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ラノベを書くのってそんなに楽しいんですか? 作者:涼風てくの

ラノベを書くのってそんなに楽しいんですか?【一章】

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TALE#12 花を持つ人

どうも、涼風てくのと申します。
 所狭しと並んだ腰ほどの棚からぞろぞろと赤い人だかりが抜けて行く。

 俺達はその流れの最後尾となって、今日という壮絶な一日の終わりを感じていた。異世界初日、学校の新学期はおろか入学初日だって比較にならないぐらいの修羅である。それはもう文明世界に来た野蛮人もびっくりの、常識の通用のしなさ具合、自給自足生活にならずに済んだのは唯一の救いだろう。その点においてはこの事の成り行きにも感謝するべき所があるだろうが、翌朝からまた、大海へと身を乗り出す事になるようである。

 それから部屋に戻って、そそくさとベッドに潜り込み、羊を数え始める。ここ最近は奇怪(きっかい)な夢ばかり見たような覚えがあるが、夢はすっかりうろ覚えになるからして既に、前回の事は何も記憶していない。そういえばスマートフォンという端末があったな、もしかするとそれに書いてあるかもしれない。
 それよりも今は、今日の俺という勇士に労いの意を込めて目を閉じた。


 どんなにか久しぶりの事だろうな、こんなに騒がしい朝は。と思いつつ、かっ、と(まぶた)を開けて目を覚ます。
 カンカンカンカン、どオォォォん、鍋底や銅鑼(どら)の様な音がどこからともなく耳に入っていた。何だ騒がしいなと寝ぼけ眼を(こす)る間も無い。
 「かじかじカジカジ火事!!」左右の目の開き具合がやたらと違うお荷物が騒ぎ出す。お前もキャラが安定しない奴だな。
 ふと気になって窓の外へと目を向ける。太陽の傾きから察して、午前七時以前といった所だろうか。便宜上同じ時間軸が流れているとしておこう。
 混沌とした空気をおして、左側のカーテンをさっと開ける。奴は上体を起こしてすぽーっ、と無心になって虚空を見つめていた。既に周りに人気は失せつつある。通路に出ながら、とっととついてくるように促す。
「ねむーっ、」
「早く行くぞっ」
 そして人っ子一人居なくなった部屋から抜け出した。

 ふと大き目の通路に出る。左右に首を振り仰ぐと、昨日のテラス諸々とは反対の右手側に人だかりが見える。それを見つけた時には、全速力で前方百メートル弱先の地点めがけ、疾走を始めていた。手首を握り力の限り引っ張られる、役立たずの召使いは宇宙空間に居るような走りで、足をもつれさせる寸前だった。
 ここの建物内では靴を脱ぐという事が必要無いので、やや動きにくいというのが致命的だった。

 朝冷えの中、頬にしたたる汗の冷たさを意識していた時、人だかりの一歩手前でつっと、目の前を先の少年が通り過ぎるかと思いきや、急ブレーキし唐突に向き直り投げやりの要領でこちらに何かを投擲(とうてき)してくる。俺達は少し足を緩めた。
「ひぃぃぃぃィ、お助けぇ……!!」
 十メートル近い間隔を通過できるほどの天井の高さを有すこの施設を飛来する、いつぞやの竹刀を掴み、前方に視線を戻すが既に誰もおらず。
「全く、ツンデレだなあ……」
「ぶーっ!!」
 俺の左足に膝が直撃入った。
「こんな朝っぱらから戯言(たわごと)聞かされても」
「多少は敬え……」
「くっふ、む、無理……と言いますかっ、前っ」
「ぐっほぉ、」
 緩慢な喋りに合わせていた所、巨大な群衆の外周に突っ込んでいた。
「言うのおせえって!」
「ひょっ」
 我ながら愚かしいが竹刀をぶん回す。何故に内分裂のために使っているのだろう。
「ほらっ、お前が人込み切り開いていけっ、お前で道を開くんだ」
 若干名が床に転がっている光景に肝を冷やしつつ、低めの肩に手をかけて押し進む。
「ぎええええええ、セクハラやめてくださーい! セクハラやめてくださーい!」
「いいからお前は黙ってろ!」

 玄関のある中央の連結部分は円形ホール上になっていたので、全方向からしっちゃかめっちゃかのどんちゃん騒ぎ。折角の仮面のライバル的受け渡しをした竹刀を碌に活用せず、騒ぎに乗じて悪事を働く感じで玄関へと早々に脱出を決行する。押し合いへし合いで危うく内臓が潰れる所だった。
 人の体温に包まれて非常な熱気を感じる。フィルはなされるがままにしながらも、不快感を(あら)わにする。こいつの場合は身長が低い分、頭まで覆われるので、ご愁傷様だ。
 そして前方の玄関からの朝日が(まぶ)しい。
「っ、希望の光、希望の光っ!」あと十数メートルの人込みさえかき分けられれば!

 その時、はっとした。断末魔的な光景が眼の前に浮かんでいた。
 誰だ、あの二房は。強い既視感に(さいな)まれたあの後姿は。

 そしてまた、そこに俺は面倒事を見出していた。玄関から人が逆流してきているぞ、と思ったのも束の間、数十人という甲冑兵が入り口付近に集結しつつあったのである。出口まではあと数メートルと無い。
 可能性に、全て賭けよう。

 これが都合のいい何かの物語であれば、伏線でも拾えばそれで終わりだったろう。だがここまでの生活でそんなものは一度も張った覚えがない。

 俺は大きく息を吸ってそれから、竹刀を出口めがけて投擲した。それに続いて逆流する人込みを抜け出して、騎士らの注目の的となった。そして勢いを保ったまま正面の荒野へと突っ走る。想像以上に市街地からは離れた場所のようで、右手に森林、前方の地平線上にはぼんやりと建物が見える程度だった。そこまで障害物のない光景は爽快だった。

 彼らはしばらく呆気に取られていたが、ふと一人がこちらに駆け寄ってきて、腕で俺は腋下(わきした)を拘束される。夜中に出歩いていた少年がそっと警官に補導されるように、俺は森林へと連行されていった。ついでにお荷物を右手側に抱えているので、両手に花である。
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