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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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王女様、おかわりっす

 あっという間に拳一つでBランクパーティーの冒険者達をのした恵二は、横転し大破した車両の中から長い縄を取り出すと、それを丁度よい長さに切って気絶している3人組の冒険者達を縛っていった。

「おい、魔術を使ったヤツはどいつだ?そいつは口も封じないとな」

 フレイアから事情を聞かされた二人組の冒険者は、どうやら恵二たちの力になってくれるようで、帽子を被った冒険者がそう助言をしてくれた。

「えっと・・・。誰だっけかなぁ?」

 馬車の操縦に気を取られていた恵二は魔術を放った瞬間を見ておらず、誰が魔術を使ったのか全く分からなかったのだ。

「この人です。短剣を持っているこの者が魔術を放ちました」

 そう教えてくれたのはフレイアであった。彼女はちゃんとその瞬間を見ていたのだ。

「サンキュー、フレイア」

 恵二はお礼を言うと、魔術を放ったであろう短剣持ちの男の口をしっかりと縛った。一方恵二にお礼を言われたフレイアはどうだと言わんばかりに誇らしげな笑みを浮かべた。先程まで蔑ろにされていた分、役に立って褒められた事が殊更嬉しかったようだ。

「お前、王女様を呼び捨てはないだろう・・・」

「・・・まぁ、俺の国の王女様じゃないしね」

 帽子の男のツッコミに多少考慮するも、やはりこのままの喋り方が楽でいいかと考えた。

「坊主、それよりこの嬢ちゃんは一体どうしたんだ?さっきから全く動かないぞ?」

 髭面の男がそう言い指した先には、地面にぐったり俯せで倒れているリアの姿があった。

「しまった、ほっときすぎたか!?飢え死にしたか?」

 恵二の言葉にギョッとするフレイアと冒険者達。恵二はリアに駆け寄ると声を掛けた。

「おい、大丈夫か?まだ生きてるか?」

 ―――ぐうううー・・・

 返事は無かったが代わりに腹の虫が答えた。

「よし、まだ大丈夫だな。悪いけど、何か食べる物を分けてくれないか?」

 恵二は二人組の冒険者にそう催促するも、顔を見合わせた後二人はこう答えた。

「わりぃな。町を閉鎖される前に慌てて出たものだから、持ち合わせは殆どないんだ」

「ああ、このままどこかの村に着くまで我慢するか、あわよくば道中食べれる魔物が狩れればと思ってたんだが・・・」

「魔物、か・・・」

 一か八かと考えた恵二は、超強化(ハイブースト)魔力探索(マジックサーチ)の範囲を強化し辺りを探った。

「・・・あっちに何匹かいるな。食べられる奴ならいいんだけど・・・」

「本当か!?俺達も手を貸すぜ?」

「いや、あんた達はフレイアやリアを守ってやっていてくれ。俺がサクッと片づけてくる」

 そう告げると恵二は単身魔物がいるであろう街道の脇道にある林へと踏み込んだ。



「王女様、おかわりっす!」

「は、はい」

 リアにおかわりを要求されたフレイアは、程よく焼けた肉を手際よく切り分けていくと、調味料を絶妙なさじ加減で加えテキパキと料理を作り上げていく。それを次から次へと受け取ったリアが口の中へ料理を運んでいっては幸せそうな笑みを浮かべて感想を述べた。

「うまいっす!まさか野外でこんな美味しい料理を頂けるなんて幸せっす!」

「ふふ、これもケージさんが獲ってきてくれた魔物と、リアさんが持っていた調理器具のお蔭ですね」


 あのあと魔物の気配の方へと向かった恵二は、林の中で遭遇した白毛鹿(リバーディアー)を数頭狩ってきた。セレネトでも良く狩っていたその鹿は、白い体毛に肉食と鹿にしては珍しいEランクの魔物であった。

 急いで鹿を持ち帰った恵二は、魔術で焼いた鹿の肉をそのままリアに食わせようとしたところ、フレイアがそれに待ったをかけた。彼女は趣味で料理をしていたそうで、大得意なのだと調理を買って出た。

 しかしこんな野外ではまともな調理などできるのだろうかと皆疑問に思ったが、今度は飢え死にかけていたリアがかすれた声で“私の荷物を・・・”と声を発した。彼女の荷物の中を開けさせてもらうと、そこには何故か多種多様な調理器具と調味料が入っていた。


