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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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冒険者になります

 出発の日を迎えた恵二は現在、セレネトの町の門を出てすぐ近くの外側にいた。今日も朝から空は快晴で馬車旅をするには持ってこいの日となりそうであった。

「その馬車はあんたが使いなさいよ。ケージのお蔭でバアル様に貰ったような物だしね」

 そうサミに言われ遠慮なく使わせて貰うことにした。

「悪いな、サミ、セオッツ」

「いいってことよ。また稼いで馬車の1台くらい購入するさ」

 そう返したのはセオッツであった。一流の冒険者を目指すなら馬車の1台くらい自力で購入してみせると息巻いていた。

「ケージ先輩、馬もそうですが車両の方も定期的に点検して下さいね。シキアノスと違って道が整備されていない所を通るなら尚更ですよ」

「わかったテラード。馬車の操縦教えてくれてありがとうな。セオッツやサミと一緒に頑張れよ?」

「はい」

 昨日聞いた話だが、彼らは3人でパーティーを組むようだ。セオッツをリーダーとして活動していくらしいが、なんとなくだがサミに尻に敷かれているパーティーリーダーの姿がすぐ目に浮かんでしまった。

(セオッツ・・・頑張れよ)

 それを口には出さずに心の中で応援をする恵二。すると次にバアル伯爵の執事をしているトニーが挨拶しに来た。昨日ここを発つと決めたばかりなのにどこから情報を仕入れたのか、わざわざ見送りに来てくれたのだ。

「ケージ君、この度は御目出度い出立の日とあって主に代わりご挨拶をしに参りました」

「トニーさん、ありがとうございます。バアル伯爵にも大変お世話になりっぱなしで出て行くのは申し訳ないでが・・・」

「いえいえ、こちらこそ。バアル様も宜しく伝えて欲しいとおっしゃっておられました。ケージ君のお蔭で自転車の開発にも目途が出ましてね。今度また是非ヘタルスの町の方にも顔を見せに来て下さい」

「はい、トニーさんもどうかお元気で」

 トニーと挨拶を躱すと、今度はマドーさんが声を掛けてきた。

「ケージ君、エイルーンに行くんだって?もし、ヴィシュトルテの王都にある冒険者ギルドに寄ることがあったなら、これをギルド長に渡すといいよ」

 そういって一枚の封筒を受け取る恵二。これは何かと質問しようとしたが、その前にマドーはちゃんと続きを説明してくれた。

「封筒の中にはあちらのギルド長宛てに書いた手紙が入ってます。ケージ君のここでの活躍や将来有望な冒険者である事を説明した文です。多少の便宜を図るようにと書いておきましたので、もし機会があればこの手紙を使って下さい」

 どうやらマドーと、お隣の国ヴィシュトルテの王都にあるギルドの長とは交友があるらしく、ケージの為に一筆したためてくれたようだ。もしもの時には使わせて貰おうと恵二はその手紙が入った封筒をしまった。

 マドーにお礼と挨拶の言葉を述べると、恵二の前に今度はウォール夫妻にアミー、そして孤児院の子供たちが集まっていた。

「ケージ君、達者でな。君なら心配無いとは思うが無茶な事はするんじゃないぞ?」

「しっかり食事を取るのよ?健康には気をつけてね。アムルニス神のご加護がありますように」

「ええ、分かっています。行ってきますコーディーさん、アマスタさん」

「兄ちゃん、この町出てっちゃうの?」

 ウォール夫妻に別れを告げると今度は子供たちが悲しそうな目で質問してきた。孤児院には特に食事の面でお世話になっていた恵二は、すっかり子供達とも打ち解けていた。その中でも特に遊んであげていた長男のクントがこう口を開いた。

「兄ちゃん、俺も冒険者になるぞ!サミやセオッツより強くなってやるんだ!」

「わたしも、わたしもー」

 クントに続いて女の子のカトリもそんな事を言うものだからウォール夫妻は驚いた表情を浮かべた。どうやら子供達に大分悪影響を及ぼしてしまったかなと、ばつの悪い顔を浮かべる恵二。

