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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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とんだ拾い物だよ!

「申し訳無いっす。ついお腹が減って食べてしまったっす」

 彼女は正直に吐露すると地べたに座って土下座をした。こっちの世界にも土下座はあるのかとずれた感想を浮かべていた恵二は、過ぎた事にはとやかく言わず気持ちを切り替えようとした。

「そうだ、保存食は全て売ったと思えばいいんだ。どうせあれだけの量を一人で食べきれる訳ないし、彼女には黙って、食べた分を弁償させよう」

「・・・あのぉ、本音がだだ漏れっすよ?」

「あれ?」

 どうやら心の中で思っていた事をつい口に出してしまったようだ。恵二はわざとらしく咳払いをしてから彼女にこう告げた。

「弁償」

「無理っす。自分無一文っす」

 そう告げるとリアは深々と頭を地面に擦り付けるように下げた。

(そういえば、商人に財布ごと取られた挙句に馬車から突き飛ばされたんだっけ?)

 しかし、それに関しては完全に彼女の自業自得であった。むしろ奴隷として体を売り飛ばされなかっただけでもマシなのではと考えてしまった。

「よーし、分かった。とりあえず次の町まで乗せて行ってやる」

「ほ、本当っすか!?」

 このまま置き去りにされると思っていたリアの表情はパッと明るくなる。

「ああ、ちゃんと(兵舎まで)連れて行ってやる」

「・・・なんか不穏な空気を感じますが、ここで置いていかれるのは困るっす。これ以上は決してつまみ食いしないのでお願いするっす!」

「もう食べる物なんか一つも残ってねーよ!」

 このまま町に着けないと、今夜は飯抜きになってしまう。飢えで倒れていたリアを助けたら、今度は自分の食べる物が無くなっただなんて笑えない。ミイラ取りがミイラになってしまわないよう、恵二は急いで操縦席に乗ると手綱に手を掛けた。

「ちょ、ちょっと待って下さいっす!」

 彼女の乗車を待たずに出発しようとした恵二に、慌てて声を掛けながらリアは車両へと乗り込んだ。

「くそー。とんだ拾い物だよ!」

 なんとなくお腹が減ってきたように思えた少年は、急ぎ林のなか馬車を走らせた。



 ヴィシュトルテ王国はシキアノスと同じく中央大陸のほぼ中心に位置する国である。その国土はシキアノスよりは少し狭く、ハーデアルトよりは少し広くといった大きさだ。恵二が今まで旅してきた二ヵ国と比べると極端に森が多いとか平地だけといった特徴はこれといって無い。

 あえてこの国の特徴を上げるならば、大きな湖があるくらいであろう。首都レアオールの近くには広い湖があり、そこで漁も盛んに行われているそうだ。また、その湖の大きさは大陸でも2番目の広さとかなり大きいらしい。

 ちなみに一番大きな湖は北西にある名も無い湖だ。元々そこはとある国の陸地であったのだが、大昔の大災厄で起きた爆発によって国は吹き飛び大きなクレーターが出来た。時が経つにつれその大穴に水が溜まっていき、今では完全に湖となってしまったようだ。

 その大災厄こそ、史実上初となる<神堕とし>の爪痕であった。そこには元々国があったのだが、爆発によってその国土ごと吹き飛んだようだ。それが起こる前までは、この国にあるレアオール湖が大陸一の大きさであった。古い書物の至る所に大陸一の広さを謳った文が記されていたことが証拠だそうだ。

「あと、この国は霧が良く発生するっす。湖周辺は特に多いらしいっすよ」

「ふーん、さっきの霧の猟犬(フォグドッグ)もそれで・・・」

 恵二は馬車を操りながら、行商人と名乗ったリアからこの国についてあれこれと質問していた。商人というだけあってか、さすがにそこらの情報には詳しいようだ。

(他人の商品を勝手に食べてしまうあたり、商人の風上にも置けない奴なんだがな・・・)

