第二百五十六話 鳥肌もんの光景
ゴキ階層最後の話です。
ようやくゴキ階層抜けます。
「そりゃっ、とうっ」
ガシャンッ、ガッシャン。
「よしっ。追加でもういっちょ」
バリンッ。
3本目も命中した。
「私が行きますっ」
エルランドさんがそう言って素早く近付くと、愛剣でデカゴキの頭を切り落とした。
セーフエリアから出てボス部屋を目指す俺たちは、どこからともなく湧き出してくるデカゴキどもを相手にしながら進んでいた。
俺が懸念していたとおり、フェルたちの攻撃をかいくぐってデカゴキが俺とエルランドさんの下へもやって来た。
俺は用意していたウォッカをアイテムボックスから取り出して投げつけた。
最初の頃は焦りもあって何度か外してしまった。
それでも何度も投げるうちに慣れてきて当てられるようになってきた。
だけど、ウォッカ1本ぶち当てたくらいじゃデカゴキは動きを止めなかった。
3本から4本ぶち当ててようやく動きが鈍ってくるんだ。
日本のゴキと同じく異世界のゴキもしぶといところは一緒だった。
ウォッカをぶち当てて動きが鈍ったデカゴキにファイヤーボールを放ったんだけど、ものすごい勢いで燃えてヤバかった。
デカゴキがよく燃えてざまぁみろと思ったけど、あまりに火の勢いがすごいもんだからこっちの身も危険ということで、ウォッカの後の火魔法は封印したよ。
それで俺とエルランドさんは話し合って、共闘してデカゴキを潰す作戦にでたんだ。
ネットスーパーで仕入れたウォッカと冷凍殺虫スプレーを使って俺がデカゴキの動きを鈍らせて、そこをエルランドさんが一刀両断する。
最前線はフェルとドラちゃんとスイに任せているから、その攻撃をかいくぐってこちらに来るデカゴキは少ないとは言え、この化け物相手に俺たちの作戦はなかなか上手くいっていると思う。
俺とエルランドさんの共闘で既に10匹近いデカゴキを葬っていた。
「ムコーダさんっ、次が来ましたよ!」
「はいっ」
ウォッカを大分消費したことから、俺はデカゴキに向かって冷凍殺虫スプレーのトリガーを引いた。
ブシューッ、ブシューッ、ブシューッ、ブシューッ。
黒い体に白い霜がついていく。
異世界産の効果が出ているのか、使っているこちらにまで冷気が届いてくる。
急激に体の温度が下がったせいか、デカゴキの動きが少しずつ鈍っていく。
すかさず追加で冷凍殺虫スプレーのトリガーを引いた。
ブシューッ、ブシューッ、ブシューッ、ブシューッ。
よし、だいぶデカゴキの動きが鈍ってきた。
「エルランドさんっ」
「はい、行きます!」
エルランドさんが愛剣を振るった。
黒光りしたデカい体が真っ二つに割れた。
「おぉ」
デカゴキが消えた後には胸部の外殻が残っていた。
俺はそれを軍手をはめた手で拾い上げアイテムボックスに放り込んだ。
最初は触るのが嫌でたまらなかったけど、ここまでくると慣れだね。
フェルたちがデカゴキを倒した後に残った大量のドロップ品も拾い上げポイポイッと次々にアイテムボックスに入れていった。
ここで躊躇していても進まないのが分かっているからな。
とにかくこの階を早く突破するのが先決だ。
俺たちはデカゴキ共を駆逐しながら進んでいった。
そして……。
『あそこが最後の部屋だ』
「ようやくか」
フェルたちがいたおかげでセーフエリアを出てからそれほど時間は経っていないが、俺にとってはようやくという感じだ。
ここが終わればやっとデカゴキを見なくて済むんだからな。
『さっさと片付けて下の階に向かうぞ』
『おうっ』
『スイもがんばるよー』
フェルもドラちゃんもスイも相変わらずヤル気満々だ。
俺としてはありがたいことだけど。
最後のボス部屋は、いままでより更に多いデカゴキがいるんだろうな……。
うんざりしながらチラッとボス部屋を覗いてみた。
そして、絶句した。
デカゴキも大量にいたが、そのデカゴキより更に大きい超デカゴキがいやがった。
「な、なんじゃありゃ……」
俺が呆然とつぶやくと、エルランドさんもボス部屋を覗き込んだ。
