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シャイターン・ルキフェール兄弟についての考察 1

「姫、俺の顔になにかついてる?」

「えっ!?あ、ご、ごめんなさい。そんな風に呼ぶからびっくりして・・・。」

「ははっ、姫は可愛いね。」


 隣に座っているのは魔界7公爵のひとり、シャイターン。

 アーシュは近寄りがたい彫刻のような美形だったが、シャイターンはさわやか系の美形で、金髪碧眼のまさに「王子様」そのもの、といった感じの外見だ。


(まぁ、どっちにしろ美形なんだけど~むふふ!第2の人生バンザーイ!!)


 人間界での生活だったら、こんな金髪碧眼の美形と接することなんてたぶん一生無かったにちがいない。お局様に感謝!だ。


 彼は病気で療養中のアーシュに代わって教師を引き受けてくれた、のだが・・・。


「で、あの『姫』って・・・?」

「うん?」


 彼は微笑みながら手を伸ばし、私のこめかみ辺りの髪を優しく撫でた。


「わっ!」


 突然のスキンシップに驚いて声を上げると、彼はまたさわやかに笑う。


「初めて会ったとき、『お局様』って呼ばれて嫌がってたから。」

「だから・・・『姫』ですか?」

「うん、そう。ぴったりでしょ?」

「え・・・あ・・・?」


(ぴったり??どのへんが!?)


 そう言ってくれる彼には申し訳ないが、はっきり言って私はいたって普通の10人並みの容姿だ。持ち上げられたり賞賛されるような見た目じゃない。

 あげく、外見に恵まれまくった王子様に言われると、嫌みを言われてるかのような気分にもなる。

 まぁ、彼に悪気はなさそうなのだけど・・・姫、だなんてなんとも不相応な気がして居心地が悪い。


(て、言うか距離近いよね!?)


 アーシュの時はテーブルを挟んで向かい合って授業を受けていたのだけど、シャイターンは一緒のソファですぐ横に座っているのだ。

 接客業をしていて28歳にもなれば、今更「人見知り」だとか可愛いことも言うつもりはない。・・・が、なにしろ彼は美形なのだ。王子様なのだ。

 そんな彼と寄り添うようにしているのだから、私はこれまでに経験したことがないほど緊張していた。


(き、緊張し過ぎて気持ち悪くなってきた・・・。)


 そんな私にかまわず、ニコニコと笑みを浮かべ、彼は私の髪をすくうと口づけた。

 優雅で流れるような自然な動きだったけれど、当然そんなことに免疫のない私は動揺しまくりだ。


「わわっ!」

「・・・嫌だった?」


 悲しそうに聞いてくる彼に、慌てて首を横に振った。


「や、嫌とかじゃないです!で、でも・・・ええと。」


 嫌、だなんてもったいないことが言えるわけがない!

 28歳にしてせっかくの美形との接近チャンスが巡ってきたのに、逃してなるものかーーー!!ってなんか、そんな自分が嫌だ・・・。

 あぁ、平凡って悲しい。特別、に憧れちゃうんだよね。

 ふぅー。


「シャイターンさんが素敵だから・・・そんな、姫なんて呼ばれると恥ずかしくて・・・。」

「俺が、素敵?」


 彼は驚いたように私の顔を見てくる。


(はっ!しまった!!うっかり心の声が口からでてしまった・・・!)


 私は羞恥のあまり顔が真っ赤になった。


「あ、いえ、その・・・はい・・・。」

「ありがとう。姫も可愛いよ。」

「え!そんな、ことないです。・・・そんな。」


 ひたすら恥ずかしくて俯くと、彼はほてった私の頬を持ち上げるようにして両手ではさんだ。顔を固定され、否応なくその顔を見る羽目になってしまう。

 光を受けるまっすぐな金髪がサラリと頬にかかっている。

 こちらを見つめる瞳はエメラルドのように透き通った緑。


「姫・・・信じて。本当に、可愛いよ。ねぇ・・・俺の小鳥になって?」

「へ・・・こ、小鳥?」


 私の目を覗き込むようにして、彼の顔がアップになる。


(ち、近い近い近いーーーーっ!!)