 恵二と出会う前に、リアはあろうことか馬車に同乗させて貰っていた商人の売り物である果物を勝手に食べ尽くしてしまったようだ。にも拘らずお腹が減って倒れたとは、一体この女の体はどうなっているのだろうか。

 既に林を抜けて馬車は平地を走っていたので、恵二はちらりと後ろの車両に乗ったリアを一瞥した。彼女は恵二と同じくらいの背丈で、体つきは少年よりも華奢であった。そんな彼女がさっきまで後ろに積んであった大量の保存食を、全て一人で平らげてしまったというのだから驚きだ。

「なあ。どうしてまたそんなに沢山食べられるんだ?」

「さぁ、私にも謎っす。親にはその大食いが原因で捨てられてしまったっす。それで仕方なく行商人を始めたっすよ」

「・・・捨てられた身なのに商売なんて始められるものなのか?」

 当然の疑問を投げかけてみると、良く分からない答えが返ってきた。

「私、とっても幸運なんっすよ」

「・・・は?」

「たまたま売れそうな物を拾ったので、それを売ってみたらそこそこのお金が手に入りまして、それを元手に売買を始めてみたら、あれよあれよという間に軌道に乗りまして・・・。以前調べて貰ったことがあるんすけど、私<幸運>のスキル持ちみたいっす」

 <幸運>のスキルとは、その名の通りスキルを所持している者に幸運をもたらすスキルとされている。余程の運命で無い限りは、不幸を覆す力を秘めているのだとか。ちなみにスキルの見極めは<観察眼>のスキル持ちが出来るらしい。そのスキルを持っている者は、道具や鉱石を識別する<鑑定>のスキルよりも希少なのだとか。

「もしかして、その<幸運>のスキルの加護とやらで俺がリアを助けに来たってことかな?」

「どうなんっすかね?私は別に意識して使った事がないので、何とも言えないっす」

 どうやら恵二のスキル<超強化(ハイブースト)>とは違って、本人が意識して発動することは出来ないようだ。

「あ、ケージさん。あっちに光が見えるっす。あそこに目的地の<キャリッジマーク>がある筈っす」

 リアの指した左前方を見ると、確かにぼんやりとだが光が見えた。周囲はいつの間にか霧がうっすらと立ちこめており、視界は悪かったのだがその光のお蔭で位置が分かった。

 恵二は進路をそちらに変えると薄い霧のなか馬車を走らせた。

<キャリッジマーク>
 道行く旅人に声を掛けている宿屋の店員や、地元の特産品を店頭に並べお客さんを呼び込んでいる商店で賑わっているこの村の中心には、高い木造の塔がそびえ立っていた。
 ここは元々村では無く、始めはこの塔だけしか無かった。塔の最上段には強い光を放っている丸い球体が備え付けられていた。これが霧の中、道を見失った者達の道標となっているようで、街道沿いのこの塔の下に自然と人は引き寄せられ、いつの間にか村まで出来ていた。

 故にこの村は<馬車の道標(キャリッジマーク)>と呼ばれていた。この霧の多い国にはこの塔と同じ物が幾つか街道沿いに建てられていた。そこにもやはり村のようなものが存在するらしい。

