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ラノベを書くのってそんなに楽しいんですか? 作者:涼風てくの

ラノベを書くのってそんなに楽しいんですか?【序章】

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TALE#2 ライトノベルと世界樹

どうも、涼風てくのと申します。
――少し前まで居た世界とは一線を画している藍白(あいじろ)。そこは近未来的な空間が延々と連なっているようだった。その中に佇む静黙の門。やおら開かれる門へと一人、足を踏み入れる……。





「でもどうしてそんなものに私が……?」黒紅のツインテールがそう呟く。

「……知りたいか」その巨大な――機械仕掛けの神が問う。

 黒紅は静かに、首を縦に振る。

「嗚呼、最早教授するに相応しい頃合いなのだ……。よかろう、教えてやる」


 この世界(ものがたり)の――


 世界樹(ユグドラシル)を――





 ライトノベル、訳して軽い小説。一九九○年ごろに出来た和製英語だとか。
 その名の通り、文章は比較的簡単でわかりやすく、会話文が一般小説に比べ多くを占めていることが主。
 それに書く側からしても比較的触れやすく書きやすいっていう要素も含まれているのだろう。でなければ今、こんなことにはなっていなかっただろう。

「で、本当に書かせるのかよ」
 抵抗も空しく、あれから事はとんとん拍子で進んでいった。
 真紀のアカウントとは別のものを作り、着々と作者名などを決めていく。
「とりあえずアカウントの設定は終わり、と」
 そこまで終えたらしいところで俺はふと、壁にかかった古時計に目を止める。短い針は『Ⅶ』を指していた。
 そのままそれとなく周りを見渡してみる。
 この部屋には余りまとまりを感じられないが、あの古時計はその中でも一段と異彩を放っている。
 横にフィギュアが物々しく並べられていることが、一助をなしているのかも知れない。
「もう早くしようぜ。さっさと済ませて早く寝たいんだ」
 休日の特権が潰されて行く……。

「どんな小説を書こう?」
 まだまだ先は長そうだけど。
「そんなん自分の書きやすいジャンルにするわ」
「因みにどんなジャンルが書きやすいの?」
「……天神地祇(てんしんちぎ)の世界、つまりは神々のいる世界だ」
 適当なことを言ってみた。
「まあ、書きやすいジャンルとは言えど、中々アイデアは生まれないもんだけどねえ」
「そりゃあそうだろう。天才作家ってわけでもないし。職業にもなってるレベルなんだから」
「家から出ずに仕事ができればいいんだけどねえ」
「いやそれってただのニートじゃねえか……」

 閑話休題。
 兎角何を書けばいいのかわからない。悩みに悩んで大分たつが、思うように出てきてくれるような代物ではなかった。せめて俺の人生経験がもう少し豊富だったなら……。
「もう図書館でも行くか、どうしようもないし」
 図書館、ここから多少離れたところにあるかなり大きめの建物だ。海を前にして切り立った崖があるのだが、なぜか図書館がそこにある。そのため無駄に眺望がきく。
 因みに言うと海に面しているのはこの家がある町の隣町。図書館についても同様だ。
「おっけー。じゃあそれぞれ支度してから出発ね」
 いや、半ば冗談だったんだが。こいつは言ったことをまともに受けるからなあ。その上、行動力もあるから迂闊にどうこう言うのも厄介になる。今は主導権を完全に握られているので従うのが賢明だろうか。一度家に戻り支度をする。

 二十分程度自転車で走り、海沿いの道に出た。いよいよ図書館が見えてきたが。
「ぬおわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「いやっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!」
 坂道。
 真紀様は自転車をかっ飛ばし楽しまれているご様子だが、俺はただただ恐怖におびえている。ブレーキを握らないのはご愛敬。
「リニアモーターカーの十分の一を感じるううう!」
 リニアモーターカーを五百km/hと仮定してのお話になるか。

 それはさておき、図書館前にある坂の傾斜は異常なのは間違いがない。駐車場は少し離れたところにもあるため、車で来ると階段を使うこともできる。
 その階段に隣接するようにしてコンクリートの坂道があるのだが、階段とは手すりで隔たれており、自転車はこの急傾斜をくだらなければならない。
 因みに言うと、車が一台通れる程度には道幅がある。

