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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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戦う理由

新年明けましておめでとうございます。今年も引き続き「青の世界の冒険者」を宜しくお願い致します。
 恵二はロキの提案を詳しく聞く前に一旦保留にした。フレイアからの話を聞いてみない事には返事のしようがないからであった。そう答えるとロキからは思わぬ言葉が返ってきた。

「分かった、それでいいぜ。それと、さっきはああ言ったがアジト内を調べたければ好きに見て回っていい」

「・・・いいんですか?」

「かまわねえよ。騙したようで悪いんだが、あんまり自慢できるほどこの中に珍しいものは無いぞ?それと、赤い札が付いた扉は女性専用の部屋だから無断で入るなよ?うっかりトリニスの着替えでも覗こうものなら氷漬けにされちまうぞ」

「・・・トリニス?」

 その名は確か、ゴーレムの下りで出てきた名前の筈であった。

「ああ、うちのエースだよ。俺と同じAランクの魔術師だ。おっかねえから気を付けろよ?」

「・・・誰がおっかないですって?」

 突如背後から声がして恵二とその声に反応したロキは肩をビクッと震わせた。振り向くとそこには綺麗なロングヘアーに前髪で片目を隠したスタイル抜群な女性が腕を組んでロキを睨んでいた。

「トリニス!?何時の間に戻ってたんだ!?」

「ついさっき“おっかねえから”ってところからよ!」

「なんてタイミングで・・・」

 ロキは片手を額に当て天を仰いだ。トリニスと呼ばれた20代くらいの女性は恵二の姿を見ると口を開いた。

「この子は新人・・・?ロキ!入ったばっかりの子に変な事吹き込まないでくれる!?」

「わりぃわりぃ。話の流れでつい、な」

「へぇ。どういう流れで私の悪口になるのか、そこんとこキッチリ説明してもらおうかしら?」

 トリニスと呼ばれた女性はロキに詰め寄ると、ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てた。

「・・・ケージさん。今のうちに退散するっす」

「ああ、そうだな」

 危機感知に長けているのか、いつの間にかロイドとエイワスは去っていたので、恵二達もそれに習ってさっさと部屋から出る事にした。後ろでは女の小言が延々と続いていた。



「さて、早速私は軽く腹ごしらえしてくるっすよ。ケージさんは王女様の所に行くっすよね?」

「まあな。・・・本当に軽くにしておけよ?」

 リアに釘を刺した後、恵二は話があると言うフレイアの元へと向かった。暇そうにしていた冒険者に場所を聞いて王女一行が使用しているという部屋へと足を運んだ。

 扉の前でノックをすると出迎えたのは若い青年隊員のタッフルであった。室内は割と広く、王女以外の親衛隊員メンバー勢揃いであった。

「どうぞ、右の部屋でフレイア様がお待ちですよ」

 その部屋には更にいくつかの扉があり、フレイアはどうやら右手にある扉の奥で待っているようだ。

 心なしか隊員達の恵二を見る視線が厳しいように思えた。その視線は決して先程の王女を呼び捨てた事に目くじらを立てているといった雰囲気ではなく、それはまるで───

(───まるで品定めされているような、そんな雰囲気だ)

 恵二はこの世界〈ケレスセレス〉に来る前は高校受験を控えているただの中学生であった。恵二が召喚される少し前、受験練習の一環として学校の校長や教師相手に面接を受けた事がある。今こちらに向けられている視線が丁度そんな感じであった。

 そんな雰囲気の中、恵二は王女が待つ部屋のドアをくぐった。その先に居たのは恵二と同年代の料理好きな少女ではなく、ヴィシュトルテの第一王女フレイアであった。

「ようこそケージ様。お待ちしておりました」

 フレイアはそう口にすると流れるような動作で挨拶をした。

(さっきまでと雰囲気が全然違うな。それだけ大事な話って訳か・・・)

 こちらも合わせて丁寧な言葉遣いで挨拶をすればいいのだろうか。そう考えた恵二であったが──

「そんなに待たせたかな?これでも話の途中で抜け出して来たんだが・・・」

 恵二は普段通りを貫くことにした。特に深い意味はなく、ただそうしたいと恵二は思ったからそうしただけであった。

「あら、そうなんですか?ケージ様はそんなに早く私に会いたかったのですか?」

「言ってろ」

 笑みを浮かべながら恵二はそう呟いた。

「ふふ。・・・相変わらずのタメ口なんですね、ケージさん」

 フレイアも普段通りの口調に戻すと、肩を落として不満げな表情を浮かべた。

「残念です。ケージさんの慌てる顔が見たくて王女モードで話したのに・・・。リアさんにもこき使われるし、私ってそんなに威厳無いですか?」

「いいじゃないか。親しみやすい友達みたいな王女様って事で」

 恵二にそう評されたフレイアは気恥ずかしいのか照れながらも、わざとらしく咳をすると急に真面目な顔つきになった。

「では王女としてではなく、貴方の友人としてお願いがあります」

「ああ」

 恵二は頷くと姿勢を正し、フレイアの目をしっかり見ながら話を聞いた。

「将軍と戦う事にしました。ケージさん、貴方のお力を貸して下さい」

 予想通りの内容であったのだが恵二は即答できなかった。迷っていたからだ。

(力にはなってやりたい。・・・でも、そこまでしてやる理由が俺にはあるのか?)