 物心ついてからこれほど異性と接近したことがあっただろうか!?

 ・・・いや、無い!

 男の影がいっさいないせいで、大変不本意ながら、会社では影で「鉄の女」と呼ばれていたぐらいだ。

 男の人とイチャイチャなんて、そんな記憶かけらも思い出せないっ。

 確実にない!!

 ちくしょーばかやろーっ!

 世界中のモテ女よ、滅んでしまえーーーっ!!


 早鐘を打つ心臓は、高速で血を全身に送り出す。

 必要以上に。

 そのおかげで血の巡りは良くなったのだろうけど、残念ながら頭の回転までは良くならなかったらしい。

 良くならないどころが停止寸前・・・彼は何を言っているんだ??


「名前・・・もう一度呼んでくれる?」

「あ・・・う・・・。」

「俺の名前、呼んで?」


 彼はそう言って、愛しげに私を見つめてくる。

 ・・・そう、「愛しげに」だ!

 この甘い雰囲気はいったい何なんだ。

 何がどうしたらそうなるのか、誰か教えて欲しい。彼とは話すのも今日が初めてだって言うのに・・・?


(な、なに?・・・どういうこと!?どうなってるわけ??)


 何が起こっているのかわからない。

 展開が読めなさすぎて・・・。


 それでもなんとか要求には応えようと、口を開く。


「しゃ、シャイターンさん・・・?」

「だめ・・・ダメだよ、そんな呼び方じゃ。なんだか他人行儀で悲しくなる。」


(いえ、ほぼ他人ですから!)


 口から出かかった言葉を無理矢理飲み込む。


「さん、なんてつけなくていいんだよ?姫は俺の、たった一人の大切な魔王なんだからね。」

「じゃ、じゃあ、なんて呼べば・・・?」

「そうだね・・・サタン、でいいよ。そう呼んで?」

「・・・はい。」

「・・・姫?」

「う・・・・・・。」

「呼んでくれないの?」

「あぅ・・・。」


 固まる私を見つめたまま、彼は右手を私の頬から外した。左手はそのまま頬にある。

 そして、今度は私の指先をすくうように手を握ってきた。


「ひーめ?」

「ふ・・・ふぇ。」


 だ、だからこの雰囲気はなんなんだよぅー。

 その笑顔、やめてーー。

 そんな「愛しい」って顔なんかされたことないし、おまけに美形だし。

 美形はやばい!破壊力が違いすぎる!

 破壊される・・・私の数少ない脳細胞がーーーっ。


「こ、今度!次からはそう呼びますから・・・。」

「だーめ。今がいい。・・・俺は姫と近づきたいから。これから仲良くしていきたいから・・・名前を呼ぶのは始めの一歩なんだよ?」

「う・・・。」

「それとも、俺と仲良くなるのは嫌かな・・・?」

「ち、違います!そうじゃなくて!」

「うん?」


 彼は私の手を握った親指で、私の指先をそっと撫でるように動かした。

 指先から、頬に当てられた彼の手から、その体温が流れ込んでくるようでたまらなく恥ずかしい。

 撫でられた指先がムズムズして落ち着かない。恥ずかしいを通り越して大声で叫びだしたいくらいだ。

 なんか、無理・・・もう無理無理!

 血が巡りすぎて頭がガンガンしてきた。


(もう、さっさと呼んじゃって終わらせるしかない!これ以上は心臓も脳細胞ももたない!!)


 意を決すると、私は彼を見上げた。


「さ・・・サタン。」


 やっとの思いで彼の名を口にすると、当人はこれ以上はないほどの全開の笑顔で微笑んだ。


 はぐうっ・・・ぐ、ぐさっときた。

 なんなの!?その笑顔は!

 反則だ。この美形めっ!!

 私みたいな平凡な一般市民の・・・いや人類の敵だ!

 息も止まったし、なんなら心臓も一瞬止まったはず。


 だ、だめだ・・・もう社会に復帰できないに違いない。

 破壊された!私の脳細胞は破壊されてしまったんだーーっ!!


 世の中の平凡な容姿の皆様、ごめんなさい。

 負けました。平凡代表として、はっきりすっぱり潔ーーっく認めます!

