少しだけざわざわがやがやしている食堂の中に、俺の知人は一人しかいなかった。食券と引き換えにもらったうどんを持ちながら俺はその相手に近づく。
「仲佐」
「……なんすか」
俺の存在には気付いていたみたいで、仲佐はムサッとした顔で俺を見た。わざと仲佐の目の前に座り込むと、仲佐が少し嫌な顔をしたのに気付いた。
「お前、朝からから揚げかよ……?」
「先輩こそ、朝からカレーうどんはどうかと思いますよ。」
その子供見たいな言い草。
まるであたかも俺がお前に悪い事したみたいになってんじゃねぇか。
「食べないんですか? 食べないんなら俺食いますよ」
うどんの乗っているお盆のに手をかけ、仲佐はそのまま自分の方に寄せていた。
「食うっつの、……朝からカレーうどんはどうかと思うんじゃなかったのか?」
「それはそれ、これはこれです」
「意味わかんねぇよ」
俺はお盆から仲佐の手を離し、それから素早く割り箸を割って麺を口いっぱいに流し込んだ。
瞬間にスパイスの利いた味が広がる。
「壱センパイ、帰ってきて何してました?」
から揚げをほお張りながら、相変わらずムスッとした声で聞いてくる。
「あ? 何って……寝てたけど、お前勝手に先に言ったのに壱に会わなかったのか?」
「……あの後、悠里にあって、色々話してなんですよ」
悠里?
「……双子の妹です。…祭り居たみたいで、あのアナウンスも聞かれてて」
「ふーん」
身内にあのアナウンス聞かれたのか。悲惨っつーか……ご愁傷様?
「壱センパイ、今何してましたか」
「勉強」
「そですか……」
何だコイツ、さっきから質問ばっかり。いつものKYや自己中が全然ない。それどころが物静かで性格が違うようにも思えてくる……。
ちょくちょく俺のうどんに箸を泳がせる行動が、脳が目の前の人物は仲佐だと認識する。
「先輩、ホントに壱センパイの事好きなんですか?」
「好きだ」
迷わず答える俺に、仲佐は苛立ちを覚え始めたようだった。
「……先輩は、怖いです」
「あ?」
「『本当に俺のこと嫌いなら俺のこと殺せば』とか、そんなこと初めて言われましたよ。正直しりもちつきたい気分でした」
……は?
そのことだけで、コイツは凄く物静かだったのか?
「でもしりもちついたら格好悪かったんで走ってっちゃったんですけど……先輩マジで怖かったですよ、殺気ありまくりでさらっとあんなこと言うんですもん。俺泣いちゃいます」
「泣くってお前……あんなんただの言葉だろ。会話のキャッチボール」
「会話のキャッチボールって……あれは完全にデッドボールです」
……誰が上手い事を言えと…。
「それで……? 怖くなってしりもち付くの嫌だから逃げて、そしたら偶然にも妹に会ってアナウンスの事とか知られてたから最悪な気分だと?」
「はい」
「全部俺のせいだと?」
「はい、謝ってください」
呆れた。たかがそれだけで……。ていうか俺等って先輩後輩である前に恋敵だろ? 何普通に怖いとか泣いちゃうとか言ってんだ。
仲佐らしさが戻ってきたか?
「まぁ俺は謝らないけど、頑張って俺を追い越せよ」
「は?」
「俺が怖いんだろ? そんじゃあまだまだ俺より下だろ、お前。そんな奴に壱は渡せねぇよ」
親指を突き立てて、それから俺はその指を逆さにした。
「ムカつきます」
その言葉を聴いて、なんだかスッキリした俺は、汁だけになった食器をもって、立ち上がり仲佐の前を後にした。
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