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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

序章 勇者ケージ編

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小人族のハミ 鍛冶師のカルジ

 タナル村での調査を終えたランバルドと勇者一行は、数名の騎士を村に残し王都レイアルトへと帰還していた。あの爆発事件から更に三日間、隈なく周辺を探索したが魔物の姿が全く見えなかったのだ。
 あの日グエンが見たという魔物らしき影は北へと逃げて行ったらしい。調査隊はとくに北を重点的に調べたが成果は得られず、さらに北上するとハーデアルト王国とラーズ国との国境に出てしまう恐れがある。
 現段階ではまだ勇者たちを他国へと関わらせたくないランバルドは、止む無く調査の打ち切りを宣言する。タナル村には護衛として二名の騎士を残し、のちに王都から水属性の回復魔術を扱える魔術師を派遣する予定だ。

 クマとの死闘を演じた恵二とミエリスの二人はあの後、村に戻る途中であったランバルドたちと合流した。気絶していた恵二の怪我は、茜の水魔術<水の癒し(ウォーターヒール)>によってすぐに完治した。
 一方アレン君はというと自力で村へと帰還していた。アレン君から事情を聞いた村人たち数名が、ミエリスたちを救うべく森へと入ろうと準備していたところに恵二たちが戻ってきた。
 色々と騒ぎがあったが、結果全員無事であったのは幸いだ。



「・・・つまり、魔物の姿は一匹たりとも現れず、というわけだな?」

 ルイス・ハーデアルト国王の問いに、ああと頷く赤ローブを着た魔術師。魔物がいなかった、それは喜ばしいことなのだが、頷いたランバルドは浮かない表情をしていた。

「こいつはおかしいぜ、ルイス。今までの災厄とは少し毛色が違うようだ」

 一国の王を呼び捨てにするランバルド。事情の知らない者が聞いたら腰を抜かしそうな物言いだが、そんな態度に全く顔を崩さずルイスは返す。

「勿論、楽観視する気はないよ。過去三度の<神堕とし>では魔物が大繁殖し、狂暴化したとはあるが・・・。所詮大昔の、それも三度しか事例のない出来事だ」

 そう、この災厄が最後に確認されたのは120年も前なのだ。三度目の大災厄は魔王の中央大陸侵攻という事態に、当時の人は混乱し情報が錯綜していたようだ。それは過去の文献での情報の食い違いから容易に想像できた。
 この災厄はまだまだ情報不足で全容が掴めていない。今回の調査隊はその情報集めの一環であったのだが、予想されていた魔物の大繁殖どころか一匹も姿を見かけることがなかったのだ。だが、それならそれで構わないとルイスは思う。

(少なくとも魔物がいないという情報は得た。尤も現時点では、なだけかもしれないがな)

 出来ればもっと北の方を調べたかったルイスだが、タナル村付近の森より更に北はラーズ国の領土である。勝手に立ち入ることは許されない。ランバルドの撤退という判断は正しかった。

「・・・後手に回るかもしれないが、いつでも北へ戦力を出せるようにしておく。今はそれしかないだろう」

「そうだな。後は同盟国に情報を共有するのと、勇者様たちの教育ってところだな」

 今回の異世界強化召喚は、王国秘蔵の魔石十数年分と優秀な魔術師を大量に注ぎ込んで臨んだ。最低でも三人は来てほしいと思っていたルイスだが、まさか八人も召喚されるとは嬉しい誤算である。
 その勇者たちも信頼のおける忠臣ランバルドの教育で、メキメキと力を付けている。ただ一人、ケージ・ミツジだけは結果が出ないものの、それ以外の七人は近いうちに我が師でもあるランバルドすら超える力を身につけるだろうと嬉しそうに魔術師本人が話していた。

 ランバルドはまだ先王が統治していた頃、王子であるルイスの護衛兼魔術の師としてこの国に来た。先王とも大変仲が良く、ルイスもその気さくな性格と膨大な魔術の知識にすっかり心を許すようになった。
 今でこそ公では主従の関係ではあるが、ルイスとランバルド二人の仲は城内では周知されていた。そのランバルドと親交を深めていく勇者たち。当然ルイスも目を掛けている。

