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シャイターン・ルキフェール兄弟についての考察 9

(シャイターンとルキフェールは双子で同体。一つの身体を共有しておるゆえ、同時には表に出てこられぬのじゃ。)


 な、なに?そのムチャクチャな設定!


(うそ!あの王子様と陰険メガネが同一人物!?性格全然違うけど??)

(いや、同一人物ではないぞ。)

(じゃあ二重人格??)

(二重人格でもない。身体は同じでも、別々の人格を持つ別人じゃ。)


 そんな不思議なことがあるのか!?・・・とは思うが言っても始まらない。ここは日本でもなければ地球ですらないのだから、私の中の常識なんて通用するはずもない。魔界はそういうところだと納得するしかないのだ。

 それよりも・・・。


(ってことは、ルキフェールの助けは期待できないって事なんだね?)

(そうじゃな。・・・すまぬ、エリカよ。妾に力があればのう。せめて成体であったならと、悔しくてならぬ。妾がまことふがいないゆえ・・・。)

(ちょ、ちょっと。お局様は悪くないよ!切れて見境無くなってるサタンが悪いんだから!)


 サタンと同じ7公爵であるルキフェールなら、彼らを止められるかも知れないと思ったのだけれど、当てが外れてしまった。自力でなんとかしようにも、特別な力はおろか武術の心得があるわけでもない。


(助けが期待できぬ以上、シャイターンが冷静になるのを待つしかあるまい。落ち着きさえすれば、あやつが妾を傷つけることはあるまい。)


 ということは、サタンが激昂している間はこちらに被害が及ぶ可能性があるわけで・・・。


(サタンはいつになったら冷静になると思う?あ、それか、サタンがルキフェールと入れ替わる可能性はないの?)

(あやつらはきっかり一日ずつ入れ替わるらしいからの。明日の夜まではシャイターンのままじゃろうな。)


 八方ふさがりの状況に、思わずため息が出る。

 私には自力で2人を止める力があるわけではないし、ドアは彼らの向こう側でこの部屋から逃げることもできない。サタンを止めようにも彼にはこちらの声が聞こえず、かといって7公爵のサタンが悪魔ちゃん(仮)に倒されてしまうということは一度に2人の公爵を失うことになるから魔界にとっては大きな痛手となる。


「んもーーーっっ!!どうしたらいいのっ!?」


(妾にあやつらを止められるだけの力があれば・・・せめて成体であればなんとかできたかも知れぬものを!)

(お局様・・・。)


 お局様に同情するまでもなく、私だってどうにもできない状況に苛立ちを感じているのは同じだ。28歳で十分大人の女で、仕事ではお局様だなんて呼ばれるほどのキャリアを積んだけれど、こんな場面では何の役にも立たない。


(せめて怪我だけはしないように隠れているしかない。)


 そう思ったその時、突如として部屋のドアが音を立てて開いた。いや、内側に向かって吹き飛んだ、と言う表現の方が正しい。


 吹き飛んだドアは争う2人を割った。左右に飛び退いてよけた2人だが、サタンはすぐさま再び悪魔へと飛びかかる。サタンの吐き出した炎が、それを防ごうと悪魔が作り出した見えない壁に阻まれて天井まで吹き上がり焦がした。


 一方、ドアがあった場所から入ってきた人物は迷わず私の所へ駆けてきた。


「大丈夫か?怪我はないな!?」


 そう聞いてきたのは、16,7歳くらいの中性的な容姿の少女だった。

 ショートカットの白い髪に切れ長の黒い瞳。気の強そうな顔には白と黒の文様のようなものが描かれていて、背中に等身大ほどもありそうな大剣を背負っている。

 心配そうな表情に、どうやら救世主が現れたようだと期待する。


「はい。怪我はありません、けど・・・あなたは?」

「アタシが誰かって話は後だ。今はあいつらを止める!・・・ったく、お局様の前だってのにあいつらーーーっ!!」


 言葉の最後の方はすでに私の方を見てはいなかった。

 彼らに向き直り、軽く助走をつけながら背中の大剣を下段に構えた。


「やぁぁめぇぇろぉぉぉおおおーーーーーっっ!!!」


 彼らに比べたら小さな彼女の身体の、いったいどこにそんな力があったのか。

 叫びながら下段から振り上げた大剣から、目映い光が放たれた。光は轟音とともに床を削り、争う2人にぶち当たる。光に追随するように2人の間に飛び込んだ彼女は、重そうな大剣をサタンに向かって軽々と一閃させた。すぐに身を返し、今度は悪魔に向かってそれをたたき込む。

