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青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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楽しかったよ、凄く

 ガルシアが右手に持っていたのは銃身が30cm程あるフリントロック式の銃で、引き金を引くと火打石を利用して着火し、弾が出る仕組みとなっている。しかし銃の知識に疎い恵二には“海賊などが持っていそうな銃だ”くらいの感想しか出てこなかった。

 ガルシアはその銃口を周囲に向けながらもう片方の手でユリィにナイフを押し付けながら彼女の体を拘束するという器用な真似をしながらこう告げた。

「大人しくいう事を聞け!全員武器を捨てろ!魔術も一切使うな。もし少しでもおかしな真似をすれば・・・!」

 そういってガルシアはナイフの腹の部分を更に少女に押し込むと、恐怖で引きつった顔をしたユリィが少し呻き声を上げる。

「―――っく!」

 その様子を見せられた一同は若干躊躇った者もいたが、手に持っている武器や帯刀している短剣などを地面に置いて行く。

「くくく、いいぞぉ。そのまま動くなよ・・・」

 ガルシアはそう口にしながら銃口を横にスライドさせて牽制をする。すると銃口を向けられている冒険者の1人がこう呟いた。

「・・・なぁ、あいつの手に持っているのなんだ?」

「さぁ・・・。杖にしては太いような・・・」

 その冒険者達の何気ない会話に恵二は強い衝撃を受けた。

(―――まさか!皆あれが銃だってことを知らないのか!?)

 確かに恵二はこの世界に来て、まだ一度も銃を見た事もその存在も聞いた事がなかった。それでも異世界人が何人も来ているこの世界だ。メイド喫茶もあるのだから銃くらいあっても不思議ではないだろうと考えていた。だが思いのほか銃は知られていないようだ。

 この世界で銃の開発が進んでいない要因の一つが魔術にあった。銃だけに限らず地球で発展してきた科学の大半は、この世界では魔術で補える。勿論それぞれの良さがあり、バアル伯爵はそれに目をつけ恵二から情報提供をして貰っていたのだが、そういった経緯で科学は軽視されていた。

 そして銃の怖さもこの世界の人々は知らなかった。銃は魔術の火弾と違って魔力を要らず、引き金を引くだけで魔術師でない一般人も人を簡単に殺せるという利点があった。まさかガルシアが所持しているそれが、人を簡単に殺める道具だとは思いもよらないであろう。

(あれは火縄銃なんかじゃない、引き金を引くだけで発砲するやつだ!連射は?射程は?くそ、銃なんて詳しく分からないぞ!)

 あまり重火器の知識を持っていない恵二は、ガルシアに銃口を向けられる度に顔を青ざめた。他の周りの者はあれがどれほどの凶器かも分からず、ガルシアの隙を狙ってナイフをなんとかしようと目を光らせている事に恵二はさらに慄く。

(まずい!あれの危険性を皆分かっていない。このままだと死人が出るぞ・・・!)

 銃の存在を軽視し、無茶をやらかす者も出かねない。そう判断した恵二は口を開いた。

「・・・俺を人質にしろ!」

「ん?」
「ケージさん!?」

 突然の発言にガルシアは怪訝な表情でこちらに銃口を向ける。それを見て寿命が縮まりそうな感覚に陥るも恵二は言葉を続けた。

「そんな子供を人質にするより、俺の方が利用価値はあると思うぞ?」

「ふん、何を言う。貴様も十分子供であろう。・・・まてよ?子供の・・・冒険者?」

 そこでふとガルシアはある思いに至る。

「・・・そうか。貴様があの目障りな冒険者の1人だな・・・。貴様のせいで私は・・・!!」

 ガルシアの銃を持つ手が震える。良い感じでこちらに注意を向けることに成功をしたが、余り興奮されて引き金を引かれても困る。

(もう少し・・・。時間さえもう少し稼げれば・・・)

