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Ib  ~不思議な美術館~ 作者:大藪鴻大

ゲルテナ展覧会

 初めての方、はじめまして。そうでない方、こんにちは。大藪鴻大です。ついに、二次創作に手を出してしまいました。
 本作は、kouri様制作のフリーゲーム「Ib」の二次創作です。「なんだよ、パクリかよ!」と罵声を浴びそうで怖かったのですが・・・。勇気を出して、投稿することにしました。
 それにしても、kouri様の「Ib」は名作です。二次創作を敬遠していた私が、二次創作に手を出してしまったくらいですから。ぜひ、kouri様の「Ib」、プレイしてくださいね。無料ですよ!

 それでは、「Ib ~不思議な美術館~」をお楽しみください。
「さあ、着いたぞ、イヴ。」
 お父さんの声に、イヴは顔を上げる。イヴは、9歳の少女だ。清潔感のある白いシャツに、大きな赤いリボンを首に巻き、赤いスカートを履いていた。茶色がかった少し長めの髪が似合う少女だった。目は大きく、肌は白い。
「イヴは、美術館は初めてだったよね。今日、観に来たのは、『ゲルテナ』っていう人の展覧会で、絵のほかにも、彫刻とか、いろいろと面白い作品があるらしいから、きっとイヴにも楽しめると思うぞ。」
「イヴ、ハンカチは持ってる?」
 お母さんが確認してくる。イヴはハンカチのしまってあるポケットをそっと触り、そこにハンカチが入っていることを確認する。
 それは、お母さんがこの前の誕生日に買ってくれた白いレースのハンカチだ。イヴはそのハンカチをとても気に入っていて、いつも持ち歩いているのだけれど、お母さんは、しばしば、そのハンカチを持っているか、イヴに確認してくる。
「ちゃんとポケットに入れておくのよ?なくさないようにね。」
「それじゃあ、受付を済ませてしまおうか。」
「そうね。あと、パンフレットももらいましょ。」
 イヴのお父さんとお母さんは、受付で何やら手続きを始める。イヴは、早く美術館の中を見て回りたくてたまらなかった。
「お母さん。先に美術館の中、観てきていい?」
「え?仕方ないわね。いいわ。先に行って見てらっしゃい。いい?周りの人の迷惑にならないようにね。まあ、あなたなら心配ないと思うけど。」
 イヴは優秀な子供だった。子供の割に、言葉の数が少ないような気もする。けれども、それは裏を返せば、落ち着いているということであり、さらに周囲の状況を把握し、行動することができる子供だった。周囲の大人たちからは、「よくできた子供。」とか、「親の躾がしっかりしている。」と感心されるほどだった。
 そんなイヴでも、やはり子供なのだろう。お母さんが許可すると、イヴは気持ちを抑えきれずに、駆け足で美術館の奥へ進んでいった。

 展覧会の入口の近くに、貼り紙がしてあった。イヴは、それを読む。

『ようこそ、ゲルテナの世界へ』
 本日はご来館いただき、誠にありがとうございます。
 当館では、現在『ワイズ・ゲルテナ展』を開催しております。
 ゲルテナが生前描いた怪しくも美しい絵画たちを、どうか心ゆくまでお楽しみ下さいませ。

 そこには、お父さんがイヴに言ったことと同じことが書かれていた。イヴは、奥に進む。
 イヴが美術館の奥に行くと、まず目に入ったのが、地面に敷かれている絵だった。海の底なのだろうか。ダークブルーが背景の絵で、チョウチンアンコウのような生物が描かれている。覗き込めば、その暗い深海に吸い込まれてしまいそうな、奥行きを感じさせる絵だった。
 さすが、ゲルテナ先生だ、と呟く声が聞こえたけれど、イヴにはなにがどうすごいのかはよく分からなかった。ただ、なんとなく、怖いという印象は受けた。イヴは、作品のタイトルを読む。
「深海の―」
 難しい漢字が使われていて、イヴには読めなかった。イヴは先に進む。

