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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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同郷人か?

「くそお、小娘がァ!貴様に構っている時間は無い。ロキ、俺と勝負をしろ!!」

 オッドはそう叫びながら自身の得意な火属性の魔術をトリニスへと叩き込む。

「―――氷盾(アイスシールド)!」

 それを<濃霧の衛士>のエースである女魔術師トリニスは氷の盾で見事に防ぎきる。

<「氷盾(アイスシールド)>は氷で出来た壁という性質上、物理攻撃にはさほど強くは無い。だが魔術の攻撃、とくに火属性の魔術には効果が絶大であった。火属性の得意なオッドと水属性を得意とするトリニスでは軍配は彼女の方にあった。

「うちのリーダーはあんたと違って忙しいのよ!あんたの相手はこの私一人で十分お釣りがくるわよ!」

「―――舐めるなァ!」

 オッドもさすがAランク冒険者とあってか魔術の扱いには長けていた。火属性が不利と悟ると今度は水属性と相性の良い雷属性の魔術を発動させる。

「―――雷光弾(ライトニングバレット)!」

「―――土盾(アースシールド)!」

 しかしトリニスとて同じAランクの冒険者、相手が属性を変えてくることは想定済みであり、今度は土属性の盾を張る。雷の弾丸は全て土の盾に防がれ消失する。

「―――氷槍(アイスランス)!」

 今度はこちらの番だと言わんばかりにトリニスは氷の槍をオッドへと放った。火属性の得意なオッドはそれを魔術で迎撃しようとするが、彼女の本命は別のところにあった。

「―――ぐあっ!」

 オッドの右肩に何かが突き刺さる。それはトリニスが魔術と同時に放っていた投げナイフであった。彼女は魔術だけでなく投げナイフの扱いにも長けていたのだ。

「っく、ふざけやがって・・・!」

 オッドは焦っていた。<濃霧の衛士>も厄介だが応援に来た冒険者達がここまでやるとは完全に想定外であった。先程3人の若い冒険者達がゴーレムの1体を撃退してみせたのが彼の焦りに拍車をかけた。

(っくそが!どいつもこいつも俺の邪魔をしやがって・・・!ロキ、貴様さえいなければ・・・!)

 オッドとロキは同期の冒険者であった。自身は魔術の才能が、そしてロキには剣の才能があった。駆け出しの時期は、高い魔術の適性があるオッドの方が重宝され周りからもてはやされてきた。それに比べロキは確かに剣の腕は良かったが、そのレベルの冒険者はここの国にはごろごろといた。

 それがいつの間にか逆転していた。オッドは自身の才能に胡坐をかき鍛錬をサボる様になり、好きなように振る舞って生きてきた。片やロキは魔術の才能が無い代わり、剣こそ己の生きる道だと言わんばかりに研鑽を続けた。その結果ロキはオッドよりいち早くAランクの冒険者へと昇格した。

 オッドもその魔術の才能を生かし遅れてAランクへと昇格したのだが、その時には既にロキは名実ともにこの国一の冒険者として名を馳せていた。彼の名は隣国の者にも伝わっておりオッドはその影に何時も埋もれていた。

(・・・アイツさえ、ロキさえいなければ俺がこの国一番の冒険者なんだ!)

 そんな執念の元、彼に対抗するべく結成したクラン<湖畔の家>には彼と同じ様な好き勝手生きてきた人種や後ろ暗い者達が自然と集まった。戦力を強化する為に荒くれ者の冒険者も積極的に集めたのだ。

 また若手に凄腕の女魔術師がいると聞いたので声を掛けたのだが、あろうことか彼女はロキのクラン<濃霧の衛士>へと加入した。

 最近では自身と同じAランクの剣士であるラードが加わり徐々にクランも名を上げてきたが、どうしても悪いイメージが付きまとうのか<濃霧の衛士>よりかは評判が一歩落ちてしまっていた。

