第二百四十一話 9階アンデッド階層ボス戦
9階のボス部屋の前に来ている。
「ゾンビとスケルトンがうようよいますね。あの真ん中にいる剣を持ってるのがスケルトンウォーリアですか……」
ボス部屋の中をそっと覗くと、数十体のゾンビとスケルトンがいる中の中央に剣を持ったスケルトンがいた。
「けっこういますけど、私たちなら問題ないでしょう」
「そうですね。それじゃ、いきますか」
フェルもドラちゃんもスイも、ボス部屋に突っ込みたくてうずうずしている。
『みんな、行くよ。できればスケルトンとゾンビ1体ずつくらいは残してね』
『あい分かった』
『しょうがねぇなぁ』
『分かったー』
フェルとドラちゃんとスイがボス部屋に飛び込んでいく。
ザシュッ―――。
フェルの爪斬撃が炸裂する。
右前脚を一振りしただけでゾンビが細切れになっていった。
ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ―――。
ドラちゃんが氷魔法放つ。
尖った氷の柱がスケルトンの頭蓋骨を粉砕していった。
ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
スイが斬りかかってきたスケルトンウォーリアに酸弾を撃ち込んだ。
スケルトンウォーリアが持っていた剣ごと溶けていく。
相変わらず仕事が早いね。
ってそんなこと考えてる場合じゃない。
みんなちゃんと俺の言うとおり、スケルトンとゾンビを1体ずつ残してくれてるんだから。
最初にゾンビよりは動きの速いスケルトンがこちらに向かってきた。
「とりゃッ」
ミスリルの槍を上から下に払い袈裟斬りにする。
「ア゛ァー」
次はゾンビだ。
心臓の辺りをしっかり狙って……。
「せやッ」
ミスリルの槍でゾンビを一突き。
ゾンビが消えた後に残った腐食液を拾う。
「終わりましたね」
「ええ。私の出番なかったですよ」
そう言ってエルランドさんも苦笑いだ。
そういや俺たちだけで倒しちゃったよ。
すんませんね。
『あるじー、落ちてたの拾ったよー』
『お、ありがとな』
スイが拾ってきてくれたドロップ品の腐食液とスケルトンの骨の欠片を受け取った。
『おい、こっちに宝箱があるぞ』
フェルの念話が飛んできた。
お、宝箱か?
「宝箱があるみたいなんで行きましょう」
エルランドさんに声をかけて奥に向かった。
宝箱の前にはフェルとドラちゃんがいた。
宝箱と言っても、目の前の宝箱はドランのダンジョンで見た宝箱とは違い木で出来た貧相なものだった。
『お、来たか。フェルの話だと、この宝箱には罠が仕掛けられてるらしいぜ』
『うむ。ドラの言うとおりだ。開けると同時に毒矢が放たれるよう仕掛けられている』
ここのダンジョンの宝箱にも罠が仕掛けられてるのかよ。
しかも毒矢か。
たまにはすんなり開けられる宝箱を用意しておいてほしいぜ。
「罠がある可能性があるので慎重に開けた方がいいですね」
「エルランドさんの言うとおり罠が仕掛けられてますよ。フェルの鑑定だと毒矢が仕掛けられているみたいです」
「ほぅ、フェル様の鑑定ではどんな罠が仕掛けられているかもわかるんですね」
エルランドさんが感心したようにそう言った。
俺には完全防御があるから問題ないと思うけど、エルランドさんに知られるのはマズいよな。
こんなのあるって知られたら、どうやって取得したんですか?って絶対聞かれるだろうしさ。
フェルの結界があるからここにいる誰でも大丈夫は大丈夫なんだろうけど、フェルの結界のことエルランドさんには説明してないし……。
フェルとしてはエルランドさんに説明しても別になんてことはないんだろうけど、フェルの能力をバラし過ぎるのもちょっとどうかなって思うし。
うーん…………そうだ、毒矢って正面からしか来ないのかな?
『フェル、仕掛けられた毒矢って何本か仕掛けてあるのか?』
『いや、1本だけのようだな。それが正面に飛び出してくる仕掛けだ』
なるほど。
それならば……。
「エルランドさん、この宝箱の罠は開けると同時に毒矢が1本正面に向かって飛び出してくる仕掛けみたいですよ」
「ほー、そんな細かいことまで分かるとはフェル様の鑑定はすごいものですね。さすがです」
「そういうことなんで、正面からだと毒矢にやられますから、脇からこの槍でこじ開けますね」
「はい」
エルランドさんとフェルとドラちゃんとスイが宝箱の脇に移動する。
「じゃ、やりますね」
俺は宝箱の横に立ち、フタの部分にミスリルの槍を突き立てて宝箱をこじ開けた。
ヒュンッ―――。
宝箱をこじ開けた瞬間に毒矢が飛んだ。
「よし、もう大丈夫ですね」
みんなで宝箱の中を覗くと、中には1本のナイフが入っていた。
宝箱に入ってるナイフね……こういうときこそ鑑定だ。
【 ポイズンナイフ 】
毒のナイフ。このナイフで傷付けられると、その対象は弱毒状態になる。
弱毒状態か。
死ぬまではいかないまでも、対象を弱毒状態にするんだから弱らせる効果は十分にある代物だな。
「このナイフは“ポイズンナイフ”っていうものみたいですね」
「おお、“ポイズンナイフ”ですか。9階にしてはいい物が出ましたね」
エルランドさんの口から“いい物”という言葉が出た。
「これも人気の品なんですか?」
「ええ。斥候職がいて、少し余裕が出てきたパーティーでは1つは持っておきたい一品ですね」
何でも、肉が素材の魔物には使えないが、それ以外の魔物には非常に有効とのことだ。
弱毒状態にして弱らせてから狩ることができるため、安全かつ確実に狩ることができるんだそうだ。
エルランドさんの話では、少しかすっただけでも弱毒状態になるってことだから、オーガとかトロールを相手にするときにはいいかもしれないな。
「それでは10階に向かいましょうか」
俺たち一行は、9階のアンデッド階層に別れを告げて10階へと向かった。