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気づかない内にそこだけ別世界  作者: あちゃま
第2章 脅威の迷宮
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別世界:三牙狼

かめさんの迷宮、その30階層に現在Sランク冒険者パーティである『三牙狼トリアイナ』の面々が探索を行っていた。


彼らがこの階層に来るまでに既に2日を要していた。

通常の探索であればここまでの日数は必要ではないし入り口には地図だって置いてあるのだから、彼らSランクともなれば30層など数時間で踏破する事が出来るだろう。しかし今回は必要以上に、いや駆け出しや初心者とも言えるような冒険者程の速度で進行している。


理由は簡単。壁や天井、床などのあらゆる方面をじっくりと観察し罠や隠し部屋、隠された宝などを必死に探しているからである。


三牙狼は三つ子のSランク冒険者パーティであるが、それぞれ個性が強く全員が違う趣味嗜好をしている。

一つ、共通しているのは赤を基調とした鎧のみ。三人が共通しているのはそれだけだ。

武器は三者三様で三人とも違うものを装備している。


長男であるネプチューンは騎士ナイトの職業を持つ前衛型の冒険者。パーティ内では他にも敵からの攻撃から味方を守る盾となる重戦士タンクの役割も担っているリーダーである。

三人の中では高くもなく低くもない真ん中の高さだが一般的な平均身長よりは高く、鼻筋も通っている切れ長の目。短髪の髪と表情からは一見活発で短絡的な印象を与えそうな雰囲気ではあるが、実際は想像もできない程の聡明さを持っているのが彼だ。


次男であるネプトゥーヌは盗賊シーフの職業を持つ支援型の冒険者。パーティ内では他にも狙撃手アーチャーの役割も牽引し遊撃と牽制の役割も担っている。

三人の中では一番背が高く、第一印象では弱弱しいもやしっ子の様な印象を与えてしまう程に線が細い。しかしそれは極限まで自分を追い込み無駄を削ぐ、非常にストイックな生活を行っている自分に厳しい人物であるのが彼だ。


三男であるネプトゥリアは魔術師マジシャンの職業を持つ後衛型の冒険者。パーティ内では他にも聖職者クレリックの役割も牽引し魔術による後方支援と回復の役割も担っている。

魔術師は魔力が強ければ強いほど肉体の成長スピードを遅らせてしまうという性質があるが、ネプトゥリアも例に洩れず、三人の中では頭一つ分程身長が低い。見た目からは15歳を少し過ぎたくらいで思春期真っ只中とも思える幼顔だが、しかしその瞳には確かな叡智が見て取れた。


このように三者三様で三人ともまったく違う職業と戦闘形態タイプでダンジョン探索を行っている。


一般的に複数パーティ冒険者は五人一組で形成されている事が多く、ギルドなどでもそれを推奨している。全ては冒険者の生存率の向上のため。前衛型の冒険者二名、支援型の冒険者一名、後衛型の冒険者二名。これが一般的なパーティ構成になっている。


それなのに三牙狼は三人のパーティであり、通常では一人一つの職業を極めるのに対し、彼らは自分の専門的な職業だけではなく他の職業にも手を伸ばし習得している。

本来であればそんな事をすれば自分の専門職の鍛錬を怠ってしまい腕が鈍ってしまうものであるが、一応はそれなりには他の職業の技術も手に入るので結果器用貧乏になってしまう。


しかし彼らは違う。


自分の専門的な職業の鍛錬は怠らず、かといって新たな職業の習熟にも手を抜かない。そんな人物がどうなるかなど想像に容易いであろう。

そう。ただただ純粋に強い冒険者の出来上がりである。


「どうですか、何か見つかりましたか?」


先頭に立って出現したモンスターを倒していたネプチューンは最後の一匹となった骸骨戦士スケルトンを倒し、消滅したことを確認すると後ろにいた弟二人に声を掛けた。


「特に何も見つからないよー。壁も天井も床も、全部が全部普通の造り。ダンジョンの壁は破壊できない所も一緒だし、何かしらの魔術的な要素も感じないし……本当にこんな迷宮ダンジョンに宝なんてあるの?って思ってしまうくらいだよ、兄ちゃん」


「同じく。ネプトゥーヌ兄さんの言う通り空気中の魔素量だって至って普通だ。モンスターは確かに通常の迷宮ダンジョンとは違う進化形態を辿っている、という事くらいしか分からんぞ」