「気持ちいいいい!!」
「良い眺めかも知れんが気持ちよくはねえええええええええええええええええ!!」
 右を見ると海に燦然と煌めく太陽が見事に反射していた。夏は夜と言うけれど、やっぱり朝も捨てたもんじゃないな。とか、気を紛らわしてみる。


 その図書館と言うのがまた無駄に規模が大きい。利用者数やこの町自体の人口もそこそこだが、それを踏まえても相当大きい。
 最近新しくリニューアルされたばかりなので清潔感が尋常ではない。エントランスから足を踏み入れるとそれはもう別世界だ。異世界と言ってもいい。まず七時開館というあたりから異質さが感じられる。
 異質さを演出している入ってすぐに目につく円形のカウンター。その中央にある巨大時計。カウンターを囲むような同じく円形に並べられた本棚。本棚一列につき一段、と言う感じで二、三十段ぐらいはあるだろうか。
 更にその周りには読書用や勉強用のスペースがあり、開館前からこれでもかと言うほど混雑している。見知った顔がちらほら席にいるがそこは当然スルーで。

 ここ以外にも二階、三階にドーム形の透明なスペースがある。残念ながら床は透明ではない。因みに四階は一部が展望スペースになっている。あそこは本当に人でごった返しているから俺の気が持たない。
 他にも数多の施設があるが、枚挙に暇がないので省略。
 そんな感じで、使えそうな本があるスペースを探すのにも一苦労だ。

「やっぱりきれいだねー、ここ」
「まあな。でもどこからこんな資金を工面したんだろうなあ」
「そりゃ私たちの血肉でしょ」
「やけにリアリティのある話するなよ……まあ確かに良くわからないような使われ方するよりは、こうして目に見える形であった方が良いような気がしないでもない……か」
「でもでも、つい最近できたばっかりなのにずいぶんと本とかあるよね」
「まあ、前に貸し出しをしてた本とか、倉庫にあった本もあるだろうからな」
「はああ、なるほど」
「こりゃお目当ての本を探すのも一筋縄ではいかなそうだよな」
「お目当ての本ね。あ、そういえばどんな本を借りに来たんだっけ?」
「へ? いや俺は何かこう、よさげな本っていうかなんというか。そういうものを借りに来たつもりだったんだが……お前はどうなのさ」
「何にも考えてないよっ?」
…………。
「「うわぁ…………」」


 その後。
「くっそ重いぃ……お前も少しは持てよ」
「そんなことしたら興がさめちゃうじゃない」
 あの後、なぜか展望もした。そして一通り本を借り、死に物狂いで自転車を押し坂を上ることとなった。荷物担当係になったのもまた然り。数冊の本しか借りてないはずなのに相当重いぞこれ。ともすれば倒れてしまいそうだった。

 勉強なんかは成果が表れるまでに少なくとも二か月はかかるって言われてるぐらいだしなあ。そこんところは不安要素だが、どうしようもない。今更どうこうできる話ではないのだし。やって全く意味がないと言うわけでもないだろうからもう素直にやるしかない。

 今後の展望を考えている間に帰着。真紀の部屋の椅子にへたり込む。危うく椅子ごと後ろにひっくり返りそうだった。視界に入った壁のあれを確認する。短い針は『Ⅸ』を指している。九時だ。
 しかし、かなりの時間本を探していたから、そんな時間なはずは無い。自分のスマートフォンを確認すると、『12:01』と表示されている。多分、あの古時計が壊れ始めているのだろう。
 そういえば、ああいう古時計の動力源って何なんだろう。治せるようなそれなのか。

「なあんか腹減ったなあ」
 食べたら昼寝は逃れられないだろうけど、そんなん知らん。叩き起こされた仕返しにでも机で寝てやろうじゃないか。
「ん、まあそんな時間……」
 その時、階下から電話の音が鳴る。
 すぐに音は鳴りやむ。その代わりにタッタッタッタッタッと、誰かが駆け上がってきた。

 ガチャッ、その誰かによってドアが開かれる。
 真紀の妹、納拿(なな)ちゃん……だ。
「お姉ちゃん、電話だよ。それとお腹空い……あ」
 ドアを少し開け、隙間からひょっこりと顔を出す。やっぱり妹ちゃんはその容姿もさることながら、一挙手一投足が可愛らしい。……おっと。
「あ……どうも」
「いも……じゃなくて納拿ちゃん、お久しぶり。と言うかお邪魔してます」
「お久しぶりです」

