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もしも明日があるのなら
作:松の慎


「だいたいお前はいつもそうやってっ・・・・!!」
「あなた!そのへんにしてあげてっ!」
「もとはと言えばお前の育て方が悪いからだろ!」

家では、親の口論が絶えない。
父さんいわく、原因は俺だ。

俺の明るい性格が嫌いらしい。
俺が生徒会長だから気に入らないらしい。
俺の、存在自体が許せないらしい。

「聞いてんのか!英二!!」
「聞いてるよ」
「なんだ、その態度はっ!!!」

腕を殴られる。
ゴツッと鈍い音がする。
一瞬痛みでよろめく。

父さんはそのまま酔っ払って寝てしまった。

「英二っ大丈夫?」
「大丈夫だよ、母さん」

すると、母さんは俺にしがみつきながら崩れ落ちた。

「ごめん、英二・・・ごめんね」

泣きながら言う。
母さんは、もうこの家から出て行くと。
俺も一緒に来い、と。

「行けない・・・ごめん、母さん。俺は行けない」

ほんとなら母さんについていけば、もう父さんに殴られることもない。
けれど、俺はどうしてもここを離れるわけにはいかなかった。

そして、母さんは家を出て行った。
残ったのは酔っ払って寝ている父さんと、俺だけになった。

ゴーゴーといびきをたてる父さんの横で
俺ははじめて、孤独という実感を味わった。
もう俺をかばってくれる人はいないんだと思うと、悲しくなった。

真っ暗な家は
きっともう活気を取り戻すことはないかもしれない。
俺も、いずれ父さんに誤って殺されることがあるかもしれない。

きれいな星が出ている夜
俺は暗闇の中で
1人、涙した。

****************************************************

「英二先輩っ」
「沙良ちゃん。あーっと、もうちょっとで書類確認終わるからちょい待ってて」
「はーい」

沙良ちゃんは、1こ年下の俺の彼女。
最近告白されて、OKした。
もともと友達の妹ってことでけっこう仲良かったし、彼女といると安らかな気持ちになれるんだ。

幸せってちゃんと俺にもあるんだなって
安心する。

「英二先輩、なんか右腕のところ制服しわになってるよ」
「えっ」

昨日殴られたところをずっと押さえてたせいだ。
確かにしわがよってる。

沙良ちゃんがそこに触れようとした。
が、俺は腕をふりほどす。

「先輩?」
「あ・・・なんでもない、大丈夫だよ。こんくらい」

ほんとは痛くて痛くてたまらない。
けれど、医者へも行けない。
医者へ行って、もし父さんの仕業だとバレたら困るから。

父さんはもともと自分で会社を立ち上げた。
最初は繁栄してたが、景気が下がるにつれどんどん会社の状況が悪くなって行って、倒産にまでなりかけた。
そして、倒産は悪事を働く。
密輸入だ。
そうすることでなんとか保てたけれど、それでもまだ危険。
お金も減って、悪事ばっかりする父さんは酒ばっかり飲むようになった。
そして、俺や母さんに暴力を振るう。

だから、社長である父さんは自分の会社を失敗しそうになりつつあるから
今、学校の生徒会長をやって平常を保つ俺が気に食わないんだ。

「・・・先輩、だめです」
「え?」
「あたし、知ってるんです」

この前偶然先輩の家の前と通りかかった。
だからちょっと顔を出そうと思ってインターホンを鳴らそうとしたら、家から暴言が聞こえたからなにかと思って、窓をのぞいた。

そしたら、先輩がお父さんに殴られていたの。
きっとたまにつくる傷はお父さんのせい。
先輩はいつもなんでもないって笑った。

「知ってるんです・・・。全部」
「全部って・・・」
「先輩を殴っていることも、悪いことをしていることも・・・」

叫びながら言っていた。
密輸入しなきゃならないほど会社が落ちぶれたのは、お前のせいだ。
悪事はどんどん増えていく・・・・・って。

先輩のお父さんが社長ってことは知ってた。
けど、それが汚い手を使って保たれているとは・・・夢にも思わなかった。

「先輩、これ以上先輩が傷ついちゃだめだよっ・・・・だからお願い!お父さんを警察に・・・」
「沙良ちゃん」

先輩の落ち着いた声。
けれど、悲しそうな顔。

「俺はどんなに傷ついたって良いんだ。父さんがいてくれるなら・・・」
「どうして?!だって・・・じゃなきゃ先輩が危ないよっ!!」
「危なくなっても良い」

たとえば何度骨折しても
何度アザができようとも
ナイフで刺されたとしても

別に良い。

父さんの気の済むまで好きなようにやれば良い。

「・・・ごめん、俺先に帰るよ」
「先輩っ・・・」

俺は生徒会室を出る。
そして、ゆっくりと帰宅する。

誰もいない家。
真っ暗だから電気をつける。

父さんがああなってから、お手伝いさんすら逃げた。
母さんだって、そりゃ逃げたくもなるよな。

すると、父さんが帰ってきた。

「英二。いたのか」
「うん・・・」

父さんも帰ってきた。
背広を脱ぐ父さんを見ていると、父さんは俺の視線に気づく。

「なに見てんだ」

そう言って、パシッと頬をたたいてくる。

「さっさと行け」

俺は、そのまま部屋へ行くこともなく外へ出る。
雪の降る外は、寒さに震えるほど。

「・・・沙良ちゃん?」

家の前には、沙良ちゃんがいた。

「心配になって追ってきました」

もう父さんを見ることすら許されない俺にとって
沙良ちゃんの笑顔は天使のように見えた。

どうして俺はこんなんなんだろうって
どうして上手くいかないんだろうって

「先輩?泣いて・・・るの?」

俺は沙良ちゃんに抱きついた。
溢れる思いをとめられない。

息のつまる日々に
けがが増えるだけの生活。

「ごめん・・・ごめんっ・・・」

俺はなぜか沙良ちゃんに謝る。
俺にとって人の優しさは、この上なく必要とするものだから。
人の温かさを感じずにはいられなかった。

「・・・ねぇ先輩。先輩はもうどうしたら良いのか分かってるんでしょう?」
「けど・・・そんなことしたら・・・・」
「あたしは先輩の好きなほうに協力します。確かに黙ってお父さんの悪事を見ていくほうが幸せなことってあるかもしれない。だから、あたしは先輩が少しでも幸せになれるほうを応援したいの」

