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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

序章 勇者ケージ編

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お世話になりました

 まだ日が昇って間もない早朝、三辻恵二は練兵場内で体を動かしていた。毎朝誰よりも早く起き日課のランニング・筋トレをし、その後一心不乱に短剣を縦に横にと振るう。

 恵二が振るっている短剣はマジッククォーツと呼ばれる魔力を含んだ鉱物でできている。その短剣の切れ味はとても鋭く、かなり頑丈に仕立て上げられている。ドワーフ鍛冶師カルジの自信作である。結局カルジは、剣ではなく短剣を恵二の為にこしらえた。

 恵二は数日前のカルジとのやり取りを思い出す。



「お前に作ってやるのは短剣だ」

「短剣、ですか?」

 思わず聞き返してしまう恵二。自分が頼もうとしたものは剣であったからだ。確かに前回のクマとの戦闘では短剣に命を救われた。そちらも可能ならば強化したいと思っていた。しかし、それよりも先にメインの武器となる長剣を買い換えたかったのだ。そんなことを考えていた恵二にカルジはハッキリと言う。

「ケイジ、お前に剣は向かない。短剣がいい」

「・・・どうしてそう思うんですか?」

 初対面の恵二にこうハッキリと言うのだ。何か根拠があるのだろうとドワーフに問いただすが、返ってきた答えはあんまりな言葉であった。

「――感だ!」

「・・・え?」

 思わず聞き返してしまう。あれこれと質問された上に体をあちこち調べられた恵二は、もっと論理的な根拠があるのかと思っていた。それが感だという。思わず訝しげな眼をカルジに向けると鍛冶師は反論する。

「感といっても長年、幾多の戦士を見てきては武器を打ってきたこのワシの感だ。聞いてみる価値はあるかと思うが?」

「・・・じゃぁ、なんであれこれ質問したり、体を触ったりしたんですか?」

「そりゃあお前、気になったからだ」

「・・・・・・」

 この人に武器を任せて大丈夫だろうかと本気で考えてしまう。今ならまだ間に合う。大人しく最初の予定通り武器屋で買い揃えた方がいいのではと思い始める。そんな恵二の心情を察したのか、ドワーフは説得を続ける。

「不満ならまぁ、尤もらしいコトも言えるぞ。まずお前さんは魔力が少ないのだろう?」

 そう、恵二は他の勇者たちと比べるとその魔力保有量はちっぽけなものであった。一般の魔術師と比べても平均以下である。だからせめて武器の強化をと思ったのだ。そう口にするとカルジはこう告げる。

「しかし、剣で斬りかかっても相手が身体強化の魔術持ちなら分が悪かろう?そりゃぁ剣の腕前でカバーすることはできるだろうが、お前さんにそこまでの技量はあるのか?」

 そう言われるとぐうの音も出ない。先程バルディスに剣の腕も磨けと釘を刺されたばかりであったからだ。ドワーフはさらに説得を続ける。

「その点、短剣ならリーチの問題はあるが素早さなら引けを取らない。それに狭い場所なら有利だぞ?」

 成程、短剣は短剣で長所があるのかと思い直す恵二。しかし自分に短剣を扱いこなせることが出来るのかと首をひねる。しかし、自称経験豊富な鍛冶師の感に期待してみるのも悪くはない。試せるものは何でも試したい状況なのなのだ。
 結局短剣の制作に了承すると、恵二は値段は幾らかとカルジに尋ねる。

 実は恵二たち勇者には、お給料が支払われていた。戦力的にはまだまだの恵二にも、見習い騎士並の給金が手渡されていたのだ。訓練に明け暮れていた毎日。恵二にお金の使い道など無かったのでそれなりに額はあった。
 手持ちの予算を告げると十分だと答えるカルジ。短剣の引き渡しは三日後になるらしい。



 そして出来上がったのがマジッククォーツ製の短剣だ。少量でも魔力を通すと、なんでも魔術すら斬れるとのことだ。そのまま魔力を通さずとも、そこそこの強度を誇る。本来そのレベルの短剣は、とても恵二が支払った額では手に入らないほどの逸品だった、というのは後日わかった。

 改めてお礼を言おうと思った恵二であったが、鍛冶屋を訪れるとドワーフは不在であった。そうえいば別の場所に住んでいるというドワーフ本人の話を思い出す。仕方がない、また次の機会にお礼を言おうと引き返した。



