現実:セーフエリア
ダンジョンには必ず“セーフエリア”というものが存在する。
ダンジョン毎に設置されている規模や数などに変化は存在するが、大体一定の傾向を示しており5層や10層毎に設置されている事がほとんどである。
もちろんネックにある『かめさんの迷宮』もその例に洩れず10層毎にセーフエリアが設置されていた。
かめさんの迷宮80層、そんな階層に設置されているセーフエリアには現在それなりに数の冒険者たちが休憩や情報交換を行っていた。またもう戻る冒険者などは食料などと素材との交換などの取引も行っている。
ダンジョン内では収納魔法などという高位の魔法を使う事の出来る魔法使いを連れている場合を除き、一度に持てる食料や道具など高が知れているのである。
中には魔法袋等という収納専用ともいえる魔法道具も存在するが、もちろん非常に高価な物になっている為、ランクの低い冒険者などには到底用意できる物ではないのである。
さて、そんな風景を俺は椅子にドカッと座って背もたれにもたれ掛かりながら眺めている。
今いる所はもちろんマスタールームであり、いつもの日課である様々な用事を済ませた俺は正直手持ち無沙汰になったので迷宮内の冒険者たちの様子を見る事にしたのだ。
実は暇な時限定ではあるが、時にはこうしてダンジョン内部にいる冒険者達を観察している。
いや、覗きとかじゃないんだよ?本当だよ?
あ、この娘カワイイな。ちょっと見てようかな……出来れば着替えの所まで、なんて思ってないよ。
これはダンジョン内部をしっかりと監視して異常がないかどうか点検しているんだ。全うな仕事なんだよ、これは。
ダンジョン内にいる冒険者を観察する事にはもちろん意義がある。それは冒険者と呼ばれる者たちがダンジョン内で一体どんな物を欲しているのかを知るためだ。
需要と供給、という言葉がある様に必要なものを必要な人へと提供するという事だ。
ダンジョンとは一種の人気商売である。
ただ高価な宝を配置すればいいわけではなく、ただモンスターを配置すればいいわけでない。
適度に難しく、でも適度に簡単。潜ればそれなりの宝を毎回手に入れる事が出来て安定した収入を得る事が出来なければならないのだ。
確かに冒険者という職業は危険を冒してでも宝を手に入れようとする冒険野郎とも脳筋とも言える奴が多いのは事実だが、それでもやはり自分の命は惜しいし、強者には弱いし権力にも弱いが、弱者には強い。そんな奴が多いのが冒険者なのである。
だからこそ自分の命がある程度は安全で、だけれども収入がいい。その塩梅を考えてダンジョンは運営しなくてはならないのである。
俺はその為にもダンジョン内の道具がいい塩梅になるように調整するためにも、今日もせっせと情報収集をしているのだ。
「いやー本当に、ダンジョンで飯の材料が出るなんて最高だな!」
「まったくだ!いちいち飯で容量を取られないからその分回復やら何やらに避けるから、長くダンジョンに潜っていられるしな」
「このダンジョンくらいだよね。ご飯をある程度楽しみにしながらも探索できるダンジョンなんて。他の所のダンジョンなんてダンジョン内のご飯なんて干し肉とか干し魚とかの干物に堅パンがいい所だもんね。このダンジョンに潜るまでダンジョンで温かいご飯が食べられるなんて想像できなかったよ」
「他の所にも見習って欲しいやな」
「まったくだ!」
そう言って三人の冒険者は大きな声で笑いあった。
セーフエリアでは火を焚いて調理をして匂いを充満させたとしてもモンスターが近寄ってくることはない。全ての匂いや気配は見えない壁で遮られている様にセーフエリアの範囲からは外に出る事はないのである。
つまりこのセーフエリア内ではどんな事をしても大丈夫という事である。
しかし問題もある。それはモンスターからは守ってはくれるが、同じセーフエリア内にいる人類同士ではその意味をなさないという事である。
余談ではあるが、だからこそ冒険者達は少しでも身の安全を守るため、対人類用の防衛装置を持っていることも多い。特に女性に、であるが。
だがこれはいい事を聞いた。他のダンジョンではモンスターのドロップアイテムの中には食料となる物は無い様だし、食料をドロップするのはこれからも続けていこう。
しかし、他のプレイヤーは一体この前のアップデートで追加された日用品などは一体どうやって処分したりしているのだろうか。生肉とかを部屋に飾る趣味のある人なんていないだろうに。
他には一体どんな意見があるのか視点を他の冒険者へと移す。
