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青の世界の冒険者 作者:つばめ男爵

1章 新米冒険者ケージ編

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俺と同じ

「「ケージ!」」

 セオッツとサミ、追い詰められた二人の背後には満身創痍ではあるものの、目に強い光を宿した少年がそこに立っていた。どうやら先程のダメージから立ち直ったようだ。頭部からの出血は止まっているようだが、しかし右腕は使い物にならないのかぶら下げたままであった。

「すまない、二人とも・・・。もう、大丈夫だ!」

 全然そうは見えなかったが、恵二は痛みを隠し堪えながら力強くそう呟いた。確かにパッと見状態は悪く、右腕の骨も折れたままで激しい痛みはあるものの、見た目よりかは恵二は大分回復していた。

(スキルで治癒力を強化した。お蔭でさっきよりかは大分マシになったが・・・)

 その代償としてかなりスキルを消耗してしまった。MAXを100として残りは大体30といったところだろうか。その上利き腕も封じられており、決して楽観視できる状況ではなかった。

「ほお、なかなか頑丈な少年だ。あれだけ吹っ飛ばされながらまだ立ち上がれるとはね」

「あんたがペラペラお喋りしている間に回復できたんだ。礼を言うよ」

 恵二はそう嫌味で返すと魔人へと進化した化物と相対しながら二人に話しかける。

「セオッツとサミは直ぐに馬車で町へ向かってくれ。こいつは俺が倒す」

 その言葉にセオッツはすかさず反論する。

「おいおい。さっきは”俺たちが”倒すって言ってたじゃねーか。それにその身体でお前1人に任せられる訳ねーだろ?」

 彼は少年の身を案じてそう話したが、恵二は気持ちだけ受け取っておき更に語り掛けた。

「大丈夫、負ける気がしない。それに敵は目の前のこいつ等だけじゃない。サミ一人で町に戻すのは不安だからセオッツも付いて行ってくれ」

「ケージ・・・」

 サミは男の先程の台詞にどうしても焦ってしまっていた。今こうしている間にも町ではガルシアの悪意が孤児院へと向けられているかもしれないのだ。

 セオッツは恵二の目をしっかりと見つめ、それが強がりや虚勢ではなさそうだと判断すると直ぐに行動を始めた。

「サミ、馬車に乗れ!俺が操縦する!」
「ええ!」

 二人の冒険者は直ぐに町へと向かう準備を始める。だが、それを許すほど目の前の男は甘くは無かった。

「愚かな。このまま逃がす訳ないだろう?3号、奴らを足止めしろ!」

「―――お前には、さっきのお返しだ!」

 男の命令で馬車の方に体を向けた魔人に、超強化(ハイブースト)を使用し瞬時に肉薄した恵二は、折れた利き腕の代わりに無事な方の左拳を叩きつけた。

 ゴンッ!と鈍い音と共に恵二の倍はあるであろう魔人の体が吹き飛ばされた。それは少年の宣言通り最初に恵二が貰った一撃のような再現であった。吹き飛ばされた魔人は、急な攻撃に受け身を取る暇が無かったのか、それともその背中の羽はただの飾りだったのか、そのまま遠くの大地に背中から音を立てて墜落をした。

「ちぃ!」

 それを見て痩せこけた男は自身で逃亡の妨害しようとしたのだろうか、馬車へと向かおうとするも手負いの恵二に最早油断は微塵も無く、直ぐにその馬車に背を向ける形で男の目の前へと割って入った。

「今度はあんたが吹き飛ばされたいのか?」

「・・・調子に乗るなよ。その程度で魔人が倒せるとはつけ上がったな!3号、全力でこいつらを始末しろ!」

 さっきまでは恵二たちに尋問する為、殺さないよう加減させていた魔人に全力を出すよう指示を送る。すると地面に横たわっていた魔人はゆっくりと起き上がり、右の手のひらに魔力を集中させて馬車の方へと向けた。発動させようとしていた魔術を恵二は見たことが無かったが、その魔力量の多さに少年の脳内では警笛がガンガンと鳴り響いた。

(ヤバイ!あれを使わせちゃ駄目だ!)