「―――私も冒険者になります!」

 そう覚悟を持って口にしたのはユリィであった。幼い子供達ならばまだ分かるのだが、まさか最年長であるユリィまでもがそんな台詞を口にするとは夢にも思わず、コーディー神父は空いた口が塞がらずアマスタは何かを察したのか笑みを浮かべながらその様子を見守っていた。

 だが一人、どうしてもこの状況を見逃せない者がいた。

「――っ!ちょっと、どういう事よユリィ!?ケージ、説明しなさい!!」

「な、なんで俺なんだよ!?」

 そう、彼女の義理の姉サミであった。彼女は恵二に詰め寄ると声を張り上げた。

「確かに私は泣かせるなって忠告したけれど、なんでいきなり冒険者になるだなんてユリィが言い出すのよ!あんた何か吹き込んだでしょう!?」

 そう喚きながら恵二の服の襟元を掴むと前後にガクガクと揺らし抗議をするサミ。それに心当たりがあったのか、恵二は気まずそうに彼女から視線を逸らす。その様子を見たサミはやっぱり何かしたのかと再び恵二を問い詰める。

(い、言えねえ。こればっかりは他人に話す訳にはいかない・・・)

 時は昨夜に遡る。それは恵二の送別会を兼ねた夕食会が終わり、ほとんどの者が寝静まった深夜の出来事であった。



 明日この町を発つと決めた少年は、普段お世話になっている孤児院もこれで見納めかと感慨にふけってしまい庭に出て夜風に当たっていた。すると背後から誰かが近づいてくる音がした。振り向くとそこには寝間着姿の少女ユリィの姿があった。

「?どうしたんだ?いくらこの季節とは言え、そんな恰好で外に出たら風邪をひくぞ?」

 ユリィの寝間着姿は夏場を迎え始めた為か、肩が丸見えでその細い足も殆ど露出しており思春期の少年である恵二は少しドキリとしてしまった。

 心配そうに声を掛けた恵二に、彼女は顔を赤らめながらこう告げた。

「ちょっと眠れなくって・・・。ケージさん、少しお話良いですか?」

「あ、ああ。俺もそんな気分だったしね。なら風邪をひかないよう中で話そうか?」

「・・・いえ。ここで大丈夫です。・・・ケージさんは、どうして冒険をしたいって思ったんですか?」

 少女の質問の意図がよく分からず首を捻る恵二。逆に質問で返す。

「えっと、それは冒険者になりたいって思った動機?それとも、何であちこちを旅したいと思ったのかって事?」

「はい。只でさえ町の外は魔物や盗賊で怖い所なのに、どうしてわざわざ危険を冒してまで森の奥やダンジョンの探検に興味があるんですか?」

「うーん」

 少女の問いに恵二は悩んでしまう。冒険家を目指す動機については余り深く考えてこなかった。気が付いたらそれに惹かれていた。だが、あえてこれだという動機を述べるなら、きっと幼少の頃に体験した時の微かな記憶であろう。

「・・・俺も実は両親を早いうちに亡くしていてね。ただ詳しくは覚えては無いんだけど一度旅行に連れて行って貰ったことがあるんだよ」

「―――っ!そ、そうだったんですか、すみません変な事を聞いて・・・」

 聞いてはいけない事を尋ねてしまったかと思った少女は落ち込んだ表情で謝罪の言葉を告げた。

「いや、両親がいない事は気にしていないよ。悲しい事には違いないけど寂しくは無い。それにそれはユリィも同じだろ?」

「・・・私は物心ついた頃には既に神父様の所でしたから。私の両親は今も昔もあのお二人だけです」

 そう口にした彼女は胸を張ってそう答えた。ウォール夫妻は本当に子供たちに愛情を持って育てたのだろう。優しいアミーや世話焼きのサミ、それにこのできた少女を育んだのだから。

「そうか。なら良かったよ。それで話を戻すけど、その一度連れて行って貰った旅行がぼんやりとしか覚えていないけど凄く印象に残っていてね・・・」

 その旅行先は特に大した場所では無かった。距離もそこまで遠く無く、ただ子供の足では到底一人で行けないような場所であった。だが、そこの場所は行った事が無くても良く知っていた。テレビで何度も取り上げられていたからだ。当時の友人にもこの前行ったと自慢された覚えがある。それが悔しくて行きたいと親に頼み込んだのだ。

