第百七十四話 BBQ
昨日と一昨日は飯の作り置きを作るのに費やした。
ダンジョンも踏破したし、もうそろそろ次の街へ行こうと思ってるからな。
その旅路の準備としての作り置きだ。
フェルたちはもう1回ダンジョンに潜りたいとか言っていたけど、当然そんなのは却下だ。
もう1回潜るなんてなったらまた時間かかるからな。
作り置きはいろいろ作ったぞ。
定番になりつつある揚げ物類はから揚げにとんかつにメンチカツ。
もちろんチーズINしたのも作った。
それからワイバーンとブラッディホーンブルの肉の牛丼だろ。
あとはビーフシチューにハンバーグ。
もちろんチーズINも作ったぞ。
それから餃子も作ったな。
ミスリル製のミンサーがあるから挽き肉作るのも楽で料理もはかどったぜ。
それに前に作って美味かった、豚汁と煮豚に半熟の味卵も作った。
今まで作ったことなかった新しい料理もいくつか作ってみたぞ。
炒めて煮るだけ簡単肉豆腐とかね。
オーク肉を玉ねぎと炒めて火がとおったら、水と顆粒だしとみりんと醤油と砂糖を入れて沸騰してきたら木綿豆腐を入れてさっと煮込むだけ。
豚汁と煮豚に半熟の味卵なんかの味が染みた方が美味しいものはマジックバッグに入れて味も染みこませた。
挽き肉があるってことでピーマンの肉詰めも作ってみた。
と言っても種はいつものハンバーグの種なんだけど。
よく洗って半分にして種を取り除いたピーマンにハンバーグの種を詰めていくだけ。
それに小麦粉を軽くまぶしたら、肉の面を下にしてフライパンで焼いていき、焼き色がついたらオイスターソースと醤油と砂糖を水で溶いたものを回しかけて蒸し焼きにすれば出来上がりだ。
そんな感じで昨日と一昨日の2日間は飯の作り置きをいろいろ作っていたぞ。
その甲斐あって作り置き分は大分確保できたから旅の間も少しは楽できそうだ。
そして今は鍛冶工房のある区画を再び訪れていた。
注文したバーベキューコンロを受け取りに来たのだ。
もちろん約束の日本のメーカーS社の四角い瓶のウイスキー10本もネットスーパーで調達済みだ。
どんな風に出来てるのか楽しみだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「こんちは~」
「おーう。ってオメェか。注文の品は出来てんぞ。こっちだ」
鍛冶工房のドワーフ親父にそう言われてついていくと、デデンっと注文したバーベキューコンロが所狭しと置いてあった。
近付いて行って仕様を確かめる。
「おー、いいじゃないですか。注文通りですよ」
注文通りの大きさだし、炭を入れるところも引き出し式になっている。
その引き出しをしまうところの脇は注文通りに丸い穴が開いていて空気のとおりも良さそうだ。
上の網も取り外し可能になっている。
うんうん、注文通りだ。
すごくイイね。
「あったりまえでぇ。俺を誰だと思ってる。この街でも5本の指に入る鍛冶師なんだぞ」
えっ、そうだったの?!