 妹ちゃんは一つ下ではあるけれど、見た目は実年齢よりやや幼くも見える。ただ、腰まで流れる長髪、ロングストレートの髪が大人げにみせている。なかなかに艶やかな髪だ。前にあったときは肩程の長さだったから、そこそこの期間あってないってことか。まあ、幼馴染の妹に頻繁に会う方がおかしいか。どこぞのアニメじゃあるまいしな。

「昼ぐらいたまには自分で作ればいいのに」
 真紀はドアを開けつつそんなことを言う。
 なるほど確かに、毎日作ってると考えればわからなくもない、か。
「駄目、お姉ちゃんが作るほうがおいしいんだよ……たぶん」
「もう、仕方ないなあ」
「って満更でもねえなおい!」
 思わず声が出てしまった。つっこみの素質があるのかも知れん。あんまり嬉しくないが。
 真紀はそのまま階段を下りていった。そうして部屋に残されし二人。

 そういえば真紀の……。
「どうしたんですか、そんな顔して」
「いや、どうもしてないけど」
 俺の思考を遮るようにそう言われた。さっきの俺は一体どんな顔をしてたんだよ……。
「もしかして見惚れちゃいました?」
 微笑みながらそんなことをいう納拿ちゃん。スカートで腰を曲げてくるあたりわかってる。
「そ、そうだね」
 余裕の表情で言った、つもりだ。
「こんなに可愛かったら天上天下、森羅万象、異世界にだっていけちゃいますかね?」
 最近はやりの異世界か。

「今日は制服だけど、学校帰りなの?」
「ええ、まあそうですけど。どうかしました?」
 ううん、今日の納拿ちゃんは積極的だな。何か良いことでもあったのだろうか。
 因みに黒のフロントボタン付きジャンパースカートの制服だ。最近希少種になりつつある奴。普通に可愛いんだがなあ。
「補修か何か?頭良いもんねえ、あそこ」
「先輩には言われたくないですね」
「まあ兄弟校っていうの?そんな感じだから同じじゃないか」
「それは学年トップには当てはまらないと思います」
 確かに……。

「納拿ちゃんだって学年トップとかとれるんじゃないのか?」
「どうでしょうね」
「それで時に先輩は何を書いていらして?」
「そう、天神地祇の世界よ」
「ははあ、なるほど? どういうお話で?」
「まだ、細かいことは決めてないんだ。今朝いきなり言われたからなあ」
「なるほど。またとんでもない濃キャラなもんですねえ。いやはや」
 納拿ちゃんも割と濃キャラだと思うんだ。
「そうだなあ」
「そうだ実は私、先日朝起きたら恵方巻が垂れ下がっていたので思いっきりかぶりついたんですよ。そしたらその恵方巻、こっちに倒れこんできて。ほんっとに重かったです。あれは」
「それ(あね)さんだから! 恵方巻じゃないから!!」
「世にも珍しい恵方巻ですよねえ。その後気が付いたらいなくなってたので多分夢だったんでしょうけど。いやあ、夢にも重さってあるもんなんですねえ」
「いやだからそれ姉さんでしょ!? その恵方巻二つあったよね!?」
「それともう一つなんですが、この前参考書を買いに行った時の話なんですけどね。レジで会計をしてもらってたんです。そしたらですね」
 いやこれは……。まさかな。
「小銭を落としちゃったんですよね。そしたら。それが直立したんですよ。それもなんと五十円玉が! たまげましたねえさすがに。それで辺りは騒然としちゃってですね。そりゃあもう英雄ですよ。崇め奉られちゃいましたよ」
「やっぱりか! 五十円玉直立させてきたよ! 伏線かよあれしょうもねえ! お前ら姉妹どうなってんだよ!? てかまずそれだけで崇め奉られるなよ!」
「いやあやっぱり先輩十分濃キャラじゃないですよね」
「だまし討ちか!? はあ、それであの話は作り話なの? なんだかいたたまれなくなってきたよ」
「安心してください。全てはノンフィクションです」
「そうなのか。よかった」
「よかったんですね。おっと、話し込んでしまいました。そろそろ戻らないと。ではまた」
 そういって納拿ちゃんは足早に部屋から出て行った。そして俺一人が部屋に取り残された。
 ……指南書でも、読んでおくか。