 短剣で訓練をし始めてから更に三か月、恵二は行き詰っていた。

 どうにか外へ冒険に出る為の力を身に着けたい。そう思って毎日短剣の特訓欠かさなかった恵二。剣の師であるバルディスは、最初こそ短剣を振るう弟子を見て顔をしかめた。しかし相変わらず努力を続ける恵二に根負けし、再び訓練に付き合ってくれた。
 他の騎士は、剣でなく短剣で戦う恵二を見て“卑怯者”だの“落ち零れ”だの陰で罵った。勇者として召喚されて置きながら、大した実力のない恵二の王城内での扱いは段々と酷くなってきた。

 更に悪いことにバルディスの特訓を続けても一向に腕は上がらず、魔力も増えない。未だスキルの修得も出来ていない恵二はいよいよ城内に居場所が無くなってきた。

 他の勇者たちはそんな肩身の狭い恵二に気遣ってくれるのだが、それが却って辛い。

(・・・そろそろ、覚悟を決めるか)

 ある日、恵二は国王に謁見を求めたのだ。



「・・・この城から出て行きたい、と?」

「はい、王様」

 王様の問いに答える恵二。今この謁見の間には、ルイス国王にランバルド魔術師長。それにオラウ宰相を始めとした国の重鎮と、最低限の護衛の兵のみが在室していた。

「それはまた急だな、坊主。理由を聞いてもいいか?」

 そう問いただすランバルド。彼にはこの世界の魔術のイロハを教わった。尤も魔力保有量は全く増えず、初級の魔術を少ししか教われなかったのだが。

「実は前々から考えてはおりました。私はこの世界を冒険してみたいのです」

 目の前の魔術師だけではない。バルディスを始め色んな人のお世話になった。せめて恵二は自分の気持ちは偽らず、出て行きたい本音を語った。自分には夢がある。それに今の王城に何時までも半端者の自分が居座るのは居た堪れないと。

 恵二の話を聞いた一部の重鎮たちは、何を恩知らずなマネを、そんな勝手が許されるものかなど罵ったがすぐ国王に一括され口を閉ざす。それから国王は潜思した後、こう告げた。

「いくら非常時だとは言え、勝手に召喚したことは我らの落ち度だ。ケージ殿の面倒は王国が見るべきだと思うが・・・」

 国王も恵二の城内での扱いは聞き及んでいた。強権で持ってそれを改善することはある程度はできる。しかし、権力では決して人の心までは変えられないと王は理解していた。そんなことをしても更に恵二の立場を悪くするだけだ。

 国王は深くため息をついた後、決断を下した。

「・・・わかった、そなたの気持ちを汲もう。ある程度の支度金も用意しよう。しかし、一度城を出たならば、もう二度と元の立場には戻せんぞ?」

 後戻りはできないぞ、と恵二の覚悟の程を確かめる国王。それに恵二は即答する。

「――はい!私の気持ちに変わりはありません」

 王の最後の情けにキッパリと思いを告げる恵二。これで恵二は勇者でもなんでもない。今日からはただの宿無しだなという思いを即座に切り替える。

(・・・いや、違う。俺は冒険家だ!)

 そう、ここから先は後ろ盾の無い身一つの旅が始まる。不安とそれ以上の期待に体を震わせる恵二。そんな恵二に国王は更に話を続ける。

「ケージ・ミツジ。城を出て行くにあたって一つ頼みがある。これはそなたにも必要なことだ。心して聞いてくれ」

 そう告げる国王。話の内容に思い当たらず首を傾げる恵二。黙って国王の言葉に耳を傾ける。

「外では極力、異世界人であること、ましてや勇者であることを公言しないで貰いたい」

 そう告げ国王はその理由を説明する。なんでも近々勇者たちを周りの国々に正式に発表するのだという。これは周りで不穏な動きを見せている国家や組織に対して牽制をする狙いがあると共に、災厄騒ぎで不安な民衆に希望を与える為に行うのだという。
 恵二が今回抜ける為、公式には勇者は七人と発表をするとのことだ。そんな状況で恵二が勇者を名乗ればどうなるであろうか。良からぬことを企む国や組織に利用されるか、最悪偽者か邪魔者扱いで抹殺される恐れがあると国王は忠告する。

