挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
青の世界の冒険者 ~八人目の勇者~ 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

56/185

全力で防御しろ

「強化のスキル、だと・・・!?」

 恵二は驚きの余り思わずそう呟いた。この男の発言が本当であるのならば、これは非常に不味い事態であった。

(俺は既にかなりの時間スキルを使っている・・・!もし、こいつと俺のスキルが互角ならば・・・)

 目の前の男は先程から戦いを魔人に任せっ放しであった。恐らくスキルを使用したのは先程恵二が殴った時に防御力を強化したくらいであろう。恵二はさっきまでの余裕の表情を崩し苦い顔をし始める。

 恵二の表情の変化にご満悦なのか、男は笑みを浮かべ楽しそうにペラペラと語り始めた。

「ふふ、どうやら圧倒的な力の差にようやく気が付いたようだな。このスキルは俺の攻撃力、防御力を凄まじいほど上昇させる。例えばパンチ力を強化すれば・・・!」

 チックは右拳に力を溜めるとそのまま真横に拳を突き出した。すると空を切った拳の余波だけでものすごい強風を起こし、地面は衝撃で数メートルも抉れた。

「どうだ、このパワー!それだけじゃないぞ!スピードも強化すれば―――」

 男は構えを取った。それに恵二は己自身も五感を強化させ警戒をする。その直後、チックは強化した速度でもって恵二の背後へと瞬時に移動した。

「ははは、コッチだ。ご覧のとおり走・攻・守の全てが大幅に上昇する最高のスキルだ!おっと、絶望するのはまだ早いぞ?これでもまだ半分程の力程度なのだからな!」

 男は子供のようにはしゃぎそう自慢をする。確かに恐ろしいスキルであった。パワーもスピードも計り知れない程のものであり、凡人には到底抗えない力であった。

 そう、それがただの凡人ならば、だ。

「・・・本当に今のが半分の力か?」

「ん?疑っているようなら、フルパワーのパンチをお見舞いしようかね?」

 チックは自身の能力にケチつけるのかと勘違いをしたらしく、恵二にそう返した。だが、どうにも目の前の少年の様子がおかしい事に気が付いた。さっきまでは驚愕の表情を浮かべていたのに、今はまたどこか余裕そうな感じに思えた。チックの疑念を余所に少年は再びこう語る。

「ちなみに、さっきの俺のパンチは大体1割ってとこだな」

「・・・ハァ?」

 この少年は何を言っているのだろうか。余りの力の差に頭がおかしくなったのだろうかと男は考えたが、少年は続けてこう告げた。

「全力で防御してみろ。俺はまあ・・・3割程度で押さえてやる」

「―――っな!?」

 今度こそ少年の言葉の意味をチックは正確に捉える。つまり、自分は馬鹿にされているのだと、そう考えた。

「き、キサマ―――」

 少年に反論しようとしたその時、正面すぐ近くに左腕を振りかぶっていた少年の姿が瞬時に現れた。

「―――っ!」

 咄嗟に強化をしガードをする男の交差した腕の上からお構いなしに、少年は利き腕でない方の左拳を叩きつけた。

「―――!?」

 ―――瞬間、チックは宙を舞っていた。数メートル吹き飛ばされて、段々と地面へと重力に引っ張られるのを感じたチックは、直ぐに自身の体を強化しようと考えたが既にその強化を行っていたことに思い至った。そしてそのまま地面へと叩きつけられた。

「っぐはあ!」

 地面に体が着いた後も勢いはそのままで、一度二度男の体が跳ねた後にやっとその勢いは止まった。

「ぐおおおおお!う、腕があああアー!」

 背中から地面に着いた上に頭も何度か打ったが、それ以上に少年の拳をガードした両腕の方に激痛が走った。とくに腕を交差した際に直撃した右腕は骨が粉々になったようで全く動かせない。いや、動かそうとする度に激痛が走るので、動かすことは早々に諦めそのままだらりと右腕をぶら下げた。

「そんなに騒ぐなよ。こっちも右腕折れてるんだ。これであいこだろ?」

 声がした方に視線を向けると、いつの間にか少年が近づいていた。

「ぐ、貴様!な、何をした!?」

 慌てふためきながら敵に問いただす間抜けな男に、恵二は簡潔に正直に答えてあげた。

「さっきの3倍の力で殴った。だから言っただろう?全力で防御しろって・・・」

「んな!?」

 最初に男に殴りつけた恵二のパワーが全力だと思っていたチックは、その少年の言葉に愕然とした。

「・・・それとも、もしかして全力で防御した結果がこれか?ならビビって損したな」

「―――なっ、なっ・・・!」

 少年の不遜な態度に抗議したいチックだったが上手く口が回らない。ついでに普段より回らない頭で恵二の言葉を必死に理解しようとする。

(あ、あいつ・・・3倍って・・・。いや、それよりさっきは1割がどうのこうのと・・・。俺はさっき、全力でガードした?いやいや、それならこのダメージは・・・!?)

