挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

60/82

おかしいだろ

 シキアノスの街道付近の殆どが平地で見通しが良く、魔物の接近にはすぐに気が付けた。恵二は馬を巧みに操ってそれらを回避していく。丸二日間掛けて馬車を進めた恵二は、一度も魔物と交戦する事無くシキアノスの西隣であるヴィシュトルテ王国との国境に到着する事が出来た。

<ヴィシュトルテ王国>
 シキアノス公国と隣接する歴史の古い国で、これまた歴史の古い血筋である王族が昔から統治している国だそうだ。一時期は中央大陸の中でも1、2を争う大国であったそうだが現在その力は大分削がれていた。

 その最大の原因が2世紀以上前に起こった公爵家の反乱であった。衰退した王族に反旗を翻した公爵家を筆頭に、王族軍と貴族連合軍との激しい内戦が起こった。結果は痛み分けとなったそうだがその内紛で国力は大幅に低下し王族は国を統治するのに手一杯で、国を乗っ取り損ねた公爵家は国の東側の領土に新たな国を立ち上げた。

 それが何を隠そうシキアノス公国の始まりであった。現在のシキアノス公国を治めるのはロバート・アーマイン公爵であり、彼の公爵家こそ内紛を起こした主犯でもあった。

 その為シキアノス公国と今から恵二が踏み込もうとしているヴィシュトルテ王国との仲は非常に悪く、ここ最近は大きな諍いなどは起きてはいないが、何時また戦争が勃発するかは分かったものでは無かった。



「よし、通っていいぞ!」

 兵士の検問を終えると、恵二は馬車を走らせ次の門へと向かった。現在恵二がいる場所はシキアノスの最西端にある境の検問所である。ここの検問所は大きな山脈の南側に設けてあり、ここ以外のルートを無断で通ると不法入国とみなされ、それぞれの国の兵によって厳しく罰せられる。

 面倒事が御免な恵二は勿論正規のルートを通る。その際<色世分け>の検査も行われたが、そこは恵二の巧みな魔術操作で、無理やり魔力の質を白の世界<ケレスセレス>の住人と同じ質に変化させた。

 その甲斐あって何一つ滞る事無く無事に検問所を通過できたが、検査は後もう一つ残っていた。

「ヴィシュトルテ王国へようこそ。入国の目的は何だ?」

 先程はシキアノスを出国する為の検査だが、次に行われるのはヴィシュトルテ側の兵士による検査であった。その検査内容はどちらも変わりはないのだが、お互いの国の仲が悪い為このような措置を取っているようだ。2度目の質問に若干辟易しながらも、兵の指示通りに応答をし検査を無事済ませる。

「いよいよヴィシュトルテ王国か!古い国だし遺跡も多いって話だが、それより気になるのは、やはりダンジョンだな」

 以前サミから聞いた話ではこの国には幾つかの遺跡やダンジョンがあるらしく、冒険者の活動もそこそこ盛んであるようだ。最初サミもここで活動をしようと考えていたそうだが、シキアノス出身となると若干ヴィシュトルテの国民には覚えが悪く、止む無くシイーズで活動をすることに決めたそうだ。

「しかし遺跡やダンジョンも気になるが、寄り道していたらキリが無さそうだし真っ直ぐエイルーンへと向かうかな?」

 西にある魔術都市エイルーンまでは、あと国を一つ跨げば到着をする。現在恵二がいるヴィシュトルテ王国の西隣がアガトール国で、更にその西隣が目的地エイルーンであった。

「よし、一気にエイルーンに行くぞ!」

 そう決めた恵二は馬車を西へと続く街道沿いに走らせた。



「手を引く・・・ですか?」

「・・・ああ」

 白衣の男に老人は枯れた声でそう返答した。

 男がこの老人に呼ばれる場合は大抵怒鳴られることが多く、今回も一体何事かと身構えていたのだが、予想とは裏腹にどうも覇気を感じられない。老人は項垂れるように口を開いた。

「流石に3号とチックを失ったのは痛手であった・・・。幸い<赤躍石(レベル1)>を回収する事が出来た。<赤躍石(レベル2)>の存在は分からぬが、これ以上あの冒険者達を追っても被害が広がるだけだ。・・・奴らからは手を引く」

 何を今更とも思うが、白衣の男もまさか冒険者達がチックすら撃退するとは夢にも思わなかったのだ。

(上には上がいるということか・・・。これ以上化物相手に私の大事な被検体を壊されて堪るか!)

