別世界:100層の悪魔
その日はいつにも増してダンジョンの中が熱狂していた。いつもはポツポツと配置したモンスターが倒されては再配置して、また倒されて再配置しての繰り返し。正直低ランクの冒険者しか来ないような俺のダンジョンではしょうがなかった為、50層以下の下層と呼ばれる低層でしか起きなかったことだった。それが今日は50層以上の上層では起きていた。
ログインしてすぐに現れたモンスター撃破ログと再配置ログの数に驚いたし、ずいぶんとポイントが減ったことにも驚いた。今もログの更新が続いたまま。
急いでダンジョン内を確認すると、そこにはいつもの冒険者の姿が見られた。
下層で一生懸命1ランクモンスターを狩ってはドロップアイテムを手に入れる初心者冒険者たち。ちょっと強くなったと思い、調子に乗って3ランクモンスターに挑んで返り討ちにあっている駆け出し冒険者。相も変わらずいつもの風景で安心感を与えてくれるこの風景。
一か所だけ異質な所を除けば、だが。
とある冒険者の集団。このダンジョンに来る冒険者の中では1番ランクが高く、そして最も探索を深くまで行っている冒険者たち。違っている所と言えば“2”人組だった冒険者が“3”人組になっているという所だけ。
早朝からダンジョンに潜ってからすでに何時間経ったのだろうか分からない。それはダンジョンの中では太陽の光が一切入ってこないため日光による時間の経過は分からないからだ。
しかし高ランクの冒険者になれば高価な魔法時計を手に入れることも出来るが、それでもAランク冒険者以上の極僅かな人たちだけだ。普通の冒険者たちは下層と呼ばれる入口から入ってすぐの所で探索するのだからダンジョンから脱出することも容易い。しかし上層と呼ばれる深い場所まで潜ると簡単には脱出できない。
つまり高ランクの冒険者にとっては魔法時計は非常に重要性が増すが、低ランクの冒険者にとってはただの荷物にしかならないのだ。
現れた2ランクモンスターの豚人を一刀両断したアグリアントは刀身についた血液を拭きながら後ろに振り向いた。
「さて、いよいよ目的の階層だぜ。ここまで魔力が温存できるんなんてやっぱヴァルナに入ってもらったのは大正解だったな。インディもしっかり援護頼むぜ」
「いやいや、そうでもないよ。というか殆どアンタが真っ二つにしているんだ、俺はほとんど何にもしてないよ」
「私はボス戦でこそ力を発揮するんです。それにヴァルナの言う通り、ほとんど貴方が剣で真っ二つにして一瞬で終わっているんですからいいじゃないですか。対して疲れてもいないでしょ?」
「何を言っているんだ。俺だって疲れてはいるぞ?ただ日頃の鍛錬のお陰ですぐに回復するけどな!」
見せつけるのは筋肉隆々の鍛えられた剛腕。そこから振り下ろされる大剣の威力は押して図るべし。肌にうっすら浮かぶ汗は彼のここまでの疲労を感じさせる。
対して一切汗もかかず息も乱さずボケェっと立っている二人からはまったく疲労が感じない。
「兎に角いよいよ奴まであと階段一つだ。ヴァルナ頼むぞ?攻撃からは全力で守ってやっからよ」
「私も補助魔法で援護しますからトドメはお願いしますね」
「あぁ、俺のこの拳と鉄甲で必ず倒してやるよ。だがなアグリアントさんよ、流石に悪魔なら補助魔法があれば倒せるよ。寧ろ魔術師を守るのが普通なんじゃないのか?」
「あ、確かに。そうだったな、あははははははっ」
今まで二人で冒険をしていた弊害か、通常の冒険者であれば真っ先に狙われるような機動性の低い者を守る、という常識をすっかり忘れてしまっている重戦士のアグリアント。額に手を当て盛大な笑い声がダンジョン内に響き渡り、釣られてヴァルナも笑い出す。
二人はどこか似ているのかもしれない。主にお調子者という所が。
「はぁ……あ、頭痛が」
