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気づかない内にそこだけ別世界  作者: あちゃま
第2章 脅威の迷宮
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別世界:Sの意味

ネックの街の冒険者ギルドは騒然としていた。


国的に見ても世界的に見ても希少とされている、パーティとしてだがSランクの冒険者達が現在ギルドマスター室へとやって来ているのだから。

パーティとしてのSランクよりは個人のSランクの方が希少価値は高いし憧れられる存在ではあるが、それでもパーティとしてでのSランクでも十分に貴重であり、他国では国賓待遇で迎え入れられる時があるくらいには稀有な存在なのである。


そんな存在が国内でも中央よりも辺境と呼ばれる方に近く、王都に向かうよりも他国に向かう方が近いような立地のネックの町にやって来たのだから騒然とせずにはいられないのだ。

元々対して大きな町ではなかったネックはダンジョンによって多くの人が流入し居住してきてはいるが、それでもまだ田舎町よりも少し大きくまちの中間程。

加えて住んでいる者の多くは昔からこの地に腰を据えて必死に生きてきた者たちが多い。人口比率で言えば8:2で新参者の方が圧倒的に少ないのだから、そう町中の雰囲気が一変する事はない。


昔の様に少しの変化があるだけでもあっと言う間に間に町中に広がってしまう、口コミがまだまだ幅を利かせているのだ。


マスタールームでは以前よりも明らかにやつれているギルドマスターが向かいに座っている三人の冒険者の質問に答えていた。背後に秘書であるエミリアを待機させながら。


三人の冒険者は皆が同じ顔をしていた。それはそうだ。何故なら彼らは冒険者界でも普通の世間でもなかなか見かけない三つ子なのだから。

既に30を超えている彼らだが、まだまだ若さをその身から溢れ出している。特に一人は少年の様にも見えてしまう程に。

赤い髪に赤い瞳、そして赤を基調とした鎧と全身を赤でコーディネートした彼らが三人も揃えば何処にいても目立つこと間違いなしだ。


「では今回は一応入り口から順々に全ての階層を飛ばすことなく下層へと向かっていきます。それが一応私たちが受けたクエストの条件の一つでもありますからね」


「本部のグランドマスターからもその様に聞いていますので、そこの確認は大丈夫でしょう。ですが定期連絡はどうするのでしょう?かめさんの迷宮はダンジョンの中でも洞窟タイプと言う一般的なタイプではありますが、ダンジョン内では太陽の動きで時間が分からない。そこの対策はお済ですか?」


「もちろんしてあるので大丈夫ですよ。それよりも今現在最も探索を進めている冒険者集団の手配は済んでいるんでしょうか?私たちが最後に聞いた話では50層までしか正確な地図が無いのに、実際は106層まで進んでいる冒険者達がいたらしいじゃないですか」


「……あぁ、1週間前の話ですな。今は108層まで進んでいるようですな。ま、階層全てを探索しているわけではないので正確な地図は持っていないようですが」


「それでも108層までは行くことが出来るということなのでしょう?なら問題はありませんよ。私たちが欲しいのは地図ではなく、名誉ある宝なのですからね。とにかくスピード重視という事なのですよ」


王から下された勅命――――正確には丞相じょうしょうではあるが。

現王の幼少期はその養育係も務めた事がある左大臣。丞相である彼から受けたのは近年最も不可解で、最も驚異的で、最も素晴らしい成果を国にもたらしたダンジョンの調査であった。

調査内容は『他にも国宝に匹敵する宝を探す事』であって、ダンジョン内の詳細な情報である地図など要らないのである。地図を描く、等というそんな末端の下っ端がやるような仕事などSランクである彼らがやる必要性などないのだ。


