第百八十三話 イビルプラント
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俺たちはイビルプラント討伐の依頼のために西の森に来ていた。
ヨーランさんの話では、ここの西の森では何故かは解明されていないが10年おきくらいにイビルプラントの大発生が起こるとのこと。
今年の大発生は特に数が多いようだと言っていたな。
数が多いなら二手に分かれて討伐してった方が効率がいいか。
「フェル、上位種はどの辺りに多そうなんだ?」
『散らばっているが、森の奥の方が数は多そうだな』
森の奥か、それならば……。
「今回は数が多いみたいだし、二手に分かれよう。森の奥の方はフェルとドラちゃんで担当してもらえるか?」
『分かった』
『分かったぜ』
奥の方は上位種が多いってことなら、フェルとドラちゃんに担当してもらった方が確実だ。
「スイは俺と一緒にな」
『えー、スイもビュッビュッってしていっぱい倒したいー』
スイは酸弾っていう強力なスキルはあるけど、フェルとドラちゃんと比べるとステータス値は一番下だ。
俺と一緒に森の手前を担当してもらうことにする。
フェルとドラちゃんと比べると一番下とは言え、俺と比べたらスイだって間違いなく強い。
スイは俺のボディガードとしても働いてもらうつもりだ。
「ビュッビュッってして倒していいんだぞ。ただな、俺の傍にいてくれると嬉しいな。この中では俺が一番弱いから、スイが守ってくれよ。頼りにしてるからな」
『分かったー! スイ、あるじのこと守るよー!』
今回は俺も試したいことがあるから戦うつもりだからね。
完全防御があるから死ぬってことはないと思うんだけど、俺は戦闘に慣れてるってわけでもないからね。
スイがいてくれるとありがたい。
「フェル、マジックバッグ渡しておくな」
俺はフェルの首にマジックバッグをかけた。
ギルドマスターのヨーランさんの話だと、イビルプラントは死ぬとすぐに枯れてしまう。
Cランクのイビルプラントは何も残さないが、上位種のジャイアントイビルプラントはBランクだから魔石を落とす場合があるということだった。
「フェル、ドラちゃん、上位種のジャイアントイビルプラントも多いみたいだし、その中で魔石を落とした場合は拾ってその中に入れて持ち帰ってきてくれ」
ヨーランさんからも魔石は冒険者ギルドで買い取らせてくれと言われているしね。
『分かったぞ。行くぞ、ドラ』
『おうっ』
フェルとドラちゃんは森の中へと進んで行った。
一方俺の方は……。
「フフフ、これが効くといいんだけどねぇ」
俺はアイテムボックスの中から対イビルプラント用の武器を取り出した。
取り出したのは”除草剤”だ。
ネットスーパーのメニューに園芸用品っていうのがあって、ありそうだなって思ってたんだよね。
今朝確認したら、やっぱり除草剤あったよ。
しかも、希釈するタイプやらスプレータイプやら何種類も取り揃えてあった。
その中で俺が選んだのはスプレータイプの除草剤だ。
手軽で使いやすそうだし、食品由来成分で環境にもやさしい除草剤って説明書きにもあったしね。
あと、まいた場所だけに効いて枯れさせたい雑草だけ狙い撃ちにできるってあったから今回のイビルプラントの討伐にはピッタリだと思う。
一応鑑定してみたらこんな風に出た。
【 除草剤 】
スプレータイプの異世界の除草剤。環境にもやさしい。
試してみたいことってのは、この”除草剤”が効くかどうかだ。
植物系の魔物なんだから”除草剤”効きそうだなって思ってさ。
これが効いたら、これから植物系の魔物が出た場合の強力な武器になるだろ。
「よし、スイ、俺たちも行こうか」
『うんっ』
俺とスイは森の中へと入っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『あるじー、変なの来たよー!』
イビルプラントだ。
ヨーランさんから聞いたとおりの姿だった。
イビルプラントは、ギザギザのついた二枚貝のような見た目で食虫植物のハエトリグサにそっくりだった。
それが2メートル近い高さになり茎からは自在に動く蔦のようなものが伸び、根っこはウネウネと動いて植物系の魔物だが自分で移動できる魔物だ。
「スイ、それがイビルプラントだぞ。俺たちで倒すんだ」