 少年は自問した。何せ相手はこちらの何倍もの戦力を有した将軍率いる軍隊だ。冒険者も何人か加担している上、高性能のゴーレムとやらも持ち出している。人とも争う羽目になるだろう。恵二には命を懸けてまで目の前の少女を助ける理由などなかったのだ。

「・・・フレイアは逃げないのか?どうして戦う事を選んだ?」

 答えがなかなか出せなかった少年は、ついそのような事を口にした。恵二は気になったのだ。この料理が趣味のどこにでもいる少女は、どうして戦う事を選んだのかと。

「そうですね、できればどこかに逃げ出して、全て忘れてしまいたいです」

 彼女はそう告げると困ったような笑みを浮かべた。

「私、リアさんに料理を作っていて実感したんです。王城暮らしで唯一といっていい私の趣味、料理をする事がこんなに楽しいんだって・・・。どこか遠くでお店を出して料理を作って皆に食べて貰う。そんな夢を昨晩みてしまいました」

「―――だったら、なんで戦うだなんて?」

 彼女が見たという夢は、とても幸せな光景のように恵二には思えた。そんな思いを抱いて、何故戦う道を選んだのか恵二には理解できなかった。恵二の胸中を余所にフレイアは話を続けた。

「その夢にはミルトと父も出てきました」

「―――っ!」

 どうやら昨晩彼女が見た夢は決していい夢などではなかったようだ。ミルトという名の少女は確かフレイアが野盗に襲われた際にも殺された少女の事であろう。そしてフレイアの父もまた討たれたとの報せがあった。

「ミルトは王城で何時も独りだった私にとって唯一の友達でした。彼女は命を懸けて私を守って・・・死にました。あの無惨な光景が目に焼き付いて頭から離れないんです!」

 そう吐露した彼女の表情を恵二は初めて見た。彼女は涙を流しながら怒っていたのだ。

「父にいたっては、まだご遺体すらお会いできておりません。・・・ケージさん、私は悔しいんです!国の為に、私の為に必死で身を粉にしてきた二人を殺し、のうのうと私の王城に居座る将軍が憎くて堪らないんです!!」

 これが少女の本当の気持ちだったのであろう。今まで目まぐるしい状況変化に自身の気持ちを押し込んで無理やり笑っていたのだ。親友や最愛の父を殺されて悔しくない訳がなかったのだ。

「ケージさん、これが私の戦う理由です。・・・軽蔑してくれてもかまいません。私の動機は憎しみです。でなければ私は自身の命を懸けるだなんて大層な真似もできない、ただの無力な小娘ですよ」

