六・五話 ギルドの人々
今回は、主人公ではなく、ギルドについて、視点を向けてみました。
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〈side ギルド支部〉
「はっ?化け物が出た?」
ここは、駆け出しにもベテランにも重要な探検場所―――〈シムル大森林〉の少し離れた場所にある、シムル砦街のギルドだ。
この場所は、〈シムル大森林〉のモンスターが軍を率いて(起こったことはないが)来た時のための防衛ラインであり、また〈シムル大森林〉へ依頼に出かける冒険者のサポートを任されている。
そして、この私―――ラムールは、そんな場所に八年間勤めている、ベテランのギルド員だ。
そんなベテランの私を呼びつけたのは、まだ年若いギルド支部長であり、呼ばれた案件は、耳を疑うようなものだった。
―――いわく、化け物が出たと。
「そうなんだよ。確かこの近くに、〈シムル大森林〉という森があるじゃないか。今回の件はその場所に向かった駆け出し冒険者からの報告なんだよ」
「はぁ・・・。それが、どうかしたんですか?あの場所は、せいぜい化け物といっても上はオーク止まりです。とてもじゃありませんが、そんなものが脅威になるとは思えませんが・・・」
「・・・・・・・・・はぁ」
そう私が告げると、ギルド支部長は、なぜかため息をつく。
「・・・・・・君は一応冒険者についてのことは、熟知してるんだよね?」
「まあそりゃ、依頼人から依頼を受け、主に討伐、護衛、採取といった仕事をこなす便利屋―――こんなこと、ギルドに入る時、最初に習うことじゃないですか」
「・・・・・・ランクについては?」
・・・もしかして、私を試してでもいるのでしょうか?
この人は確かに、この年にしては有能だが、それでも少しかわっているところがある。
もしかしたら今回もその一環かもしれない。
「F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSといった九段階あり、依頼をこなすことによって、ポイントが加算されていき、次のランクに進むことができる。ランクとは、その冒険者の有能さ、はっきり言えば『どれだけ使えるか』を区別がつき易いようにしたものであり、冒険者は自分のランクの一個上までのランクの依頼しか受けることができない。これは将来の有能な人材を、才能が開花する前に死んでしまわないようにするためのものであり、また依頼人の―――」
「いや、もういいよ。その次は、モンスターについて」
む、折角乗ってきたところなのに。まあいい、言われた通りにしましょう。
「モンスターも、冒険者と同じランク、つまり九段階で区別されており、冒険者が戦う時の、強さの目安になっています。下から順に。
Fランク:一般の成人男性がなんとか倒せるレベル
Eランク:駆け出し冒険者が少し苦戦する程度のレベル
Dランク:駆け出しの冒険者が複数いて、倒せるレベル
Cランク:ベテランの冒険者が難なく倒せるレベル
Bランク:ベテランの冒険者が、複数いてようやく倒せるレベル
Aランク:最低でも、Aランクが一人とBランクが三人以上必要なレベル。
Sランク:Aランクが十人以上でやっと倒せるレベル
SSランク:Sランクが五人ほどいて、ようやく倒せるレベル
SSSランク:実際にこのランクにいるモンスターは存在せず、古代の邪竜や悪神などが相当する。倒すためには、SSランクが二十人以上いて勝率三割と言われている
・・・こんなところですね」
久しぶりにこんなに話した。受付では大抵、みんな顔を赤らめて走って行ってしまうので、説明することがないのだ。
「では、オークのランクは?」
「単体でCランク、二匹以上の集団で、Bランクですね」
「・・・それを、君は脅威ではないと」
「当たり前じゃないですか。この前あったのも弱かったですし」
オークなんて、どれだけ上にいっても所詮Cランクだ。この前なんて出会って十二秒で殺すことができた。
「(いちおう、オークは単体でもBランクに近いモンスターとして、ベテランでも脅威になるレベルだし、戦闘能力が比較的低いギルド員では倒せるわけないと思うんだが・・・)」
「?何か言いましたか?」
「いや、なんでもないよ」
?この男は、時々暗い顔で何かを呟く。悩みでもあるのだろうか。
「心配事があるなら、相談ぐらいは乗りますよ」
