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領地奪い合うゲームに飛ばされたけど部下の目が死んでた 作者:dy冷凍

希望の一人

(昼のサービスはサクランボにしようかな。安いし)


 カシスが部屋で泣き叫んでいる頃、彩葉いろはは呑気にSHOPのリストで一番安いさくらんぼをどっさりと買っていた。ゲームの頃と比べて良心的な価格に彩葉は満足そうに頷きながらさくらんぼの入った籠を食料庫へ運んだ。

 彩葉はそれを済ますと食器を洗い終わったメイドたちに次は拭いて外に持っていくように指示した。SHOPで買ってきたタオルをメイドに渡すと少し目の前が眩むのを彩葉は感じた。寝不足のせいか頭がボーッとしたが彩葉はまだやることがあるのでさっさと足を進める。

 炊き出しの様子を見た後に彩葉は民衆がちゃんと抜かりなく働いているか確認するために、自分も掃除しながら民衆たちへ話しかけていた。

 そうこうしている内に昼になったので彩葉は王城へ戻り、掃除を終えてちりとりを持ってきた人の手の甲にボールペンで印をつけた。そして炊き出しを配膳する際に印を見せてくれた人にさくらんぼを支給した。

 彩葉が食べ方を教えられてさくらんぼを口にした青年は果物特有の甘味に驚いた。その甘味に驚いてすぐ飲み込んでしまった青年は残念そうに肩を落とす。その様子を見て他の人たちは慎重にさくらんぼを食べ、久々に感じた甘味に頬を緩ませた。

 さくらんぼに満足してまた掃除にいった民衆を彩葉は見送り、目頭を抑えた。徹夜明けのテンションも今はダダ下がりでその場に寝たくなったが、我慢して巨大釜の中身を見る。中身はかなり少なくなっていた。


「みんな、この鍋の中身を王城のみんなに配ってくれ。それが終わったら休憩だ。ご苦労だった。二時間半後にまた集まってくれ」


 掃除から帰って来たコルコからバキューム機を受け取って彩葉は兵士たちにそう言って手を叩く。やたら元気の良い兵士たちの返事にビビりながらも、彩葉は三人の部下と食事でも摂ろうとコルコを誘って王城に戻った。


「カシスー? ……寝てるみたいだな。鍵かかってるし」


 泣き疲れて寝てしまっているカシスは彩葉の来訪に気づかなかった。すぐに諦めた彩葉はカルーアの執務室に向かう。


「カルーア。もう昼飯は食べたか?」
「まだです」
「良かったら一緒に食べないか。コルコも一緒だ。カシスは昼寝してるからいないけど」
「……別に構いませんが」


 虫を潰すように勢い良く本を閉じたカルーアは彩葉の後に付いて来た。自分のお腹くらいの背しかないカルーアに彩葉は改めて驚いたが、顔に出さないように前を歩く。


「カルーアは何か食えない物はあるか?」
「ないです」
「コルコは?」
「ないです」
「嫌いな食べ物ないのか? お前ら凄いな。俺はグリンピースが嫌いだ」


 少し苦い顔をしている彩葉をカルーアは不思議そうに見上げた。彩葉と仕事以外で話すのは初めてだった。

 コルコやカシスに比べカルーアはそこまで彩葉に憎しみなどは抱いていない。序盤の進言はほとんどが参謀役のコルコが行っていたので、カルーアが直接進言したのは一回だけ。周りの二人を見ていたおかげで期待もしてなかったので、心的痛みもまるで無かった。

 ただ自分の親からつちかった能力を生かせないのが悲しい、カルーアはその一心しかなかった。

 それにコルコやカシスはこの国出身だが、カルーアの生まれはこの国だが実際には違う国に住んでいた。父から白の戦鬼の末裔の部下になれるのは貴重だと言われたので、彼女はそうしただけである。カルーアの最も尊敬するお爺さんが白の戦鬼を絶賛していたこともきっかけになった。

