第百六十四話 見えない火花
「お待たせいたしました」
そう言ってアドリアーノさんとルスランさんが部屋に入ってきた。
「それでは買取させていただきたいものですが……」
アドリアーノさんが買取したい旨伝えてきたのは、ルビー(小粒)、エメラルド(小粒)、アクアマリン(小粒)、ガーネット(小粒)、アメシスト(小粒)×2、ペリドット(小粒)、金のインゴット、インペリアルトパーズ(中粒)、ダイヤモンド(大粒)、ダイヤモンド(中粒)×2、ダイヤモンド(小粒)×2、ダイヤモンドの指輪だ。
ダイヤモンドが多いことから、この世界でもダイヤモンドが人気なのがうかがいしれた。
それでもさすがにイエローダイヤモンドには手が出なかったようだね。
「これらを買取させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
大丈夫だと伝えると、アドリアーノさんは値段の説明に入った。
「ルビー(小粒)が金貨180枚、エメラルド(小粒)が金貨170枚、アクアマリン(小粒)が金貨140枚、ガーネット(小粒)が金貨120枚、アメシスト(小粒)×2は1つ金貨80枚で2つで金貨160枚、ペリドット(小粒)が金貨110枚、金のインゴットが金貨300枚、インペリアルトパーズ(中粒)が金貨1600枚、ダイヤモンド(大粒)が金貨1500枚、ダイヤモンド(中粒)×2は1つ金貨750枚で2つで金貨1500枚、ダイヤモンド(小粒)×2は1つ金貨500枚で2つで金貨1000枚、ダイヤモンドの指輪が金貨680枚で以上で合計金貨7460枚で取引させていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
…………ほ、宝石ってすごいな。
こっちの世界でもやっぱり高値が付くんだな。
金貨7460枚だとさ。
すげぇ……。
「ええ、いいで「ちょっと待ってください」」
俺がいいですよと言おうとしたところ、ウゴールさんが割って入ってきた。
「先ほどの買取価格ですが、インペリアルトパーズとダイヤモンドがどう考えても低すぎますな。私も冒険者ギルドで副ギルドマスターとしてやってますからな、見識を広げるためいろんなものを見聞きするようにしております。その中でインペリアルトパーズのことも聞いたことがありましてな。インペリアルトパーズは別名“幻の宝石”と呼ばれ宝石好きの間では非常に珍重されているようではないですか。それに宝石は粒が大きなものほど高価になるのは誰でも承知のことですぞ。この大きさの“幻の宝石”が金貨1600枚とはいささかおかしくはないですかな? それにダイヤモンドの価格もおかしいですぞ。ダイヤモンドは非常に人気のある宝石でどこも品薄ですからな、それも加味していただかないと。しかも、ダンジョン産の質の良いダイヤモンドであるにもかかわらず、全体的に低すぎます。特にダイヤモンドの大粒の価格が低すぎる。私は以前にこれと同じくらいの大きさのダンジョン産でないダイヤモンドが金貨1500枚ほどで取引されたのを知っております。それを考えると、ダンジョン産の質の高いこの大粒のダイヤモンドが金貨1500枚というのはおかしいですな。これではお話になりませんぞ」
おぉう、そ、そうなのか?
ウゴールさんが一緒で良かったぜ。
こんなこと言ったらあれだけど、エルランドさんだったらこうはならなかったかも。
宝石の価値何てさっぱりわからんから、ウゴールさんがいなかったら俺すんなりOKしちゃってたぜ。
「ムコーダさんとしては、ここですぐ宝石を買取してもらわなくともいいんですよね?」
ウゴールさんがそう振って来たので俺は頷いた。
特に金には困ってないからな。
別にすぐ金にする必要性はない。
「それでしたら、他の街の冒険者ギルドに買取してもらうという方法もありますぞ。ムコーダ様は冒険者ですからな、それが本来ですし、そうした方がよろしいんじゃないですかな」
確かに、それもありかも。
「ちょっとお待ちください。ムコーダ様は冒険者と言いますが、確か、ムコーダ様は商人ギルドにも登録されておりましたな?」
アドリアーノさんがそう言った。
ウゴールさんは俺が商人ギルドにも登録してると聞いてちょっと驚いてる。
でもさ、アドリアーノさん、商人ギルド登録してるからってどうなのよ。
もしかして商人ギルドに登録してるからこのまま買取させろってことか?
それはちょっと虫が良すぎるんじゃないかなぁ。
金には困ってないけど、ウゴールさんの説明聞いたら騙された気分になっちゃうよ。
「確かに商人ギルドに登録はしてますけど、アイアンランクですからねぇ。私は少々料理が得意ですから、屋台なんかできればななんて思って登録したのですが、今では従魔も増えて冒険者メインで活動していますからね。もしかしたら、商人ギルドの方の次回更新はないかもしれません」
少しだけどウゴールさんに援護射撃だ。
実際、最近はフェルたちのおかげで冒険者メインになってきてるからな。
どっちかって言ったら冒険者ギルドの方が世話になってるしさ。
「だそうですぞ。冒険者に対してあまりに無下な扱いをするようでしたら、こちらもこういう場合の取引は考えなければなりませんなぁ」
笑顔を浮かべてウゴールさんがそう言い、同じく笑顔のアドリアーノさんとしばし睨み合いに。
2人の間にバチバチッと見えない火花が散ったようだ。
しかし、今回は少々アドリアーノさんの分が悪かったようだ。
アドリアーノさんが「ちょっとお待ちを」と言って、ルスランさんとコソコソ話し出した。
「ゴホンッ。失礼しました。お話のありました買取価格についてですが、少し訂正させていただきたいと思います。インペリアルトパーズは金貨2100枚、ダイヤモンド(大粒)が金貨2000枚、ダイヤモンド(中粒)×2は1つ金貨1000枚で2つで金貨2000枚、ダイヤモンド(小粒)×2は1つ金貨700枚で2つで金貨1400枚、ダイヤモンドの指輪が金貨800枚に訂正させていただきまして、合計金貨9480枚で取引させていただきたいと思いますが、どうでしょう?」
おう、何か大幅に増えたぜ。
これで大丈夫なのかな?
ウゴールさんをチラッと見ると、大きく頷いた。
おし、大丈夫ぽいな。
「はい、これでお願いいたします」
そう言うと、アドリアーノさんはホッと息を吐いていた。
「それではお支払いの方なのですが、額が額ですので、白金貨と大金貨でお支払いしてもよろしいですかな?」
「はい、大丈夫ですけど」
俺がそう言うとアドリアーノさんが席を立った。
そう言えば白金貨って初めて見るな。
アドリアーノさんが戻ってくると、手にしたトレイには青白く光る貨幣が載っていた。
「それでは白金貨94枚に大金貨8枚、金貨にして9480枚です。ご確認を」
白金貨ってのはミスリル製の貨幣のことみたいだね。
1、2、3……(中略)……94枚と、あとは大金貨が8枚。
「はい、間違いなく。それでは、こちらを……」
俺は買取代金を受け取り、買取ってもらった宝石類を渡した。
「はい、間違いないです」
宝石類はルスランさんが受け取って部屋を出て行った。
素早いな。
「良い商いをさせていただきました。ありがとうございました」
アドリアーノさんがそう言った。
「こちらこそ」
俺がそう言って、ウゴールさんとともに帰ろうとすると、アドリアーノさんに呼び止められた。
「ムコーダ様は商人ギルドにも登録されてるということですし、料理も得意とのことで、少し知恵をお貸し願いたい件があるのですが……」
え、何だろうね……。