「・・・遠慮しておくよ。―――原因に話してもしょうがないし」
「・・・・・・?」
ふむ、本人がいいと言うなら、心配は無用か。
「・・・話は少し脱線したが、君は鋼装巨蟲を知っているかな?」
「確か、巨虫の進化系でしたよね。進化する条件は解明されていませんが」
私も、一度戦ったことがあるが、全長三メートルぐらいの大きな鎧付きのいもむしだ。
ゴブリンぐらいなら倒せるかもしれないが、オークの場合、あっけなく殺されてしまう。
その程度の力しか持たない、イモムシだ。
「それがね、全長五メートルを軽くこす、異常種が現れたんだよ」
「・・・ああ、それで」
確かに、一般種は三メートル弱だが、滅多に出現することのない異常種は普通に五メートルは超えるし色も普通のものと違う。
駆け出しが、驚くのも無理はないだろう。
「それで、色は何色ですか?」
「・・・黒だそうだ」
「・・・黒?ですか・・・聞いたことありませんね」
「新たに派生した異常種なんだろう。それよりも今回きみを呼んだのは、ほかでもない。その異常種の行動の危険さからだ」
「・・・何が起きたんですか?」
「オークが・・・食われた。しかも二匹に、ゴブリン部隊付きだ」
「・・・!」
言葉が出ないとは、このことだろう。オークを食った、その言葉が意味するのは―――
「君もここまで言ったらわかるだろう?そう―――肉食種に変化している」
肉食種―――それは普段植物を食べるモンスターが肉を食うことで、本来の生態系から外れ、凶暴化することだ。
しかも、普通の場合なら本来の種族よりホンの少し強くなるだけなのだから、速やかに討伐すれば被害はないのだが、今回のは流石に無視できない。
オークを殺したとなれば、最低でもBランク以上。それに比べ、鋼装巨蟲はDランク。明らかに強さが異常だ。
「それでね。このことを君の部長に伝えたら、君が推薦されたんだよ。『あいつなら、竜が相手でも大丈夫だろう』ってね」
「・・・部長も、ボケましたかね」
「いや、彼とは長い付き合いだからね。たぶん、まだボケてはいないと思うよ。もしボケたのなら、見ればわかるからね」
「・・・それでも、私では竜なんか勝てませんよ。多分、粘りに粘って、三時間が限度です」
「(竜種は、最低種でもAランク以上だから、個人でそれだけ戦えるのは充分おかしいんだけどね・・・)」
また何事かつぶやいている。相変わらず、おかしな人だ。
「まあ、そんな事は置いといて。―――君を今日から、臨時ギルド長に任命する。場所は、〈シムル大森林〉の手前の、エレメル村だ。仕事は、異常種の調査。異論はないね?」
どうせ、拒否権なんてないくせに・・・嫌な人だ。
「そんな嫌そうな顔しないでくれ。大出世じゃないか。ギルド長だよ、ギルド長」
「結局、臨時じゃないですか」
「それでも、その立場が変わることはないよ。君はいま、僕と同じくらいの力を持ってることに等しいからね」
「それなら、今すぐにこの任務を取り消してください」
「残念ながら、君が任務についている時のみその権限は、有効なんだよ」
八方塞がり・・・逃げ場はないと。
・・・しょうがない、諦めるのも時には重要だ。
「甚だ不本意ですが・・・、その任務、受けさせてもらいます」
「そうか、そうか。それはよかった」
ギルド長は、嬉しそうに顔をほころばせる。
・・・なんかいらつく。
「それでは、頑張ってね。ラムールくん。君には期待しているのだから」
「勝手に期待を押し付けないでください」
「最後にいいことを教えてあげよう。この任務が終った後には、二ヶ月ほどの休暇が―――」
「頑張ります!では!」
「―――あるかもしれないよ。ってもういないか」
最後の言葉を紡ぐ前に、ラムールは、ギルド長執務室から出て行ってしまった。
ラムールはのちの休暇に思いを巡らす。
さあ、任務なんてさっさと終わらせて、どこかに旅行なんていいかもしれませんね!
ランク説明
駆け出し:F~E
ベテラン:D~B
となっております。
ちなみに、SSSランクは今のところ三人で、SSランクは十人です。
いちおう、全員集めれば、SSSランクの邪竜に、勝てるかもしれませんが、SSランクは皆仲が悪いので、勝てる確率はほぼありません。SSSは、比較的仲良しです。
誤字、脱字、アドバイスなどありましたらご報告ください
訂正
・冒険者ランクにて、Cランクの『通せる』を『倒せる』を修正しました。