 そう判断してからの恵二は早かった。超強化(ハイブースト)を一瞬だがフルパワーで使用し魔術を発動させた。その魔術は初級魔術ではあるが恵二の十八番<火弾(ファイヤーショット)>。ただし自身のスキルで十二分に強化(ブースト)された火の弾丸だ。それをノータイムで最速にて魔人へと打ち込んだ。

 それは最早弾丸では無く一条の赤い光に見えた。その赤い一筋の光は禍々しい魔術を発動させようとしていた魔人の頭部へと命中する。その衝撃で馬車へと向けていた魔人の右手が若干ぶれ、その直後に今度はその右手からどす黒い魔術が放たれた。

 それは人の身では決して扱えないと言われている暗黒属性の魔術であった。その名も上級魔術<闇の壊崩(ダーク・コラプス)>であったが初めて見る恵二には知る由もない。その魔術に触れたものは全て崩壊すると言わしめる凶悪な魔力の波動は、馬車から大きく逸れ青空へと吸い込まれていくように打ち放たれた。

 そして恵二の放った、最早火弾(ファイヤーショット)とは呼べない炎の魔術は、その頭を完全に蒸発させていた。魔人の首から上は何も残ってはいなかったのだ。

「ば、馬鹿な!?」

 その結果を見届けた男は思わずそう呟く。魔人は火弾を受けた瞬間に放った魔術が最後っ屁であったのだろう。流石に頭が消滅していては生きている筈も無く、その巨体を大地へと音を立てて沈めた。

 一方その結果を馬車から見ていたセオッツとサミは、魔人が放った魔術に一瞬冷やりとしたものの、それが逸れた後は恵二に全て任せようとその場を後にした。

「さて・・・。誰が、誰を始末するって?」

 恵二は先程男が口にした言葉を揶揄って余裕そうに言葉を放った。だが内心ではさっきの魔術は危なかったと心臓がバクバクしている。

 苦手なポーカーフェイスをなんとか気取ると、恵二は目の前の男を油断なく観察していた。痩せこけたその地味な男は体を小刻みに震わせていた。最初は怯えているのかと思った恵二だが、次に男が放ったのは怯えの言葉などではなく、怒気を込めた戦闘継続の言葉であった。

「思い上がるなよ冒険者!まさかあの実験体を倒した程度でこのチック様に勝てるとでも思ったのか!」

 戦いの第二幕が開かれようとしていた。



「大変です、マドーさん!」

 新しく整備されたギルドの扉が乱暴に開かれた。以前は立てつけが悪く開け閉めする際にギイギイ音を立てていたものだが、その扉は少年が乱暴に開けた音を立てるだけであった。ギルドの外装も前と比べてキチンと正されていた。曲がっている看板を真っ直ぐにし掃除や手入れも頻繁にするようになり、以前より見た目は大幅に改善されたのだ。

 そのギルドに慌てて入って来た少年に注目の視線が集まる。ギルド内には現在職員数名とFやEランクの冒険者達がいた。以前は閑古鳥が鳴いていそうなギルドも徐々に冒険者が戻りつつあったのだ。

「ど、どうしたんですか?テラード君?」

 普段は大人しいギルド最年少の少年だが、その慌て様に思わずギルド職員は尋ねる。少年はマドーに用があった様子だが、ギルド長は今奥の部屋で客人と話し合いをしていた為、代わりに職員が問いただしたのだ。

 そんな事情も知らず、とにかく一刻も早く伝えないとと考えた少年はこの場でありのままの事情を話した。


「ほ、本当ですか!それは!?」

「ハァハァ・・・はい・・・」

 孤児院に兵士達が押し入ったとの情報に周りで聞いていた職員や冒険者達がざわめき出す。

「あいつら・・・!ギルドだけでなく教会や孤児院にまで・・・!」
「アミーさんを連れ去っただなんて許せねえ!」
「どうせこれもガルシアの野郎の仕業にちげえねえ!」

 冒険者達も怪我などを負った際、ウォール夫妻やアミーにはお世話になっていた。また、冒険者ギルドの風当たりが厳しいのは領主の仕業であることもなんとなく察していた。日頃から溜まっていた領主への不満は今にでも爆発しそうであった。