「そういえば、勇者たちは今どうしてる?」

「ああ、タナル村から連れてきた嬢ちゃんのお見送りだ。今日、護衛の信者と共に聖教国へ向かうらしい」

「タナル村の神官か。優秀な人材が国から出るのは惜しいが、アムルニス教に借りを作れたと思えばそれもいいか・・・」

 ランバルドの報告では<神堕とし>の影響さえなければ、上級魔術すら扱えたであろうと聞いている。ぜひ王宮に欲しい人材だが、聖教国グランナガンの聖者隊から候補生として誘いの話がきているのだという。聖教国の聖者隊といえば、ハーデアルト王国でいうところの騎士団にあたる。その隊員全てが強力な神聖魔術の使い手だとか。
 ここハーデアルト国にもアムルニス教の信徒はいるが、神聖魔術を使うものはそう多くない。ましてや教えるとなると、その環境は聖教国とは比較にならない。彼女が聖教国を選択するのは当然であった。

(さて、今回の災厄に教会はどう対応するのか・・・)

 大災厄<神堕とし>は神聖魔術の効果を激減させるという。その特性上、当然教会も黙ってはいない。今のところ静観を決めているようだが、そちらへの対応も疎かにはできない。国王は今後の対策に頭を悩ませるのであった。



「それでは皆さん、本当にお世話になりました」

 そう言い恵二たちに深く頭を下げるミエリス。恵二たちは今、王都レイアルトの西門にいた。ミエリスを見送る為である。一週間前のクマ騒動で決心したのか、彼女は聖教国グランナガンの勧誘を受けることにした。自分の長所でもある神聖魔術をより活かす為に、一から勉強したいと意欲を燃やしていた。今の彼女は、村にいた頃と比べると活力に満ちているように見受ける。そんな彼女を見ていると、視線を感じたのか恵二の目の前までやってきた。

「ケージさん、本当にありがとうございます。貴方のおかげで勇気を持つことができました」

「決断したのはミエリスさん自身だよ。でも、少しでも背中を押すことが出来たのなら嬉しいよ」

 少しでも彼女の助けになったのなら体を張った甲斐があったというものだ。そんな恵二の台詞に何か不満があったのか、彼女は少し眉をひそめる。

「ミエリス、です。呼び捨てにして下さい。あの時も呼び捨てだったじゃないですか」

「あー。あの時は夢中だったから・・・。うん、わかったよミエリス」

 そう呼び捨てにすると嬉しそうに頷くミエリス。そろそろ出発の時間らしい。馬車には御者の他に、聖教国まで同行する信者が三人いる。そのうちの一人がミエリスにそろそろ時間だと告げる。それを聞くとミエリスは泣きそうな顔で恵二に再度別れの言葉を告げる。

「ケージさん、どうかお気をつけて。皆様のご無事を祈っております」

「ああ、ミエリスのお祈りがあるなら大丈夫。そっちも道中気をつけてね。また会おう」

「――っ、はい!」

 堪えきれなかったのか彼女は涙を流しながら、しかし笑顔で別れを告げる。彼女を乗せた馬車が見えなくなるまで恵二はひたすら見送っていた。

 そうして彼女はグランナガンへと旅立った。



 ミエリスと別れてから三日後、恵二は剣を教わっている王国騎士、バルディスと久しぶりに会う。なんでも彼も別任務で王都を離れていたらしい。つい先程戻ってきたのだとか。
 恵二のタナル村での出来事も先程聞いてきたらしい。体を張ってクマを撃退したことを聞くと嬉しそうに体をバンバン叩いた。かなり痛い。

「いてて・・・、相変わらず馬鹿力だなぁ。そういえばバルディスさん、短剣ありがとう。こいつに救われたよ」

 そうお礼を言って貰った短剣を見せる恵二。それにバルディスは複雑な顔をする。

「あー、そうだな。礼は受け取っておくが、今度は剣で倒してくれよな?」

 バルディスは恵二に剣を教えても、短剣の扱いは教えたことがない。短剣を渡していたことで教え子が無事だったことは喜ばしいが、剣の師匠としては微妙な心情といったところだろうか。

