがれッ!』
ドラちゃんの放った氷魔法が、グールの集団の上に容赦なく降り注いだ。
ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ―――。
鋭く尖った氷の柱に串刺しにされ動きを止めるグールども。
『いっくよー』
スイがスケルトンウォーリアやグール、レイスに高速の酸弾を撃ち込んでいく。
ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
スケルトンウォーリアは酸弾で頭蓋骨を撃ち抜かれてバラバラになっていく。
グールも酸弾で頭を撃ち抜かれて腐った頭に大穴を開けてバタリと倒れた。
酸弾で撃ち抜かれたモヤの塊のレイスも消えていく。
フェルもドラちゃんもスイもキレッキレの攻撃をかましている。
いつも通りと言えばいつも通りなんだけど。
アンデッドに対しても無双状態だ。
さて、俺は俺の仕事をしますか。
少しでもレベルアップを図るため、俺はみんなの攻撃の隙をかいくぐってきたやつを相手にしますか。
お、来たな。
「そりゃッ」
フヨフヨと漂いながらこちらに近付いてきた白いモヤの塊のレイスを袈裟斬りにした。
甲高い悲鳴を上げながらレイスが消滅していく。
少し離れた隣からも甲高い悲鳴が聞こえてきた。
エルランドさんもレイスを相手にしているようだ。
フェルたちの攻撃の隙をかいくぐってくるのは、実体のないレイスが多かった。
本来なら実体のないレイスを相手にするのは大変なんだろうし、ましてや倒すとなったら多くの犠牲を払ってということになるんだろう。
しかしだ、聖刻印のおかげで俺の振るうミスリルの槍もエルランドさんの愛剣もレイスにバッチリ効果がある。
しっかり狙って攻撃すれば怖いことはない。
ここは俺たちに回ってきたレイスをどんどん始末していってやるぜ。
それから数分後―――。
『うむ、終わったな』
『アンデッドもたいしことねーな!』
『もう終わっちゃったよー』
フェルたちが倒しまくってくれたおかげでアンデッドで埋め尽くされていた部屋もすっかり片付いていた。
床には当然大量のドロップ品が散らばっている。
毎度のことだけど拾い集める方が時間がかかりそうだ。
「ムコーダさん、ドロップ品を拾ってしまいましょう」
「そうですね。あ、けっこう闇玉がありますね」
直径2センチくらいの黒いビー玉みたいなものがそこかしこに転がっている。
黒いビー玉こと闇玉というのは、レイスのドロップ品だ。
「レイスがかなりの数いましたからねぇ」
確かに。
ボス部屋に近づいていくほどレイスが増えてきている。
「これだけあったら次の階で使ってみてもいいかもしれませんね」
「ええ。闇玉はアンデッドにはあまり効かないようですが、それ以外の魔物に効くかどうか試す価値はありますね。これだけあるんですし、ムコーダさんの言うように次の階で使用してみましょう。これが効くならかなり有効な攻撃手段になりますよ」
白いモヤの塊のレイスに触れると、ステータス値が半減する状態異常が起きると言われているが、そのドロップ品の闇玉も同様の効果があると言われている。
エルランドさんが言うには、この闇玉をぶつけると黒いモヤが発生してそれに触れるとステータス値が半減する状態異常になるそうだ。
とは言っても、エルランドさんも話として聞いているだけらしいのだが。
何せ「とにかく珍しいものですからね。私も実物は過去に一度だけしか見たことがありませんから」とのこと。
それほど珍しいものをおいそれと使えるわけもないから、実際の効果は不明なところも多いと。
何らかの状態異常を引き起こすことは間違いないだろうけど、言われている“ステータス値が半減する”までの効果があるかどうかは未知数ということのようだ。
一度試しにグールに当ててみたんだけど、あまり効果がないように思えた。
もしかしたら、アンデッドには然程効果がないのかもしれない。
それで、他の魔物なら効果があるかもしれないとエルランドさんと話していたところだった。
今までこの階を進んで来ている過程でかなりの数の闇玉が集まっているし、次の階では闇玉の実験だな。
『おい、もう少しで最後の部屋だぞ。早く進むぞ』
フェルの探知ではもうすぐボス部屋みたいだ。
4つ目の部屋を出ると、すぐに次のアンデッドが出る。
『おい、来たぞ』
通路に出てきたアンデッドどもにフェルたちがすぐさま攻撃を加えていく。
俺も負けじと、フヨフヨ漂うレイスをミスリルの槍で斬り捨てる。
「せいッ」
コロンと闇玉が転がった。
エルランドさんが相手にしていたレイスからも闇玉がドロップされた。
「闇玉がまた出ましたね」
「ええ。これならもう少し数が確保できそうです」
「攻撃にも使えるといいんですけど」
「次の階次第ですね。使えなくても、これはこれで買い取ってもらえるでしょうから、損にはなりませんよ」
「まぁ、それもそうですね。珍しいものですから、うちのギルドでも少し買取させてほしいくらいですから」
珍しい素材はそれを見るだけでも勉強になるらしく、特に買取の職員には珍しいものを見せられるときは見せるようにしているんだそうだ。
エルランドさんも時々はギルドマスターらしいことしてるようで安心したよ。
主なドロップ品はここエイヴリングの冒険者ギルドで買取してもらうとしても、ドランのギルドにも少しは回せるよう気合を入れていくとしましょうか。
俺たち一行は着実にアンデッドを屠りながらボス部屋に向けて進んでいった。
ダンジョン話が長くてすみません(汗)
試行錯誤しながら書いてるもので……
もう少しお付き合い願います。