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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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北東に行こう

「奴の<魔操剣術>はあくまで剣から放たれる。つまり剣術の延長だ。剣以外の場所から魔術が放たれる事は恐らくない筈だ!」

「オーケー。なら、ここは何としても接近戦だな!」

 恵二から助言を貰いそう結論付けたロキは、自身の身体能力を魔力で強化するとラードへと肉薄した。そうはさせまいとラードは<魔操剣術>を扱い距離を取ろうとする。

炎よ、纏え(ラン・ヴェイン)――炎よ、斬り裂け(ラン・アグド)!」

 ラードは大剣に炎を纏わせると、そのまま真横に空を斬った。それは炎の刃と化しロキへと放たれるが、その標的(ターゲット)である彼は不敵な笑いで一蹴した。

「そいつはさっき見たぜ!」

 ロキは剣に魔術を込めたり放ったりする芸当は出来ないが、魔力を込める事は出来る。己の大剣に魔力を通し真上から高速で地面へと振り下ろす。するとロキの正面部分が裂かれるような形で炎の刃は真っ二つにされた。

 だが、それは想定済みであったのか、ラードは更に<魔操剣術>を発動させた。

大地よ、蠢け(ジグ・バリィ)!」

 そう唱え今度は大地に大剣を突き刺す。するとその突き刺した所を起点に硬い土で出来た棘が次々と発生しロキへと向かって行く。

「―――っち!」

 地面から生えてくる棘をどう対処していいのか考えたロキは、咄嗟に横へ回避した。しかし、どうもそれを狙っていたようだ。ラードは既に次の攻撃の準備に取り掛かっていた。

雷よ、纏え(レ・ヴェイン)――雷よ、穿て(レ・トゥース)!」

 ラードは剣に雷を纏わせてから攻撃のモーションを取ると、短い詠唱と共に突きを放った。それは先程ロキへと放った雷属性による高速の遠距離攻撃であった。土属性の攻撃を躱したばかりのロキでは防ぐのは至難の業であった。

 これが<魔操剣術>の利点の一つであった。とにかく詠唱が短く攻撃の感覚が素早いのだ。その魔術の範囲こそはそれまででもなく、魔術が発動するのはあくまで剣からであったが、要は戦い方次第だ。特にあの突きから放たれる雷属性の魔術は素早く非常に厄介であった。

 だが、弱点もある。あの魔術を放つには一旦剣に雷属性の魔術を纏わせる必要がある事だ。ラードが雷を大剣に纏わせた時点でその攻撃が来る事はロキも恵二も想定内であった。

 だが、あえてロキは回避を取らなかった。その魔術には構わず前進する。何故なら、ラードが雷を剣に宿した段階で恵二が魔術の準備をしていたからだ。

「―――水霊の球(アクアボール)!」

 恵二が放ったのはトリニスから教わった初級魔術である水の球体を発生させる魔術であった。しかしその魔術は攻撃魔術でもなければ防御魔術でもない、単純に水を生成する魔術であった。

 そんな水で雷の魔術が防げるのか、そもそも属性からして相性も最悪であった。

(―――血迷ったか!?)

 そう判断したラードは次の瞬間、驚くべき光景を見た。自身の放った雷の魔術がその水の球体に着弾すると、水は雷を通す事無く見事に防ぎきったのだ。

「―――んだとぉ!?」

 ラードが声を上げて驚くのも無理は無かった。この世界の常識では水は電気を通し易い、相性が悪いものだという考えがあった。しかし、それは謝りであった。

 恵二が生成したのは純度の高い真水であった。通常の水霊の球(アクアボール)だと、そこいらにある小さな水分を集めて生成した水の球体で、決して純粋の真水ではなかった。不純物の含まれた水は電気を通してしまうのだ。

 だが、恵二の水霊の球(アクアボール)は生成する際、その不純物すらも精密に除去し完全な真水を作り上げたのだ。

(真水は電気を通りにくくさせる、筈だ!)