 慎重に言葉を選びながら、恵二は言葉を続けた。

「どうだ?その子より俺の方が憎いんじゃないか?それともナイフに加え、そんな大層な“銃”を持っているのに俺を人質にするのが怖いのか?」

「じゅう?」
「じゅうってなんだ?」

 恵二の言葉に周りが反応をする。皆あれが何なのか分からない様子だが、トニーとガルシアだけは違った反応を示した。

「じゅう・・・。まさか・・・!」

 トニーはその単語に心当たりがあるようであった。これで少なくとも彼は迂闊な行動には出ないだろうと安堵する。

「ほう、まさか貴様のような子供がコレを知っているとはなあ。ならばその怖さも知っているだろう?」

 恵二の言葉にガルシアは自慢げに自らの武器を説明し始める。

「こいつは戦場の歴史を変えかねん恐るべき新兵器だ。この引き金を引くだけで魔術のように弾を発射し、どんな物も撃ちぬく事が出来る!」

 ガルシアの発言に一同はギョッとする。まさか右手に持っているのがそんな兵器だったとは夢にも思わなかったのだ。ただ一人、トニーだけは銃の存在を知っていたのか口を開く。

「それが噂に聞く“じゅう”とやらですか・・・。しかし、その兵器はまだ帝国の方で実験段階の筈・・・。まさか、伯爵殿は帝国と繋がりが・・・!?」

「・・・ふん」

 トニーの質問には一切答えようとしない伯爵。先程まではペラペラと己の武器を自慢していたにも関わらず、急に口を閉ざすあたり多分図星なのだろう。ちなみに帝国とは北にある大国レインベル帝国の事を指す。余り情勢には疎い恵二だが、どうやら帝国とこの国との仲は悪いようで繋がりを持っている事自体がまずい事のようだ。

 そんな問答をしていたお蔭で恵二の目論見通り時間を大分稼げたが、ここで1つ問題が生じた。周りで気を失って倒れていた兵士達が目を覚まそうとしていたのだ。兵士は全員縛って拘束しているのですぐには問題ないが、場が硬直したこの状態でガルシアの手下が目を覚ますのは頂けなかった。

「ん?どうやら役立たずの兵どもが目を覚ましそうだな。おい貴様ら!兵の縄を解け!」

 ガルシアはユリィを人質にしたままそう指示を出す。流石に兵まで拘束を解いた上に目覚められれば、いよいよ立場が完全に逆転してしまう。ユリィに近しい者達はそれでも指示に従おうとしたが、関係の薄い冒険者達はその行動を躊躇う。

(まずい!もう少し・・・、もう少しの筈なんだ!)

 胸中であせる恵二を余所にガルシアは怒鳴りたてる。

「さっさとせんか!こんな小娘の首、さっさと刎ねてしまっても構わぬのだぞ!」

 さすがに人間の首を簡単に刎ねられる程ガルシアの力は強くはないであろうが、刃の部分が浅く入ったのか、少女の首元から血がにじみ出ていた。それを見たサミは思わず声を上げる。

「――ユリィ!」
「――ってめえ!」

 サミとセオッツが悲鳴と怒声を上げた丁度その時、恵二は待ちに待った時間が来た事に気がついた。

(―――来た!スキルを使える!)

 そう、恵二は町の外で繰り広げたチック達との死闘でスキルを限界まで使用してしまったのだ。その反動でスキルは暫くの間一切使用出来なくなっていた。だが、その時間もやっと終わりほんの僅かだがスキルを再使用できるようになった。

 そのほんの僅かさえ使えれば、この場は十分であった。

超強化(ハイブースト)!)

 恵二は心の中でそう唱えると、今使えるありったけを自身の強化に充てて行動に移った。真っ先に行ったのはユリィに突き付けられていたナイフを除去することであった。

 超スピードでガルシアに迫った恵二はナイフを持つガルシアの左手を、ユリィが傷つかないようどける方向を慎重に、反面ガルシアの手は乱暴に遠慮無く引き剥がす。その際ガルシアの左手を曲げてはいけない方向に動かしてしまったようだが気にもとめなかった。

 次は反対の右手にとりかかる。ガルシアの右手は銃を持っており、その人差し指は銃のトリガーに掛かっていた。その指を強引にねじ曲げて引き金から剥がした後に右手首に手刀を落とし銃を叩き落とす。

 ここまでの動作全てを瞬きする間に行った恵二は、再びスキルの使用限界を迎えた。

 恵二の超スピードが解け、時間が止まったかのようなスローモーションの世界は終わり、通常の時の流れに戻ったように錯覚を起こす。それは、ただ恵二の強化された感覚が正常に戻っただけの結果であった。

