挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

64/161

俺が聞きたいよ

「―――っミルト!?」

 白いドレスの少女は無惨に殺された鎧の少女の亡骸を見ると、彼女の名前を叫びながら恐る恐る近づいていった。その亡骸は、彼女の事を知らない他人の恵二でも目を背きたくなる程の痛ましさであった。

「・・・こんな。どうしてっ・・・!」

 殺された少女と知り合いであったらしいドレスの少女フレイアは、鎧の少女の亡骸を抱いたまま嗚咽し続けた。

 フレイアと名乗った少女を救出した後、こちらも名乗ろうとしたのだが、その前に彼女は鎧の少女の元へすぐ連れて行って欲しいとお願いをしたのだ。

 どうやらこの鎧の少女、ミルトというらしい彼女はフレイアを助ける為に身を挺して守ってくれたそうだ。幼いながらも剣の才覚はあったらしいのだが、多勢に無勢で野盗に斬り捨てられてしまい、彼女の生死を確認する間もなくフレイアは大きな袋に無理やり押し込まれ拉致されてしまったようだ。

 フレイアは一縷の希望を抱いて彼女の元へと戻り確認したいと恵二に申し出たのだが、既に少女の亡骸を見ていた恵二は止めた方がいいと忠告をしていた。

(まぁ、他人の俺がそんな事言っても簡単に納得できる訳ないよなぁ・・・)

 結局彼女に押し切られる形でここまで連れて来てしまったが軽率だっただろうか。あまりにも惨い死体の状態にフレイアは声を上げて泣き崩れた。暫くするとその泣き声を聞きつけたのか、馬車に残っていた筈のリアが1人でやって来た。

「お前!待ってるか逃げろって言ったじゃないか!?」

 無警戒にのこのこ1人でやってきたリアに危険だろうと声を掛けたが、彼女はそれを聞き流し辺りを見渡した後にこう口を開いた。

「ケージさん。これって一体どういう状況っすか?」

「・・・俺が聞きたいよ」

 恵二にもいまいち詳しい状況を掴めてはいなかったのだ。ただ一人事情を知っていそうな少女は先程から泣き喚いている。これは暫く待つしか無いかと考えた恵二は、非情に不本意だが野盗の死体を漁りだした。その行為を勘違いしたのかリアは声を掛けた。

「おや?仏さんから窃盗っすか?」

「人聞き悪い言い方するな!証拠集めだよ。こいつらが何者なのか、分かるものがあればいいんだが・・・」

「そんなの、野盗に決まってるじゃないっすか」

「だからその野盗が何で彼女達を襲ったのかが知りたいんだよ」

 恵二の言葉に不思議そうに首を傾げるリア。

「野盗が人を襲うのは当然じゃないっすか?」

「相手にもよるだろ?どうやら野盗が襲ったのは鎧で武装した連中も居たみたいだし、そんな危険を冒してまで普通襲うかな?」

「うーん、貴族とかなら実入りが良いんじゃないっすか?彼女、どう見ても一般人には見えないっす」

 リアの意見も尤もであった。貴族を狙ったハイリスク・ハイリターンな襲撃だったのかもしれない。だが、盗賊達の言動が妙に引っかかった。

(あいつら、目撃者は消すって言ってた。それに、死体を漁る真似はせず彼女だけを連れ去ろうとしていた。鎧や剣もそこそこの金になるんじゃないのか?)

 確証は無いが物取りの犯行では無いように恵二には思えた。あれこれと想像を働かせていると後ろから声が掛かった。

「彼らは恐らく・・・私を狙ったんだと思います」

 その声の先に振り向くと、そこには頬に涙の痕を残し目を真っ赤にさせた少女が立っていた。

「もう、大丈夫なのか?」

「・・・はい。御心配をおかけ致しました。・・・ようやく落ち着きました」

 そう気丈にも話すフレイアの声は震えており、目には涙を溜めていた。傍から見ても無理をしている事は瞭然であった。こんな状態で話を進めてもいいものかと恵二は迷ったが、横からリアが助け船を出した。