「なんでもあの光っている玉はエイルーンの魔術師が作ったそうっすよ」

「あれは誰かが魔力を込めて光らせているのか?」

「いえ、どうも霧が出ると勝手に光るらしいっす。どうなってるんすかね?」

 自分の住んでいた青の世界<アース>でいうところの灯台のようなものだろうか。霧の中に浮かぶぼんやりとした光に目を凝らしながらそんな事を考える。

「ケージさん。あっちに馬車を停める場所があるっすよ。早く宿を取ってご飯にするっす」

「おう、分かった・・・って、ちょっと待て!お前、確か無一文だろ?お金どうするんだよ?」

 恵二がそう尋ねると、彼女はキョトンとした表情の後、舌を出して笑みを浮かべウインクをしながら頭をコツンと自分の握り拳で叩いた。

「・・・てへ☆」

 所謂“てへぺろ”ポーズであった。

「・・・さて。駐在している兵士さんはどこかなーっと・・・」

「ああ、うそうそ。ジョークっす!後生っすから兵に突き出すのは勘弁っす。お金はすぐに返すので、どうか少しばかりか貸して貰えないっすか?」

「すぐにって・・・。商売でもするのか?俺、出来れば早く先に行きたいんだけど・・・」

「今夜中に返せるっす。そうっすねー・・・。あそこならやっていそうっす」

 彼女は一件の酒場を指差すと、そのまま中へと入っていった。恵二も黙ってその後に付いていく。

 酒場の中は夜の時間帯とあって盛況であった。一仕事終えた男達や、旅先で訪れた者達が酒やおいしい料理を嗜み、カードゲームなどに興じている。前を歩いていたリアはいい匂いを出している料理を涎を垂らしながら見つめていたが、首をブンブンと横に振って迷いを断ったつもりなのか、カードで賭け事をしていた男達の元へと向かった。

 彼女は男に何か話し始めていたが、少し離れて見守っていた恵二には店内の喧騒で会話がよく聞き取れなかった。少しの間会話を交わすと、話が付いたのか男は彼女に椅子を差し出した。リアはその席には直接座らず、トテトテと小走りで恵二の元へと戻った。

「交渉成立っす。ケージさん、お金を貸して欲しいっす」

「は?」

 いきなりそんな事を言われ、戸惑う恵二に彼女はこう告げた。

「ですから、これから一勝負しますので、軍資金を提供して欲しいっす。勝ったらお金を倍にして返すっす」

「いやいや、何勝手に決めてるんだよ!賭け事なんかして、そううまく稼げる訳・・・あ!」

 そこで恵二は思い至った。彼女の持っているスキル<幸運>の存在を―――

 ニヤリと彼女は不敵に笑って見せた。

「おーい。やんねーのか、お嬢ちゃん?」

「あ、今行くっすよー」

 先程彼女と賭け事をする事になった男がまだかと催促してくる。それにすぐ行くと答えたリアは、半信半疑な恵二から僅かばかりのお金を受け取ると、そのまま男に勧められた席に座った。

「よーし、勝負はスリーカード、ルールはオーソドックスな死神抜きのゲームだ。分かるな?」

「了解っす」

 少女が頷くと、勝負を持ち掛けた相手以外の男がカードを切り出した。そのカードは恵二も覚えがある日本で見た物と全く同じ物のようだ。

(トランプも青の異人(ブルー)が広めたのか?しかし、ゲームのルールが全く分からんぞ・・・)

 首を傾げていた少年を見て察したのか、隣で酒を飲んで立っていた男が親切にルールを教えてくれた。

<スリーカード>
 山札の上から交互にカードを引き、表に向けて置いていく。3枚のカードの合計値が高い方が勝ちというシンプルなゲームだ。一枚一枚カードを出しながら、勝負に出るか降りるかを決められるようだ。ちなみに死神(ジョーカー)を引いたらその時点で負けというルールもあるそうだが、今回死神は抜いてある。また、数が同じ場合は先行の方が勝ちだそうだ。先か後かは山札からカードを取って高い数字の方が決められる。

「7」

「11。先行にするっす」

 リアが先行を取ると、それを聞いた周りの男達は驚きの声を上げた。その理由が分からない恵二は思わず呟く。

「?先行だと何か問題でも?」

 恵二は先程ルールを教えてくれた隣の男にそう尋ねた。

「ああ、そりゃあ先行は圧倒的に不利だからな。このゲームは一枚カードを出す度に、勝負に乗るか降りるのか選択できる。つまり後攻側は相手がカードを3枚出し切った後に判断して選択できるってことさ」