インディの受難はまだまだ続く……というより、始まったばかりか。
画面の向こうでは激戦が繰り広げられている。しかし苦戦している様子はない。寧ろその表情からは余裕や楽しみといった感情が見て取れる。
空中を闊歩しながらも悪魔は的確に狙いを定め、手から放たれる闇魔法ダークランス、その数実に10本あまりの連撃。
的は自分を狙ってきた冒険者3人組、その中の一人である男。
十数メートルもの距離を一瞬で詰めるそのダークランスは確かに彼の体を貫くはずだった。しかし彼の顔に見えるのは―――笑い。
「そんな魔法で俺に傷をつけようなんて笑っちまうんだよ!」
マスタールームに大音量で響くのはまさしく彼の声。何の心構えも身構えてもいなかった為、ゲームだというのに耳がキーンとしてしまう。音量調査するのを忘れていた。
手に付けられていたのは鉄甲、そのまさに甲で迫るダークランスを弾き落としていく。低ランク冒険者では何も考えることなく逝くことが出来るような速度に対しても冷静に、むしろあざ笑うかのような余裕の対応。
弾き落とし地面に当たったダークランスは爆発し地面を抉り、辺りには土煙が漂い冒険者の男の姿を隠す。視界が奪われた悪魔と男、これは戦闘中の一瞬の休息。死闘は始まったばかりなのだから。
ダンジョンに置いてボス部屋には様々な種類が存在する。それはそうだろう。考えても見て欲しい、モンスターという存在を。
軟体生物と呼ばれる全長30センチほどのモンスターから龍系統の最大30メートルにもなる巨大なモンスターまで実に大きさは様々なのだ。生息環境も水中から空中、地中に地上と異なっていることからボス部屋というものはその部屋のボスに最も適した環境に変化する。そう、勝手に変化してくれるのだ。これにはシステム様様である。
今までに何回も挑戦してはダメだったイレギュラーモンスターの悪魔、それに唯一といっていい挑戦者となっていた冒険者2人組が今回は3人組になって戻って来た。
剣士にしては有り得ない様な大剣を背負い、本来の主力武器である盾を持たない重戦士、ヘラヘラとしていて一見頼りなさそうで気苦労も多そうな魔術師、そして今回新加入しただろう一切の武器を持っていないにも関わらず鍛え抜かれた体を持つ男。職業は間違いなく格闘系だろう。
拳には煌びやかではないし汚れが所々に見受けられはするが、素材は一級品の鉄甲が画面の向こうに見える。そして悪魔対策の為の聖属性が付与されている事の証である青白い光を纏っている。
あ、これは積んだな。
とうとうとも言うべきか、それともやっとと言うべきかは分からないが遂に俺のダンジョンも100層の壁を突破されてしまう。
嬉しいかと問われれば嬉しいと答えるし、悔しいかと問われれば悔しいと答える。でも正直嬉しさの方が勝っているのはまだ心に余裕があるのだろう。
俺の最強モンスターにして特典として貰った卵から生まれたモンスターが控えているのだから。
ダンジョン名:『かめさんの迷宮』
ダンジョンマスター:『かめ』
ダンジョンレベル:70/99
ダンジョンランク:Cランク
名声:43/99
所在地:ネック
階層数:144/300
獲得モンスター数:107/216
DPダンジョンポイント:256700DP
ラスボス:『氷霧龍』
裏ボス:『冥王龍』
ボス設定
50層:半魚人
55層:鬼王
60層:闇精霊
65層:巨漢
70層:飛竜
75層:吸血鬼
80層:人面獅子
85層:幽霊騎士
90層:双頭犬
95層:巨鯨海獣
100層:悪魔
105層:多頭海蛇
110層:番犬
115層:蛮神
120層:百獣王
125層:死霊王
130層:神喰狼
135層:氷霧龍
140層:冥王龍
その他設定:オート修理ON、ボスランダム設定ON、アイテム自動補完ON、モンスター自動再配置