 しかしいざ就いてみたら制限魔法を使われ何も出来なかったので、カルーアは制限魔法に引っかからないように領民の開いている店を訪問したり、本を読むことしかしなかった。

 この国が崩壊したらお爺さんをぶん殴りにいこうとカルーアは密かに決意し、故郷に手紙を書いていた矢先にまるで人が変わったような彩葉が出てきた。

 先程も炊き出しということをするためにわざわざ自分の執務室に尋ねてきた。この一年間で一度もなかったことだ。

 それに炊き出しはとても効果的ではあるともカルーアは考えていた。ただ時期が遅かった。商人が居ないと炊き出しに使う物が一切買えないので、手遅れだとカルーアは告げた。


「今日はトマトと豆のスープとパンを作った。外にあるから取りにいこう」
「……パン? まだパン職人はいたのですか?」
「ん? あぁ。俺が作った」
「……はぁ。そうですか」


 あ、こいつやっぱ駄目かなとカルーアは結論付け、以前の仏頂面からやけに人間臭くなった彩葉から視線を外した。

 しかし兵士が厚めに切られた食パンを持っているのを見てカルーアの考えは変わった。制限魔法でやることが限られていて暇だったので、カルーアは領民のことを調べ尽くしていた。その調べに漏れがあったことをカルーアは恥じるように足を早め、彩葉は慌ててカルーアを追いかけた。


「……彩葉様。あれは何ですか」
「パン製造機だ」
「輸入、距離が遠すぎる。商人、来なくなった。魔法、あれは機械にしか見えない。……わけがわからない」


 王城の外に出てガッタンゴットン動きながらパンを製造している機械を見てカルーアは絶句した。機械なんてこんな小さな国で製造できるわけがない。東にある工業国家から輸入は出来るが、遠すぎて話にならない。カルーアは目の前でどんどんパンを製造している機械に目を奪われた。


「あー、それは俺が魔法で買った物だ。今まで能力が制限されていたから出来なかったが、昨日解放されたんでな」


 炊き出しを行うにはもう遅すぎる時期、カルーアはそう思っていた。だが目の前のパン製造機を見て希望が垣間見えた。それに彩葉の能力制限という言葉。


「能力の制限……それは私にかけた魔法と同じもの?」
「まぁそんな感じかな」


 少し目線を右へ上げて頭を掻きながら答える彩葉を、カルーアは食い入るように見つめた。


「今までのことは魔法のせいなのですか?」
「んー、そうだね。全部魔法のせい。でも魔法も解けたしこれからこの国を絶対発展させていく気概はあるよ。そうしないと今まで犠牲になった人が報われないし、何より俺もまだ死にたくないしね」


 縛りプレイのために部下の進言に全ていいえを選んでいた彩葉は、何食わぬ顔でそう答えた。カルーアはその答えに瞳を少しだけ上向かせた。


「私を使う気はあるのですか?」
「昨日も言った通り三人の協力は国の発展に不可欠だ。まだ信用は出来ないだろうから、これから行動で示す」
「私のやることは何かありますか?」
「え、働いてくれるの?」
「そのために私はここにいますから」
「……あー、確かカルーアは貴族の娘だったよな。んで、領地経営の経験があるんだっけ?」
「はい」


 彩葉はゲームの設定を思い浮かべながらカルーアのことを話すと、カルーアはほんの少しだけ気分良さげに眉を動かした。


「なら俺がどうこう言うより自分で考えて行動して貰った方がいいな。飯を食ったら今からやりたいことをまとめて報告してくれ。コルコを交えて協議するから」
「わかりました」


 パン製造機の近くでうろちょろしているカルーアに彩葉はほんわかした気持ちになりながらも、配膳を行っている兵士に三人分の飯を貰った。


「あの釜も魔法で?」
「そうだな。まぁお金かかるけど」
「? 魔法なのにお金かかるのですか?」
「んー、魔法の店を召喚する魔法だからな。お店で買うから結局金はかかる。でも色々便利だぞ」
「例えば?」
「あそこにあるバキューム機も店で買った――待て! カルーア! それにはあんまり触らない方がいい!」
「何故?」
「それ、排泄物を吸い取る機械だから!」


 遠くに置いてあるバキューム機へ既に近づいていたカルーアは、そのことを聞くと猫のようにさっと身を引いて彩葉の元へ素早く戻ってきた。


「その他にも王城の施設も強化出来る。今のところはトイレと調理場を強化した。まだ資金に余裕はあるから色々強化出来るけど、次の交戦まで時間ないからあんまり使わない予定」
「見てきます」


 食パンとお椀を両手にカルーアが小走りで王城に入っていったので、彩葉は後に続いた。カルーアの信頼度も最低まで下げたよな? と彩葉は食パンを食べながら少し疑問に思ったが、まぁいいやと思考を切り替えた。