「これは一刻も早くギルド長にお知らせしないと・・・!」

 職員がそう呟き奥の部屋に向かおうとしたが―――

「―――事情は聞いていましたよ」

 声がした方を向くと、奥の部屋の扉の前にはギルド長マドーと、隣町の領主の使いでこのギルドの恩人でもあるトニーが揃って立っていた。

「ふむ。ガルシア伯爵もついに動き出したようですね。こちらもすぐにバアル様にお知らせをせねば」

「我々も動きましょう。領主の暴挙をこれ以上許すことは出来ません。ギルドの使命でもある“世の為、人の為に励む事”これを遵守しに行きますよ!」

『おおー!!』

 マドーの号令で冒険者ギルドはアミーを救出するべく立ち上がった。



「孤児院に兵士達が!?」

「はい・・・」

 孤児院での遣り取りを途中まで見ていたユリィは直ぐにクロフォード家へと向かった。丁度当主であるカインは在宅しており、すぐさま粗方の事情を説明した。

「坊ちゃま!」

「止めるな、カッタ。何と言われようと私はすぐに出るぞ!」

「いえ、お止は致しません。私も勿論ついて行きますが、万が一をお考えキチンと武装をして下さい」

「――っそ、そうだな。直ぐに向かいたいところだが、最悪一戦交えるかもしれぬ」

 カインはそう息巻いていたが、それを聞いたユリィは不安そうにこう尋ねた。

「か、カインさんが何も戦わなくても・・・」

「安心してくれユリィ君。確かに剣や武術の腕前は微妙だが、魔術の扱いには心得がある。それに私兵にも着いて来てもらう」

 孤児院で以前見張りをしていた者達は、ここ二週間ほど平穏であった為、コーディーに遠慮され引き上げていたのだ。ガルシアの私兵の数と比べると心許ないが、居ないより遙かにマシであった。

「準備が出来次第、直ぐに孤児院へと向かうぞ!」

「はっ!」



 一方町中のとある建物の中には、町の大人達が集まっていた。

「なんだと!?アリーシアお嬢様が連れて行かれただって!?」

「・・・ああ」

「ガルシアめ!旦那様だけで無く、お嬢様にまで手を出すつもりか!」

「いや、アイツはお嬢様の正体に気がついてはおらん。連れて行かれたのは兵舎の方だ。だが、今回の一件は間違いなくガルシアが主犯だ」

 そう話し合っていたのはコーディー神父を始め、鍛冶屋の棟梁や宿屋の亭主、それに居酒屋のマスターといった様々な者達であった。一見関係がなさそうに思えるこの者達にはある共通点があったのだ。

「これまで我慢を重ねてきたが、もう限界だ!今度こそガルシアの悪行を暴いて見せる!」

 そう口にしたのは居酒屋のマスターであった。

「ウォールト家に仕えていた同志たちよ。私の大事な娘を、アミーシアお嬢様をお救いするのに力を貸してくれ!」

 そう告げたのはコーディー・ウォール神父であった。それに鍛冶屋の棟梁が応じた。

「水臭いぜ、コーディーさん。あの方は俺達にとっても娘みたいなもんだ。絶対無事に救出してみせる!」

「ああ、旦那様に奥様の無念、キッチリと晴らさせてもらう!」

 それに宿屋の亭主は続いた。

「よし、まずはギルドに応援を頼もう。クロフォード家と出来ればエッケラー家にも応援を頼んだ後に兵舎へと向かうぞ!」

『おおー!!』



 セレネトの町のあちこちで領主への反逆が起こり始めていた。一方それには全く気が付かないこの町の領主、ガルシア・レイ・ダゥード伯爵は自宅の私室にて部下の報告を待っていた。

「ふふ、いくらCランクだろうが何だろうが、あの化物共相手には歯が立つまい」

 ガルシアは今まで色々と暗躍を重ねてきた。それは、まだこの町の領主になる前から積み重ねてきた。

 以前セレネトの町はアレン・ウォールト伯爵が治めていた。彼は決して優秀な統治者ではなかったが住人達からは厚い信頼を受けていた。当時まだ子爵であったガルシアはそんなアレンが許せなかった。

 とくに町を繁栄させるべくもなく、住人達の人気取りに必死な無能者。それがアレンに対するガルシアの評価であった。しかし、それはあくまでもガルシアから見た一方的な視点であった。

 ウォールト伯爵は住人の相談を親身に聞いて、徐々にこの町を良くしていこうと考えていた。隣町のヘタルスは目まぐるしい変化を見せてはいるが、セレネトにはセレネトの良さがある。決して人気取りに躍起な無能領主などでは無かった。

 ある時隣町ヘタルスのように、周辺の街道を整備してみてはどうかと住人達から話があった。巨額の資金が動く案件ではあるが、これは町の為にもなるとアレン伯爵は賛成をした。これにはガルシア子爵も賛同をしていたが、いくつかの貴族達が猛反対をした。理由はやはり多額のお金が掛かるという事だ。