この前は鍛冶工房の区画に入ったら、近場にあった工房から入ってったからあんまりそういうのこだわってはなかったんだけど。
これだけの街で工房もこれだけあるのに、その中の5本の指ってけっこうすごいんじゃないの。
実はこのドワーフ親爺スゴイ鍛冶師だったんだね。
確かここの親爺はアレシュさんって言って、工房はアレシュ鍛冶工房って言うんだよな。
偶然とはいえ頼めてよかったよ。
バーベキューコンロも希望通りバッチリ作ってくれたし。
「そんでオメェ、この大きさのものどうやって持って帰るんだ? 運ぶのに誰か人頼んだのか?」
「ああ、それなら私はアイテムボックス持ちなんで大丈夫です」
「そうなんか。んで、オメェ、あれは持ってきたか?」
あれっていうのは、あれだね。
「もちろん。これのことですよね」
俺はアイテムボックスからS社の四角い瓶のウイスキーを取り出した。
「そうだそうだ。どれほどこの酒を待ちわびたことかッ」
ドワーフ親爺ことアレシュさんが俺の取り出したウイスキーに飛びついた。
この人瓶に頬ずりしてるよ……。
ホントに酒好きなんだね。
「えーと、10本のお約束でしたね」
俺は次々と取り出してアレシュさんの前に出していく。
「ヒャッホウ、美味い酒が手に入ったぜ!」
なんかものすごい喜びようだ。
「それで、お代の方はおいくらになりました?」
「ああ、初めて作るものだったからな、この前は多めに見積もって金貨350枚と言ったが、材料込みで金貨300枚で大丈夫だ」
おお、聞いてたのより安くなってる。
この街でも5本の指に入る鍛冶師って言うから、この前聞いてたのより高いかもって思ったけど、金貨300枚で良かったわ。
アイテムボックスから金貨300枚入った麻袋を1つ取り出した。
「それじゃ、これですね」
「おう」
俺が出した麻袋の中身を確認もせずに、別室に持って行ってしまった。
「えーっと中身確認しなくて大丈夫ですか?」
「何だオメェ、チョロまかしてんのか?」
「いえいえ、まさかそんなことしませんよ」
あれは金貨300枚入った麻袋で、まったくいじってない分だからね。
間違いなく金貨300枚入ってるよ。
「足りなかったらオメェんところに取り立てに行くから大丈夫だぞ。 オメェ、最近有名なダンジョン踏破したっつう従魔連れの冒険者だろ?」
え、俺のことそんなに知れ渡ってんのか?
「冒険者ギルドがなぜかその話を大っぴらにしてないから、俺も最近になって知ったんだけどな」
人の口に戸は立てられぬって言うからねぇ。
「ええ、まぁ一応そうですけど。あんまり私自身は大っぴらにはしたくないので、できれば内密に……」
「まぁ、そうだわなぁ。ダンジョン踏破したともなれば、いろんな輩が近寄ってくるだろうしな。ってこんなこと言っておいて、聞くのもあれなんだけどよ、剣になりそうな素材って獲れたのか?」
何でもアレシュさんは武器の中でも特に剣を作るのが得意でどうしても気になったとのこと。
「まぁ、獲れなかったこともないですけど……」
「どんな素材なんだ?」
「まぁ、最深部に近い階で入手したものですとだけ」
「最深部に近い階か。剣の素材となるとそうなるんだろうな。さすがに俺じゃ購入は無理か」
残念そうにアレシュさんがそう言った。
個人で買うのはちょっとねぇ、おそらく金貨何千枚って単位になるよ。
でも……。
「あの、アレシュさんはこの街でも5本の指に入る鍛冶師なんですよね?」
「ああ、自分で言うのもなんだが一応そう言われとるぞ」
「それならば、アレシュさんに依頼するかどうかは別にして、冒険者ギルドからそのうち話が行くと思いますよ」
「む、何か冒険者ギルドで剣になりそうな素材買ってるのか?」
俺はそうだとも違うとも答えなかった。
でも、ウゴールさんの言いぶりだと、この街の鍛冶師であの素材を剣にできる人も限られてるみたいだし、そういう人たちと相談してからどこに依頼するか決めるって言ってたからね。
アレシュさんがこの街でも5本の指に入る鍛冶師なら冒険者ギルドから話が来るだろう。
俺が答えずにいると「そうかそうか」とアレシュさんは何か察したようだった。
「あ、そうだ、オメェそれ早速試すのか?」
「ええ、そのつもりですけど」
今日は早速試しにバーベキューにするつもりだった。
「そんなら、ここで試していくといいぞ。ここなら炭もあるしな。仕事には自信があるが、何せ初めてつくったもんだからな。不具合に思った点があれば、ここならすぐに直してやれるしな。その代わり、俺にも少し使わせてくれ」
おお、それはありがたいね。
お言葉に甘えてここでバーベキューコンロを試させてもらうことにした。
鍛冶場を通り抜けると、建物の外に出た。
何でもここで剣やら槍やらの切れ味なんかを調べるらしい。
ここを借りてアレシュさんとともにバーベキューをすることになった。
もちろん外で待っていたフェルとドラちゃんもいる。
肉はオークの肉とブラッディホーンブルの肉を用意した。
野菜を用意しようとしたらフェルとドラちゃんは『野菜なんかいらん』とのこと。
仕方がないので肉だけバーベキュー開催となった。
炭は鍛冶場にあったものを使わせてもらう。
オークの肉とブラッディホーンブルの肉を網に載せると、ジューッと焼ける音がした。
「俺も使わせてもらっていいか?」
「はい、どうぞ」
さっき少し使わせてくれって言ってたけど、何を焼くんだろ?