次に見るのは三人組の男だらけの冒険者集団。しかしむさ苦しさは一切なく二十歳そこそこの好青年で、人当たりも良さそうなイケメンな集団であった。
「一攫千金を狙って今日も潜っては来てみたけれど、一向に宝は見付からないな」
「当り前じゃないか。なかなか見つからない貴重な物だからこそ一攫千金にも価する金が手に入るんじゃないか」
「でもさ、この前はCランクの冒険者が国宝級の物を見つけたんだろう?それも初見で潜って数日で見つけたって言うじゃないか。それなら俺たちだってすぐに見付けられると思うじゃないか」
以前見つかったとされる国宝級の宝である『森の守護者の腕輪』は、発見したCランク冒険者が全員同じ国出身出会った為、ギルドを介して国へと献上された。しかしもちろんただ献上しただけではない。国も国宝級ともなる物を無料で貰ってありがとう、などと言えるような厚顔無恥な事は出来ない程度にはメンツがあるのである。
余程国庫が頻拍していない限り謝礼はするのが昔からの慣例となっており、今回も莫大な金が冒険者集団には支払われた。
「それは単に運が良かっただけに決まっているじゃないか。普通はこうやって毎日コツコツと地道にやっていくしかないんだよ」
「そう……だよな。やっぱりすぐに見付けられるような奴なんてSランクとかの人間やめた様な奴だけだよな」
しみじみと言うその青年の言葉には重い重い実感が籠っていた。
Sランク冒険者。
頭文字をなぞって別名を“戦略級”冒険者とも呼ばれる一騎当千の働きをする者たちの総称である。
たった一人で戦場の状況を一変させてしまうほどの力を持つその者たちは世界を見渡しても数えられるほどにしか存在していない。
もちろん時代によってその数は大きく変動するが戦争や抗争が頻繁に起きている時代ではその数は一気に減り、平和な時代では一気に増加するのだ。これは単に人口の増加や減少が関係しているのだが、現在は頻繁に戦争が起きているわけでもない為にそれなりの数のSランク冒険者が存在している。
「そう言えばこの前聞いたんだが、近々Sランクのパーティの一つがこのダンジョンに派遣されてい来るらしいぞ。何でも今回の国宝の献上とかで他にも目ぼしい物が無いか調査するんだとか何とか」
「なるほどな。今回はそんなに深い所で見つかった訳じゃないが、普通はもっと深い所。最低でも100層は行かないと見つからないって言う話だしな。それを考えればその半分の階層で見つかったとなれば他にもある、と考えるのが普通か」
国宝級の宝が何個も見つかることなどそうは無い。しかしそれは通常発見される階層が100層を超えるような古くから存在するダンジョンであり、かつ100層ともなればほぼ最下層とも言えるような階層であるからである。
だが今回は違う。
見付かったのはその約半分の階層であり、このダンジョンは最低でも100層はあると既に調査が付いている。残りの半分の階層に他の国宝級の宝が見つかったって不思議じゃない。
「ま、なんにしても。Sランクの奴らが来る前に何としても俺らで見つけないとな!」
「「あぁ!」」
三人は掛け声を掛けるかのように大きな声で明日に備えて気合を入れ直した。そしていそいそと就寝の準備をし始めた。
俺はそこまで見た所でスクリーンから視線をずらし少し物思いに更ける。
今までこのダンジョンにSランクなんて言う規格外な奴らは来たことはない。つまりどういった敵なのか未知数な所が大きい。
現在のダンジョンの戦力で大丈夫なのか、現在のダンジョンの罠で大丈夫なのか、現在のダンジョンの造りで大丈夫なのか。不安は尽きない。
これは一度対策を練らなくてはならないかもしれない。
ダンジョン名:『かめさんの迷宮』
ダンジョンマスター:『かめ』
ダンジョンレベル:83/99
ダンジョンランク:Cランク
名声:94/99
所在地:ネック
階層数:147/300
獲得モンスター数:132/225
DPダンジョンポイント:298300DP
ラスボス:『氷霧龍』
裏ボス:『冥王龍』
ボス設定
50層:巨漢
55層:犬海魔
60層:蝙蝠神
65層:飛竜
70層:水龍
75層:幽霊騎士
80層:蛇亀
85層:人面獅子
90層:吸血鬼
95層:太陽狼
100層:悪魔
105層:神殿
110層:番犬
115層:巨神
120層:蛮神
125層:百獣王
130層:死霊王
135層:神喰狼
140層:氷霧龍
145層:冥王龍
その他設定:オート修理ON、ボスランダム設定ON、アイテム自動補完ON、モンスター自動再配置