 そんなバルディスに恵二はこう告げる。

「・・・バルディスさん。気を悪くせず聞いて欲しいんだけど・・・。今持ってる剣より良い武器ってどこかで売っていないかなぁ」

「・・・今の武器じゃ不満か?」

 クマの一件で更に自分の力量の無さを痛感した恵二。より上等な武器が欲しいと思うのは自然な考えであった。

 しかしバルディスはこう反論する。

「いくら良い武器を持っても扱うものが未熟だと、たかが知れているぞ?」

 剣の師としては、恵二には武器に頼らずもっと技量を上げてもらいたい。そう思っての言葉であった。しかし、恵二が他の勇者たちに後れを取るまいと努力しているのは知っている。誰よりも早く練兵場に入り素振りをしているのだ。決して安易な発言ではないのであろうと思い、こう続ける。

「・・・だが、より良い武器を備えておくってのは決して間違いじゃない。それなら王都の二番通りにある武器屋に行くといい」

 あそこなら良質な武器が手に入ると教えると、大体の場所を恵二に伝える。

「ありがとう、バルディスさん」

 バルディスに礼をすると、すぐさま恵二は城外へと赴くのであった。



 王都は昼時を少し過ぎた時間ということもあってか、大通りや広場ではたいへんな賑わいをみせている。広場の露店では装飾品から日常品、食べ物など様々なものが売られている。大通りに並ぶお店では飲食店や雑貨屋、衣服などを扱うお店の店員であろうか。店前で客の呼び込みをしている。

(随分賑わっているな。災厄なんて関係ないってことか)

 大災厄<神堕とし>が起きるかもしれないという事実は、国民にも知れ渡っていた。不安がないわけではないのであろう。それでも今を生きるためには仕事をする他ない。科学の発展した元の世界とは違って、この国では災害があるからと遠くへ避難するなんて余裕は国民にはない。結局今まで通り生活をするしかないのだ。
 気持ちを切り替えて武器屋を探そうと、恵二は二番通りを探し歩きまわる。以前王都内を案内された時の記憶をさぐり、確かこっちだったかと細い通りを抜ける。どうやらあたっていたようで、すぐそこは二番通りがあった。
 さてお目当ての武器屋はと周囲を見渡すと、ふと気になる人影を見つけた。

 それは茶髪の少年のようであった。その背丈は15才の恵二より低く、パッと見どこにでもいる少年といった感じであったが、問題はその顔にあった。その顔は年相応とはお世辞にも言えなく、成人した顔つきであった。そう、まるで大人がそのまま小さくなったような。

 思わず凝視していた恵二に気づいたのか、その少年?は恵二に話しかける。

「ん、なんだい?僕に何か用かい?」

「え、いや・・・その・・・」

 まさか物珍しい容姿に思わず見とれていたとも言えず、言葉に詰まる恵二。そんな様子が態度に出ていたのか男は納得したような表情で口を開く

「ああ。もしかして君、小人族を始めて見たのかな?」

「小人族?」

 思わず聞き返した恵二に小人族と自らをよんだ男が説明する。小人族の特徴として彼らは生まれつき、成人男性でも身長が人族の子供くらいしか伸びないのだとか。
 そう説明され、恵二も王城の魔術師に習った種族の特性を思い出す。

 ――小人族。その名の通り身長は大人でも低く、手先がとても器用だとか。主に中央大陸では北西に住んでいるらしい。あと風属性が得意なものが多いとのことだ。

 自分の知っている小人族の情報を思い出していると、小人族の男は名乗り始める。

「僕は小人族のハミ、よろしく」

「三辻恵二です、よろしく」

 ファミリーネームがミツジだと付け加え挨拶をする。

「そうか・・・ケイジ・・・ケイジ君。うん、良い名前だ」

 何が嬉しいのか、自分の名前を笑顔で褒め称えてくるハミさん。それにしてもこっちの世界に来て皆が“ケージ”と伸ばして発音していたのに対し、彼は流暢にケイジと呼んでくれた。疑問に思っている恵二にハミが話しかける。

