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ラノベを書くのってそんなに楽しいんですか? 作者:涼風てくの

ラノベを書くのってそんなに楽しいんですか?【一章】

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TALE#10 荒野の晩餐

どうも、涼風てくのと申します。
 あれからいくらとも時間が経たない内に事は結末を迎えた。
 その後二人の小競り合いが始まるや否や、颯爽と老年の爺さんが現れその内にそそくさと彼を回収して出ていった。
「じーーーっ、」
 つまるところ戦闘描写は出現する事無かったのである。それに拍子抜けをした俺は、ベッドにどさっと座り込んでまじまじと、文章製造機と化した端末を見つめる。改めて観察してみるとだんだん無用の長物のようにも見えてきた。異世界三大無用の長物、その第一。いよいよ何の役にも立たない。
「じーーーーっ、じーーーーっ」
「……ってうるせえよ!」
 久しぶりの発言がほとんどダッシュで済まされていいわけが無い。圧縮言語かよ。
 フィルはいつの間にやら開いたカーテンの隙から、幽霊さながら横向きに寝転がってこちらを凝視していた。胡乱な目つきが眼の色を悪くし、厭に気味が悪い。

「ちょいちょい」と。
 ここでテンポ良く返してきたのは無論今現在のフィルなはずも無く。やや低身長気味の老年の爺さん、いやそりゃ老年だろうけど。が再び窓側に開かれたカーテンの辺りで手招きをしているのである。
 多少曲がった腰に長年の経験や知恵を蓄えた風であるが、目には茶色のサングラスをかけており、髪の毛は透き通った美麗なシルバーの髪である。老人と言う印象に違わずその長めの髪を後ろで結んでいる。
 俺はその手招きに対して脊髄反射的に誘われる。
「何かしらイベントでも起こしておいた方が何か進展あるかも知れないし、で、お前はどうして付いてくるんだ?」
「ぽーっ、」半目を擦りながら、枕を片手に抱えたまま直立を決め込み、おまけにセルフSEと来た。
「そんなんなら、寝ておけばいいのに」
 俺の言葉はどうやら意に介さないらしい。みっともないからはだけた服は何とかしろ。

 小ぢんまりとした棚、申し分程度の古めかしい電球、そしてベッドと簡素な部屋の要素は寸分違わないが、この部屋は妙なもので棚が部屋を仕切るように十数個ある。そこに俺は狂気さえ見出したが、その頃までに漂っていた沈鬱な静寂はその後老人が破った。
「ならんのじゃ」
 ならんのじゃ。
「WSが勢力を強めてこなた、めっきり世の中も動き出した。この爆破事件の騒動もその一環というわけだが、もう加速度的じゃ。早め早めに先手を打っておかにゃならんというわけで……」
 そのまた良くわからない集団が動き出す前の時代というものを、俺は知らないのだが。
「もういくらも経たない内にこちらも動き出さねばならん」
「こちらって言うのはともかくとして、動き出すって言うのは具体的には、その」
「そりゃ勿論ここから抜け出せねばならんな、ついでにこの部屋に招いたのはそのための誘い寄せというわけじゃ」
「ここから抜け出すための協力……」
 俺は誰にも聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。監獄では無いにしろ、脱獄の趣があるわけだ。楽観的に考えれば刺激的なイベントだが、悲観的に見れば命の危険もあるわけだし。
「当然の事ながら結末は保証せんぞ、そこは留意しておくように」
「命ぃ、うへぇ、」
 左手側にある窓の外の景色を見やりながら、少しばかり思案にふけってみるが結論は出なかった。

 それから似たような調子で多少の説明があった後、俺達は再び解散した。ただ日没三時間後に、あの爺さんの部屋に再集合を掛けるという事だった。因みにちょうど今しがた、日が沈んだところである。
 あの部屋は部屋二つ分の広さがあったため、集合を掛けるにしてもそう苦労はしないだろう。
「何だかあまりいい予感はしませんねぇ、」精根尽き果てたようなフィルの声がそう囁く。
「まあ死にはせんだろ、多分」
 俺は頷きながら簡易テラスに出て、机のある所に自分の部屋の椅子を持ち寄り、食堂で入手した食料を口に運ぶ。泊まる宛も今後の暮らしにも不安のあった俺達には、都合の良い施設だった。これで金が掛からないというのならいいものだが。
 俺は湯気の激しくたつ食料を、やや躊躇しながらも口に運ぶ。

 そうこうしている内に、遠く広がる荒野の地平線に赤く燃えるような太陽の余韻も薄れていく。肌に冷たいからっ風が枯れた草を揺らしていた。
「まあ、俺達一応金持ちなんだし、資産家だし何とかなるだろ」
「勝ち組の余裕……」
「いや、それとは違うかも知れん」
 適当だが。
「周りも随分と静かですねえ、暗くなって落ち着いた雰囲気です」
 フィルが咀嚼(そしゃく)する口の周りに汚れが引っ付いている。赤とのコントラストがオムライスさながらだった。
 俺はと言えば、特に無難な物を選び早々に食事を終えたのだが、眼の前のそいつは覇気の割に食欲は全く衰えておらず、むしろ増幅したのではないかと疑うほど様々の物を喰らっていた。
「何だかもう眠くなってきたなあ」
「昼間から無駄に苦労していましたからね」
「無駄には言うな、無駄には」
 誰かから労いの言葉でも頂きたいな。特に美少女。

「私がいますね」熱い食べ物を息を吹いて冷ましながらフィルは呟いた。
「どこの神通力だよ……」
「そんなものがあれば苦労はしないですがね」
「苦労はしない、か」
 俺も苦労はしたくないとは思う。出来る事なら楽にことを終えられればいいのだが、そう上手くはいかないだろうな。自分の中の妙な空洞が空いたことに気づいたのはつい最近の事だ。心の中で引っかかるそれがどのくらい重要な事であったかはいまいち掴めていないのだから。
「脱走なんかで死ななきゃいいがなあ、まだ何もやっていないし」
 空には一番星が、煌々と照っていた。青白い光だった。

「つい半日前には大博打をしていましたがね」
「勝ったからいいんだよ、勝ったからな」
 もっと異世界ならではの戦いとか冒険とか何とかも経験していないし、
「まず仲間を全然集められて無いだろ」
「戦わなけりゃ何とかなりますよぉ、」
「何とかなるだけじゃダメなんだろ」例えば元の世界に帰らないといけないわけだし。素直に元に戻ってくれればいいんだが、だれが何の目的によってしたのか……。
「仮眠とります!」
「勝手にとってろ」
 先はまだまだ長そうだが行く先は全く見えないのだった。













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