第百五十八話 スイ特製エリクサー(劣化版)
今日はちょっと短いです。
俺はスイとともに、みんなから少し離れた場所に来ていた。
「スイ、お願いがあるんだけどいいかな?」
『なぁに?』
「あのな……」
俺はアイテムボックスの中から2つの物を取り出した。
1つは地竜の血だ。
そしてもう1つが地竜の肝。
前にエルランドさんから聞いた話では、ドラゴンの血や肝は一種の万能薬みたいなものだと言っていた。
それを思い出して、もしかしたらって思ったんだ。
地竜の血と肝をスイに取り込んでもらったうえで、スイ特製ポーションを作ったら、何か新しい薬ができるのではと期待している。
もちろんエリクサーなんて高望みはしないけど、何かこう病気にも効くような回復薬ができるんじゃないかってさ。
「これはな地竜の血と肝なんだけどね、いろんな病気とかケガに効くお薬になるみたいなんだ。それでね、これを使ってスイのお薬を作る能力で病気を治しちゃうようなお薬を作ってもらえないかなぁって思ったんだ。どうかな?」
『うーん、できるかどうかわかんないけど、スイやってみる』
「そうかそうか、やってくれるか。ありがとうな、スイ。それじゃ、これと、これでお願いね」
『うんっ』
スイに渡したのは、地竜の血を1瓶とそれから地竜の肝。
肝はギルドに買取してもらった残り半分とはいえ、かなり大きいから、それの4分の1くらいを切り取ったものだ。
地竜の血と肝を取りこんだスイが『うーんと、えーっと』と言いながら体内で何か作業をしているようだ。
俺はスイを見守りながらジッと待つ。
5分くらい待ったところでスイの声が上がった。
『できたよー』
俺はアイテムボックスから余っていた瓶を取り出してスイに差し出した。
「それじゃ、ここに入れてくれるか?」
『うん、分かったー』
スイの触手の先から透明な赤紫色の液体がチョロチョロと瓶の中に落ちていく。
「うん、瓶いっぱいになったからもういいぞ」
『あるじー、あと2つ分くらいあるよー』
ちょうど瓶1本分ができたところでスイに声を掛けると、あと2本分残っているという。
「それじゃ、それも入れてもらおうかな」
俺は瓶2本をスイに渡した。
こうして出来た透明な赤紫色の液体が入った瓶3本。
とにかく鑑定だな。
【 スイ特製エリクサー(劣化版) 】
スイ特製のエリクサー(劣化版)。劣化版なので寿命が延びることはない。万病に効く。
「ブフォッ、ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」
『ん? あるじ大丈夫ー?』
驚きすぎてむせた俺にスイが心配そうに近寄ってきた。
「ゴホッ……だ、大丈夫だよ、大丈夫」
スイをなでながら自分に言い聞かせるようにそう言った。
…………エリクサー、出来ちゃったよ。
スイ、マジですごいな。
劣化版ではあるけど、エリクサーを作っちまったよ。
万病に効くとか説明に出てるし。
“劣化版なので寿命が延びることはない”ってあるけど、劣化版じゃないエリクサーは寿命まで延ばすのか?
な、なんともすごい薬だな、エリクサーっていうものは。
まさかエリクサーが出来ちゃうとは思ってなかったぜ。
ま、まぁ、病気を治す薬には違いない。
と、とりあえずは成功だよな。
よし、これでダリルとイーリスの母親も大丈夫だろう。
そうだ、病み上がりってことで、あれも作って渡してやろう。
あれっていうのは、お腹に優しい卵がゆだ。
卵がゆはネットスーパーの食材だけで作るようになるけど、それも病み上がりのダリルとイーリスのお母さんにとっては元気になる要素になっていいのではと思う。
「スイ、ちょっと待っててくれるか? ダリルとイーリスのお母さんに食べてもらうの作るからさ」
『うん、いいよー』
調味料類はあるし、米は炊いたのが少し残ってたな……よし、これならお母さんの分とダリルとイーリスの分くらいは大丈夫だ。
あとはネットスーパーを開いて卵を買ってと。
鍋に多めの水と米を入れて火にかけて、グツグツ煮立ってきたら顆粒だしとだし醤油を入れる。
そこに溶き卵を入れて数回かき混ぜたら火を止める。
味見をして薄いようだったらここでだし醤油か塩で味を調えて出来上がりだ。
俺は水多めでおかゆというより雑炊っぽい方が好みだからそんな感じで仕上げてみたぞ。
よし、これでいいな。
鍋も前に使ってたやつだから、このままダリルに渡しても大丈夫だ。
ダリルはアイテムボックス持ちだって言ってたからな。
時間経過ありで冷めちゃったら少し温めなおして食ってもらおう。
魔道コンロをしまったら、みんなの下へ戻ろうか。