第百九十八話 ベルレアンとエイヴリングの情報を得る
森を抜けて街道に出た。
後は帰るだけだな。
オークの集落の殲滅が早く終わったから、日暮れまでにはまだまだ時間がある。
「それじゃ、帰りますか」
『ぬ、ちょっと待て』
フェルの横やりが入った。
「何だよフェル?」
『腹が減ったぞ』
『俺もだー』
『スイもー』
そういえば昼過ぎてたな。
「すいません、フェルたちが腹減ったって言うんで飯にしませんか?」
影の戦士の面々に声をかける。
「そういや飯食ってなかったな。んじゃ、飯にするか」
街道の脇の空き地にそれぞれ思い思いに座った。
影の戦士の面々が背負っていた鞄から干し肉やら黒パンやらを出している。
うん、こう言っちゃなんだけど、ショボい飯だな。
おまけにマズそうだし。
ここは同じ依頼を受けた者同士、飯を分けてあげるとしますか。
「あの、良かったら俺の作った飯食いませんか? 干し肉よりかはいいと思うんで」
「いいのか?」
「ええ。同じ依頼を受けた好ですしね。ちょっと待ってください」
何にしようかな?
やっぱり米よりパンの方がいいかも。
それだったら……うん、これにしよう。
ドランで買った黒パンがまだまだたくさん残ってるから、それを使う。
まずは丸い黒パンを上下に分けるように切ってと。
下のパンの上に作り置きしてあるキャベツの千切りを載せて、その上にケチャップソースをたっぷり絡めたハンバーグを載せて上のパンを載せたら、ハンバーガーの出来上がりだ。
これを、影の戦士の面々には2個ずつだな。
あのガタイならこれくらい食うだろ。
フェルとドラちゃんとスイには5個ずつだな。
俺は1個で十分だぜ。
「どうぞ」
ハンバーガーを皿に載せて影の戦士の面々とフェルたちに出してやった。
フェルとドラちゃんとスイはいつものようにバクバク食っている。
それを見て、影の戦士の面々もハンバーガーにかぶりついた。
「う、美味い! 何だこれは、こんな美味いもん初めて食ったぞ!」
アロンツォさんがそう言ってハンバーガーを口いっぱいに頬張る。
「ウメェッ! この肉に付いてるソースがウメェな!」
クレメントさんもそう言ってバクバク食ってる。
「ああ、このソースが酸味もあるし少し甘味もあるしコクもあってウメェな! こんな美味いもん食えるなんて、この依頼受けて良かったな!」
続けてマチアスさんもそう言って大きな口でハンバーガーにかぶりついている。
「…………」
アーネストさんは無言のまま夢中で食っている。
影の戦士の面々にも気に入ってもらえたようだね。
良かった。
『『おかわり』』
フェルとスイのおかわりだよ。
ドラちゃんはもうお腹いっぱいみたいだ。
黒パン噛み応えあるもんな。
フェルとスイのおかわりを出してやって、俺も食い始める。
うむ、黒パンは少々固いがイケるな。
やっぱりハンバーグは間違いないね。
ハンバーグ美味いよ。
影の戦士の面々は2個では足りなかったようで、追加で1個ずつ出してやった。
フェルとスイも何度かおかわりして満足したみたいだ。
「そういやぁ、ムコーダさんは明日この街を離れるようなこと言ってたけど、予定があるのか?」
食後の休憩をとっていると、マチアスさんがそう聞いてきた。
「ええ。フェルが海に行きたいって話だったんで、ベルレアンに向かう予定なんです。海の街ってことで、新鮮な海の幸が食えるの楽しみにしてます」
「おおっ、ベルレアンか。俺たちも去年行ったな。あそこの街は新鮮な魚介が最高に美味かったな。でも、約1名楽しめなかったヤツもいるがなぁ。ガハハハ」
マチアスさんがそういって笑った。
「ああ。俺とマチアスとアーネストは新鮮な魚介食ってベルレアンを満喫したけど、アロンツォがなぁ……。魚嫌いで早く違う街へ行くぞってうるさいのなんのって。新鮮な魚介なんて食う機会そんなにあるもんじゃねぇから楽しんでるってのによー」
クレメントさんがそう言いながら呆れた顔をしてアロンツォさんを見ている。
アロンツォさん魚ダメなんか?