「まぁ、気を紛らわすって意味でもお話するのはアリだと思うっす。あ、私はリア。行商人をやってるっす。そしてこちらがケージさんっす。腕利きの冒険者さんっすよ」

「リア様にケージ様ですね。私はフレイアと申します。この度は命を助けて頂いてありがとうございます」

 少女はそう謝礼を述べると優雅な動作でお辞儀をしてみせた。彼女の着ている装いに今の動作、間違いなく貴族かそれに準ずる何者かであろうと恵二は確信した。

「それで、良かったら事情を説明してくれないか?一冒険者としてこの事態はさすがに見過ごせない」

 恵二に催促されたフレイアは思慮を巡らせた後、ゆっくりと口を開いた。

「分かりました。改めてご挨拶させて頂きます。私の名はフレイア・ヴィシュトルテ。この国の王女です」

「王女様!?」
「はえ~。驚きっすねー」

 やんごとなき身分の少女だとは思っていたが、一国の王女がこんな林で野盗に襲われているとは思いも寄らなかった二人は心底驚いた。しかし、同時に納得もした。

「成程、確かにお姫様なら野盗もリスクを負って攫ったりするのかもな」

「・・・いえ。彼らは私を殺す気でいました」

「―――何!?」

 恵二の発言にフレイアは異論を唱えた。

「彼らは最初、私を殺すつもりだったようなのですが・・・。殺す前に、その・・・私をどこかに一度連れて行って・・・」

「あー・・・」

 何か言い辛そうに説明をするフレイアに、恵二は彼女が何を伝えたかったのか何となく察してしまった。つまり、あの下種な野盗共は、殺す前に彼女をアジトにでも連れて行ってお楽しみをする腹積もりであったようだ。確かに彼女は年齢こそ未成年のようだが、容姿は文句なくスタイルも中々で魅力的な娘であった。

「ケージさんのエッチ・・・」

「――っちょ、何言うんだ、お前!!」

 一瞬変な想像が頭によぎった少年は、リアの茶化しに顔を真っ赤にして狼狽えた。王女も若干恵二から距離を取って自身の体を隠すように両腕で抱いた。その動作に恵二はちょっと傷ついた。

「あー、くそ。・・・それで?話を戻すけど、アイツらは何でまた王女様を殺そうと?」

 まだ少し火照った表情のまま、恵二は無理やり話題を元に戻す。気を取り直したフレイアも記憶を辿るが、野党の動機までは分からずに首を横に振った。

「申し訳ありません。全く分かりませんが、恐らく彼らは誰かに指示され私や護衛の者を襲ったのでしょう」

 恵二もその考えには賛成だ。それならさっき野盗が口を滑らせた“目撃者は全員消せと言われた”という言葉もしっくりくる。となると次に聞きたい事は―――

「―――じゃあ、誰かあんたに恨みを持っている奴か、死んで欲しいと考えている奴に覚えは無いか?」

「・・・・・・」

 少年の言葉にフレイアは答える事ができなかった。やはり王族ともなると心当たりが多いのか、少女は考え込んでしまった。すると横からリアが重ねて尋ねてきた。

「実際に行動しそうな奴はいないっすか?野盗を使って貴方を亡き者にしようって奴は・・・」

「・・・やりかねない者には少し心当たりがあります。最近、反王族派と言われる貴族の方たちです」

「反王族派?」

 恵二は余りこの国の情勢には詳しくなく、フレイアはそんな少年に丁寧に教えてくれた。

 反王族派とは、その名の通り王族に弓を引く貴族連中の事を指す。勿論王政を敷いているこの国で表立って王に逆らえば厳罰に処されるが、ある貴族達は直接表立ってでは無く、裏で間接的に王への反抗を企てているのだという。そのひとつが隣国シキアノス公国への売国行為だ。

 ヴィシュトルテ王国は過去に貴族の反乱で国を二分したという苦い記憶を持つ。その為か偶にその行為を真似ようとする貴族が出るのだという。しかし、そう何度も反乱がうまくいく訳も無く、表立って意を唱えた貴族は家を潰されるか、最悪シキアノスに亡命をするといった流れになる。

 その時代の王の政治手腕によっては、そう言った輩を一定数出してしまうのがこの国の現状らしい。フレイアの父が統治する現在も、極僅かではあるようだが裏で動いている反王族派がいるのだと少女は悲しそうに話す。

「つまり、その反王族派が野盗を使って王女様を狙ったと?」

「・・・確証はありません。しかし、過去にも似たような事をした貴族がいたと聞きます」

 どうやらこっちの国に来ても貴族の勢力争いに巻き込まれそうだと恵二は深い溜息をついた。

「とりあえず、何時までもこんな林の中にいるよりお城に連れて行って差し上げた方がいいんじゃないっすか?」

「・・・そうだな」

 恵二もここで王女を見捨てるほど薄情では無かった。元々リアを王城のある首都レアオールへ乗せていく約束だ。王女様一人追加しても特に問題は無いだろう。

 だが恵二がフレイアを連れて行くことに賛同したその直後、林の奥から近づいてくる者の足音が聞こえた。

「―――ひっ!また野盗ですか!?」

「・・・いや。・・・これ、鎧の音じゃないっすか?それにたった一人だけのようっすよ?」

 また刺客が現れたのかと怯える王女に、リアは恐らく別物だと告げた。恵二は視覚を少しだけ強化し、霧で包まれた林の奥に目を向けると、そこにはぼんやりとだが鎧を纏った兵士のようなシルエットが見え始めた。

