第百十七話 壮年エルフのギルドマスター
ダンジョン都市ドランが見えてきた。
「聞いてたとおりデッカイ街だなぁ」
『うむ。それにしても、入るのに時間がかかりそうだのう』
フェルの視線の先を見ると、門からズラッと人の列ができていた。
「あ~大勢並んでるね。やっぱりこんだけデカい街になると人の出入りも多いか」
しょうがないね。
列に並んで順番を待つしかないよ。
『壁を飛び越えて入った方が早いのではないか?』
「いやいやいや、そんなことしたら捕まるから。別に急ぎじゃないんだし、気長に並んで待とうよ」
『ぬぅ、面倒だが仕方がないか』
「そういうこと。列の最後尾に並ぶぞ」
走るフェルが列に近づくに連れて「魔物だッ」と言う声と、冒険者らしき人たちが武器を構えるのが見えた。
隣にはドラちゃんも飛びながら着いてきているのもインパクトが大きかったんだろう。
俺はすかさず「みんな私の従魔ですから大丈夫です!」とみんなに聞こえるように大声で言った。
俺の周りで大人しくしているフェルやドラちゃんを見て従魔だと納得して武器は納めてくれたけど……まだざわざわしてるな。
やっぱデカい狼とちっさいとはいえドラゴンがいるからなぁ。
どうしよ……。
と言っても、どうしようもないんだけどさ。
ちょっと居心地の悪さを感じつつ並んでいると、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「ムコーダさ~んっ」
大声で俺を呼びながらこちらに向かって走ってくる人がいる。
え、誰?
声からして男みたいだけど、ドランの街に知り合いなんていないんだけど……。
「ムコーダさ~んっ、あなたが来るのをずーっと待ちわびてたんですよ~」
だから、誰っ?!
ってか「ムコーダって誰だ?」って顔してみんな見てるからね、大声で叫ばないでくれないかな。
素知らぬ顔して立ってるけど、俺、内心焦ってるからね。
「ムコーダさ~んっ」
だぁかぁらー人の名前を連呼すんなーっ!
「ハァハァ、ムコーダさんですねっ! 従魔連れのお姿を拝見してピンときましたよっ。私はあなたが来るのをずーっと待ちわびてたんですよっ」
走ってきて俺の目の前で止まると、息を整えながら興奮気味にそうのたまった男。
……誰、これ?
金色の長い髪のおそろしく顔の整った壮年の男だ。
よく見ると、耳がとんがっている。
これはエルフなのか?
俺、エルフの知り合いなんていないんですが……。
「ロドルフォから話を聞いて興奮して夜も眠れませんでしたよッ。それで、これがピクシードラゴンなんですねッ?!」
俺の隣にいるドラちゃんを見て、壮年エルフが更に興奮したようにそう言った。
そしてドラちゃんの周りを移動しながら舐めるように隅々まで見ている。
な、なんかドラちゃんを見る目付きが怖いんだけど。
この壮年エルフ、エルフだから非常に美男なんだけどさ、ちょっと変態臭が……。
「ムコーダさんッ」
壮年エルフがいきなり俺の肩を両手でガシッと掴んだ。
うおっ、いきなり何なんだ?
「私は今、猛烈に感動していますッ!」
あ、ああ、そうなの?
って何に感動してるわけ?
というか、肩から手離してくれないかな?
何事かとジッと見てくる周りの人たちの目が痛いです。
「ドラゴン種の、それも特に珍しいと言われるピクシードラゴンを直に見ることができるなんて……あぁ、長生きして良かった。本当に良かった…………ウグッ……ウウッ」
壮年エルフが涙ぐむ。
エ、エェー、何で泣くのー?
ちょっと、ホント泣かないでくれない。
周りの目が余計痛くなるから。
「グスッ……取り乱してしまってすみません。感動してしまって」
ま、まぁ、泣き止んでくれればいいんだけどさ。
ってかさ、あなたは一体誰なんでしょうね?
「あ、あのー、あなた、誰なんですか?」
おそるおそる聞いてみると、壮年エルフがしまったって顔をする。
「すみませんっ。興奮し過ぎて自己紹介を忘れていました。私はこのダンジョン都市ドランの冒険者ギルドのギルドマスターであるエルランドと申します。以後お見知りおきを」
…………は?
壮年エルフことエルランドさん、まさかのギルドマスターでした。
ドラゴンに感動して泣くギルドマスターってどうよ?
……あっ、この人、ロドルフォさんが言ってた人か。
ロドルフォさんの昔の仲間で、ドラゴンのことになると見境なくなるって言ってたな。
なんか、ロドルフォさんの言ってたとおりだね。
「ささっ、みなさんこちらへ。早くギルドに参りましょう」
「え? でも、並ばないと……」
「いやいや、そんなのはいいんですよ。ムコーダさんたちを長時間お待たせするなんてとんでもありません。そんなことはギルドマスター権限で何とでもなりますんで大丈夫です」
そう言ってエルランドさんが俺の背中を押してくる。
「いや、でもですね」
周りの冒険者のジト目がすごいのですが。
「いいからいいから、いろいろとお聞きしたいことが山ほどありますんで、早急にギルドに行きましょう」
エルランドさんの見た目からは想像できない力強さでグイグイ押される。
そのままされるがままにダンジョン都市ドランの門を潜る。
エルランドさんが門番たちに「この方たちのことは私が責任をもって保証します」と力強く宣言すると、何も言われることなくそのまま素通りだった。
というか、エルランドさん、俺たちさっき会ったばっかりなのに「責任をもって保証します」とか言っちゃって大丈夫なの?
いや、別に問題を起こすわけじゃないけどさ。
さっき「いろいろとお聞きしたいことが山ほどあります」とか言ってたけど、それってドラゴンのことなんでしょ?
どんだけドラゴンのこと聞きたいんですかね。
でも、聞かれても俺はドラゴンのことなんて何も知らないからね。
ドランの冒険者ギルドは門を入って目と鼻の先の場所にあった。
あれよあれよという間に冒険者ギルドに入ると、2階のギルドマスターの部屋に案内され押し込められた。
「ささ、どうぞどうぞお座りください」
さすがダンジョン都市ドランのギルドマスターの部屋だ。
今までの冒険者ギルドのギルドマスターの部屋よりも高級そうな猫足の二人掛けの椅子をすすめられた。
ここまで来ちゃうと逃げるわけにもいかないしねぇ。
仕方がないから椅子に座った。
向かいに座るエルランドさんは、いろいろと聞く気満々の様子で紙とペンも用意している。
「それでは、いろいろとお聞きしたいと思いますが、よろしいですか?」
嫌だって言っても帰してはくれないんでしょ。
はぁ、せっかくこれだけデカい街に来たんだからいろいろ見て回りたかったのに。
街の中をゆっくり見て回れるのはまだ先のようだね。