 副ギルド長であるラッセンから話を持ち掛けられたのは、丁度そんな時期であった。

 “<濃霧の衛士>が、ロキが邪魔ではないか”と・・・。

 ラッセン自身もギルド長と懇意にしていたロキ達<濃霧の衛士>が邪魔であったのだ。二人はすぐに意気投合し、将軍の持ち掛けたクデーター計画に加わった。成功の暁にはこの国一番の冒険者としての高い地位と仮ではあるが貴族の地位さえも貰えるのだと言う。オッドはすぐその話に飛びついた。

 その話もここでロキを始めとした<濃霧の衛士>の冒険者と親衛隊に王女を抹殺しなければ全て流れてしまう。元々冒険者の始末は<湖畔の家>の受け持ちであったのだ。それを感の良いロキは事前に危機を察し、オッドの奸計を見事掻い潜りここまで逃げ延びたのだ。

「―――お前ら!ここでこいつらを皆殺しにしなければ俺達が処分されるぞ!死ぬ気で当たれえ!」

「お、おう!」

 それは誇張でもなく歴然とした事実であった。あの冷徹な将軍が失敗を重ねた無能共を見逃す筈が無かったのだ。尤もガラード将軍は初めから事が終わればオッド達を始末する腹であったのだが、彼はその事実には全く気付く事は無かった。

 オッドとトリニスのAランク冒険者の魔術合戦はもう暫く続いた。



 ちなみにもう一方のAランク冒険者同士の戦いはというと、こちらは予想外の大苦戦を強いられていた。

「うおおおおお!」

 ロキは雄たけびを上げながら大きな剣を振り下ろす。それを目の前の巨漢は同じく大きな剣でもって受け止めた。Aランク冒険者のロキと、最近<湖畔の家>へと加入したという同じくAランク冒険者であるラード。この二人は実に似ていた。

 まず体型が二人とも巨漢であり、武器も似たような大きさの長剣であった。戦闘スタイルもその体型と武器を生かしたパワータイプのそれであったのだが腕は年の差か、少しだけ年上であるロキの方に軍配があがっていた。

 だがその二人の戦闘は現在ラードが押しており、ロキは苦戦を強いられていたのだ。

炎よ、纏え(ラン・ヴェイン)!」

「──っ!?」

 ロキの剣を受けたラードが聞きなれない言葉を唱えると、彼の剣の刃に燃え盛る炎が現れた。その熱さに耐えきれず、ロキは炎の纏った剣を押しのけて距離をとる。

「―――炎よ、斬り裂け(ラン・アグド)!」

 そこへラードはまたしても聞いた事の無い詠唱を唱えると、その炎を纏った剣を振るった。するとその振るった方向に炎の刃のような魔術がロキへと向かって放たれた。

「―――っうお!?」

 予想外の遠距離攻撃に、ロキは咄嗟に剣に魔力をこめた一撃で炎の刃を相殺した。だがそれで一息つくのはまだ早い。そう言わんばかりにラードは追撃を行った。

雷よ、纏え(レ・ヴェイン)――雷よ、穿て(レ・トゥース)!」

 ラードの剣に纏っていた炎は、いつの間にか雷へと変貌を遂げ、彼はそのまま離れた距離から刺突を行った。すると今度は雷属性の魔術が一つの閃光となってロキへと迫った。先程より早い雷の一撃は完全にロキを捉えたかと思いきや、ラードが得体の知れない呪文を唱えていたのと同じ時をして横から別の詠唱が聞こえていた。

「―――土盾(アースシールド)!」

 それは助けに入った恵二の詠唱であった。スキルで強化を出来ない今の恵二に、巨漢であるロキの全身をカバー出来る程の土盾(アースシールド)は出せなかった。その為恵二はお馴染みの小さい盾を空中に出現させたのだ。

 通常の土盾(アースシールド)は地面の土を使って地面から出現させる。それがセオリーであった。しかし、恵二はトリニスからみせて貰った別属性の防御魔術である氷盾(アイスシールド)を見てから考え方を改めたのだ。

(あれは空気中に水分を出現させてから凍らせて作っているようだ。なら、土の壁だって空中で作ってやれない道理は無い!)

