挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ラノベを書くのってそんなに楽しいんですか? 作者:涼風てくの

ラノベを書くのってそんなに楽しいんですか?【一章】

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

4/16

TALE#4 早朝の夕焼け、そして出会い

 ゴールデンウィーク三日目。森の中。独りきり。
 一瞬は自分の目を疑った。辺りをよく観察してみるも、得られたのはごまかしようのない事実だけだ。
 しかし、不快な寝起きの夕焼けは流石にこたえるな。起き上がるのにはかなり苦労した。どこかに俺を慰めてくれるパートナーは転がっていないだろうか。

 そんなことよりもどうして森の中で寝ていた、とっとと先に進め。なんて声が頭の片隅に聞こえるようだ。折角の異世界転移なら白い部屋に転移するとか、召喚した美少女、もしくは「キャー、タスケテー」なんて黄色い声が飛んできてもいいものだが。
 勿論そんなことを期待していても埒が明かないので、俺は歩き出し、わかっていることを一つずつ整理してみようと思う。

 まずは、ジーパンにパーカーという服装であるということ。二つ目には、この森に全く見覚えがないこと。三つ、気温がやけに低いということ。すぐにわかったのはこんなもんだろうか。
 この三つの事柄から導き出されることは? 俺は顎に手を当て考える。
 一つ目の服装。これからわかるのは、既に一度起きており、その後にこの森に来たということだ。しかし着替えた覚えもなければ、外出した覚えもない。二つ目からは、家の近くではないこと。三つ目も同様だ。

 俺は嘆息してから考える。夢遊病か何かか? でもそれにしては、ここまで遠くに来るというのも不自然。じゃあ拉致か? それにしたって突然放り出されるのもなあ。「こいつお目当ての奴じゃねえじゃん! まじいらねっ!」「何やってんだよお前! 仕方ないからそこらへんにぶん投げておけ!」って、ないな。根本的な問題で拉致される理由がない。あえて塵のようにいる平凡高校生を選択する奴がいるなら、俺はそのセンス、神経を疑おう。

 しかしそしたら他に何があるだろうか。考えても今の状況を説明できそうにはない。それとも、何かイベントが起こるのを待つか? 流石にいくら何でもそんなわけにはいかないか。ただただ危険が増していくだけだろうし。ならば他にすることは……、
「いでっ!」
 足元への不注意で木の根に足が引っ掛かり、その場に転がる。来た。
「誰だこんなところに、あっ、んおっしゃあ!」
 そんな時視界の先に偶然、木で作られた小屋を発見したのだ。まさしく怪我の功名と言う奴だった。俺はすぐさま立ち上がり、小走りでそばに寄ってみる。すると、教室より一回り小さいぐらいのサイズ小屋らしい。もう大分暗くなってきたし、タイミングも良い。ここで一晩泊めさせてもらうとするか。
 自らの妙なサバイバル力の高さには感心させられる。そうして俺はドアノブに手をかけドアを開いた。錆びかけた飾り気のないそのドアノブを。

「お待ちしておりました、ご主人様っ」
 ドアが開かれるのを待っていたかのように、中に居た先客が言う。
「森の中のメイド喫茶、だと……」
 俺は驚嘆の声を上げた。誰だってこんな事態に陥れば俺と同じような感想を口に出すはずだ。年齢制限とかはクリアしているだろうか。俺は久々に心底驚く。
「名は、ハート=モナ=フィルギャ、と申します。フィル、とお呼びくださいね」
 俺の呟きに対して軽やかにスルーを決めた少女は、自らをそう名乗った。微妙な響きだが、いやしかし、つけられた名前をどうこう言うことをしてはいけない。そのような言葉が俺の体に刻み込まれている。

 透き通った金色のさげ髪に輝く金眼。町中に歩いていれば、二度見か目を逸らすかの二択に迫られるような端正な顔立ち。そんな彼女――フィル、の放つ雰囲気に圧倒され、俺は後ずさる。それよりも、だ。
「何で俺なんかをお待ちしていたんだ」
 そう問われたフィルは思案顔になり、しかつめらしい様子で言った。
「ええと、はて、何ででしたっけ。ちょっとよくわからない、不思議です」
「いや、そこはわかれよ! だいぶ冷えちゃったよ雰囲気が。折角いい感じでパーってなってたのにさ。大体、なんかこう、つなげられそうな言葉ってありそうじゃないかあ? うん」