 これには二つ返事で了承した恵二。折角の冒険に水を差されては堪らない。

 この後一通り城を出る為のやりとりをし、いよいよ恵二は出て行くと告げた。

「――それではお世話になりました」

「うむ、達者でな」

 深く一礼し謁見の間を後にする恵二。謁見の間の扉を抜けると、すぐそこには勇者組の皆やバルディスさんまで集まっていた。どうやら国王との話を聞かれていたらしい。謁見の間を盗み聞きなんて、勇者でなければ文字通り首が飛んでいただろうに。真っ先に声を掛けてきたのは同郷の茜先輩であった。

「恵二君、本当に出て行っちゃうの?」

「ええ」

 目に涙をためて恵二に問う茜。思えばこの先輩には本当にお世話になった。私は年上だからと何かと俺やコウキの面倒を見てくれた。
 よくよく考えてみれば先輩がこちらの世界に飛ばされたのは、恵二より二年未来の地球からである。ここでは一つ上の先輩でも地球では恵二の後輩であったかもしれないのだ。
 そんな奇妙な関係である二人。恵二は彼女に感謝と別れの言葉をを告げると、しょうがないよねと涙を堪えて、最後は笑顔で恵二に別れの言葉を口にした。

「先輩なら、きっと一流の冒険者になれますよ。テンプレなら、こっからが先輩の本番です」

「なんだよ、テンプレって・・・」

 おかしな励ましを口にする未来人の後輩。コウキは最後までこんなキャラだ。けど湿っぽいのは俺も性に合わない、とコウキに感謝と別れを告げた。

 コウキと別れの挨拶と周りからは思えない奇妙なやり取りをしていると、今度はエルフの二人組が挨拶に来てくれた。

「ケージ、人族でもお前は良い奴だ。困ったことがあれば何時でも頼れ。元気でな」

「・・・ケージお兄ちゃん。また帰ってくるよね?」

「ありがとう、イザーも元気で。ミイ、体には気をつけてな。きっとまた帰ってくるよ」

 エルフの二人に挨拶が終わると今度はおっさん二人組だ。ガシガシ頭を撫でたり、バンバン背中を叩いたりと熱烈な挨拶を貰った。

「ケージ、くたばるんじゃねーぞ。飯、ちゃんと食えよ?」

「いいか、ケージ。外の世界は常に気を配れ。怖いのは魔物だけではない。あと鍛錬を怠るなよ」

「ああ、おいしい物見つけてくるからお土産楽しみにしていてくれグインさん。それとバルディスさん、本当にお世話になりました。俺、もっと強くなって帰ってくるよ」

 グインとバルディスに別れを告げる。おっと、お次は金髪イケメン剣士の登場だ。

「ケージ、本当に行くのか?災厄の件さえ片付けば、お前について行ってもいいんだぞ?」

 ルウの冗談かと思ったら、目が笑っていない。どうやら本気の様だ。俺、何時の間にこんなにコイツに好かれたんだろうと若干引く恵二。

「あ、ああ。いい加減外の世界が見たくてうずうずしていたしな。ここでお別れだ」

「ええい、こうなったら災厄なんてどうでもいい。俺も――」

 付いて行く、そう続けようとしたルウの言葉は、ドンッと魔女っ娘に押しのけられ声にならなかったのであった。

「――ケージさん!いがないでぐだざい!!」

 顔をクシャクシャにし、涙を滝のように流し抱きついてくるナル。こっちも何時の間に好感度が上がってたんだ?とビックリする恵二にしがみついてくる。というか鼻水がくっついて汚い。

「ナ、ナル!離れろ、落ち着け。後、鼻をかめ!」

 ようやくナルを引きはがした恵二。魔女っ娘は鼻をチーンとしてから再度恵二を止めにかかる為、抱きついてこようとする。そんなナルを恵二は片手で押し留めてこう話す。

「悪いな。でもこれは俺の小さい頃からの夢なんだ。折角の異世界での冒険のチャンス、絶対に逃したくない」

 でも、と納得出来ないといった顔をするナルジャニアとルウラード。そんな顔をされると出て行き辛くなる。最後は明るく笑って別れたい恵二であったが、ここまで皆が思っていてくれたことを知ると胸にくるものがある。

(――っ、やべ!最後は笑って出て行こうと思ったのに・・・)

 しかし、一度溢れた涙は止まらない。

 結局恵二は大粒の涙をポロポロと零しながら、半年間お世話になった仲間たちに別れを告げるのであった。


 異世界に来てからおよそ半年後、ついに恵二の冒険が始まる。
これで一旦プロローグ的なお話は終了です。
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