 イヴが一階を一周しようとするとき、大きな赤いバラの作品の前で二人の男性がもめているのが目に映った。一人は美術館の人。もうひとりは、黒いスーツを着た若い男性だった。格好はイヴのお父さんとそっくりだったが、イヴのお父さんよりも、随分若い感じだった。
「ゲルテナの作品は、これだけではないはずだ。他の作品はどこにある?」
「本館にあるのは、ここにあるものだけです。」
「いや、そんなはずはない。隠したって無駄だ。ゲルテナ先生はもっと優れた作品を制作されたはずだ。なのに、ここにはそれがない。肝心のあれも―。」
 スーツを着た男性が、美術館の人に食ってかかっている。男性の声は徐々に大きくなっていき、周りの人も迷惑そうに男を横目で見る。どうやら、スーツを着た男性は目的の作品がなかったらしい。一方的に怒鳴り散らす若い男性に、美術館の人は困惑の笑みを浮かべている。
 すると、警備員がやってきて、一言二言話したあと、大声を出している男性を連れて行った。連れて行かれている間、男性は罵りの言葉をずっと喚いていた。
(あの人、なんだったんだろう?)
 イヴは、誰もいなくなった大きなバラの前に立つ。茎が天井にまっすぐ伸びていて、近くまでくると、赤い花の部分を見るためには首を限界まで曲げる必要があった。
「ねえ、あの花ビラ、拾ってもいいかな?」
 小さな男の子が、イヴに話しかけてくる。イヴよりもさらに小さな男の子がしゃがみこみ、床に置いてあるバラの花ビラを見つめていた?
「作品だから、触っちゃいけないと思うけど―。」
 イヴが優しく指摘すると、小さな男の子は頬を膨らませ、イヴを睨みつけてきた。
「なんだよ、ケチ!」
 男の子はそう叫ぶと、走ってどこかに去っていってしまった。イヴは、その小さな背中を見送る。
 イヴは正しい。それは間違いない。ただ、男の子には、男の子なりの理由があったのだ。男の子は、大好きなお母さんにその花びらをプレゼントしたかったのだ。もちろん、イヴはそのことを知るはずがない。イヴは、もう一度、大きなバラの作品を見上げた後、その作品をあとにする。

 先に進むと、床にある深海の絵が見えてくる。どうやら、一階を一周したようだ。受付の方を見る。そこにお父さんとお母さんはいなかった。一階を回っているとき、イヴはお父さんとお母さんの姿を見かけなかった。
(二階にいるのかな―)
 イヴは階段を上り、二階に向かう。
 二階にたどり着くと、そこには一階と同じように絵や作品が展示してあった。それぞれの作品の前には、小さな女の子を連れたお母さん、立派な白いヒゲをたくわえたおじいさん、腕組をして何度も頷いているイヴのお父さんと同じくらいの年齢の男性、ボロボロのコートを着た若い男性など、色々な人がいた。しかし、そこにお父さんとお母さんはいなかった。
「きれいな人だね。でもこれ、実在の人物なのかしら?」
「ゲルテナは、実在する人はほとんど描いてないらしいよ。」
「でも、本当にいるみたいじゃない?すごいわぁ。」
 そんなカップルのやりとりが、イヴの耳に飛び込んできた。イヴは、ちらりと絵を見る。そこには、赤い服を着た女性の絵があった。たしかに、想像で描いたようには思えないほど、リアリティがあった。
 さらに先に進むと、それぞれ赤、青、黄のドレスを着た、首から上がない石膏像があった。その作品の前には、男性がひとりいた。イヴは、その作品のタイトルを見る。
『無個性』
「僕が思うに、ゲルテナ先生のいう個性というのは、顔のことだと思うんだよ。顔には、色々な表情が現れるのと同じように、その人の個性も現れる。君もそう思うだろ?」
 作品紹介を見ていたイヴは、突然、男性にそう尋ねられる。イヴにとって、男性の言っていることは少々難しかった。イヴは、なんと答えたらよいのか分からず、首をわずかに傾ける。
「まあ、君には少し難しかったね。ごめんよ。」
 男性はそう言うと、再び作品と向き合う。イヴは、男性の言っていることがよく分からなかったが、いまにも動き出しそうな石膏像だな、と感じていた。
(お父さんとお母さんを探さなきゃ。)
 作品に見入っていたイヴは、慌ててその作品を後にする。左から来たから、右に行ってみよう。イヴはそう思い、早歩きで右の方に歩いて行った。