「あぁー、あれが出てしまいましたか。あれはギガントコックローチです。見てのとおりジャイアントコックローチよりも大きい上に獰猛なんです。出てきても2、3匹のはずなんですが、これも特殊個体が多い周期の影響なんですかねぇ……」
エルランドさんの言うギガントコックローチこと超デカゴキは2、3匹どころの話ではなかった。
「あれ、10匹近くいますね……」
「ええ。なぜかいますねぇ。あ、あの山になっているのは卵ですかね?」
そうなのだ。
エルランドさんの言うとおり、卵もあった。
しかも、大量にだ。
焦げ茶色の50センチくらいのカプセル型の卵(確か卵鞘というんだったか)が山と積まれていた。
あの中に30個前後の卵が入っているっていう話だ。
うう、気持ち悪い。
というか、何であんなに卵があるんだよ。
この階のデカゴキは卵でも増えるって聞いてたけど、卵あり過ぎだろ。
あれが全部孵化すると思ったら鳥肌が……。
「あれだけ卵があると、ドロップ品も期待できますね」
「え? 卵にもドロップ品あるんですか?」
「本で読んだのですが、ジャイアントコックローチの卵のドロップ品は金らしいですよ」
うぉぉ、何であんなバッチイもんから金がドロップされるんだよ?
ダンジョンはホントわからんな。
ドロップ品目当てっていうわけじゃないけど、あの卵は放置しておいたらあかん。
あれが全部孵化したら、この階のデカゴキはどんだけ増えるんだって話だよ。
念入りに消滅させなきゃいけないぞ、あれは。
「フェル、ドラちゃん、スイ。あそこにあるあの焦げ茶色の卵、あれは念入りに潰すんだ」
『卵か。あれがすべて孵ったら、このダンジョンから外に魔物があふれ出すかもしれんな』
「え? そんなことあるのか?」
魔物があふれ出すって、それってマジでヤバいだろ。
「スタンピードですね……。ここ最近は起きていませんが、確かにこの状況だとフェル様の言うとおりスタンピードが起こり得るかもしれませんね」
エルランドさんから話を聞くと、スタンピードというのは、魔物が増えすぎてダンジョンの外に魔物があふれ出してくる現象のことのようだった。
今は冒険者もダンジョンに積極的に潜るようになり間引きもできていることから、100年近くそういうことは起こっていないとのことだった。
街の近くにあるダンジョンがそんなことになったら…………恐ろしくて想像するのも嫌だぜ。
「しかし、偶然とはいえ、今の時期にムコーダさんたち一行がこのダンジョンに潜ったのは良かったですね。フェル様やドラちゃん、スイちゃんなら確実にこの卵も潰せますから」
『うむ。それは言えるかもしれんな。あそこにある卵は最後に入念に潰すことにしよう』
そう言うと、フェルはドラちゃんとスイを引き連れてボス部屋に突入していった。
すがすがしいほどの蹂躙劇だ。
もっとやれ、ゴキはすべて抹殺じゃー。
気持ち悪いほど大量にいたデカゴキも、10匹近くいた獰猛だという超デカゴキもフェルたちにかかれば10分も経たずに全滅した。
そして最後は……。
大量に山積みになったデカゴキの卵は、ドラちゃんの火魔法で焼かれ、スイの酸に溶かされて、念入りに処理された。
卵が消えた後には、直径2センチくらいの丸く平べったい形をした金の塊が大量に落ちていた。
「何だか、ドロップ品を拾い集める方が時間がかかりそうですね」
エルランドさんがボス部屋を見回してそう言った。
「ええ。確実に時間かかりますよ、これ」
ボス部屋はデカゴキ共のドロップ品が大量に散らばっていた。
それでも、持ち帰れるのに持って帰らないという選択肢はなく、俺とエルランドさんはドロップ品をせっせと拾い集めていった。
フェルたちも見かねて手伝ってくれたおかげで思ったよりも早く終わったよ。
「それじゃ、行きますか」
『うむ』
「ええ。次は18階層、アンデッド階層ですよ。ムコーダさん、例のモノ、またお願いしますね」
「はい、もちろんです」
ゴキ階層を抜けたと思ったら、次はアンデッド階層だよ。
でも、あれがあるから大丈夫だろう。
またみんなにペタンと押してやるぜ。