 物理の法則などさっぱりであったが、氷盾(アイスシールド)は空中で出せて土盾(アースシールド)ができないというのもおかしな話だと考えた恵二は予め実験をしていた。その結果は成功したのだが、地面にそびえ立つより空中で作った壁は踏ん張りが利かず、防御力が著しく落ちる事が判明した。

 今回のように出力不足で小さい盾を使ってピンポイントに防御する場合にのみ有効であろう。まさかこんなに早く使う機会が訪れるとは思っても見なかったのだ。

 ラードの剣から放たれた雷の魔術は土でできた小さい盾で勢いを削がれ、そのお蔭でロキはギリギリ回避する事に成功した。その一部始終を見て一番驚いたのは雷の魔術を放ったラード自信であった。

「・・・まさかあれを防がれるとはな」

 男の恵二を見る目に警戒の色が浮かんだ。

「ケージ、助かったぜ!・・・しかし今のをよく防げたな。あんなの予め知っていないと防げねえだろ?」

 ロキは恵二に礼を言うと、何故ラードの素早い一撃を正確に防げたのかを疑問に思ったのだ。それも無理のない事であった。それ程相手の放った雷の一撃は高速で、しかも剣の突きから魔術を放つなどAランクの冒険者であるロキをもってしても完全に想定外であった。

 それはラードも疑問に感じたのか、目の前の少年冒険者をこう問いただした。

「・・・坊主、お前まさか俺の同郷人(・・・)か?」

「いや、違う。そういうあんたは<緑の異人(グリーン)>だろ?」

 恵二の問いにロキは驚きの表情を、尋ねられたラードはニヤリと笑みを浮かべこう告げた。

「正解だぜ。俺は緑の世界<レアウート>出身の異世界人だ。・・・ま、今はただの冒険者だがな。どうやら坊主の知り合いに俺と同じグリーンがいるようだな?そいつにこの<魔操剣術>を聞いたのか?」

 ラードの質問に恵二は首を縦に振った。そう、この男の言うとおり恵二は男の不思議な魔術と剣術の融合体である<魔操剣術>を以前に見た事があった。この冒険者がそれを使っているのを見た恵二は、セオッツとサミに断りを入れてゴーレムの方ではなくロキの方へと加勢に赴いたのだ。

「ああ、そいつは俺の親友から教わった。その技も見た事あるぜ?」

「・・・成程、納得いった」

 つまり恵二は男が剣に雷を纏いだした時点で先程の攻撃を予想していたのだ。どこを狙うかは賭けではあったが、恐らく心臓辺りだろうと一か八か盾を展開させた。それが功を奏したのだ。

 恵二に助けられる形になったロキは恵二の横へと並ぶとこう口にした。

「・・・ケージ。すまねえがアイツの剣術は得体が知れねえ。簡単にアドバイスと援護をして貰えないか?」

「ああ、任せてくれ」

 ロキは恵二を味方に付けて、Aランク冒険者で異世界人でもある剣士ラードと再び対峙するのであった。



「<魔操剣術>、ですか?」

「ああ、そうだ。私の世界ではそのような剣術があってな。魔力の操作に長けた者が、更に剣術を磨いて編み出した秘術だ。扱える者からして限られている特殊な剣術だな」

 そういいながら金髪ポニーテールの少年剣士は自らの剣に炎を纏わせ不死生物(アンデッド)を斬りつけた。少年に斬られた不死生物(アンデッド)達はその傷口から炎が着火し、燃やされながらバタバタと倒れていく。

 その様子を見ていた青髪緑目の少女は、自身も強力な魔術で不死生物(アンデッド)を次々と葬りながら更に尋ねた。

「不思議な魔術ですね。私の世界にも似たような魔術はありましたが、ルウさんのそれは特殊です。とにかく発動が早いです。この世界の魔術と違って剣術と合わせ短い詠唱で魔術を纏い放つのですから」

