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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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お願いがあるっす

「ケージさん。お願いがあるっす!」

 目が覚めて、宿に併設された食堂で朝食をとっていると、昨夜別の宿に泊まると言い出したリアが恵二の向かいの席に座りそう話を切り出した。

「んぐ、なんだよ?早朝からいきなり・・・」

 あまり彼女には良い感情が無かった少年は、お願いがあると聞いてさらに嫌そうな顔をした。しかしそんな事知った事かとリアは図太くも話を続けた。

「ケージさんの馬車で私をヴィシュトルテの首都レアオールまで乗せていって欲しいっす」

 その地名は昨日リアから聞かされていた。この国の首都で大きな湖の隣にある町だ。そこには美しい王城、レアオール城があり、湖と霧が合わさった光景はとても幻想的なのだとか。この国でも一番の観光スポットだという。しかし―――。

「悪いけど、俺はそこへは寄らないよ。西へと進む予定だ」

「そこをなんとか!お願いするっす!」

 現在恵二がいるキャリッジマークから北上すると、馬車の足でどうやらほぼ1日くらいの時間でレアオールには着くようだ。だが恵二の目的地は西にある魔術都市エイルーンであった。城や湖には興味があったが、できれば寄り道はしたくは無かった。

「それなら俺に頼むんじゃなくて、乗合馬車にでも乗ればいいだろう?」

「それがっすね・・・」

 バツが悪そうな顔をする彼女はおずおずと事情を説明し、それを聞いた恵二は大声を出した。

「はあっ!?もうお金を全部使っただって!?」

 昨晩カードゲームで儲けた彼女は、それこそ十分良い宿に泊まれる上、大量の食事にもありつけそうなお金を持っていた筈であった。だから安い宿で良いと言った恵二とは別れ、彼女は昨夜おいしい料理の出る宿を探しに向かった筈であった。

「ええ、まあ・・・。あのあと香ばしい匂いのする宿屋を見つけまして、そこで宿を予約してから食事をとったっすが、それはもうそこの料理は絶品でして・・・」

「待て、もういい。大体分かったから」

 要するに彼女は有り金全部を食事に充ててしまったのであろう。それで困ったリアは、ただで恵二の馬車に乗せて貰おうと考えた訳だ。

「ハッキリ言って自業自得じゃないか。リアのお金を何に使おうが勝手だが、それに俺を巻き込むな」

「申し訳ないっす・・・」

 年下である恵二に怒られると、本人も反省しているのかシュンと項垂れてしまう。さっきまでとは打って変わって大人しくしょげている彼女の姿を見ると、どうにもこちらが悪い事をしているかのように錯覚をしてしまう。

(まぁ、食欲を我慢しろっていうのは難しいのかもな。俺はどちらかというと小食な方だけど・・・)

 その食いっぷりのせいで両親にまで捨てられてしまった彼女を気の毒に思ってしまった。一度そう考えたら甘い恵二は彼女を置いていくという選択肢は既に無くなっていた。

「あー。まぁ今回だけだぞ?これ食べ終わったらすぐに出発するから準備して待ってろ!」

「・・・ありがとうっす。ところで、私も少し食べていっていいっすか?」

「・・・・・・」

 結局恵二の奢りでリアは3人前をあっという間に平らげた。



「レアオールはこの道を真っ直ぐ行くっす」

「・・・真っ直ぐって言っても全然見えないぞ?」

 今日は朝から霧が濃い為、少し先までしか視界が利かなかった。仕方なく恵二は馬車の速度を緩め、道らしい所をひたすら進めていく。途中からやたら馬車が揺れ出した。シキアノスと比べると街道にしても全く整備がされておらず、馬車の揺れ具合からそこが道なのか、外れているのか全く分からなかったのだ。

「・・・大丈夫か、これ?」

「うーん、まぁ私の幸運スキルがあるので・・・。最悪気づいたら谷底だったって落ちは無い筈っす」

 彼女の言葉は信憑性に欠けた。そもそも幸運とは何をもってそう指すのか恵二には分からなかった。確かに彼女が行き倒れているところを恵二が発見したのは幸運なのだろう。しかし、良く考えてみればそもそも林の中を行き倒れていたり、もっと言うと馬車から突き飛ばされるのは果たして幸運だったのだろうか。

(後者は完全にリアの自業自得か・・・)

