閑話 ダリルとイーリス、その後
こっちのその後を先に書いてみました。
「「ただいま~」」
家に帰ると、お母さんは眠っていた。
具合が悪くなって最初の頃は起きていた時もあったのに、最近はずっと眠ったままだ。
「お兄ちゃん、早くお薬」
「うんっ」
僕は寝ているお母さんに声をかけた。
「お母さん、薬だよ。お口開いて飲んで」
お母さんに僕の声が届いて、お母さんは少しだけど口を開けてくれた。
僕はおじさんからもらった薬を少しずつお母さんに飲ませていった。
瓶に入っていた薬を全部お母さんに飲ませると、お母さんの体が白く光りだした。
「お兄ちゃんっ」
イーリスがびっくりして僕に抱き着いてきた。
「大丈夫、きっと大丈夫」
何故かわからないけど、おじさんがくれた薬なら信用できた。
おじさんがくれた薬なら絶対にお母さんに効く。
イーリスを抱きしめながら、お母さんの光が収まるのを待った。
「……ん……ダリル、イーリス?」
「「お母さんッ!」」
お母さんが目を覚ました。
「ダリル、イーリス、ずっと臥せっていてごめんね」
「グスッ……おが、おがあざんっ、うわぁぁぁん」
目を覚ましたお母さんを見て安心したのかイーリスがお母さんにしがみついて泣き出してしまった。
そして泣き疲れたら寝てしまった。
今日は街から離れた森まで歩いて行ったり、オークに追いかけられたりしたから、疲れてたんだと思う。
「あらあら、イーリスは寝ちゃったのね」
「お母さん、具合はどお?」
「ええ、もう大分いいわ。ずっと休んでいたのが良かったのかしらね、少し怠いけど、それ以外は何ともないわ。明日にはまた働きに出れそうよ」
「病み上がりなんだから、明日はゆっくりしてなきゃダメだよ。あ、そうだ、ご飯食べられる?」
「ええ、何だかお腹が空いてるわ」
僕はおじさんにもらった食べ物をお椀によそってお母さんに渡した。
「あら、いい匂いね。これはどうしたの?」
「今日お手伝いした人がくれたんだよ。冷めないうちに食べて」
お母さんはゆっくりとだけど、お椀が空になるまで食べ切った。
これだけ食欲があるお母さんは久しぶりだ。
これだけ食べられるなら大丈夫そう。
心の底からホッとした。
「僕とイーリスは後で食べるよ。お母さんは病み上がりなんだから寝てて」
お母さんを寝かせてから、僕は寝ているイーリスを背負ってベッドに運んだ。
「お母さんの病気、治ったんだ……本当に良かった…………グス」
安心したら涙が出てきた。
病気になってから食欲がなかったお母さんが、さっきは残さずきれいに食べた。
あれだけ食べられるなら、もう大丈夫だ。
あのおじさんのおかげだ。
おじさんがあの薬をくれたから、お母さんの病気が治ったんだ。
僕だって馬鹿じゃない。
おじさんがくれたあの薬がものすごいものだっていうのは分かっている。
あんなに具合の悪かったお母さんを治すくらいなんだから。
王都の偉い神官さんにしか治せないって言われてたくらいなのに……。
オークに追いかけられてた僕とイーリスを助けてくれた。
それなのに、僕は……。
僕も必死だったから、おじさんには失礼なことも言った。
それなのに、僕とイーリスに食事までごちそうしてくれて。
おっきな狼とちっちゃいドラゴンとスライムを引き連れた変わったおじさんだけど、とっても優しかった。
だから僕は薬のことは誰にも言わないよ。
イーリスにも黙ってるように言う。
お母さんは意識がもうろうとしてたからなのか、薬を飲んだことは覚えていないようだし。
おじさんから薬をもらったことは黙ってる。
だって、あの薬はすごいもので、とっても価値のあるものなんだと思う。
おじさんは優しいから、困ってた僕たちにそれをタダ同然でくれた。
でも、おじさんが価値のあるお薬を持っているってみんなに知れたらどうなる?
おじさんを襲って力ずくで薬を奪うような奴が出てくるかもしれない。
そういう悪い奴が世の中にはいるんだって僕は知ってる。
友達のステファンのお父さんがダンジョンで宝物を見つけて冒険者ギルドでお金に換えて家に帰る途中、そういう悪い奴に襲われて死んじゃったんだ。
他にも似たような話を聞いたことがある。
だから僕はおじさんのことは誰にも言わない。
おじさんに悪い奴を向かわせたくないもん。
おじさんにも言ったとおり、おじさんへの恩返しは僕が自分自身で絶対にするんだ。
いつか絶対に自分の店を持って、それで、お母さんとイーリスを絶対に絶対に幸せにする。
そして、おじさんへの恩返しもするんだ。
おじさん、本当に本当にありがとう。
この後も閑話続きます。
誰の話しかは明日のお楽しみ。