俺の・・・幸せ?

分かってる。
父さんのしていることはいけないことで、見過ごすわけにはいかないんだって。

「先輩は・・・お父さんに嫌われたくないんだよね?」

言わなきゃいけないんだ。
そんなの、ずっと前から分かってた。
だけど言ったら父さんに嫌われる、そう思うと言えなかった。

けど、このままずっと黙ってたら父さんはきっと一生気づかない。

「・・・俺、行ってくるよ」

もう逃げない。
だって逃げていたら俺がここに残った意味がなくなる。

寂しいけど
悲しいけど
父さんのために、そして、自分のために・・・・・・・・

**********************************************************

『北王子カンパニーの社長、北王子光春の密輸入疑惑が持ち上がり・・・』

「くそ!だれだ!!テレビ局に流したのはっ・・・・」
「社長!マスコミからずっと電話が鳴りっぱなしです!!」

北王子カンパニー。
朝からテレビ放映され、電話が鳴る。
社員も秘書も大騒ぎ。

「社長、面会人が・・・」
「今忙しいんだ!あとにしろ!!」
「それが・・・」

けれど、俺は決して間違ったことはしていない。
これが一番の最善策なのだから。

「父さん」

学校へ行かず、俺は父さんの会社に来た。

「なんだ英二。今忙し・・・」
「これ流したの、俺なんだ」
「・・・なんだと?」
「俺がテレビ局にもらした」

すると、父さんの手が上がる。

「お前はっ・・・!!どれだけ俺の足を引っ張れば気が済むんだ!!」

殴ろうとしてきた父さんの手を掴んだ。

「なっ・・・」
「だめだよ、父さん・・・」

掴む手に力を入れる。

「俺、今はもう父さんよりも力だって強いよ。けど、今まで抵抗しなかったのは・・・・」

涙が溢れる。
口をかみしめる。

「父さんを・・・愛してるから」

母さんについていかなかったのだって
俺が出て行ったら父さんは1人になるし、そしてなにより・・・

「もとの父さんに、戻ってください・・・」

あの頃の父さんに戻ってほしかった。

ただ、それだけだった。

「英二・・・」

父さんの手がおりる。
そして、ドアのほうへ向かって歩きだす。

「社長っ」
「車を出せ。会見だ」

そのまま父さんは出て行った。
俺も、カンパニーを出る。
出たそこには、やっぱり沙良ちゃんがいるんだ。

「先輩」

愛してほしかった。
ありったけの愛で、俺を抱きしめてほしかった。

お金がないなら、俺だって手伝うよ。
だから悪事に手をそめないで・・・そう言えば未来は変わっていただろうか。

もう一度、父さんとキャッチボールをしながら
たわいもない話をしながら
笑いあいたかった。

そんな夢物語を見ることが、俺の唯一の支えだった。

「よく・・・がんばったね」

崩れ落ちて声を抑えながら泣く俺を
沙良ちゃんはそっと抱きしめる。

俺の精一杯のがんばり。
残念だったね、とか、大変だね、とかじゃなくて
沙良ちゃんが言った言葉が「がんばったね」だったから

余計に涙が出たんだ。

それから5日ほど経った。
あいかわらずまだ北王子カンパニーの話題で持ちきりだった。
父さんがいなくなって、家で1人になった俺は、母さんの実家へ行くことになった。
九州にあるらしい。

「ほんとに行っちゃうんだね」
「うん。沙良ちゃんのおかげで俺、ここまでできた。ほんとにありがとう」

父さんに愛されたかった。
だから、沙良ちゃんの愛に頼った。

「沙良ちゃん、俺絶対戻ってくるから」

愛に飢えていた俺を、根気強く支えてくれた。
本当の俺に気づいてくれた。

やっぱり、沙良ちゃんを選んで良かったって思う。

「今度戻ってきたら・・・沙良ちゃんに父さんのこと紹介したいんだ」
「先輩っ・・・」
「じゃあ、俺行くね」

一歩足を踏み出せば
そこはもう俺の知らない世界。

「あたしっ・・・絶対にずっと待ってる!だから先輩!絶対に帰ってきてねっ!!」

笑顔で返事をした。

これから先、なにがあるんだろう。
向こうでもいろいろ言われるかもしれない。
ほとぼりがさめるのには時間がかかるかもしれない。

けれど、それは俺が望んでやったことだから後悔しない。

ただ愛されたい・・・
俺は、それだけだった。

だから
今、俺はとっても幸せなんだ。

ありがとう、沙良ちゃん。
そして、父さん。

俺が帰ってきたとき父さんを支えられるように、強くなる。
そんな俺になれたら沙良ちゃんに会いに行く。

もしも明日があるのなら
俺は全身全霊をかけて、あなたを愛す。

         fin














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