 リアだけでなく恵二や冒険者の二人組、髭面のロイドに帽子を被ったエイワスもご相伴にあずかる形で一緒に食事を取っていた。

「確かに!こりゃーうめぇ!」
「王女様の手料理を食べられるなんて自慢できるぜ!」

「こんな美味しいものを毎日食べられるのでしたら、私本当に侍女でもいいっすよ」

「どこの世界に王女様に料理を作って貰う侍女がいるんだよ・・・」

 リアの言葉に呆れながらも、恵二は自分で獲ってきた鹿肉の美味しさに驚くのであった。



「ご馳走さまっす」
「王女様申し訳ありません。俺達まで頂いちまって・・・」

「いえ、構いませんよ。料理は好きですから。野外での調理というのもいい経験になりました」

「さて、腹ごしらえも済んだ事だし、そろそろアイツらから聞き出さないとな」

 恵二の台詞に縛られていた3人組の冒険者達は小さく体を震わせると、これからどんな目に合わされるのか顔を真っ青にした。

 恵二達が食事の準備を始めた頃には3人は既に目が覚めており、先程まではリアが美味しそうに料理を平らげているのを羨ましそうに見つめていた。

「お、俺達をどうするつもりだ!?」
「お前達、冒険者なんだろ?まさかギルド長に楯突く気か?」

「そっちこそ王族に刃向かう気か?いいからさっさと質問に答えてもらおう。お前達に王女を連れてくるよう依頼したのは誰だ?」

「・・・さっき言っただろう。ギルド長からの指示だ」

「本当か?後で嘘をついていると分かったら、今度は手加減抜きでぶん殴るぞ?」

「・・・はっ!さっきは油断していたところにまぐれ当たりしただけだ!吹かしてんじゃねーぞ」

 この期に及んでまだ強気な態度を取る男にため息をついた。どうやら手加減したとは信じてもらえていないようなので、恵二は実演する事にした。

 スキルで全身を瞬間的に強化すると、誰もいない方角にフルパワーで拳を突き出した。直後、恵二の拳から強い衝撃波が放たれ、目の前にあった細い木々は触れてもいないのに吹き飛ばされ、地面は数メートル先までえぐれとられた。

 全力で放ったその突きは、空を切っただけで正面にあったもの全て吹き飛ばして見せた。これにはさすがに冒険者達だけでなくリアや王女達も驚愕した。

「ケージさん、おっかねーっす」
「一体何が・・・」
「魔術か何かか、あれ・・・?」
「詠唱してなかっただろ?」
「いやいや、パンチだけであんな真似できる訳ねーだろ!?」

 周りがざわめつく中、恵二は再び縛られている<霧の光明>の連中を問い詰めた。

「もう面倒だから洗いざらい喋ってくれ。でないと今度はそっちにさっきのパンチをお見舞いするぞ?」

 恵二の脅迫に首を何度も縦に振り、ようやく3人組の冒険者達は自白した。



「・・・つまり、貴方達は本当に私をお城に連れて行く事だけが目的だったのですね?」

「はい、アムルニス神に誓って本当です」

 さっきまでの威勢は完全に失い、素直に質問に答えていく冒険者の男達。どうやら本当に王女の暗殺を企んではいなかったようだが、王女の傍にいる者は連れて行くのが不可能な場合、最悪殺しても構わないと依頼されていたようだ。

「・・・ちょっと気になったんすけど、依頼を持ち掛けたのはギルド職員さんっすよね?」

「ああ、そうだ。俺達以外にも他の冒険者にも何人か話を持ち掛けていると職員から聞いた」

「ギルド長から直接命令されたではなく、その職員がギルド長命令だとそう言ったっすか?」

「ああ、間違いない」

 彼女はどういった意図でこの質問をしたのだろうか、気になった恵二は本人に聞いてみる事にした。

「リア。今の話しだが・・・」

「ええ、説明するっす。実は私そのギルド長と面識がありまして、今回の旅もギルド長メルシアさんと会いに行く予定だったっす」

 どうやらレアオールのギルド長はメルシアという名の40代の女性だそうだ。やはり彼女も現役時代は元Aランクの凄腕冒険者であったそうで、以前リアはお世話になったのだという。

「彼女の人柄は知ってるっすが、決して今回のような依頼を出す人じゃないっすよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺達は嘘なんか言ってねえ!本当にギルド長からの依頼だって職員に言われたんだよ!」