『分かったよ。これはスイが倒すー』
ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
スイの酸弾が命中してイビルプラントが枯れていく。
「よくやったぞ、スイ」
『えへへ~。あー、あれ! あるじ、さっきみたいなウニョウニョ動く変な草がいっぱい来た~』
スイの触手が指す方を見ると、10体近いイビルプラントがこっちに迫って来ていた。
こりゃあまたいっぱい来たね。
大量発生しているというのは事実のようだね。
「ああ、いっぱいいるな。俺たちあれを倒すんだ。スイ、やるぞっ」
『うんっ、スイいっぱいビュッビュッってやってウニョウニョ動く変な草いっぱい倒すよー』
スイは張り切ってイビルプラントに向けて酸弾を撃ち始めた。
よし、俺も負けてられないぜ。
対イビルプラント用の武器、日本産の”除草剤”だ。
食らえッ。
シューッ、シューッ、シューッ―――。
俺を捕まえようと伸びてきたイビルプラントの蔦に向かって除草剤を噴射した。
”除草剤”は効果抜群だった。
除草剤をかけた蔦がすぐさま枯れていき、それがだんだんと茎にまで及んで最後は全身枯れてしまった。
異世界産の食材の効果みたいな感じで効いたのか、この世界に今まで除草剤のようなもんはないだろうから、それで効きやすかったのかよくわからんけど、とにかく効いたみたいだ。
「ヤッタ! 効いたぜ」
『あるじ、すごーい! スイも負けないよー! いっぱい倒すー』
ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
シュッ、シュッ、シューッ―――。
俺とスイは、俺たちを捕食しようとやってきたイビルプラントをひたすら倒していった。
「ふ~、終わったか」
そう思っていると……。
『あるじー、また来たー。今度は大きいのも来たよー!』
今度はイビルプラントだけじゃなくジャイアントイビルプラントの姿もあった。
「デ、デカいな……」
ギザギザのついた二枚貝の部分も茎も蔦も根っこもイビルプラントの倍くらいの大きさだ。
高さも4メートル近い。
でも、イビルプラントに除草剤が効いたんだからこのジャイアントイビルプラントにも効くはず。
ウネウネとうねりながら俺を捕まえようと迫りくるジャイアントイビルプラントの太い蔦に向かって。
「食らえーッ」
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シューッ―――。
大量に除草剤を噴射した。
バッタンッ、バッタンッ、バッタンッ。
苦しいのかイビルプラントが太い根っこを地面に叩きつけた。
「うおッ」
すんでのところで横っ飛びしてそれを避ける。
「クソッ、早く枯れちまえッ」
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シューッ―――。
根っこにも大量に除草剤を噴射した。
すると、茎に噴射するよりも早く枯れていった。
根っこの方が弱点なのか。
スイに教えようと振り向いたが……。
うん、スイの酸弾にはそんなの関係ないみたいでした。
茎だろうが根っこだろうが溶かしまくってました。
よし、こっちはこっちでやったるぜ。
用心のために除草剤多めに買っておいて良かったよ。
俺はもう1本除草剤を取り出して両手にスプレータイプの除草剤を握りしめた。
シャキーンッ、これぞ除草剤二刀流。
「ヒャッハーッ、除草剤無双じゃーッ」
除草剤が思いのほか絶大な効果を発揮していたために気が大きくなった俺は、イビルプラントの群れに突っ込んでいった。
シュッ、シュッ、シューッ―――。
俺はイビルプラントに除草剤を噴射しまくった。
3時間後―――。
「あ~、疲れた」
俺は地面に倒れるように腰を下ろした。
『あるじー、大丈夫ー?』
「ああ、ちょっと疲れただけだから大丈夫だよ。それにしても、スイはあんなにいっぱい倒したのにまだまだ元気だねぇ」
俺以上にイビルプラントを倒しているはずなのに、スイはまだまだ元気いっぱいのようでポンポン飛び跳ねている。
『えへへ~、スイまだまだ元気だよ。もっともーっといっぱいウニョウニョ動く変な草倒せるのー』
俺とスイは次から次へと襲ってくるイビルプラントを倒しまくった。