 そしていよいよそこへ行こうとした時、恵二は既にその場所に興味を失っていた。散々友人からそこの詳細を聞いていて、テレビでも話題になっており事細かく紹介されていた。だから行かなくてもそこは良く知っていた。そう思い込んでいた。

 だが、実際に自分の足で、目で、体全体で感じたその景色をぼんやりとだが今でも覚えている。テレビや他人越しに見聞きしたこととはまるで違う、実際に自分の体で味わった旅先での感動を今でも恵二はおぼろげながらも確かに覚えていた。

「───多分、その旅行が原点だったと思う。今でもその感動が忘れられないんじゃないのかなぁ」

「感動、ですか・・・」

 テレビなんて単語はユリィにはなんの事だが分からないだろうに、口を挟まず恵二の話を聞いていた彼女はただ一言そう呟いた。

「うん。この世界はとっても広い。とても身一つでは全てを回りきれないだろうけど、それでも行けるとこまで行ってみたい。まぁ、今はその為の準備期間中だけどね」

「それでエイルーンの魔術学校ですか?」

 彼女の問いに恵二は力強く頷いた。少女は彼の事をてっきり夢見がちな少年かと思っていた。それも嫌いではないが少年はただ夢を語るだけでなく、しっかりと少年なりに計画立てていた事に驚きと不安を覚えた。

 彼に比べて自分はどうだろうか。ただ何となく孤児院での日々を送り、何となくこのままこの町で一生を終えるのだろうと少女は考えていた。そう、今までは───

「──私も連れて行って下さい!」

「え?」

 ユリィの発言に驚く恵二だが、それ以上にそう口にした少女自身が自分の台詞に驚いていた。

(私、何言っちゃってるんだろう──っ!)

 だが一度溢れだした思いを引っ込めることはもう出来なかった。

「お願いします。私も連れて行って!最初は役立たずかもしれないけど、戦闘も頑張って覚えますし魔術も努力して勉強します!」

「・・・い、いや、でもなぁ」

 恵二は直ぐに断ろうとしたが彼女の勢いに若干押される。ユリィは必死だった。このままでは好きな人が遠くに行ってしまう。そう考えた少女は遂にその言葉を口にした。

「──好きです!ケージさんの事が大好きなんです!」

「──っ!」

 それは少年には思いも寄らない告白であった。

(ユリィが・・・俺の事を好き・・・!?)

 今まで女の子から告白された事など無い恵二は混乱した。確かにユリィには慕われていると思ってはいたが、てっきり兄に近い感情だと思い違いをし、それが男女の恋慕だとは気付けなかったのだ。

 思わず“俺も好きだ”と返事をしてしまいそうになり慌てて口を閉ざす少年。勿論その気持ちは全くの嘘では無い。好きか嫌いかといえば断然好きであるし、ユリィは容姿も可愛く家事も一通りこなせる優しい女の子だ。将来はきっと誰もが羨むお嫁さんになるだろうと何段飛ばしかでそんな妄想をしてしまう。

「・・・・・・!」

 恵二の心の中は揺れていた。断ろうとした筈なのに、その反面もう1人の自分が受け入れてしまえと囁く。この町で彼女と末永く幸せに暮らす。それは、きっと楽しく凄く素晴らしい事なのだろうと思いながら目の前の少女に目をやると───

 ───彼女は顔を真っ赤にしながらも真剣な眼差しでこちらを見つめていた。

 その彼女の目を見て恵二の心は決まった。

「ありがとう、ユリィの気持ちは凄く嬉しい。本当だ。・・・でも、君を連れていく事は出来ない」

「───っ!」

 そう告げると少女は肩を震わせながらもこちらを真っ直ぐ見つめ続けた。目には涙を溜めはじめていたが、声を上げて泣くのを必死に耐えている様子であった。

(ユリィは本気だ。とても真剣な目をしている。だから俺もちゃんと考えて、ちゃんと答えてあげなければ・・・!)