「・・・・・・」

 彼女の告白に少年は更に迷ってしまった。“この戦いに勝ち目は無い”彼女はそう考えて、それでも玉砕覚悟で戦う事を選択したのだろうか。もし、そうならば―――

「―――俺は、死にたくない。無謀な戦いに手を貸す程、蛮勇でも暇でも無い」

「・・・そうですよね。お金で、と言ってもケージさんは動きませんよね?」

 フレイアの問いに頷くと恵二はこう質問を返した。

「ああ。確かにお金は欲しいけど、それは重要じゃない。・・・フレイアはこの戦いに本気で勝利する気があるのか?それともただ復讐をしたいだけか?そこが知りたい」

「勿論勝つつもりです!私個人なら玉砕も覚悟したでしょうが、親衛隊の皆さんや冒険者さん、それに国民の方々を巻き込んでまで勝手な事はできません」

 そう告げた少女の目は真剣で、とてもその場凌ぎの答えとは思えなかった。

「私はケージさんが力を貸してくれるのでしたら、勝利できると信じております。その為なら・・・私の全てを貴方に差し上げます!」

「―――っな!?」

 いきなりの爆弾発言に恵二は声を上げた。少女は顔を真っ赤にしながらも更に言葉を続けた。

「今の私は権力も財産も無いただの娘です。・・・現時点でケージさんにお渡しできるものは、こんなものしかありませんが・・・」

 そう言葉にすると彼女は上着に手を掛けそれを脱ぎ捨てた。慌てた少年は声を荒げてその行為を止めた。

「ちょっ!待て待て、そんな事する必要は無い!気持ちは嬉しいが・・・って違う!そんなのは間違っているし本意じゃない!」

 恵二が凄い勢いでフレイアの行為を止めようとすると、少女は悲しそうにしょぼくれた表情でこう声を震わせた。

「・・・やっぱり私の体なんかじゃ対価にはなりませんよね」

「い、いやいやいや。十分です・・・じゃ無くて!そういうのやり方は好きじゃない!こういうのは、あれだ!好きな人どうしで、だな・・・」

 年齢はまだまだ子供と呼べる恵二はいきなりの展開にあたふたとするが、それを見ていたフレイアは思わず笑みを浮かべ吹いてしまった。

「ぷっ、ふふふ。冗談ですよ、ケージさん」

「・・・は?」

 フレイアの自白に目が点となる恵二。彼女は再度笑みを浮かべこう告げた。

「冗談と申しました。いくらなんでも、身体を売るだなんてケージさんに対しても失礼な行為は致しませんよ。さっきは失敗したのでケージさんの慌てる顔をどうしても見たくて、ちょっとからかってみたくなりました」

「・・・はは。・・・冗談、ね」

 その言葉で徐々に落ち着きを取り戻した恵二は、段々と腹が立ち始めるとムスッとした顔でこう言い返した。

「冗談にしても過ぎるぞ。もし俺がその条件を呑んだらどうするつもりだったんだよ?」

「それならそれで、構いませんよ?私は王女です。政略結婚も覚悟しておりました。私の身ひとつで国を救えるのならお安いものです」

「───っ!」

 今度こそ少年は絶句した。まさか真っ正面からそう返されるとは思わず再び顔を真っ赤にする。そんな少年の様子が可笑しいのか、フレイアは笑みを浮かべながらこう述べた。

「ふふ。恵二さんは私の身体には興味が無いようですので仕方ありません。それでは別の戦う理由をご提案致しましょう」

「戦う・・・理由?」

「ええ。ケージさんは確か遺跡にご興味がおありでしたよね?」

「ああ」

 フレイアの問いに素直に頷いた。この話し合いが終わったら、恵二は早速この元遺跡である隠れ家内を散策して周ろうかと考えていたくらい関心があった。

 恵二が頷くと、それを見たフレイアは満足げに話を続けた。

「実はレアオール城の地下には、王族のみ立ち入りが許されている遺跡が存在するのです。王城を取り戻した際には、ケージさんにそこへ立ち入る許可を差し上げます」

 それは恵二にとってはとても魅力的な提案であった。

(王族のみしか入れない遺跡・・・。この機会を逃したら二度と入れないかもしれない・・・!)

 だが命を懸ける対価として釣り合うのだろうかと少し考えてしまう。遺跡と一口に言ってもその規模はピンキリであったからだ。

「遺跡の規模はどのくらいなんだ?」

 もう少し情報を得ようとした恵二であったが、問われたフレイアは首を横に振ってこう答えた。

「申し訳ありません、実は私も入った事がないのです。先程は王族のみと申しましたが、正確には王位を継承した者のみ入る事が許されている遺跡なのです」

「───なんだって!?」

 王女の言葉に恵二の興味は益々高まった。

「もし私が後を継いで女王となった際には入れるのでしょうが、でなければ第一継承権を持つ私でさえも立ち入れない聖域なのです」

 そんな神聖な場所に入れるかもしれない。恵二はそんな期待と同時に、逆に自分なんかが入っても大丈夫なのか心配になりフレイアに恐る恐る尋ねた。

「そんな所に俺なんかが入っても平気なのか?」

 その問いに返ってきた彼女の返事は軽いものであった。

「いいんじゃないでしょうか?確かに伝統は大事ですが、国の存続がかかっているのに、しきたりも何もあったものではないですから」

 尤もな事を言われ、杞憂が晴れた恵二はこの提案に乗る事にした。

「分かった。俺はフレイアが王城を取り返すまで手伝いをする。それが叶ったら城の地下の遺跡に入る許可を貰う。これでいいか?」

「はい、問題ありません」
 
 フレイアは満面の笑みを浮かべると、改めて恵二に礼を述べた。

「提案を受けて頂き本当にありがとうございます、ケージさん。暫くの間宜しくお願い致します」

 話が終わると恵二は早速隠れ家内部の散策に出掛けると少女に告げ退出をした。少年の背中を見送ったフレイアは、ふと自分の身体周りを気にする仕草を取ると、静かにこう呟いた。

「・・・私ってそんなに魅力ないのかしら」

 その問いに答える者は誰も居なかった。
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