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閑話 3人の勇者~王国からの逃走①~

久しぶりの勇者サイドです。

 ここ最近の莉緒の様子がおかしい。

 俺たちの話をまともに聞かないんだ。

 こんなこと言ったらあれだけど、俺と花音と莉緒の中じゃ一番まっとうな意見を出すのは莉緒だったんだ。

 それなのにここ最近は、レナードに言われるまま。

 莉緒はレナードに惚れてるんだから、好きな人の意見に同調するってのはあるんだろうけど、それにしてはなんかおかしいんだよね。

 何ていうか惚れてる相手に接しているっていうより、なんかこう……そう、主従関係みたいな感じがしてならないんだよ。

 それを花音にも話してみたんだけど、花音も莉緒がいつもとは違うとは感じているものの「恋する乙女なんてそんなもんだって」とか言って意に介さなかった。

 だけど、この間のことでさすがに花音もおかしいと思い始めたみたいだ。

 この間のことっていうのは、いつものようにレベル上げのために魔物狩りに行ったときのことだった。

 冒険者ギルドで受けた依頼は、王都から近い村に出没するオークの集団の討伐だ。 

 俺たちのやり方は、レナードが作戦を立てて俺たちに伝えて魔物を狩っていくって感じなんだけど、その時は伝えられた作戦通りとはいかなかったんだ。

 花音が出るタイミングが少し遅れてしまった。

 結果的には、オークの集団は討伐できたんだけど、花音のタイミングが遅れたせいで少しだけ手間取ってしまったというのはあった。

 花音は騎士たちから注意を受けた。

 花音も自分がミスしたことは分かっていたから、素直に聞いていた。

 花音自身「今日はミスしちゃったよ。次はちゃんとしなきゃ」ってすごい反省してたんだ。

 それなのに……。

 俺と花音と莉緒の3人になった途端、莉緒が花音を責めだした。

「何でレナードの言う通りにしないのッ?! 花音って馬鹿なの?!」

 その言葉から始まって、他にも「マヌケ」やらの言葉が莉緒の口から飛び出した。

 烈火のごとく怒り、莉緒は花音を口汚くののしった。

 俺と花音はあまりのことに面食らった。

 莉緒はこんなことを言うヤツじゃない。

 少なくとも友達に向かってこんな言葉でののしったりしない。

 そのことがあって、花音もようやく莉緒がおかしいと感じ始めた。

 俺と花音は莉緒が何でおかしくなったのか話したけど、これといった原因は思い当たらなかった。

「やっぱりストレスが一番の原因な気がする」

「確かにな。現代日本からいきなり異世界に来たんだもんな」

「だけど、それを言うならあたしと櫂斗だって同じなんだよね……」

「ああ。莉緒だけ、ああなるっていうのがな……」

 納得できそうな一番の原因はストレスじゃないかって話は出るものの、俺と花音は何ともないのを考えると一番の原因だとは思えなくて……。

 結局なぜ莉緒がああなってしまったのか答えが出ないまま不安な日々を過ごしていた。

 そんな時だった。

 俺は騎士たちが話しているのを聞いてしまった。



「莉緒はいい感じに仕上がってるな」

「ええ。私の言うことには忠実ですね」

「もうそろそろ櫂斗か花音にも隷属の腕輪を嵌めてもいいころじゃないかしら」

「それなら俺が先に花音に嵌めるぜ。さっさと面倒な仕事は終えたいからな。これさえ嵌めちまえば、あとはこっちのもんだ。何せこの隷属の腕輪は主である俺たちしか外せないんだからな」

「それでは次は花音に。そして最後は……」

「櫂斗ね。隷属の腕輪を櫂斗に嵌めれば私も昇格よ。やってやるわ」



 息をひそめてレナードとアーロン、ルイーゼの話を聞いていた。

 3人が去った後にようやくホッと息を吐いた。

 隷属の腕輪だって?

 その名前から言っても、それを嵌めた相手を奴隷みたいに従わせることができるってことだろ?

 そんなものを莉緒に嵌めたのか?