 元の世界の学校でそう習っていた恵二は<濃霧の衛士>のアジトで既に実験をしていた。そして見事に雷属性の魔術を防ぐ事に成功していたのだ。

 その事はロキも知っていた。だからこそ、防げると確信をもって前進をしたのだ。

「―――ちぃ、接近戦か。・・・上等だぜぇ!」

 ロキの接近を許してしまったラードはそう声を上げると、大剣に魔術を纏わせた。

雷よ、纏え(レ・ヴェイン)!」

 大剣に雷を纏わせて構えを取ると、ラードはロキを迎え撃った。

「うおおおおおお!」

 ロキも自身に魔力を纏わせると、雄叫びを上げながら大剣を振り払った。ラードも同じように斬り払い大剣と大剣を交錯させる。

「―――っぐあ!」
「―――っ!」

 大剣同士が衝突し後退したのはラーズであった。助走をつけた分ロキの攻撃の方が重かったのだ。しかし悲鳴を上げたのは反対にロキの方であった。それも無理は無い。雷を纏った大剣と剣越しとはいえ接触したのだ。魔力で防御しているとはいえ、多少のダメージを貰ってしまった。

 そう、これこそが<魔操剣術>最大の利点であった。接近戦を選んだロキであったが、それは<魔操剣術>の弱点などではなく、寧ろ本領発揮が出来る距離だったのだ。それはロキも十分に理解しているのだが、遠距離攻撃の術が無いロキに他の選択肢は無かったのだ。

 ロキの一撃に若干後退させられたラードは、今度はこちらからだと言わんばかりに助走をつけて斬りかかる。負けじとロキも痛みを我慢して大剣を振り払う。

「―――ぐうッ!」

 大剣をぶつけ合うたびに、その剣戟は文字通り火花を散らした。その度にロキは雷の攻撃を身に受けるが、それでも打ち負けまいと歯を食いしばり攻撃を重ねていく。すると、最初は優勢であったラードであったがその情勢は段々と逆転していった。

「・・・ハァ、ハァ。くそったれえ!」

 ラードが息を切らし始めたのだ。ロキも満身創痍で息を切らしてはいたのだが、ラードはそれ以上に消耗していた。それも無理は無い。

「・・・どうやら、そろそろ魔力切れのようだな?」

「―――っく!」

 恵二がルウラードから教わった<魔操剣術>というのは、元々魔力量の乏しい剣士が編み出した魔術だと聞き及んでいた。少ない魔力を創意工夫して完成させた剣術なのだと元勇者仲間の少年は教えてくれた。

 つまり、目の前のラードも決して魔力量に恵まれている訳では無かったのだ。

(まぁ、ルウのように魔力量を強化されて召喚されたのなら話は別だったがな・・・)

 一度ルウラードの全力の<魔操剣術>を見た事があるが、その魔力の高さも相まって、その攻撃は最早剣術の域を完全に超えていた。それと比べてこの男の魔術の威力は、平均の魔術師から見ても決して高い訳ではなかった。魔術の発動も早く行える分、それだけ魔力切れも早いのだろう。

 ラード自身もそこは良く分かってはいたようではあったのだが、想像以上に目の前の男がタフで仕留めきれなかったのだ。

「剣一本でAランクまで上り詰めた男は伊達で無かったって事か・・・」

「お前のその<魔操剣術>ってーのも相当やばかったぜ?ケージがいなければ、とっくにやられていたからな・・・」

 ラードとロキはお互いを称えあいながらも気力を振り絞って大剣を振るった。だが、その決着は意外な形で終わりを告げた。

「―――撤退だ、下がれ!」

 それは<湖畔の家>の副リーダーを務める男が放った指示であった。周囲を見渡すと戦況はどこも佳境を迎えており、生き残っている者の殆どが<濃霧の衛士>や親衛隊員であった。あちらのリーダーであるオッドはどうなったかと視線を巡らすと、どうやらトリニスが勝利をしたようだ。オッドは生死は不明だが地に倒れ伏していた。どうやらそれが撤退の決め手となったようだ。