 お父さんとお母さんは、なかなか見つからない。ふと気がつくと、周りが異様に静かになったような気がする。イヴは辺りを見渡す。すると、一際大きな絵が飾ってあるのが見えた。イヴはその絵に近づいてみる。
 この美術館で一番大きいのではないだろうか。背景は黒く、暗く怖い印象を与える絵だった。これほど立派な絵であるにもかかわらず、誰ひとりとして、その絵の前にはいなかった。イヴは、作品の下にあるタイトルを見る。
「―の世界」
 イヴがその絵のタイトルを見たとき、突然、美術館の明かりが消え、辺りが暗くなる。
(停電?)
 しかし、すぐに明るくなる。イヴは、ほっと胸を撫で下ろす。左からきたイヴは、右に進む。
 少し進むと、イヴは首をかしげた。
(さっきから、人を見かけていないような気がする・・・)
 イヴの歩く速さが自然と速くなる。気がつくと、一階に続く階段が見えてきた。二階も一周したようだ。イヴは急に不安になる。さっきまで、ここにいた人たちがみんないなくなっていた。イヴは慌てて階段を下りる。
 階段を下りる途中、美術館の明かりが点滅し始め、ついには明かりが消えてしまった。美術館が暗闇に包まれる。
(また停電?)
 イヴが階段を下りる。ふと、受付の方を見ると、受付の人もいなくなっていた。
(何が起きたの?お父さんとお母さんは?)
 イヴは怖くなって美術館の入口に向かって走り出す。そして、そのままの勢いで美術館の扉を押す。けれども、扉はビクともしなかった。イヴが押しても引いても、きつく閉ざされたままだった。扉には鍵がかかっているようだった。
(どうして?どうして開かないの?)
 ふと、遠くから重い音がかすかに聞こえてくる。イヴは、耳を澄ませる。どうやら、足音のようだ。足音が静かになった美術館に響いている。
(誰かいるのかな?)
 足音はどうやら、二階から聞こえてくるようだ。イヴは意を決して、再び二階に戻る。
 二階に戻ると、足音が先ほどよりもはっきりと聞こえるようになってきた。どうやら、二階で間違いないらしい。暗闇の中だと、作品たちがより一層不気味なもののように思えてくる。
(あの絵のあるところかな・・・)
 イヴは、先ほど見たこの美術館で一番大きいと思われる絵のところに向かう。イヴが進むたびに、重い足音は大きくなってくる。
 イヴが絵のあるところにくると、急に静かになった。足音がなくなったのだ。
(あれ?なんだろう、これ?)
 イヴの目に映ったのは、絵の裏から流れ出ている青い液体だった。イヴは近づき、その青いものをよく見てみる。絵の具のようだった。
 ビチャ!
 突然、イヴのすぐ後ろで液体が飛び散るような音が聞こえた。イヴは、おそるおそる振り返ってみる。すると、先程まで何もなかった床に、赤い文字が浮かび上がっていた。

 したにおいでよ イヴ
 ひみつのばしょ おしえてあげる

 イヴは、しばらくその場から動けなくなった。いろいろなことが一度に起きて、まだ幼いイヴには、事態を把握することができなかった。お父さんとお母さんに助けを求めたくもなった。けれど、イヴは勇敢だった。何回か大きく深呼吸したあと、イヴは落ち着きを取り戻した。
(このままじゃ、何も変わらない。とにかく、一階に行ってみよう。)
 イヴは階段を下り、一階に戻る。階段の手前から、床に青い絵の具が落ちていた。よく見ると、それは足跡だった。
(これをたどればいいのかな―)
 イヴは、青い足跡をたどる。青い足跡は、暗闇の中でもほのかに明るく、たどるのは簡単だった。
 ずっと青い足跡をたどっていると、あるところでパッタリと足跡がなくなっていた。
(ここでいいのかな?)
 イヴが足跡の消えている場所に立つ。すると、イヴの足が沈んだ。
(あっ!?)
 足が沈んだあと、バランスを崩したイヴは倒れ込んだ。倒れ込んだとき、水がはじける音がした。周りが暗かったため、イヴは今、自分が深海の絵に足を踏み入れたことに気がついていなかった。イヴの体は深海の底に向かって、ゆっくり、そして静かに沈んでいった。
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