「――っ!ぐおお、手がっ!私の指がああアッ!!」

 指やら手やらがいつの間にか折れていたガルシアが、突然の激痛に喚き散らす。恵二は素早くユリィの肩を抱き寄せてガルシアから引き離す。恵二に守られる形となったユリィは突然の出来事に呆気に取られていたが、思い人である恵二に密着している事に考えが及ぶと、急激に顔を真っ赤に茹で上がらせた。

 激痛で悶えているガルシアに冒険者達が殺到するのを尻目に恵二は溜息をついた。

「ふう。とりあえずこれで一件落着かな?」

 恵二は地面に落ちていた銃を拾い上げて疲れた表情をしながらそう口にした。



 その後、セレネトの町は大騒ぎであった。まずはガルシア配下の私兵や貴族の残党探しが行われた。これは結構な数がいる上、貴族に関してはデリケートな問題で大変苦労をした。ガルシア側に付いていたからといって、何も全員が罪を犯した訳では無かったからだ。

 最初は人手不足で難航していたが、トニーがバアル伯爵を通して応援を呼んでいた騎兵隊の面々にも手伝ってもらい、なんとかその日の内に主要なメンバーの身柄を拘束することが出来た。捕まったのは何れもガルシアの強行に加担した者たちだ。他の嫌疑が掛かっている者は更に捜査を進めてから追求する予定だそうだ。

 事件から数日経って今度はシキアノスの首都ネオルスから兵士が派遣された。拘束されたガルシアの身柄を兵士は一旦首都に連行した。そこで改めてガルシアに処遇を言い渡すようだ。

 てっきりレイ派と呼ばれるレイナード・ワードナー侯爵派であるガルシアを庇う者が派閥から出るのではと恵二は懸念していたのだが、ガルシアの裏での活動は相当悪質であったようで同じ派閥の者からより一層ガルシアは非難された。どうやら帝国との密約が問題視されたようだ。ガルシアは既に爵位を剥奪されており、よくて一生留置所での生活、最悪死罪が確定だそうだ。

 話は戻ってセレネトの町では、長い間君臨していた領主を失った事でちょっとした混乱があった。次の領主候補になんとアミーの名前まで挙がっていた。それもなんと最有力候補だ。

 恵二は後に聞かされた話だが、どうやらアミーの本名はアミーシア・ウォールト、元領主であるアレン・ウォールト伯爵の娘だそうだ。今までガルシアに目をつけられないように隠していたらしい。コーディー夫妻もそれぞれウォールト家に仕えており、伯爵夫妻が殺され仕えていた家が没落した後は家名をウォールと名乗って孤児院を設立したのだという。それを支援したのがクロフォード家であった。

 現在取調べ中ではあるが、ガルシアがウォールト夫妻の暗殺に関与していた可能性が非常に高く、公国もこの事態を重く受け止めウォールト家の爵位を戻すとまで言ってくれたのだ。そういう流れで自然と次の領主候補に選ばれたアミーであったのだが、彼女はなんとそれらを全て辞退したのだ。

「私は今の生活が気に入っております。貴族に戻る気もありません。それに領主でしたらもっとふさわしい方がいらっしゃいます」

 アミーの推薦で次に候補として挙がったのがカイン・シア・クロフォード子爵であった。彼は今回の事件解決の立役者でもあり、孤児院の設立や寄付といった町への貢献も周囲に十分認知されていた。町の住人もアミーが推薦するならと誰もが彼を推した。

 あれよあれよという間に新領主はカインに決定したのであった。



 それから月日は更に流れて季節はそろそろ夏場を迎えていた。

 セレネトの町の復興支援として恵二たちは、冒険者の活動に尽力した。主な仕事はギルドから依頼された危険な魔物の討伐だが、時には町の雑用や相談にも乗って順調に依頼をこなしていった。その功績を評価され、サミはBランク冒険者に、恵二とセオッツはランクをCにまで上げていた。

 今日は久しぶりに依頼を受けず、特訓に明け暮れていた。

「最近腕を上げたな、ケージ」

「そうか?」

 恵二とセオッツはつい先ほどまで剣の鍛錬を行っていて今は休息中であった。恵二は相変わらず短剣を使っていたのだが、ろくに教わる相手も居らず殆ど我流で磨いていった。セオッツの剣の腕前はかなりのもので、その少年から褒められたのだから悪い気はしない。