Sランク冒険者は数が少ない。少ないからこそ多くの人々がその動向に注目しやすく、僅かな事でもニュースとして世界を駆け巡る。

そして人は活躍しているニュースを聞くと決まってこう言う。


『このSランク冒険者よりも、あっちの冒険者の方が強い!』

『こんな奴大したことない。あの冒険者なんてコイツよりももっとすごい事をした!』

『いやいや、Sランクならあの冒険者くらいやらないと!』


そう、決まって自分の贔屓ひいきするSランクの冒険者と比較したがる。そんな一般人や下級冒険者たちを黙らせるのがランキングだ。


複数パーティランキングと単独ソロランキングがあり、単独ソロのSランクは100人も存在しない為中々Sランク同士が揃う事が難しく、会っても戦略的な強さを持つ彼らの攻撃に耐えられる建物が中々存在しないので決闘も出来ないからこそ順位の変動が多くはない。

だがパーティは違う。

一人一人の力はAランクの範疇に入っていても、連携して隙を与えず絶え間ない攻撃をする。そんな集団の力によるSランクの彼らの攻撃に耐えられる建物はそれなりに存在しており、数は力という言葉もあるように人数が揃えばそれなりの力を発揮する存在もそれなりに存在する。

だからこそ彼らパーティSランクの彼らはソロよりも頻繁に決闘が行われ順位が変動する。


しかしSランクに求められるのは力の強さだけではない。知識や知能も十分に必要な要素なのである。

だからこそ決闘での結果だけではなく王や大臣、グランドマスター等からの勅命による結果も反映されてくる。最高の結果を残せば順位が一気に変動することも無いわけじゃない。


ここネックに来た彼らSランクパーティの冒険者は狙っているのだ。順位が一気に変動するような宝を。


「分かっていますよ。以前見つかった森の守護者ハイエルフの腕輪の様な貴重な物を見つけようというのでしょう?しかしそう簡単にこの短期間に見つかるとは思いませんがね。こう言ってしまって皆さんに申し訳ないのですが、寧ろ個人的には見つかって欲しくありませんよ。腕輪の時は各所への報告やらなんやらで三日間寝ずの書類作成でしたからね」


国宝級の宝が見つかったとなれば当然の様にその情報の信憑性や真贋、中央ギルドへの報告やダンジョンへのより一層の調査などやることは山積している。つまり忙しくなるのだ。


しかしこれは一番最初に発見された事を無かった事にしたギルドマスターのせいなのは言うまでもない。


「しかしここまで来たら私だって腹を括りますよ。受付の達からも日に日に痩せこけていって心配していると言われてしまったのでね」


「そう言えば確かに随分と頬がこけていますね。いけませんよ。商人でも冒険者でも一般の人でも、全ての資本は身体からだからと言いますからね」


「えぇ、ありがとうございます。頑張って太ってみせますよ」


マスターはそう言ってすっかり細くなってしまった腕を振り上げ精一杯の決意を見せた。

もちろん内心では太る太らないよりも宝が見つからないで欲しいと思っているという事は秘密である。


因みに背後に立っているエミリアだけはギルドマスターの事なかれ主義を身をもって知っているので白いで見ていた。


「では詰めはこの辺りで最終的な依頼書を出しましょう。エミリア君、印鑑と依頼書を持って来てくれ」


「はい、畏まりました」


言ってエミリアはギルドマスターのデスクの上から一つの印鑑と中央ギルドから送られてきたクエストという名の依頼書を持ち、再び定位置であるギルドマスターの背後へと戻るとそっと差し出す。


ギルドマスターは一言ありがとう、と言うとそれを受け取り、印鑑で押印するとそこに自分の名のサインを書き込んだ。

印鑑はネックのギルドマスターとしての証明として。

サインは本人であるという事、ギルドマスターが誰であるのかを証明するものとして。

それぞれ意味を持っている。


サインを書き終えると持っていた依頼書をそっと向かいの三人の冒険者へと手渡した。


「それではSランク冒険者パーティ『三牙狼トリアイナ』ネプチューン、ネプトゥーヌ、ネプトゥリア。ケイラーウーノス・Yユーピテル・ティーターン陛下の名の下に、ネックダンジョン『かめさんの迷宮』における失われし秘宝アークの捜索を命ずる」


「「「はっ、謹んで拝命させて頂きます」」」


今ここにかめさんの迷宮における最初の試練が幕を開けた――――かも。

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