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気づかない内にそこだけ別世界  作者: あちゃま
第1章 魔王の誕生
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別世界:森の守護者の腕輪

二人のお調子者と一人の苦労人が100層で悪魔デーモンとの激戦を繰り広げている頃、上層ではとある冒険者集団が今日も一生懸命鍛錬と探索を行っていた。探索クエストを受けた彼女らの目的は第一に無事に帰ることを前提にしているが、次にはもちろん強くなることを目的にしている。


レベルという概念はこの世界には存在しない。いや正確に言うならば、ダンジョンマスター側に所属しているかめさんの迷宮の主以外には全てのダンジョンマスターや冒険者には存在しない。毎日鍛錬をしてダンジョンで探索してモンスターを倒し、自分がどれだけ強くなっているのかを確認しなければならない。ランクを上げる時にはギルドにはもちろん試験がある為そこで自分の力量を図ることは出来るが、試験して欲しい冒険者は大勢いるためそんなにちょくちょく行ってくれるわけではないし、何回も試験に落ちれば最悪数年間は試験さえ受けられなくなってしまう。だからこそ試験を受ける前には必ず自分の力量は自分で図っておかなくてはならないのだ。


彼女たちもそんな人たち。今は次のBランクになるために一生懸命に自らを高めている最中なのだ。


「これはどっちに進んだからいいのだろうな?」


後ろにいるパーティメンバーにリーダーでもある彼女、セリーナは声を掛けた。


彼女たちは冒険者パーティ『月の演舞ルナティック・ダンス』として活動している冒険者集団。ネックのギルドでこの迷宮の探索クエストを受けてから早1週間、宿屋と迷宮を一日おきに往復して何とか54層まで来ていた。

Cランク冒険者である彼女らであればもっと早く、もっと下層へ探索を進めることも出来ただろう。しかし彼女たちはしない。何故なら彼女らの最重要ポイントは無事に帰る事なのだから、少しでも慎重に進んでいたのだ。少し慎重すぎる気もしないでもないが。


「そんなの決まっているだろう。今日の占星術で私は右には出会いがあるって言っていた。という事はつまりは右に行けば運命の出会いがあるってことだ!」


パーティの太陽とも言える元気なミレイが持っていたハンマーを通路の右側へと向けていた。


かめさんの迷宮の詳細な地図はダンジョンマスターが出した50層までしか存在していない。しかし此処は54層、地図は存在していない未知の領域となっている。

一番手で迷宮に来た彼女たちが過ごし始めてから1週間経ったが、大まかな地図は出来上がってはいるが詳細なデータと確認作業が終わっていないことからまだ地図が出回っていないのだ。だから51層からは自らの足で地道に探索していくしかないのだ。


そんな彼女たちは分かれ道に出会ってしまい、どちらに向かえばいいのか分かっていない。というよりも迷っているのだ。もしかしたらただの行き止まりかもしれないし宝があるかもしれない。ボスではないにしても、たまに遭遇してしまう徘徊モンスターが出てくるかもしれない。徘徊モンスターはボスモンスターよりも強い、これは冒険者の間では常識である。


「ミレイの言っている占星術って確か『週刊食い倒れ紀行』の最後のページの端っこに乗っている奴じゃないの?確かそれって編集長さんが面白半分に枠が余っているからって自分で書いているって噂じゃなかったかしら?」


皆のお母さんオフィーリアは食と美容には詳しい。というのも寄る年波には勝てないので食と美容に気を使っているのが正直な所なのだが。


「違う!あれは有名な占星術師であるセン・セイジューツさんが占ってくれているんだ。そんなどっかの変な人が書いているものじゃないんだ!だからセリーナ、右に行くんだ!」


「有名な占星術師って言ったって、セン・セイジューツって……」


「あらあら、ミレイは純粋なのねー」


「しかしオフィーリア。実際どう思う?右か左か。正直私は左の方がいいと思うんだ。こう何というか私の第六感シックスセンスがビンビン来ている。きっと神様か何かが私に神託下しているんだと思うんだ、うん」


「えーと……それはそれでセリーナの頭がオカシイんだと思うんだけど……。レイアどうですか?何か感じますか?」


苦労人のオフィーリアはこういったことに敏感なレイアに尋ねることにした。職業が盗賊シーフである彼女にはトラップやモンスターの気配を感じることが出来るためこういった場面では一番役に立つのだ。そもそもセリーナとミレイは何故レイアに尋ねずに自分の直観に頼ろうとするのか意味が分からなかった。


レイアはオフィーリアに尋ねられると一つ頷くと目を瞑った。時間にして数秒、彼女は目を開けると一言呟いた。


「……右」


「という事なので、セリーナの案は却下して、ミレイの言う右に行きましょうか」


未だにうんうん唸っているセリーナを置いて3人はさっさと右の通路に行ってしまう。セリーナが居なくなったのに気付くのはもうちょっと先である。






4人が選んだ通路はどうやら当たりだった。


目の前にはダンジョン名物宝箱。しかし普通の宝箱と違うのは圧倒的に大きいこと。そして圧倒的にボロいことだ。


「なあ。こんなボロい宝箱見たことないんだけど結構あるもんなのかな?」


「そんな訳はないでしょう。普通宝箱とは色は赤や青と様々ですが決まって豪華な様相をしています。それはダンジョンのランクなどでも変わってきますが、最低ランクのダンジョンであっても金や細かな細工がされているものです。しかしこれは、何というか」


「そうですね。ボロッちいですよね」


行き止まりになっている通路の地面の上に無造作に置かれた宝箱。

しかしそれは材質は木であろうか。所々割れているしヒビも入っている、豪華な装飾は一切なく木を組み立てた木箱という言葉がピッタリ似合う。それもボロッちい木箱、という言葉が。


「……でもトラップの気配はない」


「レイアが大丈夫という事は開けてもいいという事だな。どちらにしろここまで来たのだから開けるしか選択肢はないのだがな」


意を決したセリーナは1人宝箱に向かう。

近くで見るそれは遠くで見た時よりもさらにボロく感じた。シミも多いし虫にも食われた跡がある。


「じゃあ、開けるぞ」


「おう!」


ミレイだけが大きな返事をしてくれる。オフィーリアはニコニコしているだけ。レイアはボケーとしている。


えい、とちょっと可愛らしい声と共に蓋を開いたセリーナは恐る恐る中を覗き込んだ。


「嘘……これって……」


驚きのあまり声にならないセリーナを不審に思い、見た目の通り宝箱とは言いつつも中身ナシだったのだろうか、等と思いながら控えていた後ろの3人は徐々に近づいていく。そして近くまで行くと未だに固まっているセリーナの後ろから覗き込むように宝箱の中へと視線を移す。


「「「えっ!?」」」


普段滅多に大きな声で驚かないレイアでさえ声を出し驚いている。

そう、だって宝箱の中には、


「これって森の守護者ハイエルフの腕輪、だよな?あの」


「えぇ、そうだと思いますよ。場違いですけど」


「……ビックリ仰天」


森の守護者の腕輪。

中心にはめ込まれた大きな新緑の魔石は圧倒的なまでの存在感を放ち、繊細な細工は現代では到底再現できない失われた技術。


森の守護者ハイエルフ、それは大昔に存在したエルフの始祖、今は亡き伝説の存在、エルフの中のエルフ。魔法に精通し、何世代も先に居たとされる賢者の中の賢者。そんな者たちが使用したとされる腕輪、一体それにはどれほどの価値があるのか想像も出来ない。


彼女たちはダンジョンマスターが起こしたチョットしたミスによって幸運に出会ったのだった。

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