 だが、その反対派の貴族達は実はガルシアの手の者であった。あたかも賛成を装っていたガルシアは裏からこの案を妨害していたのだ。それだけではなく、街道を整備する為の巨額な資金の出所を町の住人達から搾り取るといった嘘を流したり、ありとあらゆる手を使ってウォールト家を陥れた。

 そしてついには何者かによってウォールト夫妻は暗殺された。表向きの理由はウォールト伯爵家がとある商人から不当にお金を搾取し、それを逆恨みした商人が夫妻を殺害したと発表された。

 その後ウォールト家は取り潰しとなり、前領主の意思を継ぐという形でガルシアは何食わぬ顔で伯爵と領主の座に就いた。勿論ウォールト夫妻を暗殺させたのもガルシアの仕業である。それらの悪行全てをこの男は慎重に、証拠を残さず行ってきたが流石に疑念を持っている者達が少なからず出てきた。

 ウォールト家に仕えていた元執事のコーディーと元メイドのアマスタである。それにウォールト家は冒険者ギルドやクロフォード家にも縁があったようで、彼らも邪魔であった。教会に孤児院、ギルドにクロフォード家さえ潰せばガルシアの後ろ暗い過去を知る者は一切いなくなる。そう考えたガルシアは今回強硬策に打って出た。

 そう、あの二人に任せておけば絶対に大丈夫だと思い至り行動に出たのだ。武装した己の私兵5人を生身で圧倒したあの女に、それ以上の実力者だというチックと名乗った地味な男。奴らに任せれば邪魔者は全て排除できる。

「くくく、もう少しでこの町は完全に私の物となる」

 ガルシアは不敵な笑みを浮かべながら部下の報告を待っていた。



 チックと名乗った男は一見とても強そうには見えなかった。先程の魔人のような威圧感はなく、体も貧弱そうで痩せこけていた。保有している魔力量も平均かそれ以下のように思えた。

(となると、こいつもスキル持ちか何かか?)

 恵二は以前、グリズワード国で相対した氷の魔眼使いの女の事を思い浮かべる。確かにあれ程のスキル持ちならばその自信も頷ける。この目の前の男はさっきの魔人より自分の方が上だととれる発言をしたのだ。

 いくら考えてもキリが無さそうなので恵二は行動を起こす事にした。

「とりあえずこれからあんたも吹っ飛ばすけど覚悟しとけよ?」

「くく、やってみろ」

 チックの挑発を受け、恵二は自身を強化して瞬時に男の側面に迫ると、そのままの勢いで無事な方の左腕で殴りつけた。それこそ何メートルも吹き飛ばしてやろうと力を込めてだ。だが、そこで青年は信じられない光景を見た。

「―――!」

「ふ、こんなものか?」

 恵二が殴りつけた拳の先には男の脇腹があったのだが、驚いたことにチックはその場から全く微動だにしなかったのだ。慌てて距離をとる恵二を悠々と見逃すチック。どうやら反撃をする気は全くないようであった。

「ははは。誰を吹っ飛ばすって?そんな非力なパンチでは私を一歩も動かせないぞ?」

(どうなってる?手応えは確かにあった。ちゃんと強化したパンチは当たった。なのにあの余裕な表情・・・。ノーダメージなのか?)

 恵二はふと昔に日本でプレイしたゲームを思い出した。それはRPGであった。あるモンスターは物理攻撃が全く効かなかったのだ。今の状況は丁度そんな感じのように錯覚した。

(確か、そういうモンスターには・・・。魔術ならどうだ!)

 恵二は試しにと火弾を3発同時に発射する。その全てがチックに着弾したが、恵二の思惑は外れ男は全くの無傷であった。

「フハハハハ。無駄だよ。今の私は防御力を強化させている。そんな軟な魔術では火傷一つ負わんよ」

「――っな、んだと!?」

 男の台詞に恵二は頭をガツンと殴られたかのような衝撃を受けた。

(この男は今なんと言った?”強化”と言ったのか?)

 まさかと思った恵二の悪い予感は見事に的中をした。

「くく、私はね、自身を強化する事が出来るのだよ。魔力を使ったチンケな身体強化なんかと一緒にはするなよ?これは神から授かった私のスキルさ!」

(俺と同じ・・・、スキルだと・・・!!)
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