 恵二達が聞いたら思わず抗議しそうな勝手な言い分ではあったが、これで<研究会>は彼らから完全に手を引く形となった。

「それで次の仕事だが――」

「――いや、それについてはあなたが決める必要はありませんよ?」

 老人が白衣の男に話しかけていたのを割って入る形で、何者かが口を挟んできた。

「お、お前は!?どうしてここに?それに今のはどういう意味だ!」

 老人の話を邪魔したのは、白衣の男が知っている者であった。確か年齢は50過ぎの筈だが一回りは若く見え、眼鏡をかけ白い帽子に同じ白を基調とした服を着た男であった。

「言葉通りの意味ですよ、ラゴーゾさん。最近の貴方は目に余る。特に大事な3号と我が研究会の戦力となるチックさんを失ったのは擁護しようがありません。他の5人のご老人方は貴方を粛清する事に同意されました」

「――っな、なんだと!?」

 そう言葉を放った白の男は名をコルピオという。白衣の男の記憶が正しければ研究会における彼の地位は実質6人の老人達に継ぐ副リーダー的ポジションであった。

<研究会>はある目的を成就する為の集まりであり、基本的に序列や地位などは存在しない。そう表向きはそうなっていた。だが、そんな組織は機能する訳がない。便宜上全ての組織内の人間は同等の権力を持つ同志であるが実質的なトップは6人の老人達であり、その老人達の手足となり組織の者に指示をだしているのがこの男、コルピオであった。

 そのコルピオは5人の老人達から目の前の老人、白衣の男の実質上司に当たるラゴーゾに粛清をしに来たことを告げた。粛清とは研究会が目指す目的に反した行動を取った同志が裁かれる処罰の事である。それは罰金や研究会からの追放といった生易しいものでは決してなく、詳細は知らないが粛清された者の姿を白衣の男は二度と見る事が無かった。

「――ひっ、う、嘘だ!私はこの研究会のトップだぞ!?何の権限があって粛清など・・・!誰か、誰か助けてくれー!」

「これはおかしな事を言いますね。この研究会には上も下もありません。全員が目的の為に集まった同志ではありませんか・・・。貴方はそれを忘れ、私利私欲に走った。気付かないとでも思っていたのか?貴様が<赤躍石(レベル1)>を勝手に横流しをしていた事を・・・!」

 コルピオの口調が急に変わった。途端に部屋の温度が急激に下がったかのように白衣の男は錯覚を起こした。

「ひいいいいいー!」

 老人はその年相応の老いた体に鞭を打って必死に白い男から逃げ出そうと駆け出す。コルピオは老人を追おうとはせず、ただ右の手のひらを老人に向けた。その次の瞬間、詠唱も無くその手のひらから赤い炎の玉が老人の背中へ向けて放たれた。

「ぎゃああああああアアッ!」

 背中に着弾した火の玉はすぐに老人の体中に燃え広がった。やがて悲鳴は途絶え老人の体は灰へと化した。

「ふう、これで少しは研究会も機能することでしょう」

 掃除でも終えたかのような気軽さでそう呟くと、コルピオはこの部屋にもう1人残された白衣の男へと視線を向けた。

「ひ、ひぃっ!」

「そんな怯えないで下さい。別に貴方には粛清を“お願い”されておりませんよ」

 どうやら老人達からは白衣の男を始末するよう“命令”をされていないようで、なんとか自身を落ち着かせようとした。

「貴方は確か3号と5号の研究に携わっていた方ですね。3号の件は残念でしたが、5号は中々順調のようですね。どうです?このまま別の仕事も“お願い”出来ませんか?」

「は、はい!」

 コルピオのお願いを断ることなど白衣の男には到底出来る事では無かった。



「最近<覚醒進化(プロモーション)>をする魔物が増えている・・・ですか?」

「そうだ。最近王国の北側や、未確認だがグリズワードの西部でも目撃されたらしい」

 そう勇者達に告げたのは、ハーデアルト王国の魔術師長を務め勇者達の魔術の師でもあるランバルド・ハル・アルシオンであった。彼の話しでは今王国のあちこちで魔物の<覚醒進化(プロモーション)>の目撃例が増えていった。それは王国だけでなく周辺国にも及んでいるようだ。

「これも<神堕とし>の影響なのですか?」

 そう質問を返したのは、銀の世界<ベスカトール>から召喚された勇者のナルジャニアであった。

「そんな話は聞いた事ないが、何せ<神堕とし>自体よく分かっていない現象だ。相変わらずアンデッド共も沸きやがるしな・・・」

 ナルジャニアの質問にそう溜息交じりに答える赤いローブの魔術師。

「しっかし、アンデッド共もよく分からないよね。襲って来たかと思ったらあっさり引いたりと、あんましやる気ないようだし・・・」

 そう語るのは恵二と同じ青の世界<アース>出身の勇者である石山コウキであった。彼はアンデッド襲撃の報せを受ける度に、自身のスキル<空間転移>でもって瞬時に現場へと急行し対応に当たっていた。だがコウキが現場に姿を見せるとアンデッド達はあっさり身を引くのだ。いまいち相手の真意が見えないでいた。

「それに北の方も不穏な動きを見せているようだな。レインベル帝国は勿論、ラーズ国も全く<神堕とし>に対応する気がないようだ」

 北の隣国に不満を口にしたのは緑の世界<レアウート>出身のエルフの青年、イザー・ブルールーであった。<神堕とし>は現在周辺国を巻き込んだ広範囲までに影響を広げているが、その中心点は間違いなくラーズ国かその更に北にあるレインベル帝国であった。原因を究明するべくハーデアルト王国は勇者を向かわせると再三告げているのだが、それに北の二国は首を縦に振らなかった。