 俺はようやくこの国の意図に気付いた。

 この国は俺たちを奴隷みたいにして使い潰すつもりなんだ。

 俺はすぐさま花音にその話をした。

 最初は信じてなかったけど、莉緒のブレスレットを鑑定してようやく花音も信じてくれた。

 莉緒のブレスレットを鑑定してみると【隷属の腕輪】と出た。

 花音の鑑定でも、俺の鑑定でもだ。

 まだレベルが低いからか、名前しか出てこなかったけど、隷属の腕輪なんてものがいい物のはずがない。

「とにかくこの国をすぐ出た方がいいと思う」

「あたしもそう思うけど、莉緒はどうするの? 櫂斗の話だと主にしか外せないんでしょ。主っていうと、きっとレナードよ。レナードがあのブレスレットを外すなんてことないでしょうし……」

「確かに……。何か方法がないか、とにかく考えてみよう。だけど、時間はないかもしれない」

「アーロンがあたしにあのブレスレットを嵌める気でいるってことね」

「ああ。もし、そういう風になったらとにかくはぐらかすんだ。でも、1回しか効かないと思う。あいつ等のことだから二度三度となると、俺と花音が隷属の腕輪のこと気付いてるってバレると思う。そうなったら力づくであの腕輪を付けにかかってくると思う」

「ええ、そうでしょうね。とにかくブレスレットのことが出たらはぐらかすわ……」

 そんな話合いの後の数日後には、アーロンからそれらしいアプローチが花音にあった。

 花音は何とか上手くはぐらかしたそうだけど、次回はもう無理っぽいとのことだった。

「花音、厳しいこと言うようだけど、莉緒を残して俺たちだけ逃げることも頭に入れておいてくれ」

 莉緒については結局答えが出なかった。

 莉緒には悪いと思いつつも、隷属の腕輪を嵌められていない俺と花音だけで逃げる方法しか思い浮かばなかった。

 花音も莉緒のことについては何も方法が浮かばなかったのか、神妙な顔をして「分かった」とだけ答えた。

 時間も少ない中、この国を出たとしてどこへ向かうべきか花音とともに話し合った。

 こっそり書物庫に行って地図を見たり、できるだけ情報を集めて考えた結果、隣国のマルベール王国へ行くのが一番ではないかという話になった。

 本当ならエルマン王国かレオンハルト王国に行きたいところだが、何せ遠い。

 俺たちは勇者だと言われているが、それが万能だと思うほど馬鹿ではない。

 俺たちより強い人や魔物がいることは分かっている。

 エルマン王国かレオンハルト王国に向かうとして、その途中に強力な魔物に出会えばOUTだ。

 それにレイセヘル王国からエルマン王国かレオンハルト王国に向かうとしても、その途中にある国は、比較的レイセヘル王国寄りなのだ。

 途中の国で拘束されてレイセヘル王国に戻されてしまうことや、追手に追い付かれることを考えると、とにかくレイセヘル王国の手の届かない国に入るのが一番だということになった。

 そうなると、隣国のマルベール王国が一番手っ取り早い。

 今、ここレイセヘル王国はマルベール王国と戦争一歩手前まできている。

 開戦は時間の問題だ。

 そういう状態のマルベール王国がレイセヘル王国に協力するはずがないからな。

 もし俺たちが勇者だとバレてもレイセヘル王国に戻すような真似はしないだろう。

 とにかく逃げる機会をうかがって、マルベール王国へ逃げることで花音とは話がまとまっていた。

 いつ逃げることになっても大丈夫なように、食料や着替えの準備はしておくことになっている。

 俺たちの心残りは莉緒のことだけだった。






王国からの逃走、明日も続きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一連の話の流れで、初めて本格的に雲行きの怪しい話になってきましたね
[良い点] 登場回が少ないけど、3人の事は気になってたんだよね いずれは酷い目にあって、 主人公に助けられるんだろうなと思ってたけど、 助けられる前に自分達で気づけたのは良かったね 悪い連中ではないみ…
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