「君はもしかして、最近召喚されたっていう勇者様じゃないかい?」

「――っ!どうしてそれを!」

「なーに、驚くことじゃない。僕は情報屋だしね。変わった名前だし、すぐにピンときたよ」

「情報屋・・・」

 小人族のハミはどうやら情報屋らしい。よく物語に登場する、情報を売り買いする者のことだろうかと恵二は当たりをつける。

「そう、情報屋。ここで会ったのも何かの縁だ。何か欲しい情報はないかい?ただで教えてあげるよ」

 勇者様に恩が売れるなら、と明るい口調で付け加えるハミ。欲しい情報、そう聞いて恵二は武器屋を探していたことを思い出す。

「武器屋を知りませんか?この二番通りにあるはずなんですが・・・」

「ああ。あそこの武器屋か。それならもっと奥に行ったところにあるよ。それらしい装いをしていないから紛らわしいんだよね、あの店」

 そう言って奥の方を指差すハミ。目的地の場所を聞いた恵二はハミにお礼を言い、その場を立ち去ろうとするが、それにハミがまったをかける。

「あそこの武器屋も悪くないんだけど、それよりそこの小道。そこをまっすぐ進むと右手にある橙色の屋根の鍛冶屋がお勧めだよ」

 そう言って小道の方を指差すハミ。そこの鍛冶屋には偏屈だが腕の良い職人がいるらしい。

(偏屈な腕の良い鍛冶屋さん、か・・・。ファンタジー世界で鍛冶屋だと、どうしてもドワーフを連想するなぁ)

 そんなことを思いながら情報屋ハミにお礼を言い、さっそく鍛冶屋へ向かう恵二。武器屋も興味があったが、武器を作っている鍛冶屋にも俄然好奇心がそそる。はやる気持ちを抑えて足を小道へと向ける。

 しばらく小道を進んでいくと、情報屋の言った通りそこには橙色の鍛冶屋があった。いや、これは鍛冶屋と呼べるのだろうか?建物は殆ど手入れがされていないのか、ホコリを被っており看板も出ていない。それでも辛うじて鍛冶屋だと恵二が判断したのは、建物の中から金属を打つ物音が聞こえるからだ。

 意を決して恵二は建物のドアを開ける。静かに開けようとしたのだが、立てつけが悪く甲高い音が鳴る。それでも一向に金属を打ち付ける音のリズムは変わらない。

「・・・ごめんくださいーい」

 カンカンカンと相変わらず一定のリズムで奥から音が聞こえる。恵二は再度大きな声で語り掛ける。

「――ごめんくださああい!!」

 金属を打ち付ける音がピタッと止まる。すると奥からずんぐりむっくりな体型の、髭親父といった風貌の男が出てきた。

「――なんでえ、大きな声出して!俺になんか用か?」

 先程の自分とたいして変わらない声量で話しかけてくる男に若干引く恵二。しかしその声よりも気になったのがその男の風貌。それは恵二が思い描いていたドワーフ像そのままといった感じであった。
 しかし事前にドワーフがいるのかもと想像を膨らませていた恵二は、呆気にとられたのは一瞬ですぐに挨拶を始める。

「えーと、自分はケイジ・ミツジと言います。こちらに腕の良い鍛冶師さんがいると聞いたものでして・・・」

「・・・ふむ。お前さん、誰からここが鍛冶屋だって聞いた?」

 何かまずい事でも言ったかと考えた恵二だが、素直に小人族から聞いたと答えた。するとドワーフは笑顔で恵二に話しかけた。

「そーか、ハミの野郎の紹介か。俺は鍛冶師のカルジだ。よろしくな、ケイジ!」

 そう言い握手を求めるカルジ。恵二が握り返すとブンブン腕を振ってくる。このドワーフも恵二の名前を流暢に発音する。

 それから恵二たちは簡単に自己紹介をしあう。やはりカルジはドワーフのようで、普段はここの鍛冶場にはおらず、王都の別の家に住んでいるのだとか。しばらくこの建物を放置していた為ホコリを被っていたらしい。
 恵二はカルジから、どうしてここを訪れたか尋ねられ素直に自分の身分を明かした。するとカルジは恵二の体をジロジロと見はじめ、あれこれと質問をする。実戦経験はあるのか、普段の訓練はどうしているのかと。
 体のあちこちを触られながら質問に答える恵二。どうやらカルジは恵二の体つきをあれこれ確認しているらしい。一通り確認し終わるとドワーフは語り始める。

「事情は大体わかった。武器は作ってやる、ただし――」

 ドワーフはこう告げる。作ってやるのは短剣だけだ、と。
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