第二百五十三話 カマドウマ
15階にやって来た。
ここにはどんな魔物がいるのやら。
「それじゃ、行きますか」
俺たち一行は、階段を下りた先に伸びた通路を進んでいった。
少し進んだところでフェルの声が上がった。
『止まれ。敵が来るぞ』
フェルは通路の突き当たりを見ている。
通路の突き当たりから茶色い何かが飛び出してきた。
茶色い何かがピョンピョン飛び跳ねている。
「あれか?」
『うむ。あれの動きは早い。気を付けろ』
フェルの言うとおり、茶色い魔物はピョンピョン飛び跳ねてみるみるうちにこちらに近づいてきている。
「何だ、ありゃ……デカい便所コオロギ?」
便所コオロギ、正式名称は確かカマドウマとか言ったか。
ピョンピョン飛び跳ねてこちらに近づいてきていたのは、1メートルちょいくらいありそうなデカい便所コオロギもといカマドウマにそっくりな魔物だった。
それが集団でこちらに飛び跳ねながら近付いてきていた。
「あれは……そうかっ、あの魔物はこの階で出てきたんでした! マズいっ、即攻撃してくださいっ!」
こちらに向かってくる魔物を見て焦ったように叫ぶエルランドさん。
え? フェルもドラちゃんもスイもいるから余裕かましてたけど、エルランドさんがこんなに焦ってるってことはあのカマドウマってヤバい魔物なのか?
『攻撃だなっ。よっしゃやるぜ!』
『スイもやるよー』
エルランドさんの言葉に反応したドラちゃんとスイがカマドウマに向かっていった。
ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ―――。
鋭く尖った氷の柱がカマドウマに突き刺さる。
しかし、カマドウマの魔物は生命力が強いのか、ドラちゃんの放った氷の柱が突き刺さっているにもかかわらずこちらに向かって来た。
『こんにゃろ! 追加だっ!』
ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ―――。
ドラちゃんが倍の氷の柱を作り出してカマドウマに撃ち込んだ。
そこでようやくカマドウマの歩みが止まった。
一方スイの方もカマドウマの魔物へと酸弾を撃ちまくっていた。
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
『あれー、倒れないねー』
小さな酸弾ではカマドウマの致命傷にはならないようで、そのままこちらへと向かってくる。
『それならこれだよー』
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
スイが少し大きめの酸弾を撃っていった。
大きめの酸弾はカマドウマの体にめり込んで、そこが大きく崩れるように溶けていった。
体を大きく溶かされたことでようやく致命傷になったのか、カマドウマの魔物は横に倒れていった。
「全部倒したみたいですね……」
「ええ」
エルランドさんを見るとホッとした顔をしていた。
「あの魔物は何なんですか?」
「あれは……」
『あれは何でも食う。悪食の魔物だ』
「フェル様は知ってらっしゃるようですね。あの魔物はキラーキャメルクリケットという魔物で、フェル様の言うとおりとにかく何でも食べてしまうんです。キラーキャメルクリケットに出会ったら最後、後には何も残らないと言われているくらいなんですよ」
生息域は暗い森の中や洞窟の中で、普通の人が出会うことは滅多にないが、一度出会えば骨の欠片も持ち物さえも残らず食われてしまうそう。
「キラーキャメルクリケットの悪食は有名で、鉄製の武具でさえ食べてしまうほどです。食べるものが無くなると、共食いし始める始末です」
鉄の武具まで食ううえに、最終的には共食いかよ。
「さらに厄介なのは、キラーキャメルクリケットは卵を生き物に産みつける習性があるんです」
うげっ……ということは、もしかして…………。
「冒険者時代にこのダンジョンを調査したときの記憶では、確か、ここのキラーキャメルクリケットは卵で増えるわけではないようですが、卵を産み付ける行為はするそうです」
「生き物に卵を産み付けるってことは、捕まえた冒険者の体内に卵を産み付けることもあるってことですか?」
「ええ。そうなったら、冒険者もほぼ生きてはいないですがね」
やっぱりそうかよ。
卵を産み付けられたら生きてないってのはそうだろうね。
体内に異物を入れられるんだからさ。
エゲツないな。
何か蟲の魔物ってエゲツないのが多い気がするんだけど。
「この魔物も近付かれる前に始末するのが鉄則ですね」
そりゃそうだ。
食われるのも卵を産み付けられるのもごめんだよ。
「フェルもドラちゃんもスイも聞いたとおりだ。近付かれる前に殲滅だぞ」
『うむ。この階は我も攻撃に加わろう』
『当然俺も今まで通り倒していくぜ!』
『スイもいーっぱい倒すもんねー』
その宣言のとおり、この後フェルとドラちゃんとスイは、キラーキャメルクリケットを見つけた途端に次々と撃破していった。
俺とエルランドさんは、キラーキャメルクリケットのドロップ品の歯や触角、瓶に入った麻痺毒などを拾いながらその後を追った。
途中の部屋の中にはキラーキャメルクリケットとその倍の大きさのジャイアントキラーキャメルクリケットが待ち構えていたが、フェルとドラちゃんとスイのトリオの攻撃により一瞬で殲滅させられていった。
フェルとドラちゃんとスイの怒涛の攻撃であっという間にボス部屋の前までたどり着いた。
そっとボス部屋を覗くと、中はキラーキャメルクリケットとジャイアントキラーキャメルクリケットであふれていた。
その中心に一際デカいのがいた。
ジャイアントキラーキャメルクリケットよりも更にデカい。
しかも、回りにいるキラーキャメルクリケットをムシャムシャ食っていた。
「うげっ、共食いしてるよ」
鑑定してみると……。
【 キングキラーキャメルクリケット 】
Aランクの魔物。頑強な歯で何でも噛み砕いて食べる。
Aランクの魔物だな。
共食いするとは聞いてたけど、周りにいる同系種の魔物をムシャムシャ食らってる姿は醜悪だね。
『ドラ、スイ、やるぞ』
『ああ』
『うんっ』
「あ、俺も後方から魔法撃つからな」
レベルアップのために少しは攻撃しないと。
近付かなければ何とかなる、多分……。
『ふ、我等には当てるなよ』
「わ、分かってるよ」
フェルとドラちゃんとスイがボス部屋に入って行った。
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ―――。
ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ―――。
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
みんなの攻撃が飛び交う。
フェルとドラちゃんとスイの一方的な蹂躙劇だ。
ボス部屋の中にあふれていたキラーキャメルクリケットとジャイアントキラーキャメルクリケットはどんどん数を減らしていった。
俺も後方から隙を狙って何発かファイヤーボールを撃って3匹ほど倒した。
10分足らずでボス部屋に残されたのは俺たちと大量のドロップ品だけだった。
Aランクのキングキラーキャメルクリケットもフェルとドラちゃんとスイのトリオの攻撃の前には為すすべもなかったようだ。
大量のドロップ品をみんなで拾い集めた後、16階へと進んでいった。