イビルプラントは動くものに集まる習性があるのか、次から次へと集まって来た。
おそらく、俺だけでも100匹近くイビルプラントを倒しているだろう。
その中にジャイアントイビルプラントも10匹近くいた。
除草剤をシュッシュしてただけとはいえ、さすがに疲れた。
途中多めに用意していたはずの除草剤が切れてしまったときは、俺もさすがに焦ったぜ。
急いでネットスーパーで買い足して何とか難を逃れたけどな。
それにしても…………。
周りを見渡すと、イビルプラントの枯れた残骸だらけだった。
この残骸の量を見ると、スイは俺の倍は倒したってことだろうね。
ポンポン飛び跳ねているスイを見る。
そんな風には全然見えないんだけど、スイって本当に戦闘能力高いよなぁ。
『ん? なぁに、あるじー』
「いやな、スイはいっぱい倒してすごいなって思ってさ」
『えへへ~、スイすごい?』
「ああ、スイは凄いよ」
『うふふ、うれしいなぁ』
スイが嬉しそうにポンポンと俺の周りを飛び跳ねている。
「あ、そうだ、スイ。魔石みつけて拾っておいてもらえるか?」
ジャイアントイビルプラントはBランクだから魔石持ちが中にはいるんだよな。
ヨーランさんが魔石があれば冒険者ギルドで買取りたいって言ってたからな。
『魔石って、あのツルツルした石?』
「そうそう、魔物を倒すと出てくるツルツルした石だよ」
イビルプラントは死ぬと枯れるから、魔石があればその場に落ちてるはずだからな。
『分かったー』
「お願いねー」
スイに魔石集めを頼んで俺は休ませてもらう。
さすがに今日はマジで疲れた。
「戦闘はほとんどみんな任せだったからなぁ」
魔物を相手に戦うときは一瞬たりとも気が抜けない。
しかも今日は数が多かったし、近くに守護神的なフェルもいなかったからね。
やっぱりその辺は精神的にも違うよ。
ヴァハグン様が『いざという時に腕が鈍ってたら命にかかわるからな』って言ってたけど、確かにねぇ。
俺もこれからは参加できるときは少しでも戦闘に加わるかな。
あくまでも参加できるときは、だけどね。
みんなの邪魔になるようなら脇で大人しくしてるよ。
『あるじー、拾って来たよー』
「おお、ありがとうな」
スイから受け取った魔石は16個だった。
全部が全部魔石持ちじゃないのに16個もあるってことは、けっこうな数のジャイアントイビルプラントがいたってことだよな。
まったく本当に雑草のように大量に湧いてたってことだな。
そうこうしているうちにフェルとドラちゃんも戻ってきた。
「どうだった?」
『うむ、大量にいたぞ』
『ああ。強さは全然だけど、とにかく数がな。しかも、イビルプラントは動くものに集まってくるからな。次から次へとうっとおしいくらいに集まってきやがったぜ。もちろん全部蹴散らしてやったけどな!』
フェルとドラちゃんの方にも大量にいたようだ。
『我とドラとですべて始末してきたから大丈夫だ』
「すべてって残らずってこと?」
『うむ』
さすがだね。
ヨーランさんからは、数が数だからすべてを討伐するのは無理だろうって言われていたんだけど。
普段の西の森でもイビルプラントは生息しているから、とにかく大幅に数を減らしてくれればいいってことだったんだよね。
「俺とスイでこの辺にいたのは討伐したんだけど、残ってそうか?」
『少し待て……いや、いないようだな。うむ、この森にイビルプラントはもういないぞ』
「そうか、良かった。ってことは、依頼完了ってことだな」
無事終わって一安心だ。
『えー、もう終わりなの? スイもっとビュッビュッてして倒したかったのにー』
あぁ、スイちゃんはまだまだ元気いっぱいだったね。
「あー、スイ、もう1つ後で魔物退治の依頼があるから、その時ビュッビュッてして倒してね」
『分かったー、スイがんばるよー』
キュクロープスよ、悪いがスイの酸弾をめいいっぱい受け止めてくれ。
「あ、フェル、ドラちゃん、魔石は拾ってきてくれたか?」
『ああ』
『もちろんだぜ』
フェルの首からマジックバッグを外して中を確認すると、魔石が50個近くあった。
……フェルもドラちゃんもどんだけの数倒して来たんだよ。
「さて、依頼も完了したし、森から出たら飯にするか」
『うむ、腹が減ったぞ』
『飯だ飯~』
『お腹減ったー』
魔石とマジックバッグをアイテムボックスにしまい、みんなと一緒に森の外に出た。