 そう解説したのはハーデアルト王国お抱えの7人の勇者の1人、銀の世界<ベスカトール>の異世界人であるナルジャニアであった。彼女はとにかく目新しい魔術には目が無く、戦いの最中だと言うのにその意識は完全に同僚である勇者の1人、ルウラード・オレオーの扱う<魔操剣術>に向いていた。

 それを不真面目だと思ったのか、ルウラードは彼女を窘めた。

「呑気にお喋りをしている場合ではないぞ、ナル。後で詳しく教えるから今は戦いに集中しろ!」

「分かりましたです。さっさと終わらせるです!」

 急に眼の色を変えた魔女っ娘は、数種類の魔術を同時に展開すると短い詠唱でそれらを一斉に掃射した。ランクこそ大した事は無いが、眼前に大量にいた不死生物(アンデッド)達が一瞬にして蒸発した。

 その光景を見ていたルウラードはため息交じりにこう呟いた。

「・・・やれやれ。あんな威力の魔術を短い詠唱で放つ者が、どうしてこんな扱い辛い魔術に興味を持つのだろうか・・・」

 ルウラードはそう口にしながら炎を纏った剣を近くに居た不死生物(アンデッド)に斬りつけると、今度は遠くに固まっていた不死生物(アンデッド)の集団に目をつけてこう呪文を唱えた。

炎よ、纏え(ラン・ヴェイン)――強化(アプゥル)――炎よ、斬り裂け(ラン・アグド)!」

 そう唱えたルウラードは、自らの愛剣を横一文字に振るった。するとその空を斬った剣撃の軌道上に灼熱の炎の刃が放たれ、遠くにいた不死生物(アンデッド)の一団へと着弾した。するとその炎の刃は轟音を上げながら、生ある物も死して直うごめく物も一切関係なく全て燃やし尽くした。

「・・・確かに凄い威力だが、それも髙い魔力の恩恵だな」

 ルウラードを始めとしたハーデアルト王国によって異世界から召喚された勇者達は、<異世界強化召喚の儀>という特殊な召喚術によって膨大な魔力量を与えられた上で呼ばれたのだ。その高い魔力を込めた一撃は緑の世界<レアウート>にいた頃の自分とは比較にならない威力であった。

 少年は剣の扱いに関しては幼少の頃から才能有りと周りに期待されながら育てられた。しかし魔術の方に関してはそこまで抜きんでた魔力量が望めず、魔術を放って扱うよりかは、扱いは難しいが剣術と合わせて魔術を発動させる<魔操剣術>を習得してみてはどうかと師匠に勧められたのだ。

 ルウラードのいた緑の世界<レアウート>の常識では、<魔操剣術>とは魔力量が足りないがどうしても魔術を扱いたい剣士が考案した武術であった。しかしそれを習得する為には高い戦闘技術に加え、魔術の精密な操作も必要とされた。

(そういえば、以前ケージの奴にも教えたな)

 そう、魔力が足りないという点ではルウラードの元勇者仲間であり親友のケージ・ミツジも同様であった。今でこそルウラードは魔力量の問題は召喚の恩恵によって解決をしたのだが、何故かあの少年だけは勇者の中でも魔力の量には恵まれなかったのだ。

 その上スキルも得られず不憫に思ったルウラードは<魔操剣術>を恵二に教えていた事があった。だが―――

(―――結局、ケージは扱う事ができなかったな。魔力が致命的なまでに足りなかったのか、それとも我々レアウートの者だけが扱えるのか・・・)

 そこまで考えたルウラードは、そういえば今頃あの少年はどこでどうしているのだろうかと戦いの最中にも関わらず集中力を欠いてしまい、先程同じ理由で小言を言われたナルジャニアに皮肉交じりに文句を返されるのであった。
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