 美形の笑顔には勝てませんでした。

 人間、顔より心?

 誰ですか、そんなことを言ったのは。

 見た目より中身で勝負?・・・ふっ。

 気づいちゃったんです、私。そんなものは平均以下の人間の負け惜しみだったってこと。

 美しい、ってことはそれだけで力なんですよ。人を引きつけたり、時にはひれ伏させるようなパワーがあるわけなのです。

 だって、ブサイクに言われる「お・ね・が・い!」と、美人さんに言われるそれとじゃあ全然違うもの。

 想像してみてください!ブサイクのくしゃみと、美人さんのくしゃみ。ブサイクのツバが飛んできたら嫌そうな顔しちゃいそうだし迷わず洗いに行くけど、美人さんのだったら「ごめんね」の一言で許せませんか?

 つまり、美形を目の前にして今更だけど、気づいちゃったわけです。

 私みたいな平凡な女は美形に太刀打ちできないって事。

 うわーん。太陽に向かって飛んでいったイカロスと一緒なんだ。

 ケンカふっかける相手を間違ってました、ってことなのよ。

 あれ・・・ちょっと脱線したかも?


 と、ともかく。

 言いたいのはサタンの笑顔が破壊的だったってこと!

 そして、致命的に私の美形経験値が(だけじゃなく男経験値も!)低かったってことなのよーー!!

 がおーーーーっ!!?


 そんな私の内面の叫びには気づかず、彼は私の手を握った指先に少し力を込めた。


「うん・・・姫。あぁ・・・姫に呼んでもらえるとすごく嬉しいよ。もう一度呼んでくれる?」

「えっ!?」

「もう一度・・・呼んで?」


 そう言って、彼はさらに距離を詰めて至近距離でささやいてきた。

 優しく見つめる緑の瞳に、情けない顔をした私が映っていた。

 つまり、それが見えるほどの距離だということだ。


(あう・・・死ぬ・・・ダメだ・・・拷問か?拷問なのか??・・・くっ!これ以上は!心臓が破裂しそうっ!)


「姫・・・その愛らしい声で俺の名前を呼んで?・・・ね?」

「さ・・・さっ・・・ささ・・・。」


 細胞が破壊されつくしたのか、ついに口まで回らなくなった私の頬を、彼の手のひらがゆっくりを滑る。


「・・・姫?」


 さらにその指が、そっと私の唇をなぞるように動いた。


(さ、触ってるよ?サタンの指が・・・わ、私の!くっ、くち、唇ーーー!!)


 パクパクと口を動かす私の唇と目の間を、彼の甘く微笑んだ眼差しが何度か行き来した。


(も、もう・・・し、心臓が口から出そう!!)


「うぐっ!」

「!!・・・姫っ!?」


 私は焦って彼を突き飛ばし、ダッシュで部屋から飛び出した。

 後ろから私を呼び止めようとする声が聞こえたが、それどころではなかった。


 事態は切迫していた。


 口から飛び出そうになっていたものは、心臓などではなくアレだった。

 ・・・真夜中過ぎの繁華街の、道ばたにあったりするアレ。黄色っぽい、固体も混じってたりする液体のアレ。

 つまり・・・いや、これ以上はやめておこう。かしこい皆様にはアレが何かわかるはずだ。


 そんな私が向かったのは、もちろんトイレ。

 私は一目散に個室に駆け込むと、思いの丈?を便器に向かって吐き出した。

 盛大に・・・。


「調子が悪くてつらいなら言ってくれれば良かったのに・・・大丈夫?」


 お前のせいだー!!っと、言いたかったが言えなかった。

 ええ、そうですよー、私は負け組ですからねーどうせ。美形には勝てませんよー。

 げぽ・・・。

 追いついたサタンが背中をさすってくれていたのが、私のダメージをさらに上乗せしてくれた。


 あうー、見られてしまったーっ!

 王子の前で・・・やってしまった。

 む?そういえば前にアーシュにぶちまけちゃった時もこの人いたんだよね?


 ・・・私ってば完全に「ゲ○女」確定・・・・だよね・・・・。




 あぁ・・・もう・・・・お嫁に行けない。

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