 しかし、こうも視界が悪いのではもう一つの懸念事項も無視できなかった。

「こりゃあ、どこから魔物や野盗が襲ってくるか分かったもんじゃないなあ・・・」

「それは大丈夫じゃないっすか?この国は屈強な騎士団に、冒険者も優秀だって聞くっすよ。彼らが定期的に魔物や野盗の類を討伐しているって評判っす」

「・・・俺、昨日5回も襲われたぞ?」

 恵二は昨日林でリアを拾うまでは、度々魔物や野盗の襲撃に会ったことを話した。すると彼女は首を傾げ不思議そうにこう話した。

「それは変っすねぇ。私の乗っていた馬車は一度も襲われなかったっすよ?」

「・・・まさか。それも<幸運>の成せる業なのか?」

 さっきまでその存在を疑っていた幸運スキルの効果をちょっと見直してしまった。しかし、とするともしかして彼女の乗っていた馬車に本来襲う筈であった魔物や野盗がこっちに周ってきたのではと変な勘繰りをしてしまう。

「まあ、私の<幸運>でもどうしようもない時はあるものっす。絶対に覆せない事象や巡り合わせってのはあるっすから、そう便利な物ではないっす」

「そうなのか?昨日のように賭け事に関しては無敵のように思えるけど・・・」

「まぁ、そうっすね・・・。でも、し過ぎると後が怖いっすから・・・」

 どうやら覚えがあるようで事情を問いただすと彼女は昔話を語ってくれた。

 どうやら自分は強運らしいと思い始めた時期、彼女はやはり賭け事で荒稼ぎしていたようだ。だが、それを妬んだ者達が現れ出した。ある程度のやっかみや嫌がらせはその強運で乗り切ったようなのだが、心の底から抱いた殺意や、自分では太刀打ち出来ない格上相手には<幸運>ではどうすることもできなかったのだという。

 ちょっと考えて見てほしい。目の前に彼女を殺したくて仕方がない者がナイフを持って現れたとする。それは幸運で回避できるだろうか。あるいは突然Sランクの竜種が現れたら運よく逃げ切れるだろうか。恐らく無理であろう。彼女のスキルは、そういった運ではどうすることも出来ない存在には無力なのだと話す。

「さすがに幸運って言っても私、神様じゃないっすからね。酷い目に会った事も何度かありますし、偶に本当に自分は幸運なのか疑心暗鬼になるっすよ。だから過信はしないっす」

「やっぱそれが賢明だよな」

 彼女の意見には同調できた。何故なら恵二も強力なスキルを持っていたからだ。ついこの間、自分と同じようなスキル持ちと戦闘になったが、相手はそのスキルの力を過信し敢え無く恵二に敗れた。どこか彼女にシンパシーを感じ始めていた丁度その時―――

「んー。なんかあっちで変な物音がしてないっすか?」

 彼女はそう言うが、視界の悪い恵二は馬車の操縦に集中していて全く分からなかった。

「どっちだ?リア」

「右っす。林の奥の方。何かいるみたいっす」

 彼女からそう教えられると、恵二は馬車を一旦停め、自身の聴覚をスキルで強化し耳を澄ませた。

(―――っ!確かに聞こえる。しかもこれって・・・戦闘音じゃないのか?)

 刃物と刃物がぶつかり合ったような音、それに男の怒声や女性の悲鳴も聞こえた。

「あっちでトラブルだ!リアはここで待っていてくれ。様子を見てくる!」

「了解っす」

 恵二の指示に素直に従った彼女はリュックから【エンチャントナイフ】を取り出した。

「いざとなったらこれで撃退するっす」

「・・・もしもの時は馬車やるから無理せず逃げろ」

 恵二は彼女にそう伝えると濃い霧の立ちこめる中、林へと踏み込んだ。



「そっちに行ったぞ!逃がすな!!」
「あいつらが邪魔だ、先に始末しろ!」

「くっ、ここは俺に任せて先に行け!」
「しかし、あの人数相手では・・・!」

 そう会話した二人の男に迫っていたのは、総勢8人にもなる野盗であった。この8人の他にも、何人かの男達が別方向から先へとすり抜けていった。男達の標的は先に林の奥へと逃げていた。