 俺がひとしきり不満を言った後、俺は何とか正面対峙する。
 こうして面と向かい合ってみると、やはり彼女の顔だちの良さがうかがえる。なおかつ光が透き通るようなその肌、それは見ているだけでも癒されそうな逸品だ。
 そしてひそかに驚嘆していたのが彼女の服装。首のベルトにネイビーを基調としたワンピース風のドレス、ウエストにある太めのベルト。そして黒色のレースアップブーツ。その何もかもが、以前ネットでチェックしたことのある服装なのだ。偶然の一致ってものは本当にあり得るものなのか。感慨深い。

「いやあ、初対面でため口なんて中々甘く見られたものですよっ」
 先程の俺の言った不満を皮肉で返された感じだが、最初は混乱していたからだし、二回目は突っ込みだったし……。無意味な言い訳を頭の中で反芻した後、今度は彼女の視線の低さに注意が行く。百五十センチ弱ぐらいだろうか、の視線はこうしてみても自然と上目づかいになってしまうようだった。最も、俺に幼女趣味は無いので全く問題はない。救われたな、彼女は。俺は苦笑いをしてから、
「でも話すこと……ないよな」と言った。
「何ですか? どこぞのカップルみたいな口調で。余り調子に乗らないでくださいねっ、だいぶ気持ち悪いです」

 あれえ? この子かなり性格きつい系統の子か?
「この際カップルでもいいんじゃないか?」
「断固拒否しますっ!」
 折角今後の展望が開けてきそうな相手が見つかったというのに。ツンデレのヒロインか? もしやチョロイン? はたまたもうデレデレなのか? いやいや照れ隠しか。
 俺はできるだけ口当たりのいいように言葉を紡ぐ。

「ええっと、その、」紡げなかったよ。
「今後付き合わなければならない相手といきなり気を悪くするのは良くありませんでしたね。これは失礼致しました」
「いやいやみたいに言うな」
 そういえば、と、俺は言葉を続ける。
「俺の名前は知っているのか?」専属のメイド、みたいな感じに言っていたけれど。
「知っていますよ勿論。まあそんなこと微塵も重要ではないですがね」
 ここでいじってやるのも中々に面白いものだとは思ったが、俺も今後のことを考えやめにしておいた。仮にヤンデレだとしたら二、三度殺されかねない。

「ところでこれからどう致しましょうか」
 フィルは窓に差し込む木漏れ日をちらと見やり、呟く。
「それは俺も聞きたかったことなんだがな、」
「ふん、他人に同調するのはあまりよくないですよっ」
「暗いなあ」
「何が」
「部屋が」

 そうして訪れてしまう沈黙。二人の間では激しいにらみ合いが繰り広げられていた。そんな時。
「どっかーん! ふう、」
「ドアノブいってえ!」
 ドアの近くに立っていた俺は突然あけられたそれに対処しきれず、ノブによる強烈な打撃で勢いよく前に倒れこむ。当然前に居た人物も巻き込まれ、二人共ども仲良く倒れた。
 みたいなのんきなことを言ってはいられん! そりゃそうだ、これはラッキースケベ的なあれだ! フィルの腹部を抱え込むようにしたこの倒れ方。こうして俺の偉大なる願いの一つは満たされた! 
 これでだるまの目もめでたく一つ塗りつぶされる。なんという僥倖だろうか。神様にはもう感謝してもしきれないようだ。

「いたたたっ……」
 後ろ向きに倒れこんだ時、腰を打ったのかフィルはそう声を漏らしつつも俺の頭を退け、立ち上がる。てっきり、どぎつい糾弾を受けると思っていた俺は拍子抜けをしつつも、体を起こしほこりを払う。

「お熱いところすまなかったなあ」
 飛び込んできた少女が言う。
「誰のせいだよ!」
 俺がそう言うと入ってきたその娘はにしし、と笑ってから、それにしても一体ここで何をしていたんだ? と聞いてくる。
「衝撃的な出会い、じゃないか? いろんな意味でな」そう言いつつフィルに視線を送る。「自己紹介、ですかね」
「ほう、それじゃ私も同調しよう。私の名はカトレア。森海(しんかい)の宵闇、WS(ウルフシェパード)の敵対勢力である黄金の夜明け団の団長にして、森の中の狩人(イェーガー)。アルケミストと呼んでもらっても構わないぞ!」
 そう言ってカトレアと名乗るその少女は快活に笑う。唐突に登場してきたうえの、唐突で意味不明な自己紹介だった。壮大さが違う。

 それで、森海の宵闇WS? 黄金の夜明け団? 色々と頭の中でこんがらがっている。ちょっといための集団だということはわかったが。
「ううんと、まずその、狩人(イェーガー)? アルケミスト? ってなんだ? かなーり厨二要素満載だが」
「イェーガーってのは狩人のことで、アルケミストってのは錬金術師のことだ」
 そう言って再び笑うカトレア。でもそれはわかってるんだ。