「この腸詰はな自家製なんだ。俺が作ったんだが、塩味を利かせて作ったからなかなか美味いぞ。これがまた酒によく合うんだ。オメェも食っていいぞ」
おお、ソーセージか。
酒に合うんだって、ここで試してけってのは最初っから酒飲むつもりでそう言ったんだな。
まあいいけどさ。
それより自家製って言ってたけど、どうやって作ったんだ?
腸の調達から自分でしたのかな?
聞いてみると、肉屋に言えば普通に売ってくれるらしい。
アレシュさんが使っているのはホワイトシープっていう羊の腸だそう。
ソーセージに使われているのはこれが一般的みたいだ。
そうか、腸が買えるなら塩胡椒、ハーブを利かせた自家製のフレッシュソーセージを作ってもいいかも。
いいこと聞いたな。
お、そろそろ肉が焼けてきたな。
「アレシュさんもこの肉どうぞ。これは私の故郷に伝わる肉に合うタレです。肉が焼けたらこれを付けて食べてください」
俺はアイテムボックスにあったロングセラーの馴染みのある焼き肉のタレを器に入れてフォークと一緒にアレシュさんに渡した。
「ご馳走してもらってわりぃな。あ、こっちの腸詰も焼けてきたぞ、ほれ」
ソーセージを4本いただいた。
皿に焼けたオークの肉とブラッディホーンブルの肉を入れ焼き肉のタレを掛けたら、いただいたソーセージも添えてフェルとドラちゃんとスイに出した。
俺も早速アレシュさんの自家製ソーセージをいただいてた。
かじり付くとプツッと小気味良い音がした。
塩味だけだけど、薄い皮の中から肉汁があふれ出してきてけっこう美味い。
「カーッ、この腸詰とオメェからもらった酒は合うなぁ」
アレシュさんは早速ウイスキーをあおっていた。
んー、ウイスキーとソーセージって合うのか?
ソーセージって言ったらあれの方が合うでしょう。
「ちょっと待っててくださいね」
俺はアレシュさんから見えない場所に移動してネットスーパーを開いた。
缶ビールだとあれだから瓶の方が怪しまれないか。
俺はS社のプレミアムな瓶ビールをとりあえず5本と栓抜きを購入した。
「肉にはこっちの方が合いますよ。どうぞ」
俺はコップにプレミアムなビールを注いでアレシュさんに渡した。
「む、エールか? 嫌いじゃないが、オメェからもらったこっちの酒の方が圧倒的に美味いんだがなぁ」
「エールとはまた違います。これも俺が持ってる特別な酒の一つなんですよ」
「なぬ? それじゃいただくぞ」
ゴクゴクゴクゴク、プッハーッ。
いい飲みっぷりだ。
「ウッメーッ! 何だこりゃッ?! エールに似ているようでまったく違うな。オメェの酒は何でこんなに美味いんだ?!」
やっぱバーベキューにはビールでしょ。
俺も飲むぞ。
ゴクゴクゴク、プハーッ。
あーうめぇ。
この日は結局食って飲んでのバーベキュー大会の日になった。
フェルもドラちゃんもスイも炭火で焼いた肉は美味かったのか黙々と食ってたぞ。