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第百九十七話 オークの集落殲滅作戦②

「あそこだな」

 俺たちは木の陰で息をひそめてオークの集落を覗いていた。

 スイのおかげで、森の近くまではそれほど時間もかからずに来ることができた。

 森の中に入ってからも、フェルの先導もあって順調にオークの集落に辿り着くことができた。

 あまりにも早い道程に影の戦士(シャドウウォーリア)の面々は驚いていたけど、時短ですよ時短。

 何とか今日中に終わらせたいからね。

 オークの集落を目の前にして、あとはあれを殲滅するだけだ。

 集落は森の開けた場所にあった。

 オークが建てたのだろうボロい掘っ立て小屋も見受けられる。

「フェル、数はどのくらいいるかわかるか?」

 気付かれないよう小声でフェルに聞いた。

『200程度だな』

 200か、けっこういるな。

「オークキングは?」

『いないな。上位種はいるようだが、それほどの気配はないぞ』

 ヨーランさんから聞いたとおり、上位種はオークリーダーとオークジェネラルということか。

「どういう作戦でいくんだ?」

 アロンツォさんがそう聞いてきて、影の戦士(シャドウウォーリア)の他のメンバーも俺の方を見る。

「作戦ていう作戦はないですけど……。フェル、結局いつも通りなんだよな?」

『うむ。先手必勝。攻撃は最大の防御なりだ。我とドラとスイで始末してくる。お主らは、逃げたオークを逃さぬように始末しろ』

 うん、そうなるよな。

「ということです。うちの従魔に任せれば大丈夫ですよ。俺たちは集落から逃げてきたオークを逃さないように気を付けましょう」

 そう言うと、影の戦士(シャドウウォーリア)の面々は本当にそれでいいのかと困惑気味のようだ。

『それでは行ってくるぞ。ドラ、スイ行くぞっ』

『ヒャッホウ! 待ってたぜー!』

『スイ、がんばるよー!』

 そう言ってフェルとドラちゃんとスイが勢いよく飛び出していった。

 そこからはもう何というかね。

 うちの子たちがオーク程度に手こずるわけないからね。

 ザクッ―――。

「「「「「ブヒィィィィッ」」」」」

 数多くのオークの断末魔が聞こえてきた。

 おお、あれはフェルの土魔法か。

 地面から剣山のような針が広範囲で突き出して、オークを串刺しにした。

 この魔法でオークの半分近く減ったぞ。

「な、なんだありゃ……」

 そんなつぶやきが聞こえてきた。

 隣を見ると、影の戦士(シャドウウォーリア)の面々が口をあんぐり開けてオークの集落を見つめていた。

 これくらいで驚いてちゃダメだよ。

 この後にはドラちゃんとスイの攻撃が続くだろうからね。

 ドシュ、ドシュ、ドシュ、ドシュドシュドシュッ―――。

 今度は宙に現れた先が尖った氷の柱が次々とオークに降りかかりその身を貫いていく。

 これはドラちゃんの氷魔法だな。

 これでオークは4分の1くらいにまで減った。

 ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。

 スイの酸弾が一撃必中でオークを撃ち抜いていく。

 残っていたオークのほとんどがスイの酸弾の餌食になって倒れていった。

「何なんだ、あいつ等は……」

「オークの集落がこんな短時間で……」

「あり得ねぇ……」

「あの従魔たち強すぎだろ……」

 影の戦士(シャドウウォーリア)の面々がフェルたちの戦いぶりを見てブツブツつぶやいている。

 うん、気持ちは分かるけども、事実だからな。

 うちの子たちみんな強いんですよ。

 ん?

 集落の端にいてみんなの攻撃を免れたオークどもが逃げ出しているのが見えた。

 しかも、そのオークどもはこちらに向かってきていた。

「集落から逃げてきたオークがこっちに向かってますっ!」

 そう声をかけると、影の戦士(シャドウウォーリア)の面々がハッと我に返りそれぞれ武器を構えた。

 俺もアイテムボックスからミスリルのショートソードを取り出して構える。

 トロールやミノタウロスをダンジョンで倒してるし、それより格下のオークなんだから、落ちついて対応すれば大丈夫だ。

 よし、オークが来たっ。

「ていッ」

 逃げてきたオークの足を切りつける。

 怯んだところを……。

 ザクッ―――。

 心臓を一突き。

 よっしゃ!

「うわっ」

 オークを倒して気が抜けた瞬間、横から突き飛ばされて木に激突した。

「痛ぇな」

「ブヒィィィッ」

 オークが怒りの形相で俺を睨みつけていた。

「やったな、このクソオークめッ! ストーンバレットッ、ストーンバレットッ、ストーンバレットッ!」

 俺を突き飛ばしたオークに向かって石の礫(ストーンバレット)を撃ち込んだ。

 ドスッ、ドスッ、ドスッ―――。

 直径5センチくらいの石礫がオークを直撃した。

「プギィィィィッ」

 石礫を受けて、悲鳴を上げて膝をついたオーク。

 すかさず俺はそのオークに近付きミスリルソードで首を切りつけた。

「せいッ」

 オークの首がボトリと落ちた。

「ふぅ~」

 周りを見ると、影の戦士(シャドウウォーリア)の面々もオークを2、3匹倒しているようだ。

「もういませんかね?」

「ああ、逃げてきたオークはここにいるだけだ」

 アロンツォさんがそう言った。

「それじゃ、集落の方へ行きましょう」

「このオークはどうする?」

「俺はアイテムボックス持ちなんで、とりあえず回収しときますね。どうするかは後で決めましょう」

 どう分け合うかは後にして、とりあえずオークを回収し、フェルたちの下に向かった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 オークの集落があった場所に来ると、無数のオークの(しかばね)が散乱していた。