「そのWSって団体は何をしているんですかっ?」
 俺たちのやり取りを少し後方で傍観していたフィルが問う。
「俗にWS(ダブルエス)って呼ばれてるんだが、まあ端的に言えば宗教団体って奴だな。もっとも、信仰の対象が民の安全を脅かす狼ということで忌避されているんだが。他にも色々と不可解で奇妙な団体なんだけど、最近は特にその動きが多いんだ」
 続けざまにカトレアは言った。
「因みに今、それを取り仕切っているのが魔女なんだ。そういうわけで魔女宗ということだ」
 少女は灰色の毛皮でできたトルーパーキャップを揺らして笑う。
「ここらへんには狼が生息しているのか?」
「ああ、と言っても一匹狼だがな。それでも討伐ができなかったってぐらいには手強い相手ってこった」
「討伐なんてやってたのか」
「その昔、今の国王の系譜が鉄道の敷設のためと、近隣の村々に出る被害を抑えるため、という名目で討伐に行ったんだが、まあこの通り、今でも討伐隊が送られてきたり専門の狩人が居たりする始末だ」
「そこに宗教なんかがからんで来てしまってはますます大変ですね」
 感慨深そうにフィルが言う。

「なんだか複雑だなあ」
「思っているほどそうでもないぞ?」
 カトレアはそう言ってから眠そうにあくびをする。
「っと、そうこうしているうちに日暮れも近づいてきたか? 寝床を探してたんだ。この際メイド喫茶でも」
「ん? 待て待て、今は朝だぞ? いつから夕方だと錯覚していたんだ」
 俺は虚を突かれた。確かにさっき起きたんだから朝だ、と考える方が自然な思考回路か。カトレアの場合はしばらく起きていたからだろうが。
「それでお前ら、さっきまでどうしてたんだ? 夜じゃ奴に襲われかねないってのに。しかもブーツなんて、なめてるぜ」
 因みにフィルだけでなく、種類は違えど俺もブーツなのである。

「あたしでさえジーンズの上にハイウエストのミニスカート、動き易い運動靴で完全装備なのに」
 そう言い、何度か飛び跳ね、二束の深紅の髪をはためかせている。それは日の光に照らされて神々しささえも演出するようだが、彼女のその性格からはそのような要素は見出しにくい。

「そうだ、この後お前らはどうするんだ?」
「いや、今さっきここについたばっかりだから特にするということは無いんだが……」
「近くの町かどこかへ、行こうかなあ、と」
 フィルが思案顔で言いつつ、一歩進み出る。それと時を同じくして、カトレアの顔が不意に歪む。
「近くの町? って言ったら当然、王都になるわけだけど。橋架けの大鉄道こと、大鉄道――に乗る金なんて無いんだろう? その様子じゃな」
 確かにそうだ。貨幣のことは中々難しいものがありそうだ。そして、二人の髪色をもう一度確認する。二人とも現代日本ではほとんど見かけないような髪の色をしているし、きっと異国か、異次元。貨幣の制度も違うのだろう。

「まあ、そんなところに行くってんなら金を恵んでやらんでもないぞ」
 これでも金は持ってるんだ、と誇らしげに言い、腰に巻いた小物入れを弄る。
 ほれ、と呼びかけてからカトレアは二人に何かを投げ、俺達は咄嗟にそれをキャッチする。手を広げ見てみると、それは手のひら大の大きさの金貨だった。これがこの国の貨幣になるのだろうか。
「それを使って王都で武器なりなんなりをそろえるんだな! いや、今は大鉄道があったな。どのみちそれを使うことになるわけだけど。まあ、そこの金も馬鹿にならないんだよな。
 ああ、それと付け加えるようだが、大鉄道は週に一回しか出ない。その出発が、今日の修道院の鐘が次になる時だから、一、二時間後くらいか? に出発、夕方頃には着くだろう。貨物の量にもよるが」
 一、二時間後、か。
「んじゃ、そういうわけでそろそろお暇しようかな。そうだ、ここから北北西のところに駅舎がある。車両が見えたからって油断すんなよ? 王都、もとい王城もまた然りだが、アホみてーに規模がでけえからな!」

 そしてカトレアはドアの方に向き直ったが、振り向きざまにこう付け加える。
「またどこかで会えたら、その時は」
 多少の感情をにじませたようなその表情は、とても印象的なものだった。
 そうこうしている内に少女は去っていく。目にも止まらないような俊敏な動き。
「なんだか嵐のようでしたね」
 ああ、と俺は答えてから、
「行こう、王城に」

 ドアから出る時に見えた燦然と煌めくその朝日は、夕日とはまた違うものがあるのだった。
Twitter→@suzukaze_tekuno
cont_access.php?citi_cont_id=423076696&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