 悪魔は両手の曲刀を交差させるようにして防いだが、勢いは殺せずに吹き飛ばされて壁へと激突した。


「へっ!!???」


 この短時間で何が起こったのか。

 目に映る悲惨な状況に、なんとも間抜けな声が漏れてしまった。


(さすがは騎士団長、といったところじゃな。)

(いや、感心してる場合じゃいないでしょ!)


 見るも無惨、とはこのことだ。

 光が走った床は割れて階下まで崩れ落ち、窓と壁を破って部屋は吹きさらし状態に。大剣の一閃をまともに受けたサタンは、グリフォンの上半身と下半身とに真っ二つ。そして、壁にたたき込まれた悪魔はめり込んだそこから抜け出しはしたものの、咳き込んで鮮血を吐いた後に床へと崩れ落ちた。


「さ、さささ、サタンが!」


 2人の争いを止める、どころではなくこれではサタンの命はすでに・・・。


 慌ててサタンに駆け寄ると、真っ二つになったグリフォンの身体は形を失って黒い煙になり、一つにまとまって人型に戻った。幸いその姿は気を失っているだけのようで、上半身と下半身はくっついていた。胸に耳を当てて確かめれば、心音が聞こえた。


「あぁ、焦った。サタンが死んじゃったかと思った。」

「ふん。残念ながらこれくらいでくたばるような殊勝な奴らじゃないさ。消してやりたいのは山々だがな。」


 少女は物騒なことをつぶやきながら大剣をしまうと、こちらに歩み寄ってきた。サタンの横にしゃがみ込んだ私を立ち上がらせると、サタンを見下ろして睨み付けフンッと鼻を鳴らした。気が強そうだという第一印象はその通りで、かなり好戦的な性格のようだ。


「さ、早いとこ城に戻ろうか。」


 彼らのことはどうでもいい、言外にそうほのめかして私の背中を押す。


「え・・・あ!でも待って下さい。その前に。」


 そう言い置いて、私は床にうずくまるようにして倒れている悪魔に駆け寄ろうとした。壁にめり込むほどに叩き付けられ、血を吐いたのだから内臓を損傷してしまったのだろうと。

 しかし、少女に腕を捕まれ阻まれてしまう。


「待て!今のあいつには近寄るな。」

「でも!」

「手負いのヴァンパイアに近づくのがどういう事かわからないのか?下手をすれば食い殺される。」


(えっ?ヴァンパイア、ってあの子が!?悪魔ちゃんってヴァンパイアなの?)

(そうじゃぞ。ここは言うとおりに一度城に戻った方が良い。なに、放っておいたとてあやつらは死にはせぬ。)

(だけど・・・。)


 お局様の言葉を信じないわけではないけれど、怪我をしている彼らを放置していくのは忍びなかった。

 ここはルキフェールの屋敷だからサタンはまだいいだろうけど、侵入者であろう悪魔の彼は歓迎されないに違いない。


(あの子だけでも連れて行けない?)