「―――悪いがここは引くぜ?あんたとはいずれ決着をつけさせて貰う!」

 そう宣言するとラードは踵を返し、残りの体力を振り絞って駆けだした。一瞬追撃しようか迷った恵二だが、そんな余裕が無い事に気がついて諦めた。スキルは相変わらず使用できず、魔力もほぼ空っぽであったからだ。

「そういえば、セオッツにサミはどうなった?」

 恵二は途中別れた二人を探す。それにゴーレムも後2体残っていた筈だ。撤退していく<湖畔の家>の冒険者は無視をして辺りを探った。するとすぐにセオッツとサミは見つかった。その傍らには親衛隊員達と横たわったボロボロのゴーレムの姿があった。

「もしかして、もう1体倒せたのか?」

「おう!」
「まぁ、なんとかね・・・」

 どうやら親衛隊の方で囲っていたゴーレムは大分消耗させる事に成功させたようで、セオッツとサミが加わってからは一気に攻勢に出て見事撃破したようだ。流石は親衛隊員といったところか。

 一方冒険者達が受け持ったゴーレムは相当暴れ回ったようで怪我人も出たようだが、恵二が訓練したお蔭か致命傷を受けた者は居らず、防御一辺倒ではあったのだがなんとか切り札(・・・)を使わずに凌げたようだ。そのゴーレムは撤退の指示と共に一緒に逃走していった。

「・・・おいおい。皆すげえじゃねえか。まさかあれ(・・)を使わずにゴーレム共を撃破しちまうとはなあ」

 そう口にしたロキは少し凹んでいた。彼だけ余り良いところがなかったからだろうか。相手が相手だけにそれも無理は無いと思うがそっとしておいた。

 ちなみにロキが話していたあれ(・・)とは、【エンチャントナイフ】の事であった。実は恵二も一本そのナイフを隠し持っていたのだ。

【エンチャントナイフ】とは行商人であるリアが所持していた、魔術を込める事のできるマジックアイテムの短剣であった。余程の大きい魔力量でなければ、魔術を何でもそのナイフに付いた水晶玉に込めてストックしておく事ができるのだ。発動方法はナイフを投げつけるか刺せば、その衝撃で魔術が発動する仕掛けとなる。

 ナイフは全部で14本有り、その全てをロキはリアから融通してもらったのだ。

(それと引き換えに食糧難に陥りそうだがな・・・)

 そのナイフを譲って貰う条件としてリアが出したのは、衣食住の保証であった。特に“食”に関しては超大喰らいの彼女にとっては重要であり、ここ3日間でアジトの食糧が凄まじい勢いで消耗されていった。

 このまま籠るのも限界かと思っていた時に今回の襲撃である。その意味でも丁度良かったのかもしれなかった。

「確認するが、エンチャントナイフは誰もまだ使っていないな?」

 ロキの言葉にナイフを所持している者全員が頷いた。ナイフは現在11本あった。それを1本ずつ冒険者や親衛隊員の主要メンバーに渡していたのだ。恵二もその一人である。その預かっているナイフは厳重に布に包まれており、迂闊に魔術が発動しない様に封をされていた。

(うっかり魔術が暴発しようものなら、間違いなく全滅するだろうからな・・・)

 そのエンチャントナイフの水晶玉全てに、恵二の魔術が込められていた。勿論スキル<超強化(ハイブースト)>で強化された魔術をだ。だが、それは決して全力で強化された魔術ではなかった。最初は全力でと考えていたのだが、水晶玉が耐え切れず壊れてしまったのだ。

 仕方なく手加減して強化を施した上で魔術をナイフに込めたのだ。手加減といってもあくまで全力強化を自重してという意味であり、決してその威力は生半可なものではなかった。それこそ命中すればゴーレムの1体や2体どころか、密集していれば数十人といった兵をいっぺんに薙ぎ払える位の威力を秘めていた。

