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第百六十三話 ドランの街の商人ギルド

 ドランの街の商人ギルドは街のメイン通りに面した随分と立派な建物だった。

 その建物にウゴールさんに連れられて入っていくと、40代後半くらいの恰幅の良いいかにも商人という感じの小奇麗な身なりの男が待ち受けていた。

「お待ちしておりましたぞ。ささ、こちらへどうぞ」

 えっと、これフェルたちも一緒にいいのかな?

 俺が少し躊躇していると「従魔もご一緒にどうぞ」とのことだった。

 さすが商人、細かいところに気が付くね。

 案内されたのは、ギルド受付の奥にある部屋だった。

 この隣にも部屋があって、そっちに商人風の男たちが入っていったのを見ると、個別の商取引を行う場合に使われる部屋のようだな。

 ギリだけど、フェルもなんとか入れたよ。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「お初にお目にかかります。私、こちらのドランの街の商人ギルドのギルドマスターをしておりますアドリアーノと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

 そんな感じはしてたけど、わざわざギルドマスター自ら出迎えてくれたんだね。

「ムコーダと言います。こちらこそよろしくお願いいたします」

 一応俺も商人ギルドに加入しているからね、ここは丁寧にご挨拶を。

「ウゴールさん、何度も催促して申し訳なかった」

「いえいえ、お気持ちは分かりますので」

「それでは、早速ではありますが、見せていただいてもよろしいですかな?」

「ウゴールさんからの話では、宝石類をご希望とのことでしたが、それでよろしいですか?」

「はい、お願いいたします」

 宝石類を見せることになったところで、アドリアーノさんが宝石の鑑定のため職員を呼びたいとのことだったので承知した。

 入って来たのは鋭い目つきをした60代半ばくらいのこの道ウン十年って感じのベテラン鑑定士ぽい爺さんだった。

「それでは、出していきますね」

 俺は、テーブルに広げられた柔らかい布の上にダンジョン産の宝石類を出していく。

「まずは、ルビーです」

 鑑定士の爺さんは俺の出した小粒のルビーをルーペを出して覗き込んだ。

 って、この世界にルーペというかレンズあったんだな。

 そう言えば、時々眼鏡かけてる人見かけたわ。

 まぁ、総じて金持ってそうな人だったからレンズってけっこう高額なものなんだろうけど。

「小粒ですが、素晴らしい赤ですな。さすがはダンジョン産です」

 良かった、鑑定士の爺さんのお眼鏡にもかなったようだ。

「あの、どんどん出してしまってもよろしいですか?」

 1つ1つ出していくよりも、さっさと全部出しちゃった方がいいのかな?

「いや、久しぶりのダンジョン産の宝石ですからな。心して鑑定せねばなりません。じっくり鑑定していくためにも1つ1つ出していただいた方がありがたいですな」

 そうなのか。

 俺は鑑定士の爺さんの希望どおりに1つ1つ宝石類を出していった。

 エメラルド、アクアマリン、ガーネットと次々と宝石を出していく。

「これがインペリアルトパーズです」

 そう言ってインペリアルトパーズを出すと、鑑定士の爺さんがカッと目を見開いた。

「インペリアルトパーズッ! この黄金色を目にしたのは何十年振りのことか。これはいいですぞっ、傷もないですし前に見たものよりも粒が大きい」

 インペリアルトパーズにルーペを近づけながら鑑定士の爺さんが興奮気味にそう言った。

「ルスランが興奮するとは、それほどのものか?」

 アドリアーノさんがそう鑑定士の爺さんに聞いた。

 鑑定士の爺さんはルスランさんっていうのか。

「ええ。これは素晴らしいです。何よりこのインペリアルトパーズは数が少なく、とても希少な宝石です。知る人ぞ知るというような宝石ではありますが、インペリアルトパーズの価値を知る方ならば必ず欲しいとなるでしょうな。それに色味は少々赤みがかった黄色です。黄金色は縁起がいいとされてますから、インペリアルトパーズの名を知らぬ方でも購入したいと希望する方は多くおられると思いますぞ」