 私は悪魔を指さした。


(エリカよ、わかってくれぬか。そなたはあやつを気に入っておるからそう思いたくはないじゃろうが、今のあやつに近づくのは危険なのじゃ。妾には万が一あやつに襲われたときに、身を守るすべを持っておらぬゆえ。)


 ふがいない、とお局様がまたしょげてしまっているのは想像できたので、それ以上お局様を困らせるようなことは言えなかった。

 なんとかしたい、と言う気持ちはあるのに、どうにもならないことが歯がゆい。お局様の倍以上の人生を生きているのに、まったくの役立たずだ。


「そう心配するな。あやつらの配下には私から連絡を入れておく。」

「・・・はい。お願いします。」


 怪我をして動けない彼らを残していくのは心配だったけれど、今の私にできることは、素直にお局様と少女の言うことを聞いてこれ以上迷惑をかけないことだけだった。


「よし、良い子だ。」


 そう言って、彼女は私の頭に軽く手を乗せた。後ろ髪を引かれ振り返る私の手を引いて部屋から連れ出すと、この屋敷に来たときに通った道を逆にたどっていく。

 途中で会ったルキフェールの配下に後を頼んで、移動用の魔法陣のある部屋に向かった。


「そういえば、シャイターンをやっちまったから城に戻ってもあんたの護り手がいないんだったな。どうするか・・・。しょうがない。うちに来な。いいね?」

「え?あ、はい。」


 疑問形ではあったけれど、彼女の屋敷に行くことはすでに決定事項なのだろう。

 もとより、助けてもらっておいて不満を並べたてるほどの礼儀知らずじゃあない。




 魔法陣で少女の屋敷に転移すると、その足で客室に通された。

 屋敷は寝静まっているようだ。当然だろう。もう夜中はとっくに過ぎていて、あと2、3時間もすれば夜が明けるのだから。

 客室はお局様の部屋ほどではないにしろ、充分に豪華な部屋だった。少女はそれなりに身分のある人物なのだろう。


「あの、助けてくれてありがとうございました。」


 頭を下げれると、少女はさっぱりとした笑顔で笑った。


「気にするな。あんたを守るのは騎士団長のアタシの役目だからね。そうだ、自己紹介がまだだった。」


 そう言って少女が告げたのは、意外な名前だった。

 その名前というのはバアル・ゼブル。なんと彼女は7公爵の一人だったのだ。


(どうりで強いわけだ。)

(うむ。ゼブルはこの若さで騎士団長を任されるほどの強者。ただ、面倒見はよいが、闘う相手には情け容赦ない女傑じゃ。)

(た、確かに容赦なかったよね・・・。)


 ルキフェールの屋敷の惨状を思い出し、つい苦笑いになってしまう。

 助けてくれたのだから感謝はしているけれど、人間の感覚から言ったら完全にやりすぎだった。平然としているゼブルとお局様の様子からすると、魔界人にはあれくらいの怪我はたいしたことないと言うことなのかもしれないが・・・。ひどかった、うん。


「さぁさぁ、今日はあんたも疲れただろう?子供は寝た寝た!」


 ゼブルに追い立てられるようにしてベッドに入れられ、布団をかぶせられる。


「アタシは隣の部屋にいるからね。なんかあったら呼びな。じゃあな、おやすみ。」

「おやすみなさい。」


 彼女は「あーねみぃ~、つーか腹減った」などとつぶやきながら背を向け、背中越しに手を振って部屋を出て行った。


 隣の部屋にいると言ってくれたけれど、客室の隣が屋敷の主の部屋ということはないから、おそらく私のためにそこにいてくれるつもりなのだろう。夜遅くわざわざ助けに来てくれて、それを恩に着せることなく、どこまでも迷惑しかかけられない私に「役目だから」と笑ってくれた彼女。


 豪快だがさっぱりとしていて、それでいて気遣いもできる。


(・・・いい人だね。)

(うむ。妾もそう思うぞ。)


 ゼブルのこと。

 ルキフェールとサタンのこと。

 ヴァンパイアな悪魔ちゃんのこと。

 そしてお局様。

 なにより、召喚されたのに役立たずな自分自身のこと。


 それらがグルグルと取り留めもなく頭の中を巡っていく。


 しかし、そうしているうちにいつのまにかまぶたが重くなってきた。ゼブルの言うように、いろいろあって身も心も疲れ切っていたのだ。目を閉じれば、意識はあっという間に眠りの世界へと連れ去られてしまっていた。

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