 その中にたたずむフェルとドラちゃんとスイ。

 うーん、すごいねぇ。

 みんな強すぎるぞ。

 影の戦士(シャドウウォーリア)の面々は辺り一面に倒れたオークの多さに顔を引きつらせている。

「すごい光景だな……」

「ああ、こんな短時間にオークの集落殲滅させちまったぜ」

「オークの集落の殲滅つったら、普通なら冒険者にも被害でてるよな……」

「ああ。それが全員無傷の上、こんな短時間で終わるなんてな」

 なんか、すんません。

 でも、俺たちにとってはいたって平常運転です、はい。

「それじゃ、ここのオークも回収しちゃいますんで」

 呆然としている影の戦士(シャドウウォーリア)の面々を無視して、フェルとドラちゃんとスイに手伝ってもらいながらオークを回収していく。

「ふー、終わった」

 回収が終わったとき、正気に戻った影の戦士(シャドウウォーリア)の面々はオークの作った掘っ立て小屋を壊して燃やしていた。

 アロンツォさんに聞いてみると、こういうのは壊すのが鉄則なんだという。

「そのままにしておくと、またオークやらゴブリンやらが住み着くからな」

 なるほど。

「今回は幸いなことに被害者がいなかったが、いた場合はその遺体も焼くのが鉄則だ」

 やっぱそういう場合もあるのか……。

 そりゃそうだよな。

 オークやゴブリンにはメスがいなく、他の動物や魔物、人間を苗床に増えていくしかないということは聞いて知っていた。

 性欲が強く、オークやゴブリンが特に人間の女性を好むこともだ。

 それを考えると、アロンツォさんが言うように被害者がその場にいる場合もあるってことだよな。

 その時、平静でいられるかどうかわからないけど、そういうこともあるってことは承知しておかないといけないかもしれない。

「ご遺体をその場で焼いてしまうって話ですけど、家族には引き渡さないんですか?」

「ああ。本人にしろ家族にしろ、そういう姿は見せたくないし見たくないはずだからな。暗黙の了解でそうなっている」

 そうなのか……。

 オークやゴブリンに攫われるってのは、本人にとっても家族にとっても悪夢でしかないもんな。

「それにな、アンデッドになる可能性も否定できんから遺体は焼くのが鉄則なんだ」

 クレメントさんがそう付け加える。

 アンデッドか。

 いるんだね、ゾンビ。

 聞いてみたら、滅多に出ることはないがいることはいるそうだ。

 ダンジョンに限っては、そういうのばっかり出る階層がある所もあるって話だったけど。

 うへぇ、だよ。

 ベルレアンの後に行くエイヴリングのダンジョンにはそういう階層がないことを願うばかりだ。

 あれ、それって亡くなっていた場合の措置だよね。

 生きてた場合はどうすればいいんだろう?

「被害者の方が生きてた場合はどうするんですか?」

 そう聞くと、影の戦士(シャドウウォーリア)の面々がそれぞれ顔を見合わせながら渋い顔をした。

「……それが一番悲惨な場合だ。オークやゴブリンに弄ばれて、正気でいられると思うか?」

 ああ、そうか……。

「ほとんどの場合、その場で自害してしまうか、正気を失っていて神殿の保護院送りになる。生きていれば、一応連れ帰るが、果たしてそれが幸か不幸かはわからんがな……」

 神殿の保護院というのは、精神の病気やら四肢欠損で1人では生きてけない人を保護する場所らしい。

 数は少ないが、この世界にもそういう場所があるらしいのだ。

 ゴブリンの巣殲滅戦だったが、影の戦士(シャドウウォーリア)の面々も一度そういう場面に遭遇したことがあるそうだ。

 被害者はまだ10代半ばの少女だったが、見つけたときには正気を失っていたそうだ。

 その子は保護院に送られ、今もそこで過ごしていると風の噂で聞いたという。

「そういう被害者を増やさねぇためにもよ、俺たち冒険者は体張って積極的にこういうゴミどもを狩ってかなきゃならねぇのさ」

 マチアスさんがそう言った。

「そういうこったな。オークとゴブリンはすぐに増えるからな。俺たちは、見かけたら必ず狩るようにしてるぜ」

 マチアスさんに続いてアーネストさんがそう言った。

 この影の戦士(シャドウウォーリア)の面々って強面だけど、かなり硬派な冒険者なんだな。

 冒険者って魔物を狩ってその素材を売って儲けたり、ダンジョンに潜って得たドロップ品やらを売って儲ける職業ってイメージしかなかったけど、影の戦士(シャドウウォーリア)の面々の話を聞いて、ちょっと考えを改めた。

 正直言ってゴブリンは見るのも嫌だったけど、これからは見かけたら狩るようにしよう。

 オークもね。

 それで、少しでも被害が減るならそれに越したことないもんな。

 小屋が燃え尽きたところで、俺たちはオークの集落だった場所を後にした。

 





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― 新着の感想 ―
異世界だってダークでシリアスな暗部があって当然なんですよね、それを知ったムコーダさんがこれからはゴブリンやオークを倒そうって心に決めたシーン、刺さりました(泣
オークとゴブリンはヒトから生まれてる場合もそれなりにあるのですね。 ムコーダさんたちはそれを食べていると。
[良い点] 影の戦士、漢ですね。
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