「・・・あ!」

 確かに言われてみればそうであった。先行側、つまりリアが3枚カードを出して合計値が確定しても、まだカードを2枚しか引いていない男は、お互いの数字を見比べて分が悪ければ降りることが出来るのだ。

 カードの巡りあわせによっては男が3枚目を引く前に、既に勝敗が決まることもあるのだ。

「まぁ、その代わり同じ合計値なら先行の勝ちになるし、先行側が勝った時の配当も多いんだがな」

 そう男はフォローをするが、それを考慮しても先行を選ぶ者は圧倒的に少ないのだという。

 そうこう解説を聞いているうちに初戦の勝負は終盤に差し掛かっていた。リアのカードは9・7・11と合計で27点。かなり良い感じだ。

 一方男の方は12・3とここまでで計15点。リアのカードに勝つ為には13を出すしか無い。

「・・・ち。降りるぜ」


 両手の指を使って計算を終えた男は、勝ち目が薄いと判断するとそう宣言をした。初戦はリアの勝ちとなった。

「まずは先勝っす」

 男が降りたことにより、男の掛け金半分と先行のハンデ分の金額がリアの手元へ入ってくる。それを嬉しそうに彼女は受け取った。

「くそ!次いくぜ!」

 それから幾度かゲームを進めていく。リアの幸運は決して万能では無いのか、時たま負けたりもした。相変わらずリアは先行を選択するが、それでも不思議と大きい数のカードを引き当て続けたリアが一歩リードしたまま、勝負は最終戦へと突入した。

 先行・後攻を引くために再びお互い山札からカードを引く。

「どっちにしろリアは先行を選ぶんだし意味あるのか、これ?」

恵二は疑問を投げかけると、またまた隣の男が解説してくれる。

「まあな。ルールだし、引いたカードはその分減るからな。引いたカードもひとつの判断材料になる」

 成る程と少年は頷いた。恵二は駆け引きのあるカードゲームは余り得意では無かった。どうやら自分はすぐ顔に出るらしいのだ。

「1」

「私も1っす。引き直しっすね」

 両方とも1だったので2人は再度カードを引く。次に出た数字は4と10でリアの勝ちとなった。彼女はやはり先行を選択した。

 お互い今度は勝負の為のカードを引いていく。最終戦ということもあり、まだ余り稼げていないリアは全く降りようとしない。しかしカードの合計点はあまりよろしくないようだ。

 結局リアは最終局面で11・1・3の合計点15で終えた。

(おいおい、これは・・・)

 一方男のカードは2・12と合計14点。この時点で差がもう1しかない。相手が1を引けば同点で先行のリアが勝つが、それ以外を引けば男の勝ちとなる。

 日本で教育を受けている恵二はこの程度の計算など既に暗算で終えていたが、両手の指を折って数えようやく計算し終わった男はカードが置かれた場を見渡すと不敵な笑みを浮かべた。

「ふふ、悪いな嬢ちゃん。1の札は既に3枚場に出ている。つまり残りはたった1枚!これはもう決まったかな?」

「うーん、これは不味いっすね」

 そう口にした彼女の表情は全然そのようには見えず、内心笑いを堪えているかのように恵二には見えた。

(こいつ、この状況でも勝つって思ってるのか?それにしても俺と同じで顔に出るタイプだな・・・)

 呆れてその様子を伺っていた恵二だが、男の方は勝利を確信したのかリアの表情には気付かずに、賭け金を追加して勝負を挑んだ。そして山札からカードを取り表にめくる。

「―――っな!1・・・だと!?」
「嘘だろ!?どんだけ運がないんだよ・・・」

(いや、この女が“幸運”なだけだよ)

 心の中でそう呟いてカモにされた男に憐みの視線を送る恵二。

「それでは、これで終わりっすね」

 こうして短い時間の間で儲けたリアは、約束通り借りたお金を恵二に倍にして返し、その後はおいしい夕飯の出る宿を探しに町中へと繰り出すのであった。
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