 勿論試し撃ちもした。その為ナイフは計3本減り、現在は11本もの虎の子のエンチャントナイフを隠し持っていたのだ。戦況によっては最悪今回の戦いで使う羽目になるかと思っていたのだが、全て温存できたのは行幸であろう。

 だが、良い報せばかりでは無かった。今回の戦いで戦死者も出てしまった。

「・・・さっさとこんな諍い事なんて終わらせて、ちゃんと供養してあげなくちゃなぁ。・・・そういえばオッドの奴はどうなった?」

「死んだわ。投降を進めたのだけど最後まで足掻いてきたから止む無く、ね」

 ロキの問いにトリニスはそう答えた。

「まぁ、これだけの事態を招いたんだ。生きて捕まってもどの道死罪さ。・・・とりあえず一旦アジトに戻ってここを出る準備だ。場所が割れた以上もたもたしてられねえ」

 こちらに残された時間は余りなかった。撤退した<湖畔の家>の者達が将軍に報告すれば、今度は兵の大群にもっと多くのゴーレム達が襲い掛かってくるであろう。もうこのアジトを出るほか道はなかった。

「しかし、ここを離れるとしてどちらに行くのです?」

「移動するにしても、ここまでの大所帯だとどうしてもみつかってしまうぜ、ロキさん」

 この場を離れる事には賛成だが、どちらへ向かおうと言うのか疑問をぶつけるオーランドにガルム。

 彼らにもそれぞれ立場がある。オーランドは親衛隊副隊長として王女を守る立場が、そしてガルムはあくまで依頼として手助けしている立場であり、雇い主の商人ダーナのところまで全員無事に戻るのが絶対条件だ。

 今後の動向は非常に大事であり、<濃霧の衛士>の行動によっては最悪離脱する事も検討しなければならないからだ。

「・・・まずは王女様にご報告だが、一旦俺達は北東に行こうかと考えている」

「―――北東!?」
「・・・成程、無難な案かもしれませんね」

 ロキの提案に反応は様々であったが、親衛隊員のオーランドは賛成なようでガルムは不安の色を隠せなかった。恵二も北東は危険なのではと考えている一人だ。何故なら―――

「なぁ、確か敵の将軍が居るってお城が北にあるんだろ?北に進んだら危ないんじゃないか?」

 セオッツも同じ意見のようでそう尋ねるが、サミはどうも違う意見のようでこう説明をした。

「確かにお城のあるレアオールからは近くなるはね。でも首都レアオールの東側には大きな湖があった筈よ。あの付近は森林地帯が多くて町や村が殆ど無いのよ。・・・それと、シキアノスに凄く近いわ」

 サミの説明で恵二はようやく合点がいった。確かに敵の本陣と近くなるリスクはあるが、湖を挟む形になる上に、森林地帯ならば捜索も困難であろう。更にはヴィシュトルテの仮想敵国でもあるシキアノスの国境に近いこともありそう大っぴらに軍は動かせないと、そこまで考えての提案なのだろう。もしかしたら最悪シキアノスへと亡命する選択肢も入れているのかもしれない。

「分かりました。とりあえず急いでここを発つ準備をしましょう。王女様には私からお話致します」

 オーランドはそう伝えると、親衛隊員を引き連れて一足早くアジト内へと戻っていった。

「ロキさん、俺達シキアノスからの応援組は少し考えを纏めたいと思う。少しだけ時間をくれないか?」

「ああ、それは構わないが余りのんびりは出来ないぜ?準備はこちらでしておくから、あんた達は今後の事をしっかりと考えてくれ」

 ガルムとロキはそうやりとりを終えると、セオッツとサミもガルムに呼ばれシキアノスからの応援組は一旦話し合いを始めた。

 恵二も急いで準備をしようとアジト内へと戻っていった。
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