拒めたはずなのに、できなかった。いや、しなかった。
彼女が蘭に気付いて体を離さなければ、俺はきっとそのまま抱きしめていただろう。
らしく、ないと思ったが、触れた体は小さく震えていて。
怖いと言えず、その言葉は蘭にのみ放たれた。
でも抱きしめなくてよかったのだ。感情を逆手になんて、ただの卑怯者だ。
博士の車に乗って、珍しく俺の座る後部座席に乗り込んできた灰原は
「ごめんなさいね」と小さく呟いた。
瞬時に思い出した俺の顔は朱く染まり
「いや、うん」とよくわからない答えを返す。
「あのね、く……」
俺は、ぐいっと乱暴に灰原の頭を自分の肩に乗せた。
「ちゃんと会えたな。俺達」
彼女は黙ったままで。
「約束だもの」
俺はポンポンと灰原の頭を叩く。
「信じてる」と灰原は言った。今までで1番聞きたくて、一度も聞けなかった台詞。あの一言がどんなに大切だったか、それが出口を見つける自分の動力になったか。
なんて言えば伝わるのだろう。
「はい……」
窓の外に流れる景色が過ぎるのをぼんやり眺めて、ふと見れば、ようやく張り詰めた緊張感から解放されて穏やかな寝息を立てる彼女。
今日は色々あった。
久しぶりに元の身体に戻ったり、宮野志保と初めて言葉を交わしたり。決してひかない灰原に強く言った。でも、灰原はわかっているから何も言わない。
逃げるだけじゃない。生きるのも一緒だよな?
今回は傷一つ負わせずに済んだ。
そっと柔らかい髪を梳く。
「無事でよかった」
俺は固く誓う。
「これからも守るから」
END
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