 右腕を中心に全身に走る激痛で、半ば混乱気味なチックは上手く働かない頭でこう結論を出した。

「さ、さっきのは間違いだ。ついうっかりスキルを使い忘れたんだ!そうだ、出なければこんなダメージを負う事なんてある訳が無い!」

 チックは咄嗟にガードしたため強化を解いたとそう結論付けた。それがこの男の最大の誤算であった。

「・・・そうか。じゃあ今度は全力で行くぞ?遠慮はしない。お前は俺達を・・・、俺達の大切な人達を傷つけようとした」

 そう宣告すると恵二は腰の後ろに帯刀しているマジッククォーツ製の短剣を抜いた。それを見たチックは受け身になるのではなく、先に打って出た。

「――それはこちらの台詞だ!今度こそ正真正銘の全開だアーッ!」

 そう叫んだチックは速度を強化し、目にも止まらぬスピードで恵二へと迫る。だが、恵二の速度はそれを超えた。まさに目にも映らぬ超スピードで男の背後に現れた。

「へ?」

 目の前の少年が突如消え思わず振り返ると、そこにはこちらに背を向けて立っている少年の姿があった。少年の左手に握られているナイフには赤い血が滴り落ちていた。

 ―――直後、男の視界がぐるんと回る。ぼとりと何かが地面に落ちた音がするも、男の視界は真っ暗で確認する事が出来ない。やがて音も全く聞こえなくなった。

 これが恵二と同じ「強化」のスキルを持つ男、チックの最期となった。



「ふう。少しヒヤッとしたな・・・」

 大きな溜息をつくと恵二はナイフについている血を手持ちの布で拭った。明確に殺意をもって人を殺したのはこれで二人目であった。いや、元人間であるさっきの魔人を含めると3人目であろうか。

 良い気分では決してなかったが以前ほどの嫌悪感は生まれなかった自分に対して、矛盾しているようだが嫌悪した。

 自分と似たスキル持ちであった男は首を刎ねられ絶命していた。この男は身体能力を強化させていたようだが、その効果は自分と比べると大分差があるようであった。

「それでも、十分脅威だよなあ・・・」

 そこらの人間では到底太刀打ち出来ない恐るべきスキルであった。将来的には恵二と同じ様に魔術や五感も強化するかもしれないと思った少年は、この男はここで確実に始末をしようと最後は全力で超強化(ハイブースト)を使用した。そのせいで当分スキルは使えそうにない。

「拙いな・・・。この後町にも向かわなくっちゃ・・・」

 スキルを使い切った恵二は、まだ大分距離がある町まで徒歩で向かわなければならなかった。

「まぁ、魔力も残ってるしなんとかなるかな?」

 いざとなれば生身でも戦ってみせると恵二はスキルの回復を待たずに町へと向かった。

(この自信も日頃の訓練のお蔭だな。今度も同格のスキル持ちが現れても負けないように、もっと鍛えなければ・・・)

 そう、この思考こそ恵二とチックとの大きな差であった。こと身体能力の強化だけでならば、そこまでお互いのスキルに差は無かった。だがチックは己のスキルを過信し、それ以上の鍛錬を怠った。
 反面恵二は元勇者仲間達の圧倒的スキルや実力に少しでも追い付こうと努力を重ね、スキルを得た後も同年代であるセオッツやサミに感化され、より腕を磨こうと日々の鍛錬を欠かさなかった。

 恵二はスキルの錬度や己自身の能力向上を底上げしていた。恵二の向上心とチックの満身がそのまま二人の実力差となったのだ。

 恵二は元勇者仲間の7人と現冒険者仲間の2人に感謝をし、折れた右腕の痛みに耐えながらセレネトの町へと駆けて行った。



「ガルシア様。例の赤い宝石を見つけました」

「ほう、それがあの連中の言っていた物か」

 恵二とセオッツの宿泊していた部屋を捜索し終えた兵士は、ガルシアの命で探していた宝石を渡した。正確には、それは宝石などでは無く全くの別物なのだが、普段から宝石を身に着けている目の肥えたガルシアは、それがすぐに宝石では無い事に気が付くと興味が失せた。

「ふん、こんな偽物の為に何を躍起になっているのやら・・・」

 今回あのチックとかいう男と手を組んだ条件の一つとしてあちらが要求してきたのは、この赤い宝石を冒険者達から取り返すことであった。

「そんな事より、まだあいつらを始末したという報告は無いのか?見張りの者を付けていた筈だが・・・」

「はっ!未だに町には戻っていないようであります」

 約束だけして逃げられたのでは話にならないとガルシアはチック達に見張りの兵を付けると告げていた。その兵は既にもう一人の女に殺されていることに気が付かないガルシアは、報告はまだかと待ちぼうけていた。そこへ、何やら騒がしい様子で1人の兵士がガルシアの執務室へと入って来た。

「――っほ、報告!」

 やっと来たかと笑みを浮かべたガルシアの表情は、すぐに苦い顔へと変わるのであった。

「兵舎の方にて反乱です!冒険者やコーディー司祭の姿が目撃されております!どうやら牢に連行した娘を取り返しに来たものと思われます」

「なんだと!?」

 てっきり冒険者を始末したとの報せが来るものとばかり思っていたガルシアは顔を真っ赤にさせ罵声を浴びせようとしたが、ふと考えがよぎる。

(いや、まてよ。これはむしろ好機だ。あいつらも迂闊な真似をしたな。これで冒険者ギルドも孤児院も大手を振って潰す事が出来る)

 そう考えを改めたガルシアはすぐに目の前の兵士に命令を下す。

「ただちに兵を再編して兵舎での反乱を鎮めろ。反逆者は捕えるか、抵抗するようなら殺してもかまわん!」

「――は、はいっ!」

 ガルシアの命令に躊躇いながらも返事をした兵士は、部屋を出て直ぐにガルシア配下の兵士をかき集めに向かった。

「ククク、後は例の冒険者を始末したという報告待ちだな」

 自分の動かせる兵の数はこの町の半数以上に上る。潰れかけたギルドの低ランク冒険者や子爵家の若造など、まともにやりあえば圧倒できると考えていたガルシアは、もう反乱など直ぐに収まるだろうと高を括っていた。

 しかし、町の外に出した監視の者が戻ってくる事は永遠になかった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