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気づかない内にそこだけ別世界  作者: あちゃま
第1章 魔王の誕生
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別世界:祝勝会

ギルドに併設された酒場では三人組が歓迎会兼祝勝会を行っていた。


三人が行った偉業、それはたった3人でのダンジョン100層の到達である。

通常であればAランクの冒険者が5人は必要なダンジョン100層、それがたった3人で、それも内2人はBランク冒険者という通常であれば考えられない様な状況で、である。しかし実際はそのBランク冒険者も実力的には十分にAランクであったという事はあるが。


いつもは注文しない様な豪華な料理を注文して、高価な酒も注文した。

これもすべては100層のボスであった悪魔デーモンの素材が結構取れたからである。聖魔法しか効果がないと言われている皮膚を持つ悪魔デーモン、そんな皮膚から作られた防具は対魔法使いにとっては非常に効果的なものになる為高値で取引されており、その生息数も発見数も少ない事がより拍車を掛けている。


懐の潤った3人はすこぶる機嫌がいい。


「しっかし今日は本当に気分がいいな。これでようやく俺もAランクになれるし、やっと師匠おやじに顔向け出来るわ」


「私もですよ。これでようやく報酬の高い魔法依頼を受けられますし、個人依頼も受けられる。きっと報酬がいいんでしょうね」


アグリアントとインディは過去に問題行動をギルド内でまたはギルドクエスト内で起こしてしまった。それによってギルド内評価や依頼不達成という結果を残してしまった。

ランクを上げるには実力だけではない、評価や評判が伴っていなければならないのだ。だからこそ、実力こそあれどランクアップできなかったのだ。

しかし今回の他とは異なった特徴を持つダンジョンのそれも100層到達。それもたった3人でという快挙はそれらすべてを帳消しにしてしまうほどの印象インパクトと評価がされるのだ。


テーブルを囲む3人の顔は皆笑顔であり、酒で仄かに赤くなってはいる。


「でも本当に3人で到達できるなんて思わなかったぜ。いや、2人の実力は以前も道中も見せてもらったから安心はしてたけどな。でもこれで3人ともAランクっていうのはこの町じゃもうトップパーティじゃないか?」


「そうですね。普通なら王都でも十分に活躍していてもおかしくはないですね」


「それならよ、もういっその事王都に引っ越さないか?自分たちの実力を試してみたいんだよ。きっと王都にはもっともっと強者つわものがいると思うんだ。そんな中でやってればもっと上に行けるんじゃないか?」


朱に交われば紅くなる、つまり周りが強者ばかりならば自分も同じくらい強くなれるのではないか。明確な目標はいつも自分の傍にいる、そんな最高の場所ではないのか、そんな風にヴァルナは考えているのだ。


「でもそれで金が稼げるかどうかは分かりませんよ?王都にはいにしえのダンジョンは数多くありますが、新しいダンジョンはないんですよ?つまり最早攻略されてしまっているか、他の追随を許さないほどの孤高のダンジョン、人間界における最難関とも呼べるダンジョンしか存在しないんです。あの『魔王城まおうじょう』とも双璧を成す『龍之巣ドラゴンハウス』くらいですよ」


「それは……うん、無理だな。あんなのは人間やめた奴位しか挑戦しないよ。俺らなら100層どころか80層行けたらバンザイだぜ。」


世界には多くのダンジョンが存在する。その数は無数であり、衰退し消滅してしまうダンジョンもあれば新しく誕生するダンジョンもある。そんあ中でも5つのダンジョンはその難易度と階層において他の追随を許さない。


魔族や魔物が自ら集まり、城下町をも持ち合わせる暗黒の城。見た者全てに戦慄を覚えさせる魔の王の居城『魔王城まおうじょう』。


ドラゴンが徘徊し一切の油断も許さない漆黒の洞穴。入り込む者全てを分け隔て無く無に帰してしまう煉獄れんごくの王国『龍之巣ドラゴンハウス』。


聖職者が死して尚その身を神に捧げようと徘徊するやしろ。神の社に侵入する悪しき者の罪には死の罰を与える偽りの崇拝殿『神殿しんでん』。


自らの力を知るために、自らの限界を知るために、自らの力不足を知るために、ただ存在する巨塔。初心者から熟練者まで集まるマスターのいない『天空てんくう巨塔きょとう』。


それは何時からあったのか。それは何時生まれたのか。それはいつまで在り続けるのか。全容は決して図れない多種多様な魔物の棲み処『古山エンシェントベルク』。


最初の勢いは何処へ行ったのか、すっかりヴァルナの勢いは消滅してしまいがっくりと項垂れている。

流石に悪いと思ったのかインディはここで一ついい案を思いついた。自らの目的にも沿った案を。


「ヴァルナ、かめさんの迷宮でも名声は稼げますよ。だってあの迷宮にはまだまだ奥があるようですし、今この町で一番探索しているのは私たちです。つまり最新情報を持っているのは私たちという事です。それにここだけの話ですが……」


そこで一度言葉を区切り、誰にも聞かれないようにヴァルナの耳元に口を近づけた。


「あそこには伝説の武具アイテムが隠されているらしいですよ」






ギルドマスターは今日も頭を悩ませていた。


何故自分がマスターの地位に就いてからこんなに問題ばかり起きるのか理解が出来ない。

突然ダンジョンが出来たことはまだいい。よくある事ではないが珍しい事ではないからである。しかしそれは普通のダンジョンであればの話。意味が分からないほど他とは違うダンジョンが出来たと思えばダンジョンマスターが攻略のヒントを教えてくるわ、モンスターは見たことのない奴ばかり、人材もいないから攻略もなかなか進まない。

そして今日また問題が呼んでもいないのに向こうからやって来た。


「そしてこれが本日発見された伝説とまで言われた森の守護者ハイエルフの使っていたとされる腕輪になります。見た通り本物なのは間違いないでしょうし、何よりも魔力の高い者であれば可視出来るほどの魔力を帯びているそうです。これはすでに確認済みなので間違いないでしょう」


自慢のブロンドオールバックは所々崩れてしまっており、頬を以前に比べるといくらか痩せてしまっている。デスクワークが多いのに痩せてしまう程苦労が多い証拠である。


目の前のグリーンの長髪女性である秘書はそう言ってテーブルの上に置いた一つの腕輪について説明した。


しかしギルドマスターの耳には半分も入っていない。伝説級の武具だか何だか知らない。どれほど価値があるものなのかも知らない。ただ分かっているのは目の前のコイツが全ての問題の引き金だという事だ。

問題となっている証拠は今目の前にある。コイツさえなければこの問題は解決される。知っているのは自分と秘書である目の前の女性、そして発見者と鑑定した魔法使い位なもの。そいつらの口さえ封じれば何の問題もない。つまり問題はなかったことになる。


ギルドマスターは一つ頷くと今考えた通りの行動をすることにした。


「いいかい、これは『森人エルフの腕輪』だ。ちょっと珍しいだけのただの森人の腕輪だ。それに一個しか発見されていないという事はもしかしたらもう無いかもしれない。よって次に何か発見されたらその時考えよう」


秘書である女性は言葉を失っている。それはそうだ。

最もらしい事も言っていなければ武具アイテムの名前さえ変えてしまい、問題は後回しにするという。日頃の苦労を知っていてどれだけ疲れているかも知ってはいるが、これは如何なものかと。


「エミリア君、いいね?」


「……はい」


上司の言葉の裏にある見えない圧力に屈した秘書エミリア。

長い物には巻かれよ、これが世を上手く渡る世間一般の処世術なのだ。

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