 そう自分に言い聞かせるも目の前の少女の様子を見ると気が引けてくる。恵二は罪悪感に苛まれながらもユリィに語り続けた。

「この町まで旅をしてきて本当に痛感させられた。外の世界の厳しさと自分の力量不足に・・・。セオッツやサミがいなければ俺はとっくに野垂れ死んでいただろうし、俺がいなくてもあの二人は恐らく・・・。俺には君を連れて行けるだけの力が・・・、資格が無い」

「・・・」

「だからユリィ、君は連れて行けない」

 そうキッパリと決別の言葉を告げた。少女は黙ったまま俯いていた。掛ける言葉も無く恵二は黙って様子を見守っていた。やがて沈黙を破るかのようにか細い少女の声が聞こえた。

「・・・それなら、強くなればいいんですか?」

「へ?」

「・・・私がお姉ちゃんや、セオッツさんくらいに、それ以上に強くなれば一緒に付いて行ってもいいんですか?」

 涙声で聞き取り辛かったが彼女の意思はハッキリと伝わってきた。

「なら、強くなります!お姉ちゃんよりも強く、ケージさんを守れるくらいに強くなってみせます!」

 それは最早告白では無く宣戦布告のようであった。彼女は恵二にそう告げると、涙を流しながらその場を後にした。

「・・・まずったかな、これ・・・?」

 恵二の独り言に答える者はこの場には誰も居なかった。



 そして現在に至る。彼女は冒険者になると宣言し恵二に別れを告げた。しつこく問い詰めてくるサミをなんとか宥めると、今度はアミーにカインの二人が別れの挨拶にやって来た。

「ケージ君、エイルーンでも元気でね。近くに来たらぜひユリィやサミに顔を見せに来てあげてね」

「ぜ、善処します」

「ケージ!君には本当に世話になった。感謝してもしきれないよ!」

「いえ、俺は大した事してないですよ?皆が頑張ったからセレネトの町を取り戻せたんじゃないですか」

 恵二は本心からそう口にしたのだが、カインは首を横に振って力説した。

「何を言ってる!君がいなければバアル伯爵との縁も無かったし、何よりあちらの最大戦力であった魔人とやらも君が倒したらしいじゃないか。私は君の活躍のお零れで領主になっただけさ」

 そうカインは自虐したが、この青年は兵舎での戦いの際、私財を投げ打ってまでアミーの救出に尽力したと聞く。それを後から聞かされたアミーはそれはもうカインに散々謝ったり感謝したりと、そのお蔭か二人の仲は多少進展があったようだ。

 それはさておき、恵二が最後まで気がかりだったのが魔人の存在と一緒にいた男、強化のスキルを持っていたチックとかいう男の事だ。あの男の話しでは、どうやらガルシアと手を組んで行動していたようだが、その狙いはどうやら恵二たちが持っていた赤黒い宝石のような石であった。それはグリズワードで偶然手に入れた、魔物を覚醒進化(プロモーション)させた原因だと思われる石であった。

 実はその石は現在行方が分からなくなっていた。ガルシアとのいざこざの際、宿屋に置いてあった恵二達の所持品はガルシアの屋敷まで運ばれていた。特に道具や金銭が盗まれた訳ではないのだが、ただ一つあの赤黒い石だけは探しても見つからなかったのだ。

 どうやら奴らの仲間に持っていかれたようだが追跡することが叶わず、そのお蔭なのか暫く新手の襲撃も無かったので恵二は心置きなくこの町を発つ決心が着いたのだ。

「さて、そろそろ挨拶も一通り済んだし、行くとするよ」

「そっか。ケージ、またいつか一緒に冒険しようぜ!今度は俺がドラゴンを倒してやる!」

「あんた偶には手紙を送りなさいよ。私にはいいからちゃんとユリィには送るのよ、いいわね!」

「分かったよ。二人とも元気でな。後、本当にありがとうな。必ずまたこの町に戻るよ!」

 そう告げると恵二は馬車の操縦席に乗り込んだ。自分で操縦している分には酔わないらしく、これで快適な馬車の旅を満喫できると喜びながら馬の手綱を握った。

「皆さんお世話になりました!それじゃあ!」

 大声でそう叫ぶと恵二は馬車を走らせた。後ろから見送りに来ていた者達の大きな声が聞こえてくるも、馬車が進むにつれ、段々と小さくなっていく。

「・・・さて、また寂しい一人旅か・・・」

 新たな新天地を目指して、ワクワクしながらもどこか物寂しさを感じる少年であった。
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