「ああ、その通りだぜ!信じてくれ!」

「・・・どうしましょう?」

 リアの発言に必死になって本当の話しだと訴える冒険者達。さすがにこれだけの情報ではどう判断していいのか分からず、フレイアは恵二に判断を委ねてきた。

「・・・両方の話を信じるなら、その職員か更に上の奴がギルド長の名を騙ってるんじゃないか?」

「それは私も思いましたっす。きっと副ギルド長が怪しいっす」

「・・・あいつか!」

 リアの言葉に納得したのか、髭面の冒険者がそう声を上げた。

「どういう奴なんだ?」

 恵二はリアにそう尋ねると、彼女はふくれっ面でこう答えた。

「嫌味なおっさんっす。メルシアさんに会いに行くと、やれ“アポは取っているのか”だの“今ギルド長は忙しいから出直せ”だの口うるさい奴っす」

「いや、それはあながち間違いではないような・・・」

 場合にもよるのだろうが、一ギルドのトップであるギルド長は普通は多忙であり、それを無視して気軽に会いに来たリアに対して口を出すのなら、それはなにも間違った対応ではないのではと恵二は思った。

「まぁ、嬢ちゃんの話しは置いておいて、確かにアイツは口うるさいな。外から来た俺達にあれこれと“ここのルールはこうだ”と縛ったり“お前達外の冒険者にこの依頼は受けさせられない”と先に俺達が受けた依頼を他の冒険者に斡旋したりと、とにかくうざかったぜ」

「うーん・・・。確かに酷い話だが、それだけで疑うのはなぁ・・・。どっちみちレアオールに行かないと分からないか」

「ケージさん・・・。私は町に戻りたくありません」

「ああ、分かってるよフレイア。今戻るのは自殺行為だ。とりあえずどこか余所の村か町に向かおう」

 3人組の襲撃や、リアの栄養補給で大分時間を取られてしまった。馬車が壊れた恵二達は当然徒歩であった。ここから歩きでは、一番近い村<キャリッジマーク>まで丸一日は掛かりそうであった。もう時刻は夕方に差し迫っていた。少なくとも一泊は野宿を覚悟しなければと恵二は頭の中で計算した。

「ケージさん。最初のお約束では私をレアオールまでついでに連れて行ってくれるだけでしたが、今では状況が大きく変わってしまいました。それでも私は貴方に頼る他無いのです。身勝手なお願いですが、どこか他の町に着くまでご同行して頂けませんか?このお礼は必ず致します」

「ああ、かまわないよ。俺も今の状況でレアオールに行きたいとは思わないし、元々リアを連れて行く為にここまで来たんだ。・・・リアはどうするんだ?ギルド長に会いに来たんだろう?」

 彼女にそう尋ねると、リアは腕を組み暫くの間考え込んだ後にこう告げた。

「私もケージさんにもう暫くお供するっすよ。王女様の美味しい手料理をもう一度頂きたいですし、私一人でレアオールに向かっても碌な目に会いそうにありませんっすからね」

「俺達も同行しても構わないか?目的地はキャリッジマークだろ?ケージ達と一緒の方が安全そうだしな」

「ついでに王女様や嬢ちゃんの護衛を無料で買って出るぜ?」

 髭面の冒険者ロイドと帽子を被った冒険者エイワスのCランクコンビも一緒に付いて行くと口にした。

「よし、それじゃあ行くとするか!」

 恵二がそう号令を出した直後に、出発に水を差す様な抗議の声が聞こえてきた。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺達はどうするんだよ!?」
「全部正直に話したんだから縄を解いてくれよ!」
「んーー!んーーー!!」

 縛られたままであった冒険者達はそう抗議した。魔術を扱える男は口を塞がれており呻き声を上げて恵二たちを必死に留めようとした。

「しかしなぁ。縄を解いた途端に攻撃されかねないしなぁ・・・」

「しないって!あんたが強いのは良く分かった。後生だから頼む!このまま縛られて置いてかれたんじゃあ、魔物に喰われちまうよ!」

 男の言い分も尤もであったのだが、馬車の恨みが存分に残っていた恵二は簡単に許すことは出来ず、フレイアの方へ視線を向けて判断を仰いだ。

「・・・今後私達に一切危害を加えないとお約束していただけるなら、今回の件は水に流しましょう」

「は、はい!俺達もう悪い事しません!」
「ありがとうございます王女様!」
「んんー。んー!」

 いまいち信用ならなそうではあったのだが、王女に判断を任せた恵二は渋々3人組の縄を解いた。すると3人は感謝の言葉を述べながら慌てて恵二の元から逃げるように馬に乗って去って行った。

「・・・なあ。あいつらの馬を奪えば良かったんじゃないのか?」

「さすがにそれは可哀そうっすよ。冒険者にとって足はとっても重要っす」

「俺の馬車・・・」

 バアル伯爵から頂いて、セオッツやサミに譲って貰った馬車を失った恵二は肩を落とし未練がましくそう呟いた。
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