「それに加えて魔術も使えて強力なスキルもあって、更に毎日の鍛錬を欠かさないんだから・・・。あんたSランクでも狙ってるの?」

 呆れたようにそう話すサミに恵二は首を横に振った。

「別にそんなたいそれた肩書きは目指してないよ。俺は必要だと思ったから鍛えているだけだよ」

 恵二にはこの世界のあちこちを冒険するという夢があった。それは馬車に揺られながら外国の町を行き来するといったものだけではなく、人が普段踏み入れないような森や山の奥といった秘境や、遺跡やダンジョン等を巡ってみたかったのだ。

 そこにはどうしても魔物の存在がある筈で、その為に恵二は日々鍛錬を欠かさない。自身の持つスキル<超強化(ハイブースト)>は確かに強力だが、使用制限がある限り慢心は許されない。スキルがなければそこらのCランクの冒険者より劣るのだから。

「だから改めて魔術都市エイルーンを目指すことにしたよ。そこの魔術学校でちゃんと魔術を習って地力をつけたいと思う」

「そう・・・」

 恵二の言葉に気落ちするサミ。恵二は見た魔術を分析できるという稀有な才能を持っていた。実際にセレネトに滞在中にサミは何度か魔術を披露し、それを見て覚えた恵二は次々と魔術を修得していった。てっきりこれでエイルーンの学校に行く必要は無くなったものだとばかり思っていたのだ。

「さすがに独学だと限界あるし、色々な魔術も見てみたいしな。・・・どうかな、二人も一緒にエイルーンに行かないか?」

 以前からこの考えはあった。サミの実家の問題は解決したし、セオッツも決して魔術を全く使えないということもないだろう。この機会に二人も一緒にエイルーンまで来て魔術を学ばないか誘ってみたが、それは丁重に断られた。

「悪いわね。私にも目標があるのよ。この町のギルドを立派にするってね」

 サミは小さい頃にこの町で助けられた冒険者の思い出が強く、自身もそんな存在になりたい。そう思って冒険者の道を目指した。領主の強権もなくなり、やっとこれから冒険者の活動に集中できるという時に学校に通うという選択肢は彼女には無かった。

 サミに続いてセオッツも恵二に断りを入れた。

「悪いな。俺はこの町に暫く残る事にするよ」

 サミは予想できたがセオッツは意外であった。彼はどちらかというと恵二の考えに近く、新しい冒険の地を目指すタイプのように見えた。セオッツは更に言葉を続けた。

「ここのところ自分の力量不足を感じてな・・・。魔術を習うってのもアリなんだけど、それはサミやカインさんにもお願いできるし、ここでもっと鍛えることにした。とりあえずここでAランクを目指す。あとパーティを組むことにした」

「パーティ?」

「ああ、サミとテラードの奴も混ぜてな。以前からどうかとサミに打診されていたんだが、ホントは今日ケージにも声かけるつもりだったんだぜ?逆に先を越されちまったが・・・」

 なんと、初耳であった。いつの間にかそんな話になっていたとは思わず、のけ者にされたような気分で少し落ち込む恵二にサミが慌てて言い訳をする。

「だってあんた、しょっちゅう冒険の話をしていたじゃない。誘っても断られると思っていたのよ、私は・・・」

「ま、そうだな。正直俺も駄目元で勧誘したし、正直今の俺達じゃ悔しいけど足手まといだからな」

「んなわけあるかよ・・・」

 これは本音であった。どれだけこの二人に救われたか分かったものではなかった。ここ最近での仲間たちの暮らしはとても居心地がよく、ついもう少しと出発を先延ばしにしてしまった。

「いつここを出るんだ?」

「・・・思い立ったが吉日って言葉が俺の故郷にあってだな。・・・でも今日はさすがに厳しいから明日だな」

「それはまた急ね。ユリィを泣かせたら承知しないわよ?」

 ここでどうして彼女の名前が出てくるのか分からず首を傾げる恵二。その様子を見ていたサミが朴念仁、と罵った後こう口にした。

「ならそうと決まったらさっさと町に帰りましょう。今日はケージの送別会よ!」

「おう!そうだな。テラードの奴も呼んでやらないとな」

「いきなりで悪いな、二人とも。短い間だったけど楽しかったよ、凄く・・・」

「ちょ、ちょっと!?」
「お前、それ言うの早すぎだって!そういうのは明日発つ時にしろよ・・・!」

 そう抗議するセオッツやサミの目にはうっすらと涙があったが、恵二自身も感慨にふけっていて気づくことが出来なかった。
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