 昼は三人、リビングでとらせていただいた。十三時を過ぎていたけれどそこはまあ、仕方ない。
 とりあえずお礼をして。
「案外、美味しいんだな」
「ったりまえでしょ、そりゃね」
「ふうん?」
 詮索するように言う妹である。
「何よ……?」
「何でもないけど」
「絶対何かあるでしょ」
「無いって。ないない」
 やっぱり姉妹、仲良さそうだ。

 二人がじゃれあっている内に、部屋に戻り机に突っ伏す。
 今日は朝早くに叩き起こされ、更にさらに色々あってかなり疲れているし。すぐに寝られるだろう。
 さて、俺は今日も美少女の夢を見るとするか。必ずしも見られるとは言っていないけどな。





……「ええと、記憶は掃滅するんですかっ?」

……「はあ、私もですかっ」

……「いえ、特に問題は無いですがっ」

……「その人は戻すんですかっ?」

……「こんな状況なら致し方ありませんっ」

……「世界(ものがたり)が思わしい方向に向かうことを願うばかりですっ……」





……「もう、何してるの」
 ん……?
「まさか涎とか垂らしてないよね」
 ああ、例の恵方巻だった。そう、恵方真紀。今気づいて思わず吹き出す。どうして今まで気づかなかったのか。 
「んなわけねーだろ」
 吹き出してなおかつ露骨にフラグを立てた。が、もちろん垂らしていない。人の家でそんなことをしたら人生が終わってしまうからな。

「はああ、何をのんきに寝てるのよ」
「夢の中の美少女から物語の着想を得んとしていたのさ」
 美少女の夢が見られてよかったぜ。これでどうしようもない夢だったら書く気も完全にそがれる場面だった。
 物語の着想……な。文章にあの子をおこすなら、トパアズ色の香気が立つ美少女、って奴かな。
「どこにそんな都合のいい夢が転がっているっていうんだか」
「案外転がってるかも知れないぞ?」
 不敵な笑みを浮かべてみる。さながらさっきの妹ちゃんのように。ああ、呼び方が安定しないのは、毎回名前で呼ぶのもなんかあれだなって思っただけだ。

「夢の中の美少女はトパーズ色の髪をしてたんだ」
 続けて俺は言う。
「比較するなら妹ちゃんがオニキスで、お前はモリオンってところだな」
「いまいち何を言ってるかわからないけど。 でも、やけに詳しいじゃない。なけなしの知識をひけらかしてるの?」
 と言いながら、ちらと俺を見てくる。
「お前には言われたくねえよ」
「そう、じゃあてては……ぶらっくすたーってところ?」
「ブラックスター? かっこいいじゃねえか。確かそれには逆境を跳ね返す力……とか、正しい答えを導き出す力……ってのがあるんだぜ」
「ふうん? 無駄に主人公属性なのね」
「無駄にとかいうなよ。でも、そんな感じで小説を書いてみるのも良さそうだな」
 直接使うのは危険だから止めておくけど。ネタに瀕したときに使う程度か。
「分かりやすい文章を頼みますよ」
「そりゃお前には難しいかもな」
「絶対になめられてる……」
 悔しそうにしながら俯いていた。

 ところで、子供なんかは覚えたばかりの言葉を使いたがる。言葉を効率よく、かつ手っ取り早く覚えるためだろう。しかしある程度の年齢を重ねると、それはいつしかタブーと化しているように思う。何故だろうか? 深く考えるときりがないけれど、大方同じ言葉を無理に使おうとすることが、煙たく感じてくるのだろう。だが、何かを覚えるためにはそれは致し方のないことであり、一番効率の良い方法なのだ。
 そうして知識を「ひけらかす」ようなことは何も悪くないと俺は思う。今後はそうやって小説を書いて行こうと思うし、また、何かを忘れることもおかしいとは思わない。それは自らの記憶に深く焼き付けるための過程だと考えるが故の意見だ。忘れないで済むものなら何も忘れたくはないからな。

「まあ、夢の中で見たことを元に書いてみるよ」
「……それならそれでいいけど、っと」
 そう言いながらベッドに寝転がる彼女。
「ああ、そういってもらえると助かるぜ」
「なんだかんだ言って随分と乗り気じゃない」
「事態は一刻を争うからな。早く書いてあげないといけないんだ」


 夢の中の美少女を正しい答えへと導きだすために。そして、この世界(ものがたり)、とやらを思わしい方向に向かわせるために。
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