聞かれた弟二人は次男、三男とまるで順番が決まっているかのように間を詰めずに答えた。以心伝心とはまさにこの事かという程に息が合っていた。

事前の打ち合わせもせずに、顔を動かさず視線での会話などもせず、ただそこにいるだけで相手の気持ちが理解できてしまうのは流石三つ子か。


「そうですか……既に探索を始めて二日。難易度は他のダンジョンに比べてもオカシイ所もありませんが一回層の広さが異常に広い。これではギルドが35階層まで探索するのに一年も掛かるわけです」


深いため息を吐きながら長男ネプチューンは頭を振った。


この迷宮ダンジョンははっきり言って広い、広すぎると言ってもいい。もちろんそれは洞窟型のダンジョンとしては、であるがそれでも広い。

しかも今の所見付かる宝は大したものがない。もちろん一般的には十分に価値のあるものだしギルドに行けば優先的に買い取りしてもらえるだろう。しかしそんなものでは駄目なのだ。

彼らが探しているのはたった一つ、国宝級の宝なのだからそれ以外など有象無象うぞうむぞうでしかない。


「そんなに落ち込まないでよ、兄ちゃん。地図がない迷宮ダンジョンを一から攻略する事を考えれば、道が分かっているだけだいぶ楽になっているし!それにほら、もうすぐセーフエリアだからそこでご飯でも食べて一休みしよう!そうすればきっとまたやる気が出るよ!」


「そうだぜ、ネプチューン兄さん。ここは何故知らないけど他と違ってドロップで肉とか野菜とか食べられる物が出てくるから、セーフエリアで火さえ起こせれば十分に温かい食事が食べられるぜ」


迷宮ダンジョンで温かいご飯なんて贅沢でしょ!?そう思うだけで何だか嬉しくなってこない?兄ちゃん」


「分かってはいるんですがね……Cランクの冒険者パーティが見つけられたとなると、そんなに深く潜らなくても見つかるのではないか、何て。淡い期待を抱いていたんですがね。見事に裏切ってくれましたよ」


Cランク冒険者とSランク冒険者。この二つの間には明確な差どころではなく、住む世界が違うと言ってもいい。そしてその能力や技能などは言うまでもなく、Sランク冒険者からすればCランク冒険者など居眠りしながらでも勝ててしまえるほど実力差が存在する。

もちろん居眠りなどしていれば戦う事など出来ないのだが……。


「ですがここに来て弟たちに励まされるとは、それほど気負っていたという事でしょう」


彼ら三牙狼はSランク冒険者。冒険者全体の中では確かに上位に在籍しているが、Sランクの複数パーティ冒険者の中では下位に存在している。

前回のランキングが発表された時は自己最低順位を更新してしまった程に。だからこそ、今回は何としてでも王からのこの勅命を成功させ順位を上げたいのだ。


しかしその焦りと責任感が彼ネプチューンをいつも以上に疲労させていた。通常なら今すぐにでもクエストを中断し街に戻って仕切り直した方がいいに決まっている。


だが彼はそうはしない。何故なら彼には心強い兄弟なかまがいるのだから。

戦場で背中を任せるだけではなく私生活でも常に一緒に行動し、心の支えと言っても過言ではない人生の殆どを一緒に過ごしてきた兄弟が。


「今の言葉で何か吹っ切れましたよ。そうですよね、私たちにはまだまだ時間はあるのです。じっくり着実に行きましょう。まずはセーフエリアで食事をしてまた潜りましょう。目指すは100層を超えて最下層を目指す事です。……あ、ですが安全第一ですがね」


「分かってるぜ、兄さん。それよりも飯は何を食う?俺はさっきドロップしたあの赤いボールみたいなやつが食べてみたいんだが」


「じゃあじゃあ僕は香ばしい匂いのしたフワフワしたやつが食べたいな。一個しか出てこなかったけど僕が貰っちゃってもいいよね!?」


「いえ、駄目です。何を食べるかはセーフエリアについてからジャンケンして決めましょう、うん」


「えぇー、そんなー。……兄ちゃんの意地悪」


先程までの沈んでいた雰囲気は何処に行ったのか、三人の間には和やかな雰囲気が流れていた。

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