「ここがトイレだ。……まぁ、誰も使ってないし入ってもいいか」


 カルーアと一緒に彩葉は女子トイレに入った。男子トイレは床も壁も真っ白だったが女子トイレは少しピンクがかっていた。


「……これは魔法結晶じゃないですか」
「知っているのか?」
「私が住んでいた国では庶民の家でも使われていました。しかしこんな弱小国家が日常生活で使用出来る物ではないです」
「俺の目の前で弱小国家とか言っちゃう?」
「これは失礼しました」


 魔法結晶から手を離したカルーアは無意識にそう口にしたのか、割と真剣に頭を下げた。確かにこの国は国力最下位デスケドー、と彩葉は内心毒づく。


「闇の魔法結晶まであるのですね。これは見たことがなかったです」


 便座に座りながら黒い液体が便器を埋めていく光景を眺めているカルーアを見て、おマルに座ってる小学生みたいだと失礼な感想を彩葉は抱いた。


「ここが調理場ですか? 以前と比べてかなり広くなりましたね」


 トイレから調理場へ移動すると、いつの間に食べたのか空のお椀をメイドに渡しながらカルーアはそう呟いた。面積も関係ない、魔法の力ってすげーと思いながら彩葉はメイドたちに視線を動かすと、彼女らは肉食獣に睨まれたかのように身体を強ばらせた。


「みんな休憩入るから君たちも休憩ね」
「申し訳ありません。彩葉様。実はお皿が……」


 震えた声でメイド四人は頭を下げ、調理場の机へ手の平を向けた。彩葉がそちらを見やると粉々になったお椀の破片が机へ綺麗に並べられている。


「あぁ。手でも滑っちゃった?」
「申し訳ありません! 洗剤で手を滑らせて床に落としてしまいました!」
「まだ設備に慣れてないだろうから別にいいよ。それにこれ百均だし」
「百金!? 百金貨ですか!?」
「あ、違う違う。えーっと、銅貨二枚くらいだから、別に割っても構わない。ほら、カルーアも割っていいよ」
「……そういう問題ではないと思うのですが」
「あ、はい。そうですよね」


 彩葉が拭かれたお椀をカルーアに渡すと、彼女はお椀を両手に持ったまま首を傾げて彩葉を見上げた。彩葉はすぐにお椀をカルーアから受け取って元の場所へ戻した。


「それじゃあ君たちは休憩しててくれ。カルーアがいると緊張してまた割っちゃうかもしれないし」
「…………」


 それをお前が言うのか、というカルーアの視線を彩葉は受け流して調理場の椅子に腰掛けた。色々見て回っているカルーアを余所目にメイドたちにも座るようにうながした。


「そんな、恐れ多いです」
「座らなかったら給金減らしますよ?」


 そう言うや否や四人の中の一人がサッと椅子に座ったのを皮切りに、他のメイドたちもおずおずと腰を下ろした。すっかり冷めたトマトと豆のスープを食べようとしたが、少し前に座っているメイドたちはまだ昼ごはんを食べていなさそうだった。

 流石に腹を空かせている人の前で食事を摂るのは不味いと思ったのか、彩葉は小走りで走って調理場へお椀四つと食パンを取ってきた。居酒屋でつちかったお皿腕乗せを披露しながらメイドたちにそれを渡した。


「そ、そんな! 恐れ――」
「食べなかったら給金減らしますよ?」
「一介のメイドが王と共に食事をするなんてあってはならないことです!」


 そういえばコルコは何処に行ったんだと彩葉は今更思いながらも、メイドたちに食事をするように促す。しかしメイドは顔を青くして貰ったお椀を机に置いた。


「えー、せっかく王がみずから取ってきたのになー。それをないがしろにしちゃうのはちょっとなぁー。困るなぁー」
「そうは言われましても……私たちは後で頂きますので」
「えぇー、せっかくほかほかのを持ってきたのに、冷めたのを食べられてもなー。おじさん困っちゃうなー」
「彩葉様。メイドたちが困っています。彼女らの立場も考えてあげて下さい」
「えぇー、そうは言ってもな――あ、ごめんなさい。わたくしめが悪かったです」


 彩葉は座りながらメイドへおっさんのように絡んでいたが、前に回り込んできたカルーアに冷めた目で見上げられたので素直にメイドたちへ頭を下げた。
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