「“自分達で解決する”と豪語した割にはちっとも状況は良くならないじゃないか!やはり私達が乗り込んでみるしか無いのでは?」

 そう意見を唱えたのはイザーと同じ緑の世界から召喚された勇者、ルウラード・オレオーであった。彼は人一倍正義感が強く、王国の国民達がアンデッドや異常な魔物の行動に悩まさられている現状をなんとかしたいと日頃から意見を述べていた。

「確かにルウ君の言うとおり、このまま見過ごすなんて出来ないよ!」

 ルウラードの意見に賛同したのは水野茜である。恵二と同じ青の異人(ブルー)である心優しい彼女は困っている国民達をなんとかしてあげたい一心で彼に同調した。それにランバルドは待ったを掛ける。

「嬢ちゃん達の意見も尤もだが、勝手には動くなよ?“王国の”勇者であるお前さん達が勝手にラーズやレインベルに踏み込むのは大問題なんだ。交渉の方はオラウ宰相に何とかして貰う。それまで今まで通りに国内の活動に留めていて欲しい」

 北の二国の交渉に関してはこの国の宰相であるオラウ・フォンレッソに一任していた。彼も国王に忠義を尽くす有能な文官なのだが、交渉の方はなかなか難航している様子だ。最近は余り成果が無く体も少しやつれ気味であった。

「オラウさん、胃が痛いってこの前お薬を飲んでたよ。心配なの・・・」

 そうオラウを心配するのはエルフの少女ミイレシュ・フィアであった。

 オラウも中々に気苦労の絶えない男であった。勇者達やランバルドによる無茶な行動の尻拭いをするのはいつもオラウ宰相であった。彼は“王国最後の良心”とまで言われた人の出来た男であった。その人の良さが仇となって最近では胃痛が酷いのだとか。

「そりゃあご愁傷様だな・・・。戦うのは俺の仕事だが交渉事は完全に専門外だからな・・・。今度旨い酒でも持っていってやるかな?」

「いや、止めてやれよ・・・。胃痛の上ヤケ酒なんて事になったらあのおっさんマジでぶっ倒れるぞ?」

 そう提案し王国騎士であるバルディスに却下されたのはミイレシュと同じ、灰の世界<ヘルトゥナ>出身の大男グインであった。

「そうか?“酒は良薬の素”って言葉があるってコウキから前に聞いたぜ?」

「・・・それって“風邪は万病の元”じゃないかな?」

 グインの聞いた事のないことわざに、地球人代表として突っ込まずにはいられない茜であった。

「ごほん。まぁ話が逸れたが最近アンデッド共も襲撃の数を減らしたが、その分どこで何やっているのか知れたもんじゃないしな・・・。お隣のシイーズも継承争いでキナ臭いし情勢は悪くなる一方だ。お前さん達には更に動いて貰う事になる。すまんがもうひと頑張りしてもらうぜ!」

「はい!」
「ええ!」
「了解した」

 ハーデアルト王国の苦難はまだまだ続きそうであった。



 ヴィシュトルテ王国に入ってから馬車を進ませること数時間、恵二は街道から道を外れて悪路を突き進んでいた。それというのもヴィシュトルテに入った途端、街道沿いに進んでいたら盗賊の襲撃が2度、魔物の襲撃が合計3度もあったせいだ。

「・・・おかしいだろ!これ、絶対おかしいだろ!?」

 そう独り言を喋りながら悪路を進んでいたら思わず舌を噛みそうになり再び黙り込む。この国に入ってからというものの、やたらと恵二は襲われはじめたのだ。それというのも、さっきまで進んでいた街道に問題があった。

 数キロ程前に街道が分岐していたのだが、事前に恵二が入手していた地図を参考にすると、どうやら直進がエイルーンへの最短ルートのようであった。迷わず直進ルートを選んだのだがそれがそもそもの間違いであった。馬車を進めるとその街道は林の中へと進んで行った。そこは林の木々で死角も多く道も碌に整備されていなかった。

 その為か魔物の棲家(テリトリー)や盗賊の狩場としての効果を発揮しているようで、次々と恵二の馬車は襲われたのだ。幸い馬や車両に被害は無く、なんなく撃退できた。魔物と言っても街道付近には流石に討伐難易度の高い魔物は居らず、盗賊も恵二1人と見て油断したのか少人数でしかも正面から襲ってきた。

 それらを全て返り討ちにしてきた。盗賊相手にはスキルでちょっと強化をかけて全員腹パンで気絶させ、魔物は主にEランクの小鬼(ゴブリン)だったのでスキルを使う事無くあっさりと撃退していった。

 しかし流石に5度目の襲撃に嫌気が差した恵二は、つい街道から外れて林を抜けようとした。

(地図を信じるならこっちの方が多分近道だ)

 そう考えた恵二は馬車を走らせる。すると・・・

 視線の先には魔物の死骸のすぐ傍で、大きなリュックを抱えた何者かが地面に倒れているのを発見した。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