「確かに。その透き通った黄金色は魅力的だな」

 アドリアーノさんもそう言ってルスランさんの説明にうんうんと頷いている。

 宝石の価値なんてあんまりわからんけど、インペリアルトパーズはそれなりに価値があるらしいな。

 っとここで止まってたら、なかなか終わらないよ。

 まだまだあるから、次々出していきますぜ。

「あの、次を出して大丈夫ですか?」

「おお、すみませんな。次、どうぞ」

 サファイア、アレキサンドライト、ダイヤモンドと出していく。

 出していくものすべてに唸り声をあげるルスランさん。

「ふーっ、やはりダンジョン産のものは質が格段に違いますな」

「それほどまでに違うのか?」

「ええ。まず傷がほとんどないですし、濁りのない透き通った色をしてますからな。どれもこれも最高品質ですぞ」

 ほー、ダンジョン産の宝石ってそういうもんなのか。

 宝石だから高く売れそうとしか思ってなかったけど、みんな高品質なものばっかりだったんだな。

「次は宝箱から出たダイヤモンドの指輪です」

「ほうほう、これは最初から指輪に加工されたものですな。デザインが少し古い感じがいたしますが、ダイヤモンドは素晴らしい」

 ダンジョン産でもデザインまでは最新とはいかないようだね。

「次がタンザナイトのネックレスです。これも宝箱から出ました」

「これもデザインが少しばかり古いですが、タンザナイトは希少価値のある宝石です。同じ青色のサファイアとも違う少し紫がかった青はタンザナイトならではの色ですな。素晴らしい」

 こっちもデザインが少し難ありか。

 でも宝石自体は希少価値のあるものみたいだね。

 そして最後。

 俺としてはこれが一番価値があると思ってるやつなんだよね。

 29階層の宝箱から出たってのもあるけど、一番大粒だし、宝石に興味がない俺でも綺麗だなと思う。

「そしてこれが最後になります。29階層の宝箱から出たイエローダイヤモンドです」

 俺は、涙型にカットされた大粒のイエローダイヤモンドをルスランさんに差し出した。

「こ、これは……」

 イエローダイヤモンドをルスランさんが(うやうや)しく手に取ると、じっくりと確認していく。

「ル、ルスランッ?!」

 驚いたようにルスランさんを呼んだアドリアーノさんに、俺もルスランさんを見ると、何とルスランさんが泣いていた。

「私は今猛烈に感動しております。老い先短い今、これほどのものを目にすることができたことに……」

 ルスランさんのその言葉に誰かが「ゴクリ」と唾を飲み込む音が聞こえた。

「まず色付きダイヤモンドという希少性。色が付いているダイヤモンドは本当に数が少ないのです。しかもこれは色味の強い黄色で透明度も抜群です。黄金色は縁起がいいとされてますからな、インペリアルトパーズと同様に引く手あまたでしょう。それから、この大きさも見事です。このように大粒のダイヤモンドは滅多にお目にかかれません。しかも色付きですからな、言わずもがなです。それからこのカットも見事としか言いようがありません。熟練の職人がカットしたものと遜色ない。…………結論を言いますと、私も長いこと宝石を見続けてきましたが、これほど素晴らしい宝石は見たことがありません。世界最高峰と言っても過言ではありません。これの品質は私が保証します」

 …………世界最高峰。

 そ、それほどのものだったのか。

 チラッとアドリアーノさんとウゴールさんを見ると、2人ともルスランさんの言葉に目を見開いて驚いていた。

「そ、それでは何を買取させていただくか協議してきますので、こちらで少しお待ちください」

 気を持ち直してそう言ったアドリアーノさんがルスランさんを連れて部屋を出て行った。

 商人ギルドの職員の人が待つ間にお茶を出してくれた。

 このお茶、ウメェな。

 ダージリンティーっぽいけど、ティーバッグみたいな安っぽいのじゃなく、お土産でもらうような何て言うか高級な感じがする。

「さすがにあれだけのものを見せられたら、商人ギルドも最高級のお茶を出しましたな」

 ウゴールさんがそう言ってお茶をゴクリと飲み込んだ。

「え、これ最高級のお茶なんですか?」

「ええ。エルマン王国のドーリンという地でしか採れないドーリン茶と言います」

 おお、そうなのか。

 最高級のドーリン茶を飲みながらしばし待った。







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