「いくらミルトでもあの人数相手には無理だ!お前も先に行ってフレイア様をお守りしろ!」

 確かに男の言うとおりであった。先に逃げていった二人の元へ4人以上の追手が向かっているのが見えたのだ。とても彼女達が凌ぎきれる人数では無かった。

「――――死ぬなよっ!」

 男はそう言い残すと野盗達から完全に背を向けて、先に逃げた二人と合流するべく林の奥へと駆けて行った。

「アイツを行かせるな!」
「邪魔すんじゃねえ!」

 残された男は逃げるのを止めて野盗達へと剣を向けて声を張り上げた。

「この先は1人も通さん!例えこの身が斬られようとも、腕の振るえる限り貴様らに我が剣を刻み込んでくれよう!」

 男の威圧に気圧されたのか、野盗達の動きが一瞬止まったが一番後ろにいたリーダーらしき者が怒声を浴びせた。

「何突っ立ってるんだ!標的はとっくに逃げてるんだぞ!?さっさとその死に損ないをぶった切れ!」

『おお!』

 一斉に声を上げ野盗達が男1人へと襲い掛かった。



「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

「ハァ・・・、大丈夫ですか?フレイア様」

 隣で心配そうに尋ねた女騎士に少女はただ頷いた。こんなに走ったのは何時ぶりだろうか。とても返事ができる状態では無かった。息はとっくに上がりきっていた。

 そもそも彼女は林の中を駆けるに適した格好ではなかった。足元に届かんとする長いドレスを両手で持ち上げ、足で引っ掛けないようにしていた。髪は黒髪のロングで顔は美人というよりかはまだ幼く可愛らしい。年は15くらいのまさに箱入りのお姫様といった装いだ。

 一方彼女を励ましながら鎧姿で駆けているのは、同じくらいの年齢の少女だ。彼女はショートカットの金髪で身長はドレスの少女よりか少し高めだ。

 そんな少女二人を後ろから追いかけるのは、いずれも身軽そうな装備を着けた野盗たちであった。

「ヒュー、お嬢ちゃん。どこまで行く気だ?そっちは行き止まりだぜ~」

「そうそう、大人しく走るのを止めておじさん達に捕まりな」

 野盗は全員で5名いた。その全員がナイフや剣で武装していた。元からの身体能力差もあったが、その上歩き辛い恰好の二人は直ぐに男達に追い付かれた。

 ドレス姿の少女はついに歩みを止め、地面へとへたり込んだ。それを見た鎧の少女も駆けるのを止め反転し、剣を抜いて男達へと相対する。

「―――貴様ら、このお方がどなたか分かっていての狼藉か!」

「おーおー、勇ましいねえ。お嬢ちゃんがそんな剣持ってちゃ可愛い顔が台無しだぜ?剣を捨て大人しくしな。出なければこっちも手加減できねーぜ?」

 そう脅しを掛けながら5人の男たちはじわじわと二人の周りを包囲する。

「―――っく、誰が投降など・・・!それ以上近づくなっ!」

 少女の制止の声も空しく男達は包囲を狭めていき、そして悲劇は起こった。



 恵二が現場に駆け付けた時には既に一戦交えた後のようであり、何人かの死体がそこにはあった。

「酷いな・・・!」

 死体をざっと確認したところ、仏はどうやら野盗のようであった。その中で一人だけ立派な鎧を着た男の死体があった。

(何が起こった・・・?どこかに生存者は・・・)

 再び恵二は聴覚を強化すると、更に奥の方から物音と誰かの悲鳴が聞こえた。

(あっちだな!)

 恵二は脚力を強化し直ぐに音の方へと向かう。その道中にも死体が一つ二つとあったが、その中で辛うじて息のある者が目に入った。慌てて急停止し、その男の元へ向かう。

「おい、しっかりしろ!何があった!?」

 その鎧の男は全身に切り傷があり、矢も何本か刺さっていた。その有様は酷いもので生きているのが不思議なくらいであった。男は何か恵二に伝えようと少年の服を掴み顔を近づけ小さい声を震わせながら絞り出した。

「―――イア、様を・・・、頼む・・・。助け――」

 そう言葉を残し事切れた。

「・・・あっちか」

 名も知らぬ男が目の前で死んでいくのを見届けた恵二は、やるせない感情に襲われたが、まだ感傷に浸っている余裕は無い。奥の方でまだ誰かが襲われているようだ。恵二は再びスキルで強化をすると更に奥へと向かった。

 道中やはり幾つかの死体が転がっていた。どうやら状況を見るに野盗側が鎧を着た者達を襲ったようだ。。野盗の死体が多いのは恐らく鎧で武装した者達を数の暴力で攻めたのだろう。。

 先へ進むと更にもう1人鎧を着た者の死体があった。それは金髪のまだ幼さの残る少女であった。

「――っ!こ、こんな少女までっ!」

 恵二と歳の差が無さそうな少女が何故鎧で武装し、こんな所で襲われたのか疑問ではあったが、それ以上に彼女の死体の無残さに吐き気を覚えた。彼女は多勢に無勢で襲われたのであろう。全身を剣やナイフで串刺しにされたようで既に事切れていた。

(くそ!遅かったのか!?・・・いや、まだ誰かが奥にいる!)