「そうそう、海の街だってのにアロンツォだけ肉ばっか食ってたよな。しかも、店の人間にも海の街に来て魚介食わねぇなんて何のために来たんだ?って顔されてやがるしよ。あれには笑ったよな」
アーネストさんがそう言ってガハハと笑う。
「魚介の生臭さがどうも俺には合わねぇんだよ。俺としちゃ海の街にはもう行きたくねぇぜ。飯はやっぱ肉に限るな」
アロンツォさんがそうボヤく。
魚介、美味いのにねぇ。
「それはそうとベルレアンに行くなら、港の近くでやってる朝市は必見だぜ。新鮮な魚介が安く手に入るうえに、その周りには屋台も多くあるからな。おすすめだぜ」
マチアスさんがそう教えてくれた。
ほー朝市か、いいこと聞いた。
新鮮な魚介類が安く手に入る上に屋台も多いとは、これは絶対行かないとだな。
「おい、あれ、ベルレアンの名物のあの魚も美味かったよな。あれ何てやつだっけ?」
アーネストさんがそう言って思い出そうと「あれだよあれ」とつぶやいている。
「タイラントフィッシュだろ?」
マチアスさんが助け舟を出すと、アーネストさんが「そうそう」と膝を叩いている。
「確かあれも魔物の一種なんだよな? 見てくれは凶暴な面してるけど、食ってみるとあっさりした白身でウメェのなんのってな」
アーネストさんがそのタイラントフィッシュとやらの味を思い出しているのか、頷きながらそう言う。
「ベルレアンの荒くれ漁師にしか獲れないもんだから、あの街の名物なんだぜ。ムコーダさんも行ったら絶対食った方がいいぞ。めちゃくちゃ美味いからな」
クレメントさんがそう俺に薦めてくる。
タイラントフィッシュか、覚えておこう。
「あとあの貝、えーと、ビッグハードクラムっつったか。あれのスープが美味かったな」
詳しく聞いてみると、ビッグハードクラムというのは俺の手のひらくらいの大きさの二枚貝らしい。
ハマグリっぽいのかな?
お吸い物にしたらダシが出て美味そうだな。
醤油をちょろっとたらして焼いて食っても美味そうだ。
これは海鮮BBQにも良さそうだね。
ジュルリ……涎が出そうだよ。
フェルたちに合わせて肉ばっかり食ってたから、俺は魚介に飢えているぞ。
ベルレアンに行ったら新鮮な海の幸食いまくってやるぜ!
「あー、ムコーダさんにベルレアンの話してたらまた行きたくなったな」
「ああ。海の幸食いてぇな」
「おう、食いてぇ」
クレメントさんとマチアスさんとアーネストさんがそれぞれそう言った。
するとすかさずアロンツォさんが「冗談じゃねぇ」と口を出す。
「海なんか行かねぇからな。次はエイヴリングに行くって話だったろうが」
アロンツォさんは相当魚介類が苦手みたいだね。
「フハハハ、アロンツォそんなに怒んなよ。海の幸食いてぇって言っただけだろ。この後は予定通りエイヴリングに行くから心配すんなって」
「そうそう。久しぶりのダンジョンだからな、腕が鳴るぜ」
「ああ。今回はしばらく滞在する予定だかんな、たんまり稼ごうぜ」
お、影の戦士はこの後はダンジョン都市エイヴリングに向かう予定なのか?
「みなさんはネイホフからエイヴリングに向かうんですか?」
「ああ。あと4、5日ネイホフに滞在して、その後エイヴリングに向かう予定だ」
アロンツォさんがそう答えた。
「それは奇遇ですね。俺たちもベルレアンの後にエイヴリングに向かう予定なんですよ」
「おお、そうなのか? 今回は俺たちは腰を据えてダンジョンに挑もうって話になってるから長期滞在になる予定なんだ。エイヴリングでムコーダさんたちと再会できるかもな」
クレメンスさんがそう言うと、マチアスさんが「ダンジョンの中でひょっこり再会なんてあるかもな」なんて言っている。
「ダンジョンの中で再会、あるかもしれませんよ。実はですね……」
ドランのダンジョンで知り合いの冒険者“鉄の意志”の面々と再会したときのことを話した。
影の戦士の面々は以前にエイヴリングのダンジョンに潜ったことがあるらしく、その点でもいろいろ聞くことができた。
そんなこんなでダンジョンの話題でひとしきり盛り上がり、いつの間にか大分時間も過ぎていた。
オークの殲滅が早く終わったとはいえ、もうそろそろ街へ戻らないと。
「それじゃ、もうそろそろ帰りますか」
行きと同じくスイに大きくなってもらって、その上に影の戦士の面々に乗ってもらって、俺たちは街へと戻っていった。