「もしかして王女様を探しに来たんじゃないっすか?」

 リアもどうやら近づいてくる者を武装した兵士ではと考えたようだ。その言葉に一瞬安堵の表情を浮かべるフレイアだったが、その者の鎧姿がハッキリ見え始めると彼女は青ざめた表情でこう言い放った。

「―――し、知りません!私、あんな鎧を着た兵士さんは見たことありません!」

「―――何?」

 3人の前に姿を現したのは、全身を鎧で覆われた体格の良い兵士であった。その鎧は古ぼけた銀色を基調としたデザインであった。手には槍の先に斧のような刃が備わった所謂ハルバードを持っており、顔は兜で完全に隠れており相手の表情は全く見えなかった。

「・・・確かにこの国の兵士さんは、あんな鎧じゃないっすね」

「ええ。ヴィシュトルテの鎧は白を基調としたデザインです。我が国は代々白色を使う習わしですので」

 王女はそう解説をする。つまり目の前の者は少なくともヴィシュトルテの兵ではないようだ。その兵は3人の姿を捉えると一旦その場で止まり、こちらの様子を伺っているかのように見えた。

「あんた、何者だ?ここへ何をしに来た?」

「・・・・・・」

 二人を庇うように一歩前に出た恵二はそう問いただしたが、銀鎧は全く反応を返さなかった。

 警戒心を高めた恵二は、更に銀鎧に声を掛けようとした、その時───

 ───その者はとても鎧を身に着けているとは思えないスピードで一気にこちらへと迫ると、自身の背丈以上の長さの槍斧を大きく後に振りかぶった。

「──!」
「ひっ!?」

 フレイアが短い悲鳴を上げるのを尻目に、恵二はすぐに行動していた。今まさに銀鎧はその手に持ったハルバードをリアへと振り下ろそうとしていたからだ。

「え?」

 ぼうっと立ったままのリアを庇う形で恵二が間に割り込むと、咄嗟に腰の後ろから抜いたマジッククォーツ製の短剣をハルバードの刃へと切り上げた。

 ただでさえ質量が上のハルバードを上から振り下ろした銀鎧だが、軍配は恵二に上がった。

 恵二は既にスキルで強化をしていた。それもかなりのパワーで行ったので、銀鎧のハルバードは上に大きく打ち上げられた。

「せい!」

 恵二は掛け声と共に今度は徒手の左拳を握りしめ、銀鎧の腹部を強打した。鈍く重い音がすると、銀鎧は堪らず数歩後ろへと後ずさる。だが悲鳴を上げたのは少年の方であった。

「──いてっ!硬すぎだろ・・・!」

 鎧を強打した左手を擦りながら恵二は苦痛の声を上げた。

(おいおい、いくらなんでも頑丈過ぎだろう。十メートルは吹っ飛ばすつもりで殴ったんだぞ!?)

 しかし結果は数歩後退しただけで、銀鎧は健在であった。利き腕ではない左で殴ったとはいえ、充分強化された一撃が不発に終わった恵二は顔をしかめた。

 銀鎧は先程の攻撃で標的を恵二に変えたようで、ハルバードを振りかぶりながら少年の方へ向かってきた。相変わらず重たい鎧を全身に纏っているとは思えない速度であった。

(──上等だ。なら、今度は3割だ!)

 恵二は短剣を腰の鞘に収めると、今度は利き腕である右拳をギュッと握りしめてから一瞬で銀鎧に肉薄した。

 標的が急接近したにも関わらず、全く反応を見せない銀鎧は予定より早くハルバードを振り下ろそうとするが、それを恵二のスピードは凌駕した。

「吹っ飛べ」

 そう言い放ったのと同時に右拳を銀鎧の胴に繰り出す。さっきより3倍近く強化された恵二の拳は、鎧に打ち付けた瞬間凄まじい音を立てた後、銀鎧を遥か後方まで宣言通りに吹っ飛ばした。

 2転3転した後吹き飛ばされた銀鎧は仰向けに倒れた。その拍子に銀鎧の兜が外れたのか、横へ転がっていった。

「なんだったんだ、こいつ・・・」

 いきなり現れて訳も分からないうちに襲われたので、つい吹き飛ばしてしまった。

「それにしても頑丈な鎧だったな・・・。上手く加減できな・・・いっ!?」

 吹き飛ばした相手の様子を伺っていた恵二は、その光景に目を見開いた。なんと、あれだけ派手に吹き飛ばされた銀鎧は体を起こし立ち上がろうとしていた。

 そして、さらに驚かされたのは銀鎧の頭部であった。兜が取れた相手の素顔を確認しようとした恵二は驚愕の表情を浮かべた。

「首が・・・無い・・・!」

 兜が取れた銀鎧の胴体の上部には、本来ある筈の首や頭が一切無かったのだ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