 奥で数人の足音がした。恐らくこの凄惨な状況を作り出した下手人たちであろう。

(――逃がすかよ!超強化(ハイブースト)!)

 身体能力を一気に強化させると音のした方へ一瞬で駆けて行った。するとすぐにその者達に追い付いた。

 その者達は5人の見るからに野盗であった。その内二人は白い大きな袋を抱えており、その中身には人が入っているのかジタバタと暴れているようで呻き声が聞こえた。

「んーっ!、んーっ!」

 中に入っている者は女性であろうか。口を塞がれているようで声がこもって何を言っているのかよく聞き取れないが、声の高さと袋越しに見えるシルエットで恐らく少女だろう。

 恵二は5人の野盗の前に道を塞ぐ形で回り込むと、一瞬で現れた恵二に驚いた男達は声を張り上げた。

「な、なんだ!?てめえ!どっから沸いて出た!?」
「ぶっ殺されてえのか!?とっとと失せろ!」
「いや待て、目撃者は全員消せと言われただろ?」

「ごちゃごちゃと好き勝手言ってくれる・・・。俺は冒険者だ。尋ねるが、あそこにあった死体の山はお前たちの仕業か?質問に答えろ!」

 恵二は珍しく怒っていた。ここに来るまで見てきた凄惨な死体の山を見せられ、その理不尽さと自分の不甲斐無さに腹を立てていた。

(俺がもっと早く気付けていたら・・・!)

 たらればの話は好きでは無い少年だが、そう考えずにはいられない。ここに来る道中見てしまった鎧の少女の死に顔は絶望に彩られていた。彼女の顔が脳裏に焼きついて離れない。

 恐らく鎧の少女を襲ったであろう野盗達に恵二は質問を投げかけた。もし万が一彼らが犯人でないのなら、そう考えた恵二だったが、男達は無言で少年へと襲い掛かった。

「・・・それが答えか」

 そう静かに呟いた恵二は背中から短剣を抜いた。恵二は人と対峙をする時、余程の事が無ければナイフを抜かなかった。大抵はパンチ一発で相手を倒す事ができたからだ。しかし、今回は遠慮する必要など無かった。

(<超強化(ハイブースト)>!)

 心の中でお馴染みの呪文を唱えると、一気に自身の全てを強化した。襲い掛かってきた野盗達はもう目と鼻の先だというのに、フルパワーで強化をした瞬間、男達は止まって見えた。

 五感を最大限強化した恵二は、周りの時間が停止しているかのように錯覚をする程の超スローモーションの世界で、ただ一人普通に動きながら男達の喉元にナイフを滑らせた。

 ついでに背負われていた大きな白い袋をゆっくり降ろしたところで自身のスキル<超強化(ハイブースト)>を解除した。

「――あっ?」
「――へ?」

 その直後、何が起こったのか分からないまま5人の野盗達は喉元から出血し絶命した。



 大きな白い袋を開けると、中身は予想通り少女が口を塞がれて腕を縛られていた。

「んんーっ!んーっ!!」

 見も知らぬ少年の姿を見た少女はすっかり怯えていた。無理もないだろう。さっきまで袋の中に閉じ込められて野盗共に担がれていたのだから。

「安心しろ。君を傷付ける気はない。俺は冒険者だ。・・・手を縛られているのか。今解くからこっちに向けてくれないか?」

 少女は無言で頷くと大人しく後手に縛られた両手を恵二の方へ向けた。随分きつく縛られていたのか、暴れていたせいで少し少女の手が傷ついてしまったようだ。それを何とか解くと彼女は自分の手で口に当てられていた布を取り除いた。

「――ぷはっ。ハァ・・・ハァ・・・」

 少女は若干窒息気味であったのか深呼吸をして息を整えた後、恵二に向かってこう口を開いた。

「助けて頂いてありがとうございます。私は・・・フレイアと申します」

 恵二と同年代くらいの白いドレスを着た長い黒髪の少女は、少し躊躇った後そう名乗った。
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